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橋本徹の新『音楽のある風景』対談 Page.4

2009年12月9日 (水)

interview

橋本徹

橋本徹氏によるアプレミディ・レコーズの『音楽のある風景』シリーズも待望の第4弾にてついに完結編を迎えました。このシリーズは移りゆく季節を感じながら音楽を聴く喜びと、まだ知らぬ音楽との出会いに深く感動できる作品であり、幅広い音楽リスナーが末永く楽しめる作品です。そんな『音楽のある風景〜冬から春へ〜』(心温まるクリスマス・プレゼントとしても最適です!)の発売を記念して、街がクリスマスの支度に賑わう某日、今回も渋谷・公園通りのカフェ・アプレミディにて選曲・監修をされた橋本徹氏と、『音楽のある風景』のシリーズおよびサバービア〜アプレミディのライナーの執筆を手掛ける音楽文筆家の吉本宏氏、そしてアプレミディ・レコーズの制作担当ディレクターの稲葉昌太氏を交えて興味深く嬉しいお話を聞くことができました。

また今回『音楽のある風景〜冬から春へ〜』をお買い上げいただきますと先着で、『音楽のある風景』をめぐる旅と季節をテーマにした書き下ろしエッセイやディスクガイドを含む、橋本徹氏の監修・編集による『音楽のある風景』オリジナル読本もご用意させていただきましたので、ぜひこちらもお楽しみください!

●09. It’s You / Rebecca Parris

山本:今回のシリーズではいろいろなカヴァーが楽しめますが、この曲はジョイス・クーリングのヴァージョンと比べても一番魅力的なんじゃないですかね。

橋本:「Bird Of Beauty」にしても「Big Yellow Taxi」にしても、すでに大クラシックで誰もがカヴァーに反応すると思うんだけど、「It’s You」は、もう少し熱心に音楽を聴いている人たちに喜んでもらえる曲として選曲の中に欲しいと思ったんだ。

吉本:この曲はかけているとDJの人たちを中心に「これ誰ですか?」と問い合わせが多かったな。あと、「usen for Café Après-midi」では、「It’s You」を作詞した、キティ・マーゴリスのアコースティック・セルフ・カヴァーを夜中の時間にかけていたイメージがあるな。

橋本:僕はジョイス・クーリングのオリジナルがあまりにも好きなので、これまでカヴァーはよほどよくないと、と思っていたんだけど、今回は自分好みの生音重視な感じのミックスでいいヴァージョンになったと思うよ。




●10. Gretchen Parlato / Flor De Lis

山本:「It’s You」からのこの流れもとても気持ちいいです。ギターのフレイズもつながる感じで、オリジナル・アルバムで聴いたときとはまた違って聴こえましたね。

橋本:それは嬉しいね。実は僕的にも会心のつなぎで、彼女のこのヴァージョンはほんとうにいいんだよね。静かに始まってだんだんと上がってくるところとか、ピアノ・ソロに彼女のスキャットが入ってくるところとか、さりげない口笛や男性ヴォーカルとのデュエットの部分とか。

吉本:ジャヴァンの「Flor De Lis」はほんとうに名曲だけど、特にグレッチェン・パーラトは歌い方が独特で、言葉の始めにアクセントをつけて吐息を残すような不思議なヴォイシングの魅力を持っているね。

稲葉:彼女は2004年の「セロニアス・モンク・インターナショナル・ヴォーカル・コンペティション」で優勝しているんですよ。英語が母国語でポルトガル語を歌っている巻き舌なところもチャーミングですよね。

橋本:パーカッションのリズムも気持ちよくて、大きな音で流すと上がるけど、小さな音で流すと空間になじむというように、かけ方でいろいろな表情を見せるよ。この頃の彼女には初々しい可憐さが残っているのもいいね。




●11. Beautiful And Light / Tunng

橋本:これも実はヴォイシングをパーツとして効果音などとうまく組み合わせて作られた音楽で、そこがグレッチェン・パーラトにも通じると思うんだよね。

稲葉:ある評論家によると、グレッチェン・パーラトは自分の声を器楽的にとらえていて、逆に楽器が歌のようになっていて、その境界線のあいまいなところが彼女の魅力だと言っていました。

吉本:どちらも声という素材や音に対する考え方が音響的なんだね。

山本:今回もこの曲が、『音楽のある風景』の1作目のホセ・ゴンザレスや、3作目のドナ・レジーナのように選曲の流れの中でアクセントになる曲ですね。まさにブリティッシュ・フォークとメランコリック・エレクトロニカの融合。

橋本:アルゼンチンの音響派にも言えることなんだけど、トラディショナルであったりアコースティックであったりするものに、ちょっとしたエレクトロニクスを人間味あふれる感覚で使うアーティストの音楽はみな構造が似ているね。それと僕的には、この曲は21世紀にビートルズとビーチ・ボーイズをつなぐ存在でもあって、メロディーは牧歌的でブリティッシュなんだけど、「Caroline, No」のような効果音が挿入されていたりして、ソフト・サイケデリアというか1965〜67年感があるんだよ。それが次の「In My Life」につながっていくわけで。




●12. In My Life / Brother Groove

吉本:これはいいカヴァー・ヴァージョンだと思うね。有名曲のカヴァーは難しくて、センスが要求されるけれど、このヴァージョンは気持ちのよいワルツのリズムとベース・ラインの上を滑るようなイントロのピアノのフレイズを入れたところで決定的にいいアレンジになっているよ。

橋本:このフルートとピアノのワルツ・ジャズは、絶対にジョン・コルトレーンがイギリス民謡をスピリチュアルに演奏した「Greensleeves」や、それをサンプリングしたクープの「Waltz For Koop」の影響を受けているよ。ビートルズ・メロディーの中でもクラシカルな「In My Life」を今こういう風にアレンジしたことに拍手を贈れるね。

稲葉:彼らはイタリアのユニットですけど、今までのステレオタイプなイタリアン・ジャズの音とはまったく違いますね。ほんとうに彼らはセンスがよくて、確かに新世代でありながらタイムレスな音楽になっています。

山本:ジャズ・シュプリーム・シリーズの『Modal Waltz-A-Nova』編に収録されているジェイムス・クレイの「Pavanne」なんかも彷彿させますね。





profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz