ピアノ協奏曲は原典版での高解像度演奏!
ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲、マズレク、ロンド
レオナルド・ピエルドメニコ(ピアノ)、ヴァハン・マルディロシアン(指揮)チェコ室内フィル
座席数約800のプラハ国民劇場仮劇場での規模感で書かれたピアノ協奏曲は、室内オケとの相性が良いようで、ここではまるで室内協奏曲のような濃密さと迫力を兼ね備えた高解像度な演奏を優秀な録音で聴くことができます。
このアルバムの演奏は室内オケで一貫しているため、「ピアノ協奏曲」だけでなく、組み合わせの「マズレク」も「ロンド」も素材が明晰に示されるのが嬉しいところで、3曲ともにソロとオケの各パートが密接に対話し絡み合う作品であることがよくわかります。
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作品情報
◆ ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲 Op.33 (トラック1〜3)
作曲時間を増やしたかったドヴォルザークは、1871年にプラハ国民劇場仮劇場管弦楽団のヴィオラ奏者を辞し、個人レッスンで生活することにします。しかし、1873年11月に19歳のアンナと結婚してアパート暮らしを始めたことでレッスンでは賄えなくなり、劇場裏手にある教会のオルガニストとして働くようになりますが、報酬はオーケストラ楽員時代の3分の1ほどで、1874年4月には子供も生まれて家計はさらに悪化。
そんな中。友人の勧めであまり期待せずに政府(当時はオーストリア=ハンガリー帝国)の奨学金審査に交響曲第4番などを送ると、翌1875年1月、ウィーンの文化省から合格通知が届き、2月には奨学金400グルデンが支給されています。これは当時のドヴォルザークの教会での固定給年収の3倍以上に相当する金額でした。このお金で借金を返済し、五線譜も大量に買い込むなどして、心にも時間にも余裕のできたドヴォルザークは、以後、4年連続で奨学金を得ることに成功し、やがて審査員のひとりであるブラームスの知己も得て有名作曲家の仲間入りを果たすことになります。
ピアノ協奏曲が書かれたのは、弦楽五重奏曲によって2度目の奨学金を勝ち取った1876年のことで、若いピアニストのカレル・スラコフスキー[1846-1919]の演奏に触発され、8月から9月14日にかけて作曲。初演は1年半後の1878年3月24日、スラコフスキーのソロ、アドルフ・チェフ[1841-1903]の指揮により、ドヴォルザークの古巣でもある仮劇場管弦楽団の演奏でおこなわれています。この仮劇場は座席数約800の小さな劇場で、当時のドヴォルザークのオーケストラ・サウンドのイメージ醸成に貢献したことは確実です。
このピアノ協奏曲は、一般的なピアノ協奏曲とは異なると批判されることも多かったようですが、一般化を意識しなかったのはむしろ立派なことですし、ドヴォルザークの想定した規模感で聴けば、ピアノとオケの各パートの絡みが室内協奏曲的な面白さで迫ってくるのがたまりません。
名手ピエルドメニコのピアノと、マルディロシアン指揮チェコ室内フィルの演奏は、そうした作品の魅力を細部まで超高解像度で引き出すもので、迫力にもすごいものがあり、複雑な味わいに富む原典版こそドヴォルザークの真意が反映されたものあることを納得させてくれます。
◆ ドヴォルザーク:チェロと管弦楽のためのロンド Op.94 (トラック4)
1892年、ドヴォルザークは、チェロのハヌシュ・ヴィハン[1855〜1920]、ヴァイオリンのニストのフェルディナント・ラハナー[1856〜1910]とともにピアノ・トリオを組んでボヘミアとモラヴィアを巡演。このロンドはその際に披露する新曲としてチェロの腕前の披露を目的に用意されたチェロとピアノのための作品で、1891年12月25日から26日にかけて作曲。ピアノ・パートを室内オケ(オーボエ2、ファゴット2、ティンパニ、弦楽)に置き換える編曲作業は、1893年10月16日から22日におこなわれており、翌年、ベルリンのジムロック社から両方のヴァージョンが出版され、ヴィハンに献呈。
曲は「A-B-A-C-A-B-A」のロンド形式で書かれており、民俗音楽のイディオムによる魅力的な音楽が多彩な表情で展開されていきます。
◆ ドヴォルザーク:ヴァイオリンと管弦楽のためのマズレク Op.49 (トラック5)
1878年に「スラヴ舞曲集」を出版して大きな利益を上げたフリッツ・ジムロック[1830-1901]は、さらにヴァイオリンとピアノのための作品を出版することを熱望してドヴォルザークに手紙を書き「ハンガリー風、スラヴ風、ボヘミア風、あるいは他の新しい、しかし馴染みのあるもの!」を書くよう懇願。ドヴォルザークは翌1879年1月に手紙で承諾を伝え、翌月に「マズレク」を作曲。その際にピアノ・パートを室内オケ(クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、ティンパニ、弦楽)に編曲したヴァージョンも完成。初演は1879年3月29日、フェルディナント・ラハナーとズデニェク・フィビフ[1850-1900]によって行われ、同年にデュオ版、オケ版ともにジムロックより出版。話題性を考慮しパブロ・デ・サラサーテ[1844-1908]に献呈。
