『ボエーム』全曲 ヘアハイム演出、イェンセン&ノルウェー国立歌劇場、トーレ、ソルベルグ、他(2012 ステレオ)
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notabene | 東京都 | 不明 | 2019年04月13日
演出に目を奪われるが、演奏がかなりハイレベルなのも特筆もの。見事なミミでありロドルフォだし、ムゼッタ以下のアンサンブルも素晴らしい。また彼らが歌手として相当うまくやっていながら、難しい演出の要求にも応えている。インタビューでムゼッタが自分はサーカスの団長みたいとユーモラスに語っていたが、いろいろな人(某脇役も含め)が出ずっぱりで意味深なことをしていて、何回か見るたびに複数の登場人物の視点に入っていけそう。オペラの読み替えは歌詞との整合性が気になるものだが、これは本当に細部にわたって別の文脈で意味を持つ場面が多くて、思わず膝を打ってしまう。日本語字幕がないのは残念だが、英語字幕で見た方がかえってイメージが広がるかもしれない。音楽そのものの力を邪魔せずに、ミミの死とロドルフォの嘆きがもっと切なくなる、そんな舞台。1人の方が、このレビューに「共感」しています。
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村井 翔 | 愛知県 | 不明 | 2013年09月01日
普通とちょっと違う『ボエーム』が見たいけど、単に舞台を現代に移しただけの読み替え(そう言えば2012年夏のザルツブルクでもそんなのありましたね)は御免だという人に強くお薦めしたい、素晴らしいプロダクション。いかに良くできているかを自分の目で見て実感していただきたいので、細部のネタバレは避けたいが、基本構想は解説しないわけにいくまい。この演出では冒頭シーンでミミが死んでいる。19世紀パリのボヘミアン達の物語は彼女の死を受け止められないロドルフォが逃げ込んだ妄想の世界というのが大枠。しかし、一貫して妄想が続くのではなく、ファンタジーは繰り返し繰り返しリアルに引き戻されてしまう。このあたりの配合の絶妙さは(ネーデルランド・オペラの『エウゲニ・オネーギン』でも感嘆したけど)まさしくヘアハイムの天才のあかし。ミミがかつらを取るシーンがファンタジー/リアルの転換点として繰り返し現われるが、彼女がスキンヘッドなのは抗ガン剤の副作用。つまり、彼女の命を奪う病気はもはや結核ではなく癌である。妄想、現実逃避というと後ろ向きのイメージを抱く人が多いかもしれないが、ここでのファンタジーはロドルフォが現実のミミの死を受け止め、フロイトの言う「喪の仕事」を始めるためのセラピーになっている。さらに、それはオペラという架空の物語にわれわれはどうしてこんなに惹かれるのか、そこにはどんな有用性があるのか、という問いに対する演出家からの答えでもある。『ボエーム』をこんなメタオペラにしてしまうとは、ヘアハイムのインテリジェンスには感服するしかない。他にも同一歌手が演ずる某四役の見事な使い回しなど、書きたいことは山盛りあるが、まずは見てのお楽しみ。5人の方が、このレビューに「共感」しています。
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