『オテロ』全曲 ウォーナー演出、アントニオ・パッパーノ&コヴェント・ガーデン王立歌劇場、ヨナス・カウフマン、アグレスタ、他(2017 ステレオ)
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村井 翔 | 愛知県 | 不明 | 2018年08月25日
カウフマンの『オテロ』という前にパッパーノの『オテロ』と呼ぶべきだろう。作品の求めるマッシヴな力の表現とデリケートな心理的あやの描出、この両面をこれほど完璧に満たした指揮は前代未聞。カラヤンやクライバー以上と言っても過言ではない。この演奏自体をHIPとは呼べないだろうが、弦楽器のセンシティヴな弾かせ方や金管の朗々たる鳴らしっぷりなどはHIPスタイルの最良の成果を踏まえていると感じられる。カウフマンももちろん凄い。ドミンゴ以上に声のポジションの低い、バリトナールなテノールだが、それだけにここでしばしば求められる高い音域での絶叫が一段と映える。イタリア・オペラでは最高の適役と言ってよい。声のテクニックを総動員して作り上げたオテロ像だが、演技のうまさも彼の大きな武器。だんだん狂ってゆく第3幕の迫真力など圧巻だ。ヴラトーニャもイヤーゴ役としては低い声の持ち主で、ほぼバスだが、この人も特筆すべき演技力(声の演技と身体・表情の演技の両方)の持ち主。イヤーゴ役は自分の仕掛けた陰謀の成り行きを超然と見ていることが多いが、ヴラトーニャのイヤーゴは彼の手を離れて自ら転がってゆく陰謀におののきつつ巻き込まれてしまっている。指揮者・演出家との共同作業で作られたイアーゴ像だろうが、第3幕の幕切れなど大変面白いし、説得力十分だ。手練手管満載のこの男性二人に挟まれるとアグレスタはやや影が薄いが、ひたすらピュアで一途な彼女の演唱もまた悪くない。 キース・ウォーナー演出はかつての新国立『指輪』とは全く違って、読み替えなしのストレート勝負。最後にオテロが自らイヤーゴを殺す(ように見える)のがほぼ唯一の新機軸だが、そんなにデコラティヴな装置を使わなくても場面の作り方にセンスがあるし、鏡・仮面といった小道具の使い方もとても効果的だ。1人の方が、このレビューに「共感」しています。
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