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今本 秀爾 さんのレビュー一覧 

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     2024/04/26

    若き俊英ヴァイオリニストとピアニストのデュオによる秀逸なCD録音演奏である。
    本CDに収められている曲に聴きなれたクラシックファンでも、一度この2人の演奏を聴けば、その完成度に思わず耳を傾けうならされるほど、ハイレベルで充実した作品に仕上げられている。

    ショーソンの「詩曲」では、ヴァイオリンがたっぷりとゆったりしたテンポでメロディーを朗々と謳いあげ、ピアノはヴァイオリンの音色に乗せて、
    浮き立つような美しい分散和音を響かせる。ヴァイオリンは高音部はシャープで繊細、透明感ある透徹した音色が際立つ。主張の意図が明確に示されるメリハリのある演奏は、中でも後半部のクライマックスに達する速いパッセージに向けてのスリリングな切迫感に説得力がある。

    フランクのヴァイオリン・ソナタは、奏者がまさに満を持して収録したと思われる充実感に溢れた演奏が繰り広げられる。
    福澤のヴァイオリンは力まず慌てずせっぱつまらず、たっぷりと余裕のある、つねに聴き手に語りかけるような歌い方を貫徹する。技術的にもフレージングや音色の緻密な変化のつけ方が際立っており、低音は太く重厚感があると同時に、ピンと筋の張った伸びのある音色を醸しだす一方で、高音は細い線で透徹した美しい音色を輝かせる。ヴァイオリンを終始支える北端のピアノは、一貫して透明感ある深く味わい深い響きを保持している。

    第1楽章:冒頭は物憂いに耽るようなヴァイオリンの悩ましげな音色で開始され、たっぷりと息の長いフレージングがクライマックスに向けて奏でられる。この曲の主人公の心情を見事に描写しているかのようである。
    第2楽章:曲が高揚し頂点に達するまでの緊張感と切迫感、途中の緩徐部分冒頭のディミヌエンド、曲のフィナーレに向けてのクレッシェンドなど、強弱緩急の変化に富んだ自在な表現が圧巻であり聴き手を圧倒する。
    第3楽章:冒頭部分の重音を響かせたヴァイオリンのソロと、それにつづくピアノとヴァイオリンの掛け合いが曲のモチーフを見事に反映させている。
    中間部に現われるノスタルジックな旋律も、感情におぼれることのない、飾り気ない素朴さがかえって聴き手の共感を誘う。
    第4楽章:冒頭のメロディーがインテンポで淡々と進行するのとは対照的に、中間部からはピアノとヴァイオリンによる強弱緩急に富んだ表現が駆使され、クライマックス〜フィナーレへと移行する。

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     2024/04/21

    アルトフルートの独特の奥深くまろやかな音色とボリュームのある分厚い響きを隅々まで堪能できる一枚。

    通常のフルートとは違い、アルトフルートはソロで演奏される機会は少ないうえ、アンサンブルでも蔭の部分を支える、暗く地味な楽器という印象が強いが、この奥野由紀子の演奏を聴けば、そのような印象は一瞬で吹っ飛んでしまうような、明るく伸びのある美しいクリアなアルトフルートの音色がこのアルバム全体を通じて体験できることだろう。

    収録曲もクラシックファン以外でもメジャーで聴きやすい曲がずらり勢ぞろい。ゆったりとしたテンポで朗々と謳われる「G線上のアリア」、高音に分散和音の美しさが際立つブルッフの「ロマンス」、瑞々しさに満ち溢れたパラディスの「シシリエンヌ」、歌さながらに説得力をもって語りかける「アレンスキーのアリア」など、1曲1曲が楽しめる要素「てんこ盛り」である。
    しかも奥野の演奏は、どの曲も必ずクライマックスになる部分が設定され、ピアノと相まってナチュラルに進行するクレッシェンドの盛り上がりが、聴き手を飽きさせない。

