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Review List of 雲谷斎 

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     2013/12/02

    福島のランブルさん。ビートルズがレコード・デビューする少し前からシャピロは活躍していましたから、同じステージになったこともあると思いますが、その詳細はわかりません。彼女のYou Don’t Know(悲しき片想い)は「子供じゃないの」とのカプリングで日本では1961年末に発売され、62年前半まで両曲ともヒットしました。このヒットに与かったのは弘田三枝子のカバーで、彼女はこのヒットによって歌のうまいシンガーとして成功の道をつかみました(といっても、当時のアメリカン・ポップスのカバーシンガーの歌は坂本九や飯田久彦、森山加代子をはじめとして、ひどいシロモノばかりでしたから)。You Don’t Knowのカバーは私が知る限りではこの弘田三枝子しかなく、英米のシンガーが歌ったのを聞いたことはありません(70年代以降のことは知りませんが)。そもそも、シャピロの歌というのはアメリカではまったく知られていませんでしたから。それはともかく、熱心なシャピロ・ファンのために書き添えれば、いくつかあるアルバムの中ではこれがベスト・チョイスです。彼女のイギリスでのヒットのすべてが網羅されていますし、なかなか聞くことのできないWhen I’m With You(あなたのお側で)も当たり前であるかのごとく収録されています(この曲の最初の日本発売は何とコロンビア・レーベルでB面はクリフ・リチャードの「ヤング・ワン」というオークションもののカプリングでした)。EMIのmfp(Music for Pleasure)レーベルの音はとても信頼できるものですし、30曲収録というのも好感がもてます。ぜいたくな望みをいえば、初期のいくつかの曲にはステレオ録音があるのですが、残念ながらこのCDではモノラル収録だということぐらいでしょうか。

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  • 10 people agree with this review
     2013/12/02

    よく発売してくれたものだと思う。それもこの値段で。演奏は発売当時から折り紙つきの名演ばかりで、今さら賛辞の言葉も必要ない。曲のもつ精神性に指揮者、演奏者がひたすら奉仕するという演奏が聴く者の共感をよぶ ― それがこのクレンペラーの音楽。けして厚ぼったくも重苦しくもない。どころか、これらの演奏には、最近のチャカチャカ、ホイサッサ奏法では味わえない深い時空が広がる。それを演ずる独唱者、合唱それにオーケストラ。それを統率するクレンペラーへの信頼。この人は本当にカリスマだったのだなぁ、ということが実によくわかる。録音はどれも上質。レコードでこれらの曲を聴いてきた者には、CDの長時間録音のありがたさがよくわかる。それでも「マタイ受難曲」は3枚にわたる。じっくりと音楽ドラマを創り上げるクレンペラーの真骨頂が示されたアルバムだ。音楽演奏世界遺産があるならば、まちがいなく候補にのぼる真の録音芸術である。

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     2013/12/02

    Kempe/SKDの録音がWARNERから発売されるとは。いささかの違和感はあるが、今回の発売はNewly Remasterdと銘打たれていて、その意義は大きい。演奏についてはすでに定評のあるもので、今更評価の屋上屋を重ねる必要もないであろう。R.Straussの演奏史としてはもちろん、数々の名録音を生み出してきたMottley(Producer)、Strueben(Balance Engineer)コンビの仕事としても最良の部類に入る傑作でもある。このコンビの録音は音の空気感を実に自然に取り込んでいるから演奏される楽器の存在感がとてもはっきりしている。それでいて、音のブレンドもまろやかでリッチである。最近ではこういう録音にめったに出会わなくなってしまった。現在のSKDのシェフ、ティーレマンのゼンパー・オパーでの録音など悲しくなるほど侘しいものが多い。SKDファンとしては寂しいかぎりだが、それはまた、このStraussを含む70年代前半のSKDの演奏、録音がいかにすぐれていたかを物語る証左でもある。かくて4組目の同一セット購入となったが、批評子のみなさんが異口同音に言われているように、実に見通しのいい音を聴くことができ、購入の満足感は大きい。この音質はかつて仏EMIから3枚組で発売されていたDMMマスタリングLP盤に近いもので、これまでのCD再生音のくすみがすっかり除去された結果、やや腰高の音質になったと感じなくもない。SKDの弦楽セクションの音には得も言われぬ蠱惑的な翳りがあって、それが独特な響きを醸し出しているのだが、録音があまりに見通しいいと、青一色の空と同様、晴れすぎ、聴こえすぎの感なきしもであり、そういう繊細な部分の表現が後景に退くとも考えられる。もっとも、これは人によって受け止め方が違うであろうし、だからといってこのCDの音質改善に水をさすものではない。総合的に見て、すばらしいCDだし、ワーナーには今後もこのような企画を続けてほしいものである。

