《収録曲》
01. Boogie Woogie Stomp
02. Roomin House Boogie
03. Worried Life Blues
04. Boogie For Stu
05. Make Me A Pallet
06. Midnight Blues
07. Lonely Avenue
08. Watchin The River Flow
09. Roll Em' Pete
10. Suitcase Blues
11. Bring It On Home To Me
12. Kidney Stew(日本盤ボーナス・トラック)
13. Chicago Calling(日本盤ボーナス・トラック)
「愛するスチュに捧げる作品」と題したベン・ウォーターズの最新アルバム『Boogie 4 Stu』。今や世界中にトリビュート・アルバムというものは星の数ほど存在するが、これほどまでに、その人または故人となったその人の心意気に深い敬意が払われているトリビュート作品は他に例を見ない、率直にそう感じた。また、イアン・スチュワートという人間がいかに多くの仲間に愛されていたかということも。
アルバムに掲載されているベン・ウォーターズのインタビューを含む濃厚なライナーノーツをお読みいただければ、本作制作に至る経緯やそのコンセプトなどが手に取るように判るわけなのだが、ここではネタバレにならない程度にこの『Boogie 4 Stu』の解説をしばし。
イギリスはドーセット州出身のベン・ウォーターズは、37歳のブギウギ/ロックンロール・ピアニスト。 ”知る人ぞ知る”という言い方をした方がいいかもしれない。人並みのロック・ファンであれば、ロケット 88への参加、または、ジュールズ・ホランドやチャーリー・ワッツのソロ・プロジェクト・バンドでのプレイでその名を知るに至るかもしれないが、本国イギリスにおける知名度に較べればまだまだ日本では ”知る人ぞ知る” 存在というところだろう。ただし、その実力は誰もが認めるところで、チャック・ベリー、ジェリー・リー・ルイス、レイ・デイヴィス、デヴィッド・ギルモア、シャーリー・バッシーといったトップ・アーティストたちから絶大な信頼を受け、ステージにスタジオ・レコーディングに引っ張りだこの毎日を送っている。リーダー・アルバムも現在までに3作を数え、2008年には来日公演も行なっている。
そんなベンが自身のピアニズム、プレイスタイルの原点として常に尊く仰いでいたのが、スチュことイアン・スチュワートなのである。ピアノを弾きたいという初期衝動に駆られたのは9歳のとき。伯父夫婦の結婚20周年パーティで耳にしたスウィンギーなスチュのプレイは、純粋な少年のココロを真っ芯で捉えた。その当時はもちろん、スチュが ”6人目のストーンズ” と呼ばれるような伝説的な人物ということなどは知る由もなく、痛快極まりない「ブギウギ・ピアノ」のかっこよさを単純明快に教えてくれた ”音楽の先生” として、ベンはスチュのプレイスタイルを見よう見まねで研究し、また彼の所蔵していたピアニストのビデオコレクションにも夢中になっていった。スチュとの出逢いを原点に、10代の頃には、ファッツ・ドミノ、パイントップ・スミス、アルバート・アモンズ、ピート・ジョンソン、ジミー・ヤンシー、プロフェッサー・ロングヘアーといった名士たちの演奏を掘り下げ味わい、心酔し尽くした。
ベンがプロ・プレイヤーとして活動し始める頃には、すでにスチュはこの世を去っていたため、実際直接的なプレイの手ほどきを得ることはなかったそうだが、「生前のスチュとプレイしていた人々と共演することで、彼の音楽性は僕の身体に染みこんでいるんだ」とベンは語る。また、控えめで寡黙なスチュの性格はそのプレイスタイルにも顕れたが、必要最低限の音数で最大の効果を発揮するまさに”必殺仕事人”的演奏は、ストーンズをはじめ数々の名演の屋台骨を支えていることを窺い知る。決してテクニックに長けていたわけではないが、スチュにしか弾き出せなかったスウィング感と、コクのあるフィーリングというものが確かにある。スチュのスタイルを「独特」と表現するベンは、そんな唯一無二のブギウギ・スタイルを継承しながら、本物のロックンロールとブルースだけが持つゴキゲンで滋味溢れる魔法世界へと我々を誘ってくれる。
元々このアルバムは、ベン自身によるソロ・トリビュートとしての制作を企画していたそうだが、チャーリー・ワッツ、デイヴ・グリーン、ウィリー・ガーネット、ドン・ウェラー、ジュールズ・ホランドといった旧知の面々が次々に参加を快諾したことを皮切りに、プロデューサーとしてグリン・ジョンズ、従姉妹にあたるP.J. ハーヴィー、さらには、ロニー・ウッド、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、そして驚くことなかれ、ビル・ワイマンまでもが本作への参加を申し出てきたのである。ベンの本プロジェクトにかける熱意もさることながら、イアン・スチュワートというピアニストがいかに多くの同業者たちから信頼され、また、ひとりの人間として愛されていたかを如実に物語るエピソードと言えるだろう。
最後の参加オファーを受けたビル・ワイマンは、ご存知のとおり1992年にストーンズを脱退している身なのだが、「スチュのためなら」という心意気ひとつで、都合3曲においてベースを演奏。全て別録りとなるものの、ボブ・ディランの「Watchin The River Flow」には、『Steel Wheels』発表後は目にすることのできなかった ”輝しくも懐かしい” 黄金のラインナップがクレジットされ、他のストーンズ・メンバーからもこの合流に物言いを付ける者は誰ひとりとしていなかったそうだ。
ミード・ルクス・ルイス、ピート・ジョンソンと並ぶブギウギ・ピアノの「3大巨匠」として知られるアルバート・アモンズ「Boogie Woogie Stomp」の独演で幕を開け、一連の<酔いどれブルース>で人気を博したエイモス・ミルバーンの「Roomin House Boogie」と続く。「イアンもきっとお気に入りのはず」という視点からベンによって選び抜かれたカヴァー曲が中心だが、ベンとホランドの連弾による「Boogie For Stu」というすこぶるゴキゲンでハッピーなオリジナル・トリビュート曲も収録されている。
ストーンズ・ファンであれば迷いなく「Watchin The River Flow」や、かつてニュー・バーバリアンズ興行でもデュオ披露されたビッグ・メイシオの「Worried Life Blues」(「友達はみんな自分を置いて行ってしまった」という歌詞をキースが唄うこのシニカルぶり・・・)をハイライトに挙げるのだろうが、「Roll Em' Pete」のキレの良さには敵うまい。スチュの古くからの友人であるヘミッシュ・マックスウェルがシンガーを務めたこの曲は、ビッグ・ジョー・ターナーと相棒ピアニストであったピート・ジョンソンによる男くさいブギウギ古典。ジャンプ・ブルースもジャイヴもハウス・レント・パーティの熱狂の中で一緒くたになって無数の音符を躍動させる。老若男女が理屈抜きで汗びっしょりに。「こうでなくっちゃ!」と天国のスチュも思わず指パッチン。
本編のラストには、スチュの在籍していたロケット 88による1984年モントルー・ジャズ・フェスティヴァル出演時の未発表ライヴ音源「Bring It On Home To Me」、さらには日本盤ボーナス・トラックとして同フェス・ライヴ音源から「Chicago Calling」と、ベンが歌う「Kidney Stew」が収録されており、こちらも見逃せない。
ベンをはじめとして本作品に参加したミュージシャン全員の綻んだ顔が容易に想像できる。スチュの思い出話に花を咲かせながら、各自ブギウギにブルースに舌鼓を打つ饗宴は、”6人目のストーンズ”だなんて有り体な形容が入り込む余地などまるでないほどに盛り上がる。歪曲したビジネスやジャーナリズムとはまったく関係のないところで活きのいい音楽は奏でられ、そこにピュアなミュージシャン・シップは育まれる。スチュを愛し、またスチュに愛された人たちは、今やそれぞれの立場は違えどそのことをよく心得ながら互いを称え合う、うらやましいばかりの幸せ者だと思う。
追伸:去る3月9日には、本作『Boogie 4 Stu』の発売記念ライヴが、ロンドンの小劇場アンバサドール・シアターで行なわれ、ミック、キース、P.J.を除くアルバムの主要参加陣に加え、ミック・テイラー、ミック・ハックネル、シェイキン・スティーヴンスといった面々も駆けつけたという。終始アットホームな雰囲気でショウが進む中、皆一様にイアン・スチュワートという偉大なるピアニストに想いを馳せた。
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《パーソナル》
ベン・ウォーターズ : ピアノ(M-1,2,3,4,6,7,8,9,10,12)/ハモンド・オルガン (M-5,7)/ヴォーカル(M-2,12)/バッキング・ヴォーカル (M-7)
ミック・ジャガー: ヴォーカル/ハーモニカ(M-8)
キース・リチャーズ: ギター(M-2,8)/ヴォーカル(M-3)
ロニー・ウッド: ギター(M-3,8)/ヴォーカル(M-3)
チャーリー・ワッツ: ドラムス(M-3,4,5,6,8,9,12)
ビル・ワイマン: ベース(M-2,8,9)
ジュールズ・ホランド: ハモンド・オルガン(M-3,8)/ピアノ(M-4,5,6,9)/ヴォーカル(M-5)/ギター(M-12)
PJハーヴェイ: ヴォーカル/バッキング・ヴォーカル/サックス(M-7)
アディ・ミルワード: ドラムス(M-2)
デレク・ナッシュ: サックス(M-2)
クライヴ・アシュリー: サックス(M-2)
デイヴ・グリーン: ウッド・ベース(M-3,4,5,12)
ウィリー・ガーネット: サックス(M-3,4,5,8,9,11,12,13)
ドン・ウェラー: サックス(M-3,4,5,8,9,12)
アレックス・ガーネット: バリトン・サックス(M-5,8,12)
トム・ウォーターズ: アルト・サックス(M-8)
デイヴ・スウィフト: タンバリン(M-8)
ヘイミッシュ・マックスウェル: ヴォーカル(M-9)
テリー・テイラー: ギター(M-9)
イアン・スチュワート: ピアノ(M-11,13)
ロジャー・サットン: ヴォーカル/ベース(M-11,13)
ジミー・ロシュ: ギター(M-11,13)
クライヴ・タッカー: ドラムス(M-11,13)
オラフ・ヴァス: サックス(M-11,13)
マイク・ホイ: トロンボーン(M-11,13)
ジョン・ピカード: トロンボーン(M-11,13)
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