廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、廃線系鉄道考古学の第1巻。当巻は、前シリーズである「消散軌道風景」全3巻を引き継ぐ形で刊行されたもので、実質的にはシリーズ第4巻と言って良い。本巻の掲載内容は下記の通り。
千葉県内の鉄道聯隊廃線跡と遺構めぐり
廃線系鉄道考古学 カラーダイジェスト
chapter01 葛生の鉱山鉄道〔後編〕(日鉄鉱業羽鶴線・東武会沢・大叶線) 岡本憲之・須永秀夫
chapter02 鴨宮モデル線綾瀬駅の遺構を求めて 北川 潤
chapter03 日本セメント東松山専用鉄道 榊 充嗣
chapter04 五日市鉄道 拝島~立川間 岡本憲之
chapter05 山梨県林務部 早川林用軌道(奈良田〜終点間) 平沼義之
chapter06 都電大久保車庫の回送線 岡本憲之
chapter07 かに道楽新宿本店専用鉄道 岡本憲之
【特集】蒸機運転の舞台裏 西武山口線に煙を!
・蒸気機関車復活秘話1 一枚の企画書から
・蒸気機関車復活秘話2 レストア・復活・そして運転…
chapter08 西武鉄道 初代山口線 岡本憲之
chapter09 約30年前の小田急大野工場 茂内クロ
chapter10 神戸製鋼所神戸製鉄所連絡線 大脇崇司
chapter11 赤城登山鉄道 角田 聡
chapter12 茨城交通茨城線 山内 玄
chapter13 東武鉄道熊谷線 岡本憲之
chapter14 大塩組仙石工場の軌道 岡本憲之・須永秀夫
chapter15 国鉄宇品線 糸目今日子
chapter16 上信鉱山鉄道 角田 聡
街角探訪鉄道プラスα〔第4回〕 鶴見線国道駅 山口雅人
chapter17 ナローゲージの保存車〔第3回〕 日本ナローゲージ研究所
【column】
化石と自然の体験館 榊 充嗣
五日市鉄道 謎の古地形図 岡本憲之
西武鉄道 初代山口線、その後の保存車両たち 岡本憲之
末期の神戸製鋼所連絡線でみられた車両たち 大脇崇司
新千歳空港駅工事の超広軌モーターカー 武藤直樹
フェイク線路大好き 岡本憲之
有田川鉄道公園 榊 充嗣
全146ページで、最初の18ページのみカラー。趣味性を踏まえた各記事は、あいかわらず密度が濃く、いにしえの鉄道の痕跡や、当時の情報を摂取したいというフアンにとっては、きれいにスポットライトがあたったものばかりで、読みでがある。
ナロー軌道の聖地の一つといってもよい葛生の鉱山鉄道に関する記事は、「消散軌道風景」誌からの続編記事に該当するもの。当巻では、ナローの軌道ではなく、軌間1,067mmという規格であった日鉄鉱業羽鶴線の現役時の写真と廃線跡が紹介されている。鉱山鉄道らしい重厚感をもったディーゼル機関車群が、鉱山にふさわしい風景を作り出している。また当該地で活躍した1080号蒸気機関車の写真も紹介してくれている。
かつてJR五日市線と並行していた五日市鉄道の記事では、のどかな風景の中を一両ではしるガソリンカーの写真が掲載されておりに、私の目は釘付けになった。まるで北海道で活躍した簡易軌道を思わせる風景で、時代によっては、このような光景を、関東地方でも見ることができたのか、とあらためて感じ入った。
「山梨林務部 早川軌道」は、「消散軌道風景 vol.3」においても2編の記事を執筆して平沼義之氏再登場のレポート。山梨県早川町といえば、南アルプスのふもとの狭隘な谷にある自治体で、平沼氏のサイトでも、早川町シリーズと称したい廃線廃道跡に関する報告が多数行われている。そういった意味で、とてもドラマチックな場所である。本書の記事は、2011年と2017年に行った探索に基づくものとのことだが、これほどのネタを平沼氏は、未公開の状態で暖めていたのか、と驚かされるようなもの。本記事執筆までの時間をかけて、十分な情報収集を踏まえた質の高い記事に仕上がっている。この軌道跡のレポートを読むと、凶悪とよびたい地形と地質の中、軌道を敷設した当時の労苦はいかほどのものであったかと考える。国内での資材の調達が国家的命題であった時代の厳しさにも思いを馳せてしまう記事となっている。
西武山口線の記事は、量的に本書の核と言えるもの。当事者へのインタビューから、補足的に発展させて、記事、写真を紹介していく。「大塩組仙石工場の軌道」では、深谷市にあった利根川の砂利トロ線が紹介されているが、ここでは木製桟橋を小さな機関車が運搬車両(ナベトロ)を連ねて牽く写真が圧巻。これは写真のインパクトがすごい。とにかく一見してほしい。他にも「神戸製鋼所神戸製鉄所連絡線」、「茨木交通茨城線」、「国鉄宇品線」、「上信鉱山鉄道」と、いまはなき鉄道たちが、貴重な写真をまじえて紹介されており、とにかくうれしい。他の小さなコラムも見どころ&読みどころ満載だが、1ページだけの小記事で紹介されている、新千歳空港駅の工事に用いられた軌間2,600mm(約)という、見たこともないような広軌のモーターカーの写真は、実に衝撃的だ。こういう発見が、いつになってももたらされるところに、鉄道考古学の奥深さを垣間見る。