ニューヨークの、地獄の音響で踊るバレエ
2009年10月28日 (水)
では、ペペで”踊る”ということは?
ダンスフロアに持ち込まれる様々な要素とアイデア。そして、エレガンス。ペペ・トルメント・アスカラールによる神経質なまでの定立や気品が、いよいよ、ポスト・クラブとされる問題の領域、その真ん中辺りに投じられようとしている。
「ホールでの儀式的なコンサートが相応しい」とされるスモール・オーケストラ、ペペ・トルメント・アスカラールは、菊地成孔のもうひとつのレギュラー・グループ、ダブ・セクステットとシンメトリー的に比されることはしばしばだが、「60年代マイルス・クインテット」を標榜したハード・バップ・オリエンテッドなダブ・セクステットが織り成す世界との共通項をあえて挙げるとするならば、それは、ダンスフロアにおける立ち位置(役割)に固執しているという部分ではないだろうか。特に、メンバーをほぼ若手に刷新した第二期ペペ以降は、社交界然としたエレガントな装いを残しつつ、いかにダンスフロアの中枢に(精神的・感覚的に)辿り着かせるか、というのが至上命題になっているような気にもさせられてしまう。
前作『記憶喪失学』では、”映画音楽に呪われた非映画音楽”をテーマに、ポピュラー・ミュージックに潜む映画音楽・BGMの効用性を捉え、瞬間的にそれらを抽出しては、また母体に還す。そんな、アンサンブルを礎にした驚異のミニマル・コラージュをスパイスに、ポリリズミックなラテン・ストラットを出し入れし、とても「芳しきラテン・ラウンジの・・・」などと、ワイングラス片手に呑気に構えてはいられない状況を作り出していた。(ご本人のブログによりますと、フロア対応リマスタリングを施した12インチEPを近々カットするとのこと。)
”踊る”、”踊らない”、二極化されるダンスフロアの構造に追い討ちをかけるかのように、このどちらかを選択せざるを得ない巧妙なトラップを張り巡らせ、新作『New York Hell Sonic Ballet』は、適度に経験を積んだ、自覚あるアッパーユース(「オトナ文化とコドモ文化の境界」という意味の菊地氏による造語)層の思考回路に襲いかかる。モントゥーノ(サルサ楽曲におけるコーラスと楽器の掛け合い部、または、その部分をサポートするピアノのバッキング・パターン)、ミニマル、ソプラノ歌手林正子を起用したオペラ、マース・カニングハムの現代舞踊、ピナ・バウシュのタンゴが無条件に介される中、マサカー(フレッド・フリス×ビル・ラズウェル)、「No New York」(ブライアン・イーノ)、そして、マイケル・ジャクソンの亡霊が無数に飛び交う。ある世代にとってはもはや”宗教”のような存在とも言える80年代初頭の絶対的なニューヨーク・イコンを祀り上げながらも、あくまでエレガントに官能的に抑制の効いたシーンを流暢に並べ、「イキそうでイケない」聴き手のダンス衝動を逆説的に煽りまくる。踊るべきか? 踊らざるべきか?
が、一見して、”踊るため”の露骨なアメとムチにも似た、常套手段のセットリストとも捉えられそうな一方で、締め付けなく”まったく踊らない”ことをも容認するであろう筈の、そんなペペの二面性と許容能力(?)にアッパーユースたちは安堵の表情を見せる。それも束の間、引きずりこもうとする先のダンスフロアの中枢が、この度「ニューヨークの、地獄の音響空間」というのだから、さらに話はややこしいまでにエスプリが効いている・・・というか、これ見よがしのドレスコード概念に侵され、正装を余儀なくされた男女が、”踊る”か”踊らない”かの決断を、断末魔の現場で早急に迫られている。その様を傍観し不敵な笑みを浮かべているかのような、かすかにきな臭い悪戯心を窺いとってしまう。乱暴な言い方で纏めるとするならば、冒頭の「Killing Time」(マサカー)に騙されてはいけない、としたい。んぁ、踊れる!と意気込むも、瞬く間に踏まれる二の足。はたして、僕らは、オペラやバレエでタコ踊りする術を身に着けていただろうか?
躍動するラテン・パーカッションのルーティーンとは別に、ダンスフロアとペペをつなぐ最重要ユニット材料があるとすれば、それはおそらく、”踊る”、”踊らない”を聴き手の判断に完全に委ねる、ある種ニュートラルに存在する古典(クラシックな)ガジェットの引用なのでは、と考えてみたりもする。さも大上段に構えられた「ダンス・ミュージック」の怨念(バイアス)に支配され、どうにもうまく身動きの取れなくなった連中を、見かねた守護霊がその鎖をほどいてやる、といったような光景がなかなか微笑ましくあるように。もちろん、古典引用によるダンスの解放という点では、ペペのみならずダブ・セクステット、『南米のエリザベス・テーラー』をはじめ菊地成孔諸作品に於いて、どれにも大概当てはまると言えるのだが、ペペの、特に今回の『New York Hell Sonic Ballet』のそれに至っては、どこかデフォルメのされ方が半端なく、ふてぶてしいような気さえもする(これら古典のデフォルメ感やブースト感が、俗に言われる「クラブ・ジャズ」と、菊地成孔作品との決定的な違いと思うのだけれど...どうでしょう? エラそうにすいません...)。さらには、菊地による2曲のヴォーカルトラック(ロジャース/ハート「時さえ忘れて」、『大停電の夜に』スコアからのセルフ・リメイク「暗くなるまで待って」)も収録と。
長々と書いてきたものの、結局、ペペで”踊る”ということは、はたしてどういうことなのか? 必要なのは、作り手の融合力に応えるべき、受け手の決断力? さて、どうなんだろう? 高尚な音楽知識やセンスなどいらないにしろ、頭をカラッポにして踊るというところとは異なる地点で、”踊る”、あるいは、”踊らない”ということを許されているような、そんなMっ気たっぷりの気分にさせられてしまうのは、これまたなぜだろう?
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菊地成孔 ライヴ・スケジュール
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
2009年11月16日(月)
名古屋ブルーノート
1st 開場17:30/開演18:30
2nd 開場20:30/開演21:15
料金:6,800円/グルメプラン 8,600円
問:名古屋ブルーノート tel.052-961-6311
菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
2009年11月17日(火)
京都 KBSホール
1st 開場18:30/開演19:30
*開場と共にDJ有
料金:前売 4,000円/当日 5,000円(4,500円 w/flyer)
※スタンディング(整理番号付)/消費税込み ※未就学児童入場不可
問:京都音協 tel.075-211-0261
菊地成孔コンサート 2009
第一夜「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」
2009年12月4日(金)
Bunkamuraオーチャードホール
開演19:00
料金:全席指定 6,500円
問:Bunkamuraチケットセンター tel.03-3477-9999
菊地成孔コンサート 2009
第二夜「「菊地成孔 ダブ・セクステット」
special guest:UA
2009年12月5日(土)
Bunkamuraオーチャードホール
開演19:00
料金:全席指定 6,500円
問:Bunkamuraチケットセンター tel.03-3477-9999
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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