    筆者はなかでもシューマンの「幻想小曲集」の強弱緩急が際立つダイナミックな演奏に心を奪われた。通常のフルートでも困難な起伏に満ちたこの曲の演奏を、奥野はアルトフルート1本で見事に体現させている。
    1曲目冒頭のメランコリックなメロディーから、一音一音が丁寧に思いを込めて演奏される。3曲目のリズミックなメロディーの軽快さや切迫感ある表現も見事で脱帽である。

    アルバム全体を通じて、奥野の吹くアルトフルートは、人間の肉声音域に近いせいか、まるで人に何かを訴えかけるような語り口で聴き手を虜にしてしまう。さらにアルトフルートにとっては演奏が難しいとされる高音部のロングトーンやトリルでさえ美しくナチュラルに響かせる奥野の演奏技術には驚かされるばかりである。
    加えて本CDの録音技術の高さも秀逸であり、奏者の息づかいが間近に聞こえ、それを支えるピアノの伴奏もまるでハープのごとく立体的に響き、あわせてまるで間近で演奏を聴いているような錯覚を覚えるくらい臨場感にあふれている。

    管楽器は苦手という人も、このCDを聴けば、構えずともナチュラルな感覚で耳に入ってくるアルトフルートの響きに心を奪われること間違いなしだろう。

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     2023/05/06

    若きチェリストが、さまざまなチェロの奏法を駆使した現代音楽の難曲に挑んだ、燦然と輝く演奏を収めた秀逸な一枚である。
    本CDに収録された曲はどれもピツィカートやダブルストップ、グリッサンドなどの奏法が多く登場するが、奏者はそれらをものとも労せず、終始濁りや詰まりのない精緻で柔らかいほどの滑らかな音色でリズミカルに弾き切っている。

    ピアソラのグランタンゴから、歯切れよい重音の刻み、グリッサンドに低弦の分厚い音色が心地よく耳に響く。
    奏者は全体に慌てずゆったりとしたテンポを貫き、聴き手にこの曲の醍醐味を伝えることに成功している。
    ピアノの伴奏も見事にチェロの跳躍に対抗し、スリリングなコントラストを醸しだしている。

    ソッリマのラメンタチオは、ハーディーガーディーのような撥弦楽器のもつ独特の響きを、あえてチェロの無伴奏ソロで再現させたかのような民俗音楽風の幻想的で神秘的な曲である。
    ときおり奏者の鼻歌を交えながら、重音のトレモロ、ピツィカート、グリッサンドが繰り返し現れ、曲の躍動感を高めている。
    ここでもチェリストの終始濁りのない澄み切った音色が素晴らしく前面に出て活かされている。

    黛敏郎のBUNRAKUは、三味線、琵琶や筝の演奏を真似たかのようなモチーフが多用される和風の音楽であるが、チェロの無伴奏ソロはフレーズ間に絶妙な間の取り方を貫きながら、これらの多様な奏法を駆使しつつ精緻に奏でる。ときおり朗々と響く息の長い低音のメロディーが浮かび上がる様も見事である。

    Julie-O はアメリカのカントリー音楽を彷彿とさせる、どこか哀愁を誘うリズミカルなソロ曲である。
    最後のラヴィアンローズは、チェロがテンポを自在に揺らしながら滔々と歌い、ピアノ伴奏がそれに美しく寄り添っている。

    収録曲全体を通じて、この若きチェリストの歌い方や間の取り方の絶妙さ、さまざまな奏法を駆使する奏者の極めて高い技術力が驚くほど精緻に録音に反映され、ここにそれぞれの現代音楽が生き生きと美しく再現されている。

