カーボヴェルデの歌姫マイラ・アンドラーデ

2009年12月9日 (水)

photo by Joao Wainer

西アフリカの島国、カーボヴェルデの歌姫マイラ・アンドラーデ。
日本でも注目されたデビュー作『ナヴェガ～航海』から2年半ぶりとなる
待望のセカンド・アルバム！

大西洋・西アフリカ沖の島国カーボヴェルデ。大歌手セザリア・エヴォラを生んだこの国は、美しい自然とともに音楽や舞踏などゆたかな文化が今もなお息づく地としてワールド・ミュージック・ファンにはよく知られている。

そのカーボヴェルデの新世代についてここ日本で紹介されることは多くないのだが、マイラ・アンドラーデの存在はご存じの方も多いかもしれない。
マイラ・アンドラーデのデビューは2006年の『ナヴェガ～航海』。カーボヴェルデの音楽を根底に、大西洋を挟んだブラジルのリズムも取り入れ圧倒的な歌の力で魅せたこの作品は、日本のブラジル・ファンの間でも話題となりスマッシュヒットを記録した。

それから約2年半ぶりに届いた新作、タイトルは『ストーリア、ストーリア　Storia, Storia...』。
本作はマイラの故郷カーボヴェルデの伝統音楽に深く根差すのと同じくらいに、多彩な土地の音楽を濃く盛り込んでいる。アフリカ大陸、ブラジル北東部やリオ、はたまたキューバン・ルーツ・・・

クレジットを見ただけでも鼓動が高まるような錚々たるメンバーのバックアップもあり、カーボヴェルデ独特のリズムや旋律・ハスキーで郷愁にあふれたヴォーカルはそのままに、よりブラジル音楽やキューバ音楽との密接な繋がりが反映されている。
まずプロデュースを受けたのは現在ブラジルで引く手あまたの超売れっ子アレ・シケイラ。マリーザ・モンチ、カエターノ・ヴェローゾ、トン・ゼー、アルナルド・アントゥネス、アナ・カロリーナらの近作、国外ではキューバのジューサやガリシアのガイタ奏者カルロス・ヌニェスの最新作も手掛けた人物。
さらにストリングス・アレンジにはこちらもカエターノ周辺から名手ジャキス・モレレンバウン。ブラジル重要作品には欠かせないピアニストアンドレ・メーマリ、そしておなじみの魔術師マルコス・スザーノ。
キューバからは、ジャイルス・ピーターソンの“Havana Cultura”も記憶に新しいピアニストロベルト・フォンセカ、トレス奏者のパンチョ・アマット。
この他にも故国カーボヴェルデやアフリカ大陸のミュージシャン、ブラジル北東部やリオのパーカッショニストらが参加。

本作において「リズムやパーカッションに重要な役割を果たしてもらいたかった」とはマイラ本人の弁。
打楽器はもちろん、コラの音色や洗練されたピアノタッチ、ジャキスが指揮をとる効果的な管弦はきらめくようなリズムを生み出し、ただいきいきとそこに息づいている。超絶技巧ばかりにフォーカスすることなく、さりげなくそしてダイレクトに心身に共鳴するリズムの心地よさ。マイラとアレ・シケイラを中心とした信頼関係がいとも自然に実らせた、音楽の果実である。

日々のことや生きること、そして愛について。マイラは伸びやかな歌声で聴かせてくれる。
カーボヴェルデの女性たちが置かれた苦境、ベルリンの壁の崩壊、そして市井の人々の不確実な未来を一息で表現した「Juána」。マイラ自身の内面を掘り下げた「Konsiénsa」。歌詞はフランス語の1曲を除いて、全てポルトガル語が変形したクレオールであり、その独特の響きも楽しめる。

マイラ・アンドラーデ独占インタビュー掲載中！

『ストーリア、ストーリア』レコーディング風景や自身のアイデンティティなどについて、ここでしか聴くことのできない貴重なお話をたっぷりと。

インタビューページへの入り口はこちら ▲

レコーディング・ドキュメンタリー動画が到着！！必見。

details

Mayra Andrade / Storia, Storia...
マイラ・アンドラーデ / ストーリア、ストーリア

2009年12月16日発売
日本盤
P-VINE RECORDS / PCD-18607
￥2,500 （tax in）

01.　Stória, stória...

02.　Tchápu na bandera

03.　Seu

04.　Juána

05.　Konsiénsa

06.　Odjus fitchádu

07.　Nha Damáxa

08.　Mon carrousel

09.　Badiu si...

10.　Morena, menina linda

11.　Palavra

12.　Turbulénsa

13.　Lembránsa

マイラ・アンドラーデはこんな人

マイラ・アンドラーデ　Mayra Andrade (1985-)
1985年キューバ生まれ。
カーボヴェルデで育ち、90年代にはセネガル、アンゴラ、ドイツなどを転々とした後に、様々な文化が混在するコスモポリタンの街パリに移り住む。幼少の頃から、カーボヴェルデの音楽に親しむかたわら、カエターノ・ヴェローゾ、エリス・レジーナ、マリア・ベターニアといったブラジルのアーティストも好んで聴くようになる。
独学でギターと作曲を学び、2006年にデビュー・アルバム『ナヴェガ～航海』を発表。セザリア・エヴォラ以来の輝かしい才能として一躍脚光を浴びる。