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     2013/12/01

    これは久しぶりの掘り出しもの。Norrie ParamorやJackie Gleason、あるいはAndre Kostelanetzなど、一流楽団の60年代初期のステレオ盤に先立つ50年代の名曲のアンソロジー。言うまでもなく50年代はムード音楽の全盛期であり、この10
    枚のCDに刻まれた音源は今では貴重品。なにしろ、これだけの音源を捜そうにも、すでにかなわない話なのだから。こういう価値あるコンピレーションは今のところ、この10枚組だけではなかろうか。10枚はそれぞれテーマごとの選曲になっていて(「言うよりも歌うが易し=Vol.2」「映画=Vol.6」「ジャズ=Vol.8」のように)なかなか気が利いている。日本で時々発売されるムード音楽集とはまったく比較にならないほど質が高い。もちろんモノラル音源が多いが、とても聞きやすい音質。板起しの副産物(針音)が目立つ曲もあるが、それはご愛嬌。多少の針音があろうとなかろうと、これだけの貴重な録音を前にしては問題にならない。余談だが、ボックスとジャケットのデザインの洒落ていること!インテリアとしてどこか目立つところに置いておきたいほどのセンスの良さにも脱帽!ムード音楽ファンにとってはこれほど胸のときめく買物はそうそうないだろう。とにかく、聞いているだけでハッピーになること請け合い。

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     2013/11/25

    13曲たった32分のCDだといったら怒る人もいるだろうなぁ。ところが、このCDは発売されたこと自体が素晴らしいので、怒る気にはなれない。この人気テレビ番組はアメリカ最後の陽気な輝きに満ちていた1958年から64年まで放映されていた(日本では60年から放送開始)。そのタイトルテーマや折々の放送でのバックに流れる音楽を集めたのがこのCD。ま、要するにアメリカ人特有の”happy go,lucky me”(つまり”能天気”)を音にしたらこうなる、といったような調子の曲集。とはいえ、たかがテレビ番組であっても、この時代のアメリカの音楽はすごい。とりわけワーナーは音楽に手抜きはなく、当時の日本のポップスにも大きな影響を与えていたはず。どころか、このテレビ番組自体が生活のあこがれにもなっていた。今もう70歳にならんとする方には「紅白」よりはるかに感激の1枚であろうが、若い方にとっても元気のモトになること請け合い。若い人たちのライブで蘇らせてほしいねぇ、この曲は。

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  • 2 people agree with this review
     2013/11/22

    Real Goneレーベルからのジョニー・ソマーズの曲集といえば2011年にワーナー録音の全集が発売され、すでにこれまで発売の数枚のアルバムにこの全集が加わったことで、もう彼女の新たなCDを手にすることないだろうと思い込んでいた。それが同じレーベルからの第2弾というわけで、これはもう望外の幸せ。今回は彼女がワーナーからコロンビアに移籍した1966年に録音、発売されたLP、EPのコンピレーション。全23曲、3曲を除き、どれも良好なステレオ録音。この時代、彼女はもうポップスには見切りをつけていて、このCDにもいわゆるポップ・ヒットはない。CDの核をなすLP”Come Alive!”からの11曲はAllen B.Stantonのサポートによる実に香しい歌声が次々と耳に飛び込んでくる。The Shadow of Your Smileもそのうちの1曲だが、この美しい曲を彼女が歌ってくれたらという期待を裏切らぬいい出来で、すでにしてこの2曲目で胸がキュンとする。このLPは66年のビルボード・アダルト部門でベストテン入りしているが、さもあらん。往年の彼女の名盤”Positively The Most”、”Softly,The Brazilian Sound”の延長に位置するような雰囲気をたたえたいいアルバムだ。ボーナス・トラックが12曲もあって初CD化の曲やら、イタリア語バージョンやら、楽しめる。それに”ペプシのお姉さん”で人気を博したソマーズのコマーシャル・ソング(Pepsi-Jingle)が最後に収録されているのもご愛嬌。こんなコマーシャルを聞いたらコーラ飲んでしまうかも。曲名のCome Alive!がそのままアルバムのタイトルにもなってるのだから、コーラの威力恐るべし!?