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     2023/05/05

     若いピアニストが、ソロCDの初リリースでシューベルト晩年の大曲を2曲収録したのには大きな意義がある。
     シューベルトの晩年は死の予兆が常に差し迫り、作曲された楽曲のテーマにもメロディーにも、独り死に向かう絶望感や虚無感、孤独感がみなぎっていると言われる。そして今回収録された2曲も、いわば作曲者が人生の終焉を迎え諦念に満ちた雰囲気を醸しだすかのような悲哀感漂う演奏が多い中、守重のピアノはそうしたオーソドックスな解釈上の前提を取り払い、若々しく凛とした作曲家シューベルトの音楽を再生させることに成功している。
     その演奏には、たえず前進する推進力に溢れ、生き生きと瑞々しさがほとばしり、絶望感よりもむしろ
    生きる希望や瞬間の喜びや望みすら感じさせられるような、溌剌とした新鮮な雰囲気を醸しだしているからである。

     即興曲集D899の演奏は、第1番から軽快でリズミカルで聴き手を休ませることのない左手の伴奏に乗っかりシューベルトらしい歌曲風の旋律が浮かび上がり、強弱のコントラストが実にクリアに演奏される。第2番も明るく軽やかな長調のアルペジオと、フォルテで激しい短調の中間部の切迫感が見事なまでに対照的に奏でられ、曲全体のスピード感が最後まで持続される。第3番はそれと正反対にノスタルジックなメロディーが控えめにゆったりと演奏され、この曲の悲壮感を増幅させている。最後の第4番の演奏も、有名な下降系のアルペジオのメロディーが軽やかに始まり、次第にクレッシェンドしながら、これでもかと念を押すかのようにメロディーが前へ前へと切迫しつつ蔽いかぶさってゆく。

     かわってシューベルトの最後のソナタ(第21番D960)は、第1楽章冒頭の絶望感に満ちたテーマも、テンポ感よく淡々と演奏され、楽章全体に若々しさや凛々しさを窺うことができる。第2楽章は終始ゆったりとしたテンポで曲の孤独感に満ちたモチーフが強調されるが、第3楽章は正反対に軽やかなタッチに支えられ曲が生き生きとリズミックに奏でられる。そして終楽章は冒頭の軽やかな長調のテーマと中間部の短調の激しい部分とのメリハリが見事に表現されている。
    全楽章を通して、この曲のフレーズごとのテンポ設定が実に良く、曲の構造が聴き手につぶさに汲み取れる秀逸な演奏となっている。

     今回収録された全曲を通じ、守重のピアノはその軽やかなタッチと推進力、強弱のダイナミズムに加え、とりわけ高音部のメロディーの美しさが特筆すべき魅力である。シューベルトは31歳という若さで亡くなったことを加味すれば、この演奏はまさに作曲者の晩年の実際の姿を再現した演奏と言えるかもしれない――それほど筆者には彼女の演奏が新鮮に感じられた。

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     2021/02/01

     リストのピアノ作品の演奏をライフワークとする三舩優子が満を持して録音に臨んだ渾身の一枚である。彼女のオール・リストで組んだ曲集では3枚目のCDになるが、この「巡礼の年 第1年 スイス」の全曲録音は初めてであり、それだけに今回の全曲演奏のリリースはまさに待望のプログラムであり、リストファンのみならずクラシックファンにとっても、大そう興味をそそられるものに違いない。

     三舩優子というアーティストは、けっして自分流の演奏スタイルに固執するピアニストでもなければ、音楽のエンタメ性を前面にアピールするような類の演奏家でもない。
     どのような音楽でも、作曲家が作品に託したモチーフを最大限に尊重し、それを極限まで追求し、その意図するところのものを可能な限り忠実に再現しようとするピアニストである。その結果、彼女の演奏をとおして、作曲家が作品に込めようとした心情や風景が、そのまま聴き手にストレートに伝わってくるのである。今回のリストの作品集も、まさにこの彼女の演奏姿勢から生まれる最良の特性が、余すところなく随所に発揮されている。

     このCDではどの曲も、ピアノが紡ぎだす音色の美しさや煌びやかさが際立つと同時に、作曲家が個々の楽曲を通して描こうとした風景や心情が、面白いまでにリアルに描写されている。聴き手は音楽を聴きながら、牧歌的な田園風景や旅する主人公の孤独な心境にひとつひとつ思いを馳せる楽しみ、醍醐味を堪能することができるだろう。
    このピアノ曲集には「巡礼の年」というタイトルがついているが、けっして宗教や信仰をモチーフにした音楽ではない。むしろ作曲者自身の「魂の浄化」がモチーフであるかのような曲想で溢れる、精神的な崇高さに満ちた楽曲集である。

