『冬の旅』 マルクス・シェーファー、トビアス・コッホ
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村井 翔 | 愛知県 | 不明 | 2021年12月15日
あまたある『冬の旅』音盤の中でもこれほど個性的、特異なものは他にないだろう。ツェンダー他の編曲版は別にして、とにかく普通でない『冬の旅』が聴きたいという人には第一にお薦め。「シューベルト時代の歌唱様式に沿う」ことをうたった三大歌曲集録音の完結編だが、とにかく歌手もフォルテピアノも譜面通りに歌わない、弾かない。伴奏者トビアス・コッホがインタヴューに答えて述べている言葉を借りれば「『原典版』とは別の音、装飾、レチタティーヴォ風の挿入、拡張、休止、経過句、思いがけぬ変転」が至るところにある。第6曲「溢れる涙」など、全く別の曲のように変奏されているし、歌は随所で語り、シュプレヒシュティンメに接近している。初演者ヨハン・ミヒャエル・フォーグルはこういうスタイルで歌ったのだろうが、『竪琴弾きの歌』連作と違って、残念ながらこの曲にはフォーグル版の譜面はなく、演奏者たちのファンタジーが頼りだ。名曲中の名曲だから、ここまで譜面を無視するには相当な勇気が必要だったろう。さて、首尾はどうかと言えば、上々の出来、三大歌曲集の中ではこれが最も良いと私は聴いた。この曲集のモノクロームな色彩、絶望の色濃い曲調に、このような装飾的な歌唱はふさわしくないのではないかと危惧していただけに、私としても意外だった。聴き手の方が慣れてきたという以上に、演奏者の方法論が練り上げられてきたせいだと思う。全体はかなり速めのテンポで進められており、くどいといった印象は皆無。フォルテピアノがきわめて雄弁で、声と鍵盤楽器のための協奏(競争)曲と化しているのも、この演奏の特色だ。1人の方が、このレビューに「共感」しています。
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