ドイツの激安ボックスCDを発売している事で有名なメンブランから出た、ヨハン・シュトラウス一族の作品を集めたアルバムである。
1950年代から1960年代にかけて録音された有名な演奏家による定評ある音源を中心にしているが、その中に初復刻ではないか?と言うようなマイナーな演奏家による演奏も混ざっており、まさに雑多さが魅力のアルバムである。
そのため曲の重複も多く『ウィーンの森の物語』に至っては6つの演奏が収録されている。
まぁこれは聴き比べが出来るので良い点とも言えるだろう。
CDは厚紙に入ったこのレーベルらしい物。
尚、それぞれの演奏の感想を書くと→
CD1 ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によって録音された物。
選曲や1959年録音と言う事からデッカに録音された音源が原盤と思われる。
カラヤンはかなりのヨハン・シュトラウスの録音を残したが、この録音はこの時期の特徴的な豊潤なウィーン・フィルとデッカの録音を使ってシンフォニックで勢いのある演奏をしておりカラヤンのシュトラウス録音で一番良いのではないだろうか。
復刻は本家などに比べれば落ちるが十分問題ない。
CD2 同じくウィーン・フィルの演奏でクレメンス・クラウスの指揮で録音された物。
1952年録音でやはり黄金期の音色が聴けるが、洗練されたカラヤンとは違い、ちょっと時代を感じる19世紀的な優雅な穏やかなワルツはいかにもこの指揮者と言った所か。
これも年代を考えれば音質は問題ないだろう。
CD3 フレンツ・フリッチャイ指揮、ベルリン放送交響楽団の演奏で1961年に録音された音源である。
これも昔から定評ある名盤であるが、ウィーン・フィルの演奏の後に聴くと、その縦の揃ったリズムや重厚な音色等からいかにもドイツ的な演奏であるのが良くわかる。
これらは、『ラデッキー行進曲』などを聴くと非常に良く分かる。
何よりフリッチャイの生き生きとした演奏が素晴らしく、個人的にはウィーンの演奏よりも好きである。
有名音源だけあり、過去には、DGを始め、500円位の駅売りCDからも出ているが、このメンブラン盤は音質が良く、最高とは行かないまでも十分すぎる音質である。
CD4 ヴィリー・ボスコフスキー指揮、ウィーン・フィルの演奏で収録。
デッカに大量のウィンナ・ワルツの音源残したボスコフスキーだが、これは1961年に録音された物。
このCDに収められたウィーン・フィルの演奏では一番、シュトラウスにあった演奏だと思う。
現在はユニバーサルからもバラバラにされて復刻されているが、この盤は十分な音質ではあるが、本家の方が音は良い。
CD5 ユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管弦楽団によるワルツばかりを集めた音源。
オーマンディもカラヤンに負けず劣らずのシュトラウスマニアで結構な録音を残しているが、これは1960年に録音された物。
オーケストラの音色を存分に鳴らした、オーマンディらしい演奏で、分かりやすく、華麗な演奏だが、復刻がイマイチで上手く伝わらないのが残念。
CD6 アーサー・フィードラー指揮、ボストン・ポップス・オーケストラによる演奏で1957年に収録された物。
ヨハンの二大オペレッタ、こうもりとジプシー男爵から序曲、カドリーユ、劇中の旋律を用いて書かれたポルカやワルツを集めたという内容で、恐らく初CD化ではないかと思われる。
フィードラーと言えば、ボストン・ポップスと共にポピュラー音楽やクラシックを聴きやすく演奏して有名になった人物でシュトラウスのイメージはないが意外と録音があり、これもその1つである。
演奏はアメリカオケらしい明るいサウンドでメリハリがあるが、時々きこえるポルタメントのかけ方に19世紀的なロマンチックさを感じるなかなか良い演奏。
音質も年代を考えれば問題ないだろう。
CD7 ヘンリー・クリップス指揮、フィルハーモニア・プロムナード管弦楽団の演奏で収録された物でEMI原盤である。
クリップスは名前からも分かるように有名なヨーゼフ・クリップスの弟で、戦前はヨーロッパ、戦後はイギリスやオーストラリア等で活躍した人物である。
ここで演奏しているフィルハーモニア・プロムナード管弦楽団とワルトトイフェルのワルツやスッペの序曲、ウィンナ・ワルツ等を録音しているがほとんど復刻されていないのが現状である。
このCDは数少ない復刻であり、『皇帝円舞曲』『トリッチ・トラッチポルカ』は一度本家から出たがこうしてまとまって の復刻は初と思われる。
オケはフィルハーモニア管弦楽団の別名義であり、この頃の優れた奏者、特に弦楽の美しい音色が味わえる。
また『こうもり』はかなり異色な演奏でテンポを大きくつけたりタメをつけたりとなかなか他では見れない変わった演奏。
このディスクだけでもこのセットの価値は十分だろう。
音質も十分。
CD8 再びクラウスとウィーン・フィルの登場である。
演奏は2と同じ傾向である。
尚、CDを収納している紙には1961年収録となっているが、クラウスは1954年に亡くなっているのでこれは間違い。
1951年の録音で間違いないだろう。
CD9 ダリボール・ブラージダ指揮、ダリボール・ブラージダ管弦楽団による演奏で収録。
ブラージダはチェコ出身の指揮者、作曲家でクラシックではなく、いわゆる軽音楽と言われる分野で活躍した人物である。
ここに収録された演奏も(恐らくブラージダ自身の編曲で)小編成オーケストラによるサロン風のアレンジで聴きやすく仕上がっている。
1962年録音でこのボックスの中では新しい方の録音なので音質は良いだろう。
これも初CD化と思う。
CD10 ペーター・グート指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による物で1998年収録。
一時期日本で話題となったロイヤル・フィルハーモニック・コレクションの一枚として日本でも至る所で出回っていた音源である。
指揮のグートはシュトラウスのスペシャリストで、来日もしている。
ロイヤル・フィルの高い技術力とまろやかなサウンドを生かした演奏だが、曲目リストに間違い(こうもり序曲がこうもりポルカと誤記される、トリッチ・トラッチポルカや常動曲、ピチカート・ポルカの作曲者がヨゼフになっている)が目立つのが残念。
出回っている音源も多いが、シュトラウス好きなら手に入れておいて良いだろう。