     さらにこのCDの収録曲の演奏全体に共通する技巧的特性として、ピアニストの左右の手からそれぞれ繰り出される音楽の絶妙なコントラストと「立体感覚」が挙げられる。すなわち低音域では聴き手の心に深く突き刺さる、連続する強靭な和音が激しく煽りたてるように演奏される一方で、高音域では煌びやかな音の粒が流れるように美しく奏でられる――この左右の手がまったく別々の動きや表現を繰り返しながら同時進行するさまは、まさに奏者と聴き手がひとつの空間を共有しているかのような、奥深い立体感覚を聴き手に与える音響的効果をもたらしているのである。


    第1曲「ウィリアム・テルの聖堂」は、曲全体に「荘厳さ」が満ち溢れた重厚感たっぷりの演奏。大きなスケール感をもって曲全体がドラマティックに展開し、途中で何度もクライマックスに達するが、奏者はけっして急がず止まらず、緻密なほどの冷静さを保ちながら終始演奏を展開してゆく。途中で登場する低音部のオクターブユニゾンに、高音部のトリルやメロディーが浮かび上がり、曲に立体感を与えている。モチーフである低音部のダダーンという和音の塊が何度も聴き手の心に突き刺さる。

    第2曲「ワレンシュタットの湖で」は打って変わって、左手で広々とした静かな湖畔に揺らめく穏やかに打ち返す波と、右手で波や湖畔の緑に反射してきらきらと光り輝く太陽の光とが見事なまでに描写されている。まるで聴き手がその場に居合わせるかのような錯覚を覚えるほどのリアルな情景描写が伝わる演奏である。

    第3曲「パストラール」はタイトルどおり牧歌調のメロディーに乗って、活き活きとした自然の風景が描かれる。演奏では、2つの部分から構成される楽曲の緩急のコントラストが見事に対比的に表現されている。

    第4曲「泉のほとりで」は、泉の水面が日光に発車してきらきらと輝く様子が、高音の美しいトリルやアルペジオを通して見事に描写される。この水面にさざめく波が、少し落ち着いたり、またせっついたりと不安定に動く、強弱緩急の微妙な変化がピアノで見事に表現されている。

    第5曲「夕立」は、冒頭部がショパンのスケルツォに似ていたり、途中もショパンのエチュードやポロネーズを彷彿とさせるようなモチーフが聞こえるなど、独特のメランコリックな雰囲気を持った短調の曲である。非常に動きが速いのに、リズム感が妙に心地よく刻まれる。
    この曲も左手の最低音部のパッセージと右手の高音のメロディーとのコントラストが見事に対比的に演奏される。

    第6曲「オーベルマンの谷」は、この曲集で最も長い、ストーリー性に満ちた物語風の曲であり、心理描写的性格の強い曲。曲は、主人公である孤独な旅人が彷徨い歩く姿を描いたかのように、ゆったりとしたテンポで進行するが、途中、主人公は微かな希望または光明を見いだしたかのように、曲は長調に転調し、明るい安らぎと歓びの瞬間を迎え、徐々に高揚してゆく。やがて再び曲は短調に転調し、静寂が訪れる。こうした高揚と静寂、短調と長調のモチーフが繰り返し現れた後、曲は最後に長調の音型で締めくくられる。曲全体を通して登場する、左手の連続する下降型音階が、耳について離れないほどの強烈な効果を与えている。

    第7曲「エグローグ」は、3曲目の牧歌よりも、明るさに満ちたのどかな田園風景がピアノで生き生きと描写される。

    第8曲「郷愁」は、6曲目と同様に心理描写的性格の強い曲である。死を前に孤独で不安に駆られる主人公の心情が表現されているかのごとく、ピアノは強弱緩急を駆使してこの主人公での隠せない心の動揺を見事に描き出している。

