アンチェルの『わが祖国』ステレオ・ライヴ!
2006年5月8日 (月)
アンチェル&チェコ・フィルの『わが祖国』!
チェコのレーベル“RADIO SERVIS”が日本に正式輸入されるようになり、ようやく同レーベル随一の注目盤が登場することとなりました。
今回ご紹介するこのライヴ録音は、チェコの名物「プラハの春」音楽祭恒例のオープニング・コンサートの記録であると同時に、1968年、政治的自由化改革運動の気運が高まる中で、自由への希望の象徴であった「プラハの春」の貴重な記録でもあります。
しかしそれから3ヵ月後、アンチェルがアメリカ演奏旅行中の8月に、チェコはソ連を中心としたワルシャワ条約機構軍の軍事介入を受け、自由化運動「プラハの春」は終わりを告げることとなります。
この「チェコ事件」を知ったアンチェルは客演先で帰国を断念、亡命の道を選び、同時にチェコ・フィルの常任指揮者も辞任。その後わずか4年で亡命先のトロントで悲劇的な生涯を閉じることになりました。
アンチェルの『わが祖国』といえば、1963年のセッション録音があまりにも有名。黄金時代のチェコ・フィルが鮮烈きわまりないパフォーマンスを聴かせたそこでの演奏は、これまで数多くのファンを魅了してきましたが、今回の録音はそれから5年後のコンサート、しかも民族意識が鼓舞された時期の記念碑的なライヴ・レコーディング、さらにステレオ録音ということで、期待度の高さはまさに絶大です。
1968年の『わが祖国』といえば、『高い城』だけとはいえ、ドリームライフからすでに映像作品がリリースされていたため、アンチェル・ファンは全曲録音のリリースを心待ちにしていたのですが、今回、それがきわめて鮮明なステレオ録音という形で実現したことには正直なところ驚きを禁じえません。チェコの放送局の技術はかなり高度なようです。
アンチェル&チェコ・フィルの『わが祖国』ライヴ・レコーディングでは、過去に1967年のモントリオールでの録音が知られており(TAHRA 廃盤)、その実演ならではの情熱的なアプローチと、オーケストラの最高のコンディションによって高い評価を得ていたのですが、モノラル録音なのが残念なところでした。
また、カナダに亡命後の1969年の映像作品に『モルダウ』のリハーサル&本番というものがあり、トロント交響楽団を巧みにリードして見事な演奏を築き上げるさまがカラー(57分 モノラル)で記録されていてこれもファンには見逃せないところです。
今回の演奏は、そのTAHRA盤の翌年、VAI盤の前年の収録で、録音方式もステレオ、演奏にあたっての社会的背景にも恵まれ、『わが祖国』ファン必聴の条件が整った大注目盤といえそうです。
なお、同じく“RADIO SERVIS”からリリースされるカール・アマデウス・ハルトマンの『葬送協奏曲』は、ナチス・ドイツに蹂躙されるチェコへの哀歌として作曲された20分ほどの作品で、アンチェルに関心のある方には外せないアルバムではないかと思われます。
・スメタナ:連作交響詩『わが祖国』全曲 [73:37]
第1曲『高い城(ヴィシェフラド)』 [13:51]
第2曲『モルダウ(ヴルタヴァ)』 [11:48]
第3曲『シャールカ』 [09:57]
第4曲『ボヘミアの牧場と森から』 [12:03]
第5曲『ターボル』 [12:29]
第6曲『ブラニーク』 [13:29]
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
カレル・アンチェル(指揮)
録音:1968年5月12日、プラハ、スメタナ・ホール(ステレオ)
【カレル・アンチェルについて】
チェコの名指揮者、カレル・アンチェル[1908-1973]は、プラハ音楽院でアロイス・ハーバ(微分音で有名)に作曲を、ヴァーツラフ・ターリヒに指揮を師事。ハーバが書いたオペラ『母』初演の際に指揮を担当したヘルマン・シェルヘンのアシスタントを務めた事が契機となり、この鬼才指揮者からドイツでさらなる指導を受けます(余談ながら、シェルヘンの娘が運営に携わるフランスのTAHRAレーベルから、以前、アンチェルの音源が大量にリリースされていたのはその絡みもあるのでしょう)。
指揮者としてのデビューは1930年、ミュンヘンの現代音楽際でくだんのハーバのオペラ『母』を指揮したときで、1931年にはプラハ歌劇場の指揮者となり、1933年にはプラハ交響楽団の音楽監督に就任します。しかし、1939年にチェコがナチス・ドイツの支配下に入ると、開放劇場でファシズム批判作品を上演していたため解雇。ユダヤ系だったために、家族全員が強制収容所に移送され、一般人だった家族はアウシュヴィッツ収容所で虐殺、音楽家だったアンチェルのみ最終的にテレジン収容所に送られたため、辛うじて生還することとなります。
戦後のアンチェルは、オペラ指揮者を皮切りにキャリアを積み、1950年にはチェコ・フィルの音楽監督に就任して、戦争で荒廃した同オケを世界第一級にまで建て直し、以後、20年近くに及ぶチェコ・フィルの黄金時代を築くことになります。
