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小西康陽「和モノ」について -後編A

Friday, June 13th 2008



-先ほどお見せ頂いた「囁きのジョー」のような、所謂「和製ヌーヴェルヴァーグ」と巷で呼ばれているようなもののスコアで、小西さんのフェイヴァリットなどは?

「日活で、鈴木清順がクビになった原因の映画『殺しの烙印』ってあるじゃないですか。この中で大和屋竺が歌っている「殺しのブルース」が好きですね。」

-『殺しの烙印』は、昨年ぐらいにCD化されましたね。

「えっ!?されたんですか?本当に?CDで?それ欲しいな。じゃあ、もう今や出ていないものはないんですね。」

「今日ちょっと見つからなくて、持ってきてないんですけど、「囁きのジョー」と同じ和モノ・ディーラーから買ったレコードで、外国映画のサントラの演奏を日本人が演っているっていうのがあって。作曲は、三沢郷が手掛けていて、ちょっとイタリアンなボッサだったんですけど。それもすごく高かったんだけれど、よかったんですよ。70年のコロムビアでしたね。」


殺しの烙印
>『殺しの烙印』

監督・鈴木清順、宍戸錠・主演。67年日活。タランティーノも強い影響を受けた日本ヌ
ーヴェルバーグ最高峰。特異な映像スタイルに、渋味かつスタイリッシュなジャズが際
立たせた音楽と映像の見事な激突。これぞハードボイルド・ジャズ・サントラ。「日本一
ダラしない」名唱として知られる主題歌「殺しのブルース」は、大和屋竺によるもの。




デビルマン -テレビ・オリジナルBGMコレクション
>『デビルマン -テレビ・オリジナルBGMコレクション』

コーラス・グループ=フォー・コインズの解散後は作曲家に転向し、主にテレビ・ドラマ、
アニメーションの主題歌や劇伴音楽の作品を手掛けた三沢郷。昭和47年、アニメ界に
衝撃を与えた問題作「デビルマン」の三沢郷による豊饒な音楽集。放映から10年後に
誕生したBGMアルバムを、原盤LPレコードと同内容で復刻。





「このバエーナっていう人が歌っている「ゴーゴー・メキシコ/サボテン娘」は、日本語なんですよ。バックも多分日本人。これは最高ですよ。ジャズではないんですが、ラテンというか、バイオン(ブラジルのサンバと双璧を成すリズミックな音楽)ですね。」

「長谷川きよしさんの「透明なひとときを」は、僕にとってのクラブ・アンセム!デビュー・シングルの「別れのサンバ」って100万枚売れたらしいんですけど、第2弾のこれは、5000枚だったんですって。やっぱ、いい曲って売れないんだ・・・って(笑)。」


※4月にリリースされた、小西康陽さんプロデュースのオムニバス盤『うたとギター。ピアノ。ことば。』には、長谷川きよし最新録音曲「僕のピアノのそばにおいで」(平岡精二・作詞/作曲)が収録されています。 こちらも是非聴いてみて下さい。


「最近買ったものの中で特によかったのは、今回紹介したものになりますね。とりあえずレコード・バッグにも入っていたんで。」


長谷川きよし / ベスト
>長谷川きよし 『ベスト』

69年に「別れのサンバ」でデビュー。日本でも早くから、シャンソン、ボサノヴァ、サンバ
などを取り入れ、スペイン、モロッコ、ギリシャといった世界各地でレコーディングを敢行
し、所謂ワールド・ミュージック的テクスチャをポップス/フォーク・フィールドに練り込み
独自の世界を描き続けている盲目のシンガー・ソングライター、長谷川きよし。そのベスト盤。



長谷川きよし / Sunday Samba Session
>長谷川きよし 『Sunday Samba Session』

ボサノヴァよりもサンバを愛したという長谷川きよしの、76年12月下北沢ロフトで行なっ
た、佐藤正美率いるサンバ・カリオカとのジョイント・ライブ盤。サンバにとどまらず、マル
シャ、ショーロ、そしてもちろんボサノヴァと、幅広くブラジル音楽を披露。このセッション
で、日本のサンバの歴史が始まったともいわれる名盤。本ジャケは、後発プレス盤のも
のを採用。






-最後になるのですが、小西さんにとっての、こうした「和モノ」の魅力をお聞かせ下さい。

「レコードの文化があった国は、どこにもいいスタジオ・ミュージシャンがいて、いいレコードがあったんですよね。もちろん、20世紀の音楽はアメリカが牽引してたわけですけど。でも、そのイギリス版、イタリア版、フランス版、ブラジル版といったように、どこの国にもあって、日本にも同じように素晴らしいミュージシャンやアレンジャーがいたんですよね。そういう世界中の音楽を聴いた上であらためて聴くと、すごい立体的に、その音楽の素晴らしさが判るんじゃないかなって、いつも思っているんですよ。それは、当たり前だと思いますけどね。」

小西康陽×Latin Barock Collection

-それこそ、最初聴いて良さがわからなくても、広がりの中で、その良さがわかってくるという感じですよね。

「そうそう。だから、例えば、このジュヌ・エトワールが、イタリアでいうとI Cantori Moderni(イ・カントーリ・モデルニ)になるなぁ、とかさ。そういう聴き方ができると面白いんじゃないかなって思うんですよ。沢田駿吾さんだったら、Barney Kesselにあたるのかなぁ、とかね。」