    第9曲「ジュネーヴの鐘」は、タイトルには似つかわしくない曲想の音楽であり、むしろ「至福の時間」というタイトルがぴったり当てはまる。曲はリストらしい華麗で美しいメロディーが連続し、途中から低音部でメロディーが滔々と歌われ、高音部で分散和音が浮かび上がるが、しばらくすると両者は逆転し、今度は低音部でアルペジオ、高音部でメロディーが展開してゆく。最後は悟りの境地に達したかのような、落ち着いた和音で曲が締められる。

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     2020/11/02

    シュトラウス、フランクのどちらのソナタとも、既成の演奏枠を超えて、楽曲に内在する甘美でロマンティックな要素が全面に紡ぎ出され、
    奏者ならではの高い演奏技術と個性的表現に裏打ちされた珠玉の名演集である。

    一般にはどちらのソナタも重厚で畳み掛けるような力演が多い中、このCDでのヴァイオリンは、自然体で力の抜けた艶のある伸びやかな音とともにどこまでも澄み切った心で、現世の喜怒哀楽の感情を超越した次元に現れる「純粋な音楽」を追究しているかのような演奏を繰り広げる。

    ヴァイオリンは、曲の緩徐部分では息の切れるまでたっぷり間を持たせつつメロディーを謳わせ、楽曲の意図する表現枠のぎりぎり限界まで、息の長いスケールの大きな表現に徹しようとする。一方で激しいフォルテやクレッシェンドは、けっして音楽の気品を崩すことなく切れ味鋭い音色とともにスリリングな切迫感と高揚感を醸し出す。
    その間、ピアノはどこまでも控えめで温かく優しい姿勢で、ヴァイオリンに寄り添いつづける。

    それゆえ、オーソドックスな楽曲演奏を聴きなれた人にとっては、このCDでのシュトラウスやフランクの第1楽章はまるで別の曲に聴こえるかもしれない。
    それぞれの緩徐楽章のゆったり過ぎるほどの落ち着いたテンポ感には耳に馴染めないかもしれない。
    だがそれらの猜疑心は、やがてそれぞれの曲の終楽章にて、音楽すること自体の歓びと自由さを存分に楽しむかのような、奏者による起伏に満ちた演奏を聴くことで一気に解決するだろう。

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     2017/08/21

    アメリカのクラシック・ピアノ界を代表する音楽家、ウィリアム・ギロックのピアノ作品集。全体にギロックの曲想や作風を忠実に反映させた、端正なまでに美しく、軽快で歯切れの良い、透明感のある響きでセンス良くまとめられたピアノ演奏が目を引く。収録作品はひとつひとつが肩の凝らない短い曲で、長調が大半を占め、アメリカンスタイルの雰囲気漂う曲が多いが、ひとつひとつは動きの速い軽快な曲から静寂な幻想的雰囲気が支配する曲に至るまで、またバロックスタイルの曲から子どものための練習曲、ジャズスタイルの曲までさまざまな作風の曲が収められており、何度繰り返し聴いても聴く者を飽きさせない。なかでもタイトルのつけられた作品は、情景描写が見事であり、曲を聴きながらその情景がリアルに連想できるのが面白い。さらに面白いのは収録作品中、作風や形式の異なるワルツが3曲、ソナチネが2曲収められており、聴き比べが出来ることだ。個人的には<小組曲>の中で最も激しくインパクトのある<仮面舞踏会>、情景が癒される<年老いた乳母の子守唄>、ショパンのワルツを思わせる繊細な動きで抑揚の鮮やかな<ワルツエチュード>、情景描写の優れた<雨の日の噴水><金魚>、ガーシュインを思わせる生き生きしたジャジィな<土曜の夜はバーボン・ストリート>といった作品が好感をもてた。

