橋本徹 『音楽のある風景』対談
2009年6月23日 (火)
アプレミディ・レコーズ『音楽のある風景』の第一弾“春から夏へ”はもうお聴きになりましたか?その名の通り音楽を聴き、ライナーを読み、ジャケットを眺めることによりイマジネイションが広がり、素晴らしい音楽の世界へ扉を開けてくれるコンピレイションです。そして何より実際に手にとって、リスナーがそれぞれの聴き方で永く楽しむことができる内容でもあります。今回は『音楽のある風景』の第二弾“夏から秋へ”の発売を記念して、先日リニューアル・オープンをしたばかりの渋谷・公園通りのカフェ・アプレミディにて選曲・監修をされた橋本徹氏と、『音楽のある風景』のシリーズおよびサバービア〜アプレミディのライナーの執筆を手掛ける音楽文筆家の吉本宏氏、そしてアプレミディ・レコーズ担当ディレクターの稲葉昌太氏を交えて興味深いお話を聞くことができました。
「やっぱり空間と音楽の幸福な調和をめざしているから」
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吉本:きれいなブルーだね。
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橋本:『音楽のある風景』のCDのジャケットのイメージ・カラーは、日本の伝統色にこだわって選んでいるんだよね。前回は“萌黄”で、今回は“露草”で。
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吉本:前回のインタビューで話していた、ブラジルのエレンコ・レコードの“所有する価値のあるもの”ということが、“萌黄”と“露草”のジャケットを2枚並べることによって、より実感できる。
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橋本:『音楽のある風景』のシリーズを最終的に4枚全部揃えたいと思ってもらえたらうれしいね。音楽やジャケットも含めて、長い目で見て、あのときの4枚はとてもよかったと思ってもらえるようにしたいと思うよ。
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吉本:今回のシリーズは、今までのカフェ・アプレミディ・シリーズのCDを今の時代に捉えなおしたという感じがあって、部屋やお店で通してかけていると気持ちいいし、音楽から情景が浮かぶような曲がたくさん選曲されているね。
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橋本:2001年に「usen for Café Après-midi」チャンネルが始まって、選曲家のみんなが、それこそDJがレコードをディグするような感覚で、今の新譜の中から自分たちのテイストにフィットする曲を見つけて、ここに収録したような音源が次々と発掘されたという感じはあるよ。
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吉本:2000年以降の新譜の中にも、カフェ・アプレミディ的なテイストのいい曲がたくさんあるし、このあたりの音の魅力は、単に4ビート的なものだけではなく、ブラジリアン・リズムだったり、ソウルっぽいメロウなグルーヴだったり、自分たちが好きな色々な音楽のエッセンスがたくさん詰まっているところなんだよね。
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橋本:今回は『音楽のある風景』の第二弾“夏から秋へ”ということで、夏に聴いて心地よい爽やかさと夏の終わりの切なさ、それから秋の気配を感じさせるような選曲を心がけたよ。1曲目のアメリカの「Ventura Highway」のカヴァーから8曲目のロマン・アンドレンの「Bumblebee」までの流れは、夏を迎えたときのうれしさが出せたらいいなと思ったし、ラストの3曲「So Tired Of Waiting」から「Moonlight In Vermont」への流れは、過ぎ行く季節を惜しむ感じを出せたらと思った。
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稲葉(制作担当ディレクター):前回の作品は季節の“芽吹き”を感じましたし、今回の作品は“避暑地”のようなイメージを感じました。
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吉本:「Aqui O」、「Be My Love」から「Summer Soft」、「Sailing」の清々しい流れも気持ちいいね。
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橋本:今回はミナス・サウンドということもすごく意識していて、2曲目のヘナート・モタ&パトリシア・ロバートや、13曲目のトニーニョ・オルタのカヴァーや14曲目のトム・レリス&トニーニョ・オルタがそうだね。ミナス・サウンドの輝きが増していったのがこの10年だと思っていて、スピリチュアル・ジャズやジョー・クラウゼルなんかのオーガニックなハウスなどもそうなんだけど、好きなものにはすべてミナス・サウンドと同じ香りがするんだ。それは、ヌジャベスやハイドアウトの音を聴いていても感じることだし。
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吉本:ミナス・サウンドからは、ミナスジェライスの大地や青空といったおおらかな自然の風景を連想するし、風景が思い浮かぶ音楽というのは、まさにサバービアが紹介してきた音楽に共通する雰囲気だよね。「Ventura Highway」のイントロのフリューゲルホーンがたなびく音からは、穏やかな海面を静かに舟が進むイメージを感じる。
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橋本:スティーヴィー・ワンダーの「Bird Of Beauty」のカヴァーの間奏の前にホイッスルが聞こえて、透明感あふれるピアノが入る感じは、『マイルス・アヘッド』のジャケットのようなひんやりとした爽快感があるね。
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吉本:イメージをかきたてられるといえば、前作にも言えることなんだけど、一曲目が叙情的に静かに始まる感じが新しいと思ったよ。最近の一般的なコンピレイションはどちらかというと、一曲目にわかりやすいキラー・チューンをもってくるということが多いと思うんだけど、このCDはどこか序章を感じさせる雰囲気がとてもいいし、静かな導入だからこそ次に入るギターの音色がとても印象的に際立つと思うんだ。
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橋本:ゆっくりと動き出す感じだね。「Ventura Highway」の印象的なギターのフレーズや、前回のジャジナリア・カルテットの「Pippo Non Lo Sa」のリズムが入ってくる瞬間に心が動く感じを表現できたらなと思っているんだよ。
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吉本:イントロの一瞬で曲を判断する人もいると思うんだけど、逆に静かなイントロからはっとさせられる音によって曲のよさがわかる瞬間っていうのもあって、そうやって自分の感覚が無意識に反応して、そのよさにふと気づくと、自然にその曲を好きになれて、長く飽きることがないと思うんだ。
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稲葉:お客さんの感覚が能動的になることを、橋本さんの選曲は願っているって感じがして、そういう曲はストア・プレイしていると、「これは誰ですか」ってたずねられることが多いと思うんですよ。
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橋本:そうだね、試聴機にいれてもらえることもとてもうれしいけれど、ストア・プレイで流しておいてもらうと、本当にはっとさせられる瞬間というのがたくさんあると思うんだよね。やっぱり空間と音楽の幸福な調和をめざしているから。CDショップだけでなく、カフェやレストランや雑貨屋さんでも同じだと思うけど。
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山本(HMV商品本部ジャズ担当バイヤー):HMVの店舗でも、中型のお店になるとジャズ専用の売場というのがなくて、クラシックやワールドの売場がすべて複合しているので、そういう店舗でかけると、クラシックやワールドを聴いている人から問い合わせがあったりするんですよ。
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橋本:そういう音楽との出会いはとてもうれしいね。
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一同:そうですね。
橋本徹 (SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは190枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。