「どこの国でも、同時代的にそういったスタジオ・ミュージシャンやアレンジャーが現れたというところが、面白いところですよね。」


「Francis Laiの『白い恋人たち』のレコード聴いてた時なんですけど、すごい好きな曲のバック・コーラスをよく聴いてると、The Jumping Jacquesと同じ人達が歌ってるんですよ。声聴いてると、低音、ソプラノと、完全に同じなんだよね。もう一発でわかるぐらい。多分、フランスで一番のスタジオ・ミュージシャンのコーラス隊の人達がやってて、たまたま、ジャック・ヘンドリックス(グループのリーダー)のときは「The Jumping Jacques」っていう名前にしてただけだと思うんですけどね。そういう風に、例えば、日本だとスキャット・コーラスがみんな伊集(加代子)さんが演ってるみたいなのってあるでしょ?そんな感じで、この頃のミュージシャンって、匿名だったりしても分かっちゃう何かってあるんですよね。」

「岡崎(広志)さんとかって、クレジットされてるものもたくさんあるけど、名前出していないレコードは、もっとあるんだろうなとかって思うんですよね。」

-この頃のスタジオ・ミュージシャンは、わりとその人物像に迫れないというところもありますよね。資料写真みたいなものがあまり残っていない部分もあるでしょうし。

「逆に言うと、音楽=アーティストみたいなのって、ロック以降の聴き方だったりするから。やっぱり、昔は、インタビューなんかを受けたりしない人達のほうが、レコードを作ってたわけで。そういう時代の人達って、本人たち自身も「そんなにオレたちに訊かないでよ」って感じだったと思うんですけどね。音楽さえ聴いてくれればいいから、みたいなね。もっと言ったら、多分すごいやっつけで譜面見ながら、終わったらもうその音楽のことは忘れちゃうみたいな(笑)。そういう人達が素晴らしい演奏をしていたんだと思いますけどね。」

-そういったプレーヤーの職人気質な部分も魅力ではありますよね。

「そうなんですよ。以前1度、伊集加代子さんと一緒にご飯を食べたことがあるんですよ。フツーの渋谷の中華料理屋で。そこで、有線がかかってて、そうしたら、伊集さんが「あ、コレも私がやった、コレも私がやった」って、ずーっと言ってたんですよ(笑)。伊集さんとは、80年代によくお仕事一緒にしていたんですよ、ピチカート・ファイヴで。」

「とにかく、今回のこの「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年」に興味を持った人は、これをきっかけにもっと色んな音楽を聴いてくれればいいなぁって思いますね。」

-今日はありがとうございました。

「ありがとうございました。」


【取材協力:Readymade Entertainment / Columbia Music Entertainment】


I Cantori Moderni di Allessandroni / Modern Singers(Soundtrack)
>I Cantori Moderni di Allessandroni 『Modern Singers』

「荒野の用心棒」の主題曲「さすらいの口笛」などで知られるアレッサンドロ・アレッサン
ドローニ率いる男女混合コーラス・グループ=イ・カントーリ・モデルニ。数々のイタリア
映画サントラに参加し、多くの伊ラウンジ系スコア・ファンをその絶妙なコーラス・ワーク
で魅了。「西部決闘史」、「夕陽のギャングたち」、「アリバイ」といったスコアから全27曲。




Jumping Jacques / Avalon
>The Jumping Jacques 『Avalon』

どこまでもハッピーでお洒落な男女混声スキャットがグルーヴィーに転がる、ジャック・ヘ
ンドリックス率いるコーラス・グループ=ジャンピン・ジャックスの68年作品。ラウンジ・フ
ァンからフレンチ・ポップ・ファン、さらにはモッズ・ファンまで幅広く楽しめることうけあいの
フレンチ・レアグルーヴ決定盤。




岡崎広志とスターゲイザーズ / イージーリスニングの貴族達
>岡崎広志とスターゲイザーズ 『イージーリスニングの貴族達』

名ヴォーカリスト、サックス・プレイヤーである岡崎広志が結成した伝説のシンギング&
プレイング・グループの名盤。洒落たハーモニー、軽快なスキャットがジョビンやビートル
ズ曲によく映える。伊集加代子もゲスト参加。同発「イージーリスニングの世界」や、彼が
率いた幻のジャズ・コーラス・グループ=フォーシンガーズも是非。




伊集加代子 / Living Scat Elegance
>伊集加代子 『Living Scat Elegance』

「11PM」、「ネスカフェ・ゴールドブレンド」TVCM、「ハイジ」などの歌声でお茶の間では
知られる、スキャットの女王、伊集加代子のソロ作『サバの女王・スキャット・エレガンス』
と『スキャット・エレガンス/愛のスクリーン・テーマ・デラックス』、2枚のLPをカップリング
した豪華盤。山屋清のアレンジ、佐藤允彦、大野雄二、沢田駿吾ら「匠の技」もキラリ。




Pizzicato Five / Bellissima
>Pizzicato Five 『Bellissima』

ニュー・ソウルをモチーフに田島貴男の若々しい魅力を甘美なまでに引き出した、プロデ
ューサー、小西康陽のシャープな個性が光る88年作品。メロウ・グルーヴァー「惑星」で、スキャットの女王、伊集加代子のスキャットを堪能できる。






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     小西康陽 「Talkin' about JAPANESE GROOVE」前編はこちら

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