100人の偉大なアーティスト - No. 86
Friday, July 28th 2006
ジョージ・ルーカス監督の映画アメリカン・グラフィティには音楽ファンにとって印象的なシーンが数々あるが、その中でも特に印象深いシーンがある。主人公の男友達が女の娘をクルマに乗せて、カー・ラジオを聴いている。そこで「ニュー・グループ」のビーチ・ボーイズがかかり、女の娘は楽しそうに聴いているが、男の方は、何だこんなモノ、といった感じでラジオを消してしまうというものだ。曰く、ロックンロールはもう終わったんだとかなんとか…。この会話から読み取れるのは、生まれてから間もなく黄金期を迎えたロックンロールは、60年代初頭には衰退していたという実感である。キング、エルヴィス・プレスリーは兵役後、’60年にショービズ界に復帰しているが、この時点でもはや彼は反抗のヒーローといったアイコンではなくなっていたし、チャック・ベリーは道徳的な理由で刑務所送り、そして伝説のロックンロール・スター達を捲き込んだ悲劇の事故…リトル・リチャードは飛行機事故がもとで、’59年から約7年の沈黙、そして本稿の主役、バディ・ホリー達の悲劇。リッチー・ヴァレンスとビッグ・ボッパーとバディ・ホリーという当時人気のロックンローラー3人を乗せていたチャーター機が’59年2月3日墜落してしまうのだ。映画のキャラクターが言わんとすることは、彼らロックンロールのオリジネイター達の悲劇や変節によって当初ロックンロールが持っていた圧倒的なまでの熱が冷めてしまった、という事実だったに違いない。とにもかくにも当時バディ・ホリーらを乗せた飛行機の墜落というニュースは、当時の音楽ファンにとって衝撃だったようだ。ロックンロールの黎明期、そのサウンドではピアノやホーン、ブラスが大きな役割を果たしていた。これがドラスティックな変化を見せるのは’60年代にビートルズが現れてからのこと。彼らに刺激を受けた無数のロック・バンドが世界中で続々と登場して、その後大きく発展していく…ということにはそれほど説明は要らないだろう。そのビートルズは’50年代米国産ロックンロールやR&B、ポップス、に多大な影響を受けているが、その中でも大きな影響を与えたアーティストとして知られるのが、バディ・ホリーとクリケッツだ。彼らが広めたエレキギターを中心にしたバンド・スタイルはこのバディ・ホリーのバンドが原型だと言うのが定説になっている。昆虫の名前(コオロギとカブト虫)をグループにするというアイディアは彼らに影響を受けた証拠だと言われているし(当初バディらのバンド名の案としてBeetlesというのが挙がっていたというエピソードもある。ビートルズの場合は一文字変えてるが)、バディ・ホリーのレパートリー"ワーズ・オブ・ラヴ"を初期のアルバムでとりあげていることもその証左。そしてポール・マッカートニーに至っては、後年、バディ・ホリー好きが高じて、彼の楽曲の著作権を買い取ってしまうほどのファンなのだった。
バディ・ホリー(本名:チャールズ・ハーティン・ホリー)は1936年(38年説もあり)にテキサス州ラボックで生まれた。4歳の頃、両親の勧めでピアノとヴァイオリンを習い始める。また5歳の時には地元の素人タレント・ショーのような番組に出演し、歌を披露、5ドルの賞金を獲得したこともあった。7歳の頃、ヴァイオリンをやめてギターに持ち替える。ジミー・ロジャースやカーター・ファミリーなど、自宅にあったレコードを聴き、またナッシュヴィルから放送されていたカントリー・ミュージックのラジオ番組を聞いて、カントリー&ウェスタンが大好きになったという。
またその後、学生の頃には好きが高じて、地元のラジオ曲で自分の番組を持っていたとも伝えられている。ホリーはハイ・スクールで知り合った仲間、ボブ・モンゴメリーとラリー・ウェル・ボーンらと、カントリー系のウェスタン・バップ・バンド、「バディ&ボブ」を結成。1956年には先述の地元ラジオ局でDJを務めていたデイヴ・ストーンの口利きでデッカ・レコードと契約。ナッシュヴィルのスタジオで数回のレコーディング・セッションを行なった。尚、この当時のバンド・メンバーは不確定で、ホリーの地元人脈にセッション・プレイヤーが加わることもあったようだ。
デビュー・シングル"ブルー・デイズ・ブルー・ナイツ/ラヴ・ミー"を始め、この頃、リリースしたシングル曲は純然たるカントリー・サウンドといえた。ヒットにも恵まれることはなかった。ただし、この頃レコーディングされた"ザットル・ビー・ア・デイ"(後にロック色強い曲にリアレンジされヒット)、 "ロック・アラウンド・ウィズ・オリー・ヴィー" 、 "ティング・ア・リング"といった後に初期の代表曲と呼ばれることになる作品はこの頃書かれていたものであり、曲作りの面では早くも頭角を表わしていたといえる。
ヒットを生み出すことが出来なかったホリーは故郷のテキサス州ラボックへ戻った。その後彼は、バンドでドラムを担当していたジェリー・アリソンと二人で地元ラボック・ユース・センターで演奏をするようになる。ギター&ドラムという変則的な編成だったが、これが後のバディ・ホリーとバンドの独自のスタイルを生み出す要因となったと言われている。またホリーは、このセンターであのエルヴィス・プレスリーと共演する機会にも恵まれた。これを機にホリーはロックンロールに本格的に魅せられ、新たにバンドを結成。これがクリケッツだった。
1957年初頭、 "ザットル・ビー・ア・デイ"を再レコーディング。何度も何度も録り直した結果、完璧なロックンロール・バージョンが遂に完成した。当初、バディ・ホリーとクリケッツはこの曲を幾つかのレコード会社に聴かせるが、なかなかいい返事がもらえなかった。ところが皮肉な事にかつてホリーが契約していたデッカ・レコードの子会社であるブランズウィック/コーラル・レコードがこれに興味を示す。そして’57年5月シングル"ザットル・ビー・ア・デイ"リリース。初めはなかなかヒットに結びつかなかった同曲だったが、リリースして約3ヶ月後には全米チャート・ランク・インを果した。そして徐々にチャートを上昇し、最終的には全米ベストセラー・チャート1位、トップ100チャート3位という大ヒットを記録するまでになった。
ここからホリーの時代が始まった。ホリーはクリケッツとしてだけでなく、ソロとしてもレコーディングを行う。以降ソロとして、またバンドの一員として数々のヒットを放った。 "ペギー・スー" 、"オー・ボーイ"、"メイビー・ベイビー"、"レイヴ・オン"、"シンク・イット・オーヴァー"、"フールズ・パラダイス"、"アーリー・イン・ザ・モーニング"、"ハートビート"などなど…いずれも’57年から’58年にかけて全米チャートにランクインしたヒット曲だ。またアルバムのために書いた曲の中にも名曲は多い。のちにビートルズがカヴァーする"ワーズ・オブ・ラヴ"、ローリング・ストーンズがとりあげた"ノット・フェイド・アウェイ"などだ。この他、ブラインド・フェイス、トム・ラッシュ、リンダ・ロンシュタット、スキーター・ディヴィス、クリフ・リチャードなども、バディ・ホリーが残したアルバム曲をカヴァーしている。
名曲"ペギー・スー"などで聴かれるバディ・ホリーのちょっと青く甘い歌声と、カラっとした味わいを持つリズミックなサウンドはロックンロール黎明期の良き時代と共に、それが失われたがためのセンチメンタルな気分をいつまでも与えてくれる
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
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