交響曲全集 マリオ・ヴェンツァーゴ指揮、5つのオーケストラ(10CD)
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Phronesis | 千葉県 | 不明 | 2016年09月09日
まず聴いてみて気がつくのは、ヴェンツァーゴがブルックナーのスコアから非常に繊細で、しかも雑味のない澄みきった響きを抽出していること。とくに弦楽器パートは弓使いからヴィブラートのかけかたまで非常に神経が行き届いて、繊細である。そうした演奏スタイルが最高の成果を上げている例としては、第9の第三楽章をあげることができる。ここで強烈な不協和音が柔らかく溶けあって響くさまは、たしかに他に例を見ない美しさだと思われる。 また、概してテンポは速めで、とくに第3主題でのリズミカルな書法のパッセージはかなり速い。おもしろいとは思うが、ただブルックナーの音楽は一般にリズムパターンの積み重ねによる発展を特徴としており、とくに第3主題やスケルツォだけでリズムを強調しながら、それ以外ではあまりリズム的な要素の処理に印象的なものが見つかりにくい、というのには、ちょっと疑問をもった。 それと、響きが澄みきって繊細であるのはよくわかるのだが、あまりポリフォニーの綾を立体的かつ明晰に聴かせてはくれない。これはポリフォニックな書法を全体の響きへと溶かしこむべき素材としてしか見ていない、結果、各パートの独立性をあまり重視していないような印象を与えてしまう点にはちょっと不満がある。 結局、ヴェンツァーゴにとってのブルックナーは、たとえばギーレンがとりあげる第4の第一稿が聴かせるような、明らかに二、三世代先を予感させるような凶暴で荒々しい生命力に満ちた性格のものではない。むしろ、版の選択は一貫して保守的であり、その範囲で響きの純化とスリム化を追求した演奏、と言えば一番しっくりくるように思われる。5人の方が、このレビューに「共感」しています。
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