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  • 6 people agree with this review
     2013/09/07

    多くの批評子同様、フォーレはエラートのヴィア・ノヴァ盤があればいいだろうと思っていたし、才人揃いとはいえ最近の若手の演奏にはイマイチ信頼をおけない気分もあって、買うのをためらっていた。ただ、この年になると、そうそう緊張感溢れる演奏ばかりが好ましいとも限らない。ちょっとCDでフォーレでもという時間もある。そういう趣向に応えてくれる室内楽のまとまったCDがないかと思っていたところ、この全集のあることに気がついた。聞いてみたところ、少々若気の至りを感じるものの、豊かなサロンの雰囲気に通じる音楽がどのCDからも流れる。もちろん、演奏水準はいずれも一級品で寸分の瑕疵もない。これはこれでとてもいいフォーレである。なるほど、今どきはこういう若者がフランスの室内楽を支えているのかと感心もさせられた。バイオリンの音がちょっときついかと思える部分もあるが、これはLP時代にも感じたこと。今のところ、この価格でこれ以上の水準の全集を見つけることはできないだろう。

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  • 8 people agree with this review
     2013/08/31

    これは音楽、映像ともにすぐれた作品で、ためらいなく★5つである。作品自体のすぐれたドラマ性ゆえ、秀逸な演奏にはこと欠かないが、肝心のオペラの舞台ということになれば、話はまったく別のことになってしまい、この作品のファンにとっては渇望を癒すに十分な映像がはじめて登場したといってもよいほどだ。第2幕狼谷のしつらえとザミエルの扱いが舞台演出では困難になるのがその最大の理由だろうが、それがために、これまでエレベーターで移動するザミエルがテレビ画面に登場するなどという荒唐無稽な演出まで見せられてきた側からすれば、それらすべての駄作は廃棄されても、この1本があれば作品本来の味わいを鑑賞するには十分と言ってもいいぐらいだ。映画版ならではの迫力が十分、画面も美しく、演奏、ソリストともに文句のつけようはない。序曲演奏中、マックスとカスパールがともにナポレオン戦争に従軍していたという伏線の映像があるが、それ以上に原作を改編するようなことはまったくない。監督のイェンス・ノイベルトはドレスデンの人であり、ウェーバーのこの作品の本質を知悉しているはずである。そのため、オペラ本来の筋に安心して浸っていることができる。この伏線が狼谷でどう生かされ、ザミエルがどう扱われているかは見てのお楽しみだろう。それに、まだ新人のレグラ・ミューレマン(エンヒェン)の起用も成功しており、この作品に花を添えている。ともあれ、ハーディング、LSOの演奏は見事なもので、映像のすばらしさとも相まって、やっとクライバーの呪縛から逃れられたというのが正直なところだ。

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  • 5 people agree with this review
     2013/06/01

    「アルルの女」はドーデの同名の戯曲のためにビゼーが書いた付随音楽なのだが、調子のいいいくつかの管弦楽曲が第1、第2の組曲として知られるばかりで、5幕からなる劇全体を抜粋にせよ俯瞰できる録音といえばこのプラッソン盤が唯一のものではなかろうか。そのことだけでもこのCDの存在理由は十分なのだが、加えてこの録音には劇の舞台となったカマルグ(アルルの南、ローヌ河口の大湿原地帯)の鄙びた雰囲気が漂っていて、実に精緻に音楽が組み立てられていることに感嘆せざるをえない。カマルグからそう遠くはないトゥールーズのオーケストラ起用ということもこの演奏成功の一因だろうとは思うが、それももちろんプラッソンのしなやかな音作りがあってのことだ。合唱には専属指揮者があたるという綿密な録音で、それとプラッソンの紡ぎだす音とが見事に調和していることがこのCDのいちばんの聴きどころであろう。どんな場面でもけして激高しない音楽には気品すら感じられる。それに、ところどころで聞けるプロヴァンスの打楽器タンブーランの音も実に効果的である。ともあれ「アルルの女」という音楽を理解するのに、これほどすばらしいCDはなかなか入手しえないことはたしかである。

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  • 3 people agree with this review
     2013/05/16