曲は3部形式で、ポーランドのマズレクのスタイルをさらに強調・変容して仕上げています。
演奏者情報
◆ レオナルド・ピエルドメニコ(ピアノ)
1992年、イタリア中部アブルッツォ州に誕生。地元ペスカーラの音楽院で学んだのち、2017年にローマの聖チェチーリア音楽院の修士課程を優等で修了。
2017年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで「レイモンド・E・バック」審査員特別賞を受賞。
ソリストのほか室内楽にも力を入れており、チェロのエリカ・ピコッティとデュオを組んで活動。
フランツ・リストの作品を収録したデビューアルバムは、英グラモフォン誌のエディターズ・チョイスを獲得し、ドイツ音楽批評家連盟賞の年間最優秀録音賞にノミネート。
また、最近ではショスタコーヴィチがストラヴィンスキー「詩篇交響曲」の管弦楽パートをピアノ4手に編曲したヴァージョンのイタリア初演をおこなっています。
CDは、Piano Classicsから発売。
◆ ヴァハン・マルディロシアン (指揮)
1975年、アルメニアのエレヴァンに誕生。1993年にパリに移住。1996年にパリ音楽院を優秀な成績で卒業。指揮者、ピアノ・ソリストとして活躍。長年、フランスのカーン交響楽団の首席指揮者、アルメニア国立室内管弦楽団の音楽監督を務め、2019年より香港室内管弦楽団の首席指揮者を務めています。マルディロシアンは、ヨーロッパとアジアで定期的に客演指揮者として招かれており、これまでに、プラハ放送響、ロワール国立管、アルメニア・フィル、プラハ・フィル、チェコ室内管、レバノン・フィル、アマルガム管、トゥーロン歌劇場管、ノヴォシビリスク・フィル、東京フィル、N響、日本フィル、ブルガリア国立管、ウクライナ国立フィル、関西フィル、ロシア・フィル、新日本フィル、九州響などを指揮。2017年にはピアニストとしてカーネギー・ホールでピアノリサイタルを開催。
CDはこれまで、Brilliant Classics、Intrada、Transart、Skarbo、Warner、Cypres、Quadrigaなどから発売。
◆ チェコ室内フィル
1969年、プラハ近郊のパルドゥビツェで東ボヘミア州立室内管弦楽団として設立。初代首席指揮者はリボル・ペシェク。2018年9月からは、スタニスワフ・ヴァヴジネクが首席指揮者を務めています。
CDはこれまで、Brilliant Classics、Supraphon、MD+G、Canyon、Classico、Marco Polo、Albany、Arco Diva、Naxos、Centaur、NCA、Pantonなどから発売。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
アントニン・ドヴォルザーク[1841-1904]
◆ ピアノ協奏曲 ト短調 Op.33(原典版)
1 I. アレグロ・アジタート 19'08
2 II. アンダンテ・ソステヌート9'38
3 III. アレグロ・コン・フオーコ 11'20
4
◆ ヴァイオリンと管弦楽のためのマズレク Op.49 7'02
5
◆ チェロと管弦楽のためのロンド Op.94 ト短調 8'20
レオナルド・ピエルドメニコ(ピアノ/Op.33)
マルケータ・チェピツカー(ヴァイオリン/Op.49)
ダヴィド・マトウシェク(チェロ/Op.94)
チェコ室内フィルハーモニー管弦楽団
ヴァハン・マルディロシアン(指揮)
録音:2022年10月28〜29日、パルドゥビツェ、スーク・ホール
Track list
ANTONÍN DVOŘÁK 1841-1904
PIANO CONCERTO, MAZUREK & RONDO
Piano Concerto in G minor Op.33 (Original version)
1 I. Allegro agitato 19'08
2 II. Andante sostenuto9'38
3 III. Allegro con fuoco 11'20
4 Mazurek for Violin & OrchestraOp.49 7'02
5 Rondo for Cello & Orchestra Op.94 in G minor 8'20
Leonardo Pierdomenico piano
Czech Chamber Philharmonic Orchestra Pardubice
Markéta Čepická violin (4) · David Matoušek cello (5)
Vahan Mardirossian conductor
Total time: 55'38
Recording 28-29 October 2022, Suk Hall of the House of Music, Pardubice, Czech Republic