一連のスプラフォン・レーベルへのレコーディング(COLUMBIAリリース)はこの頃におこなわれており、それらはすべて高水準な内容を持つもので、政変による辞任劇さえなければそうした黄金時代がさらに続いていたのではないかと思うと残念でなりません(もっとも、亡命先のカナダで過ごした晩年の数年間は、重い糖尿病と肝臓疾患との戦いだったとも言います...)。
アンチェルといえば、伊勢湾台風が死者5000人という未曾有の被害を東海地方にもたらした1959年にチェコ・フィルと共に来日、その際、心を痛めた彼とチェコ・フィルが、義援金として100万円(今なら1000万円以上?)を供出したという美談でも知られています。
共産圏の団体から西側にお金が動くというのも今や信じられない話ですが、アンチェルのヒューマニストぶりをよく伝える話とも言えるのではないでしょうか。
しかも、このときの来日公演では、同時期に日本を訪れていたカラヤン指揮するウィーン・フィルを上回る優れた演奏を聴かせて、わが国の聴衆を圧倒したといいますから、その実力はやはり恐るべしです。
【スメタナ:連作交響詩『わが祖国』】
第1曲『高い城(ヴィシェフラド)』
プラハの南、モルダウ河のほとりの崖の上に建つヴィシェフラド城は、10世紀後半に建設された中世ボヘミア王国の城で、そこではかつて伝説の吟遊詩人ルミールが、英雄や愛について歌っていました。 曲頭のハープの動機は、この吟遊詩人ルミールのハープを表したもので、以後、『わが祖国』全体を通じて変形使用されることとなり、この連作交響詩が、あたかも吟遊詩人によって歌われたボヘミアの物語であるといった様相を呈しています。
第2曲『モルダウ(ヴルタヴァ)』
『わが祖国』を代表する人気作で、単独で演奏される機会の非常に多い作品でもあります。内容的には、チェコの中央部を流れる大河モルダウとその周辺の景観を描写したもので、変化に富む水の流れと、民族舞曲や月夜の水の精、聖ヨハネの急流などが描かれており、最後には循環動機でもある『高い城』の主題をモルダウの主題にかぶせて輝かしく終わります。チェコの人々や自然について大変美しく描いた音楽です。
第3曲『シャールカ』
恋人の裏切りから、なぜか全男性への復しゅうを誓ってしまった女傑シャールカ率いる女性の軍隊と、男性の軍隊との戦いを描いた作品で、同じ題材のヤナーチェクのオペラも有名です。シャールカ討伐に向かったツティラートが、色香と酒によって簡単に負かされてしまうといったストーリーが、スメタナの音楽では最後の勇猛果敢な音楽に象徴されるようにきわめてシリアスなものとして描かれています。
第4曲『ボヘミアの牧場と森から』
きらきらと輝く陽光を受けた緑の平原、収穫祭を思わせる農民たちの楽しげな踊り、森にそよぐ風や小鳥たちのさえずりがあるときは陽気に、あるときは淋しげに描かれる『モルダウ』に次ぐ人気作。
第5曲『ターボル』
免罪符販売を非難したことによってローマ法王から破門され、やがて虐殺されることになるチェコの宗教改革運動家、ヤン・フスの衣鉢を継いだ急進的グループ「ターボル派」を中心に巻き起こったフス戦争を描いた作品。スメタナはフス教徒たちの信条を民族主義の旗印として捉え、主題に彼らの賛美歌(コラール)を用いることで、チェコの歴史上、最大の民族的盛り上がりを見せた出来事を叙事詩的壮大さをもってダイナミックに描き上げています。
第6曲『ブラニーク』
前曲からつながっているこの作品は、ボヘミアのブラニーク山に眠る救国の騎士たちの伝説を描いており、主要主題には第5曲のターボルの主題が用いられて、チェコの危機を救う英雄の存在を強く印象付けます。
実際の戦争では、十字軍のたび重なる侵攻を撃破しながらも、結局は内部分裂によって敗戦を迎えることになる彼らの戦いぶりを考えると、スメタナの描写は少々理想主義的美化が過ぎるようにも思えてきますが、この曲集が、吟遊詩人ルミールによって語られるチェコについての幻想的な物語である点、『ターボル』と異なり、フス教徒ではなく伝説上の存在である騎士たちに戦いがシフトしている点を考慮すれば、スメタナの設定は当を得たものと言えるのではないでしょうか。
管弦楽曲最新商品・チケット情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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輸入盤
『わが祖国』全曲 アンチェル&チェコ・フィル(1968ライヴ)
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『わが祖国』全曲 アンチェル&チェコ・フィル
スメタナ(1824-1884)
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ドヴォルザーク(1841-1904)
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価格(税込) : ¥1,100
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