     ジャケ写真を見ると、ロックかジャズをやりそうな若い兄さんが4人。ところが出てくる音楽は、フランス弦楽四重奏曲の粋ともいえる名曲。それも清新、溌剌にして十分な音の機微をわきまえた豊かな表現力。これをすばらしいと言わずしてどうする、という演奏。これだけ大作曲家の作品となれば、これまでにも名演は数知れずあったのだが、エベーヌ四重奏団はそれら往年の名演奏にこれらの作品を埋もれさせることなく、新たな感性で甦らせるのに大きな役割を担ったといえよう。ドビュッシーの冒頭やラヴェルの帰結部では鋭く切れ込むが、それも若い団体にありがちな力みやけれん味にはつながらない。どころか、フォーレをはさんで先にドビュッシー、後にラヴェルを置いたこのCDのストーリーがうまく完結している。
     とにかくありがたいのは、ドビュッシー、ラヴェル、フォーレのそれぞれ1曲ずつしかない弦楽四重奏曲が1枚のCDで堪能できることだ(そのため80分超)。録音も秀逸で、この水準ならば高いだけのSACDなど必要ない。
     かつて輸入盤だけだったこのCDは今年になってEMIから全40枚のトレジャリー・シリーズとして発売されたなかの1枚だが、このシリーズの室内楽作品はどれも水準が高い。ただ、録音年代が少し前になるため、廉価的な価格設定にされているが、これは見識というべきであろう。価格だけ立派だが、聞いてみると内容が価格に追いつかない新譜が少なくない昨今、これは買い得な1枚である。

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  • 2 people agree with this review
     2013/04/09

    安っぽい装丁とはいえ、内容はきわめてすぐれている。ためらいなしに☆5つをつけたい。ヴィルムスはベートーヴェンと同時代人であり、育った地域環境もベートーヴェンとほぼ同じ、ただ彼ら2人の運命を変えたのは一人がオランダに向かったのに対し、もう一人はウィーンに向かったことにあったとは Fifield のライナー解説の視点(短いがこのライナーは要点をよく整理していて参考になる)。このCDに収められた2つの交響曲はヴィルムスの7曲ある交響曲の最後の2曲にあたるが、一聴してモーツァルト、ハイドンの宮廷音楽を超克したベートーヴェンの影響が明らかである。ベートーヴェンの初期の未発見交響曲といわれても、さほど違和感を感じさせないほどの豊かな構造美が耳をとらえる。6番は当時(1820年)ヘントで芸術賞を獲得したとライナー・ノートにはある。さもありなん。7番はそれにもまして力感溢れ、交響曲としての魅力たっぷり。聞きごたえ十分。こんな力作がどうして歴史に埋もれてしまったのか。ひょっとしたら、あまりにベートーヴェンと似すぎていたからなのかもしれない。この2つの交響曲を魅力ある音楽に仕立て上げたコンチェルト・ケルンの力量はさすがである。このレーベルにコンチェルト・ケルンというのもめずらしいと思ってクレディットを見ると、2002年の Archiv 録音とある。なるほど納得。世の中SACDだのプレミアム録音だのと銘打って高いCDを売りつけるのに躍起だが、買ってみると肝心の演奏はガッカリという商法が跋扈するなかで、丹念に捜すとこういう秀逸なCDにもめぐり合う(だから、廉価盤漁りはやめられない)。録音も実に優秀。SACDを3000円で売っている国内メーカーの方々、未知の優れた音楽家やその作品を発掘・紹介するという企画力を含め、この700円程度のCDに勝てる自信がありますか?

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     2013/04/08

    ボスグラーフの闊達な技巧と息もぴったりなアンサンブルの妙をかって☆5つにするか、とはいえコルデヴェントの若さ溢れる演奏にいまひとつしなやかさもほしいことから☆4つにするか、迷ってしまうのが正直なところ。ボスグラーフはロック・グループでも演奏していたこともあるというが、なるほど、笛一本できわめて斬新な音楽を紡ぎだしていて、かつての学究的、訓古的なバッハ演奏とは一味も二味も違う。そのあたりはバックのアンサンブル・コルデヴェントとも見事に気脈が通じていて、聞いているとあっという間に60分が過ぎてしまう。それほど気力がみなぎっている。レーベル独自のセッション録音も良好な出来ばえ。多少オンマイクなのはこのレーベルの特徴だが、本CDではそれもあまり気にならず、なにより笛とバックの音量がきわめて適切。ときにジャズを感じてしまうというのも、このコンビの音楽の乗りのよさのゆえからだろう。それはまた、今日のバッハ演奏の存在理由でもあるだろうから、それを感じさせてくれたことを評価することにしたい。