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     2017/08/11

     ピアノとドラムという異色のデュオ、それぞれのトップ奏者による、最小人数で最大のオーケストラによる演奏と銘打った、音楽雑誌『レコード芸術』特選に輝く同ユニットの初リリース版である。
     ピアノとドラムといっても、喧々囂々しさや過激なパフォーマンスとはおよそ縁のない、オーソドックスでかつ格調の高い、研ぎ澄まされた完成度の高い演奏に仕上げられている。
     収録作品はシチェドリン、ヒナステラの「アルゼンチン舞曲」といった、ピアノが速く小刻みに動くテンポの良いリズミカルな演奏が際立つ曲から、ラフマニノフの「鐘」やサティの「ジムノペディ」のような静寂と沈黙が支配する曲、ボロディンの「だったん人の踊り」やアルベニスの「アストゥリアス」のような民族風のメロディーやリズムが際立つ名曲に至るまで、1枚のCDの中に様々な様相の曲が交互に現れる。
     全体にピアノがリードし、ドラムがシンバルやコンボのような響きでピアノに追従する演奏スタイルで一貫しているが、「アストゥリアス」とラフマニノフの後半ではドラムのみによる即興的なソロ演奏の炸裂が堪能できる。曲目も「動ー静ー動」の繰り返しで順に編集されており、聴く者の心を愉しませ、和ませてくれる。とりわけボロディン、アルベニス、ヒナステラの各収録曲は、デュオのバランスが絶妙でかつアレンジの完成度が高い。圧巻は最後の「ラプソディ・イン・ブルー」であり、ピアノソロやオーケストラとは一風変わった、清々しくも艶やかなガーシュインの音楽が終始展開される。
     いわば進化するクラシック音楽のひとつの「理想形」がこの異色のトップ・デュオによる演奏に体現されている。この至高の境地はおそらく今後百年は、だれも到達することが不可能であろう。

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     2016/04/06

    極めて端正で堂々たる「正統派」ベートーヴェンの演奏である。総じて楽譜に忠実であり、けっして誇張せず、拙速せず、流されず、厳粛なまでに精確なテンポとリズムを貫く多川響子の演奏は、徹頭徹尾作曲者の心に寄り添い、この2つのソナタ作品の真髄を深く掘り下げ、余すところなく描き切っている。

    なかでも「悲愴」の第2楽章のメロディーラインの上品な美しさは回顧的な心情を浮かび上がらせ、この世の喧噪を一時忘れさせる至福の瞬間を浮かび上がらせる。「熱情」の第1楽章のコーダや第2楽章の後半の高音部の分散和音の美しさ、終楽章の緩徐部分と急激に進行する部分との強弱のメリハリは聴く者の心をうならせる。

    ときおり激しく交錯する右手と左手の音のバランスや変化も見事である。プロからアマチュアまで、ベートーヴェンを学ぶピアニストにも模範に値する演奏テキストとして、ぜひ紹介したい一枚である。

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     2016/03/29

    ドイツ・ロマン派を代表するシューマンとブラームスのソナタの演奏であるが、このデュオの演奏はけっして力を誇示せず、終始自然体で流麗かつ軽快にイン・テンポをキープしながらメロディーを進行させてゆく。

    ヴァイオリンは優しく繊細でかつ温もりのある音色を醸し出し、ピアノは力まずヴァイオリンに静かに寄り添い、美しく深みのある分散和音を奏でつづける。それでいてけっして音楽が醒めることはない。どちらも静かに胸の中の情熱を燃やしながら、上品で端麗な演奏を貫いている。

    とりわけシューマンの第1楽章、ブラームスの第2楽章での、たっぷりと間合いをとってメロディーを朗々と歌う演奏に筆者は共感を覚えた。

    さらに演奏全体を通じて特筆すべき点は、細部にわたるまでのヴァイオリンとピアノのハーモニーの完成度の高さである。ヴァイオリンとピアノの互いの掛け合いのリズムと間合い、強弱のタイミングの一致が絶妙であり、まさに「息がピッタリあった」デュオの演奏とはこういうものだという見本を披露してくれる佳作である。

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