Mayra Andrade Official Site (France)

Mayra Andrade on Myspace

photo by Joao Wainer

【関連小特集】　カーボヴェルデの音楽をもう少し知る

カーボヴェルデ（Cabo Verde / 英語表記はCape Verde / 「ヴェルデ岬」の意）は大西洋に位置する18の島からなる共和国。

地図をご覧いただくとわかるようにアフリカ・セネガル沖約400kmという立地。さらに大西洋を挟んでブラジル、またイベリア半島・ポルトガルにも近い。古くは15世紀の大航海時代に、大西洋をめぐる植民地貿易の中継点として栄えていたことから、カーボヴェルデの文化はアフリカ、ブラジル、ポルトガルのそれと混合しながら育まれてきた。

音楽もまた例外ではなく、カーボヴェルデの伝統音楽にはファドの哀愁やラテンの熱情、アフリカの土臭さといったものに似たフィーリングを感じることが少なくない。
代表的なものとしては哀愁を帯びたメロディとゆったりした曲調が特徴の［モルナ］、メレンゲのようなダンス音楽［フナナー］、ほかに［コラデーラ］［バツーキ］などがあり、大歌手セザリア・エヴォラの歌唱が有名。
セザリアは1988年にリリースした『裸足の歌姫』（現在廃盤）収録の「Sodade」（ベストアルバム他に収録）がフランスで大ヒット、その後はカエターノ・ヴェローゾ、アート・リンゼイら海外のビッグネームと次々共演。一躍その名が世界的に知られるようになった。カーボヴェルデの伝統音楽が広く聴かれるようになったのもおそらく彼女がきっかけであり、その功績は大きい。

また島にルーツを持つ若手世代、たとえば上記マイラ・アンドラーデの『ストーリア、ストーリア』にもたびたびこれらの伝統音楽が登場する。
母国のルーツにしっかり根差しながら、ブラジルやポルトガル、さらに遠くの国の音楽とも柔軟に交錯――。
史実としてだけではなく現在もなお、マイラを含む“カーボヴェルデ新世代”たちが環大西洋的“混血”を深めている。

カーボヴェルデと縁の深いアーティストたち

Cesaria Evora / セザリア・エヴォラ
カーボヴェルデが生んだ世界的歌手。伝統音楽を初めて世界に紹介。欧州では数十万枚の売上げを誇り、またカエターノ・ヴェローゾやチューチョ・ヴァルデス、アート・リンゼイ他多くの世界的スターと共演。グラミー賞ノミネートの常連でもあり、2003年の『Voz D'Amor』ではグラミーを獲得。特集はこちら。最新作は『Nha Sentimento』（2009）。

Sara Tavares / サラ・タヴァレス
カーボヴェルデ出身の両親をもつポルトガルのSSW。ファドにソウル、ゴスペル、ヒップホップ、ファンク、ボサノヴァ、さらにアフリカやキューバのリズムまで柔軟に取り入れ、また落ち着いた深みのある歌声も魅力。2006年には渡辺貞夫氏の企画で来日・共演も果たしている。2009年の新作『Xinti』も名盤。特集はこちら。

Tcheka / チェカ
音楽家の父の影響で幼少時より音楽に親しむ。バネの効いた抜群のリズム感でパーカッシヴにギターを弾き、時につぶやき、時に熱く叫びながら、島の生活についてクレオール語で歌う。その絶大なエネルギ－とエキサイティングなパフォ－マンスは欧州各国で大絶賛を浴びた。最新作『Lonji』（2008）はレニーニがプロデュース。

Lura / ルーラ
75年ポルトガル・リスボン生まれ。両親がカーボヴェルデ出身。96年のコンピ『RED HOT LISBOA』に1曲参加。母国の伝統にも敬意を表しつつ、R&B、ズーク、アフロをミックスしたダンサブルなスタイルでカ－ボヴェルデやリスボンの若者たちの圧倒的な支持を得ている。最新作は『Eclipse』（2009）。

松田美緒 / まつだ・みお
秋田生まれ。2003年よりリスボン、翌年は大西洋を渡りブラジル、さらにカーボヴェルデにも歌手として滞在。2005年にポルトガル～ブラジル～カーボヴェルデをつなぐ大西洋の歌を綴った『アトランティカ』でデビュー。ウーゴ・ファットルーソ&ヤヒロトモヒロと組んだ最新作『クレオールの花』（2010年発売）は真摯な歌心とラテンのリズムが結実した傑作！