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     2013/03/16

    録音セッションメンバーの豪華なこと、ニック・ペリートとビリー・メイの卓越したアレンジ、もちろんイーディの歌唱の見事なこと、それに録音の優秀なことで、LP発売以来、イーディ・ゴーメの代表盤として名声を勝ち得てきた押しも押されもせぬ名盤。このアルバムのタイトルになっているBlame it on the bossa novaというのはいうまでもなくイーディのビルボード最高ランク曲(63年1月:7位)タイトルなのだが、ポップスばなれしたその曲のヒットにヒントを得て、その直後につくられたのがこのアルバム。録音は62年末から63年にかけてのようだが(日本では83年にLPが発売されている)、その音の新鮮さには驚かされてしまう。それに歌も演奏もすばらしく、One Note Samba,Melody D’amour,The Giftと最初の3曲を聞いただけでもはや降参!こんなにゆったりと、それでいてリズム感溢れる格調高い歌を誰が歌えようか。その歌を包みこむセッション・メンバーの演奏のすばらしさ。もう、これは幸福の時間としかいいようがない。このアルバムは彼女にとっても、ポピュラー音楽史にとっても黄金の記念碑であることはまちがいないだろう。なお、日本発売のLPでは12曲収録だったので、最後の2曲はこのCDでだけ聞くことができる。

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     2012/12/15

    LIVING STEREOの名はずいぶん昔から有名で、聞いてみたい名盤も少なくなかったが、今さら50年代のアメリカ盤でもあるまいと思って、あきらめるのが常だった。ところが、とうに忘れかけていた“昔の恋人”が60CDの物量作戦で迫ってきたのだ!それも破格の大廉価で。正規価格でも1枚200円程度。早期予約割引やらクーポンやらを利用して買った価格が7500円。もう申し訳けなくて、涙が出そう!本年一番の心ときめく買物だった。内容はといえば、もう文句つけようもなくすばらしい!50年代、LP盤進出でコロンビアに遅れをとったRCAが起死回生の威信をかけてその名を歴史に刻んだだけの凄みが感じられるLP復刻集成だ。何が凄いかといって、どの演奏からも感じられる“自信あふれる能天気”。中世の歴史をもたない新興国が“オレにはそれがない”というマイナス思考ではなく“オレはこれでいく”という攻めの発想の全面展開。いいの悪いの、好きだ嫌いだ、などというヤワな感想はどうぞご自由に、といった豪放磊落の音楽。その気概たるや、それ以前も以後もないという音がこの60枚には詰まっている。能天気もここまで極まったらもう完全に脱帽。これが半世紀以上も前の音かと驚く録音の良さはいうまでもないが、それよりも、この時代のアメリカの光り輝く自信をこれほど見せつけられる(聞かされる)企画はもう二度とないであろう。それほど価値あるコレクションだと断言したい(☆6つをつけたいが)。

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     2012/11/25

     3枚で超廉価。いつもあと1枚に困る。で、評判のいいレヴューの多いこの盤を買うことに。なるほど、多くの好評価は参考になる。それなりに楽しめるし、録音もいい。ウクライナの国立交響楽団の名はわが国では無名に近いが、この本拠地はキエフであり、この世界的大都市のオーケストラがそんなに眉をひそめさせるような演奏をするはずもない。なにより、旧ソ連時代から引き継がれた音楽遺産をこの街がもっていないはずがないだろうから。
     と思って聞いたが、ショスタコーヴィッチの“飢えしのぎ”のための大衆迎合作品集という企画CDであれ、気になったのは、どんな小品であろうともショスタコーヴィッチの作品には時代を冷徹に見るアイロニカルな眼があるのだが、クチャルの指揮からはどこにもそれを感じることはできないということだった。それどころか、ただ、やたら厚ぼったい音が景気よく鳴るだけではサーカスや運動会には適していようが、鑑賞芸術と呼ぶにはちょっと距離があるのではないかとさえ思ってしまう。つまりデリカシーに欠ける演奏なのである。ソ連時代の悪しき“伝統”を引きずっているのか。あまり繰り返して聞きたいとは思えない演奏だ。シャイー(RCO)の「ジャズ組曲」とは一軍、二軍ほどの違いがあって、とても比較にならない。
     こんなかたちで今のロシアやその周辺国でショスタコーヴィッチが受容されているのだろうか。まさか、と思わずにはいられない演奏だ。

     

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