-最後になるのですが、小西さんにとっての、こうした「和モノ」の魅力をお聞かせ下さい。
「レコードの文化があった国は、どこにもいいスタジオ・ミュージシャンがいて、いいレコードがあったんですよね。もちろん、20世紀の音楽はアメリカが牽引してたわけですけど。でも、そのイギリス版、イタリア版、フランス版、ブラジル版といったように、どこの国にもあって、日本にも同じように素晴らしいミュージシャンやアレンジャーがいたんですよね。そういう世界中の音楽を聴いた上であらためて聴くと、すごい立体的に、その音楽の素晴らしさが判るんじゃないかなって、いつも思っているんですよ。それは、当たり前だと思いますけどね。」
-それこそ、最初聴いて良さがわからなくても、広がりの中で、その良さがわかってくるという感じですよね。
「そうそう。だから、例えば、このジュヌ・エトワールが、イタリアでいうとI Cantori Moderni(イ・カントーリ・モデルニ)になるなぁ、とかさ。そういう聴き方ができると面白いんじゃないかなって思うんですよ。沢田駿吾さんだったら、Barney Kesselにあたるのかなぁ、とかね。」
「どこの国でも、同時代的にそういったスタジオ・ミュージシャンやアレンジャーが現れたというところが、面白いところですよね。」
「Francis Laiの『白い恋人たち』のレコード聴いてた時なんですけど、すごい好きな曲のバック・コーラスをよく聴いてると、The Jumping Jacquesと同じ人達が歌ってるんですよ。声聴いてると、低音、ソプラノと、完全に同じなんだよね。もう一発でわかるぐらい。多分、フランスで一番のスタジオ・ミュージシャンのコーラス隊の人達がやってて、たまたま、ジャック・ヘンドリックス(グループのリーダー)のときは「The Jumping Jacques」っていう名前にしてただけだと思うんですけどね。そういう風に、例えば、日本だとスキャット・コーラスがみんな伊集(加代子)さんが演ってるみたいなのってあるでしょ?そんな感じで、この頃のミュージシャンって、匿名だったりしても分かっちゃう何かってあるんですよね。」
「岡崎(広志)さんとかって、クレジットされてるものもたくさんあるけど、名前出していないレコードは、もっとあるんだろうなとかって思うんですよね。」
-この頃のスタジオ・ミュージシャンは、わりとその人物像に迫れないというところもありますよね。資料写真みたいなものがあまり残っていない部分もあるでしょうし。
「逆に言うと、音楽=アーティストみたいなのって、ロック以降の聴き方だったりするから。やっぱり、昔は、インタビューなんかを受けたりしない人達のほうが、レコードを作ってたわけで。そういう時代の人達って、本人たち自身も「そんなにオレたちに訊かないでよ」って感じだったと思うんですけどね。音楽さえ聴いてくれればいいから、みたいなね。もっと言ったら、多分すごいやっつけで譜面見ながら、終わったらもうその音楽のことは忘れちゃうみたいな(笑)。そういう人達が素晴らしい演奏をしていたんだと思いますけどね。」
-そういったプレーヤーの職人気質な部分も魅力ではありますよね。
「そうなんですよ。以前1度、伊集加代子さんと一緒にご飯を食べたことがあるんですよ。フツーの渋谷の中華料理屋で。そこで、有線がかかってて、そうしたら、伊集さんが「あ、コレも私がやった、コレも私がやった」って、ずーっと言ってたんですよ(笑)。伊集さんとは、80年代によくお仕事一緒にしていたんですよ、ピチカート・ファイヴで。」
「とにかく、今回のこの「コロムビア*レディメイドのコロムビア100年」に興味を持った人は、これをきっかけにもっと色んな音楽を聴いてくれればいいなぁって思いますね。」
-今日はありがとうございました。
「ありがとうございました。」
【取材協力:Readymade Entertainment / Columbia Music Entertainment】