【特別鼎談】カフェ・アプレミディのコンピCDシリーズ20周年を記念し...
350枚におよぶ数多くの人気コンピレイションを手がけてきた橋本徹(SUBURBIA)のディスコグラフィーの中でもフリー・ソウル・シリーズと並んで圧倒的な人気を誇り、スタイリッシュで心地よい洗練されたライフスタイル・ミュージックの代名詞として現在もなおBGMカルチャーなどに多大な影響を与え続けているカフェ・アプレミディ・...
HMV&BOOKS online-ロック|2020年05月29日 (金) 21:30
2021年12月24日 (金) 20:00
|HMV&BOOKS online - ジャズ
カフェを始めとするショップのBGMとして、USENの音楽放送チャンネルの中でも指折りの人気を誇る「usen for Cafe Apres-midi」の20周年を祝うスペシャル・コンピ企画が実現しました。「街の音楽を美しくしたい」という希いをこめて、橋本徹(SUBURBIA)さんを始めとする17人の選曲家が、とっておきの1曲をセレクトして、計17曲の現在進行形カフェ・アプレミディ・クラシックが贅沢に収録された一枚で、2016年の『Music City Lovers』以来、5年ぶりのアニヴァーサリーCDリリースとなります。
日常の風景に心地よく寄り添ってくれる、選び抜かれた珠玉の名曲たち。ポジティヴな気持ちと、親密な思いがこめられた、素晴らしい選曲です。アートワークやライナーも素敵で、ぜひ、多くの音楽ファンの皆さんに手に取っていただきたい作品です。今回は、そんな『音楽のある風景〜ソー・リマインディング・ミー』の発売を記念して、監修・選曲を手がけた橋本徹さんと、カフェ・アプレミディ・プロダクトの執筆もしながらチャンネル当初より選曲家として参加する吉本宏さん、アプレミディ・レコーズの担当ディレクターの稲葉昌太さんとの特別鼎談をお届けします!
山本勇樹
ジャズ、ボサノヴァ、メロウ・グルーヴ、フォーキー・ソウル、ソフト・ロック、シンガー・ソングライター、AOR、ラヴァーズ・ロックから、アーバン・メロウなクラブ・ミュージックやチルアウト/アンビエント、クラシック〜映画音楽まで、「街の音楽を美しくする」という希いをこめたオール・ジャンル・ミックスによる心地よい選曲で、季節の移ろいや一日の時間の流れにあわせた極上のグッド・ミュージックを届けてきた「usen for Cafe Apres-midi」。
その20周年を記念し、17人の選曲家がそれぞれの思いの詰まった「この1曲」をセレクト、計17曲もの現在進行形カフェ・アプレミディ・クラシックを贅沢に収録。マーヴィン・ゲイ〜キース・ジャレット〜リアン・ラ・ハヴァス〜Nujabesの珠玉のリメイクから絶品のオリジナル曲まで、タイムリーにしてタイムレスな輝きを放つ永遠の名作が80分近くにわたって連なる、音楽を愛するすべての人へ心をこめて贈りたい至上のコンピレイションです!
01. Lorelei / Roos Jonker & Dean Tippet
02. Woman Of The World / Emma Noble
03. Never Too Late / Natalie Prass
04. So Reminding Me / Agata Pisko & Werner Radzik
05. Saudade / Antonio Loureiro
06. Pacific Sketches / Naive Super
07. Unstoppable / Booboo'zzz All Stars feat. Celia Kameni
08. Misery Luv / Sulu And Excelsior
09. Strata / Remy Le Boeuf
10. What A Day / Kiefer
11. Love Streams / Night Beds
12. Lay It On Me / David F. Walker
13. Be So Kind / Rosie Frater-Taylor
14. L.A. / Bruno Pernadas
15. Oh I Miss Her So / Holy Hive feat. Mary Lattimore
16. Reflection Eternal / haruka nakamura
17. Know U / Scott Orr
山本勇樹(以下、山本):「usen for Cafe Apres-midi」が20周年を迎えましたね。まずは橋本さんに今の心境をお話いただければと思います。
橋本徹(以下、橋本):2001年の春に「usen for Cafe Apres-midi」のチャンネルがスタートして、続けていくうちにUSENの中でも指折りの人気チャンネルになり、たくさんの人に聴いていただき、たくさんの場所で流してもらえるようになって。そういったことが励みになって、自分が音楽を楽しむことや、自分の生活における「usen for Cafe Apres-midi」が占める割合というか、比重が増してきたということが、この20年を振り返ると強く感じますね。
スタート当初はカフェ・ブームの勢いもあったのか、今とくらべるといろいろなことをやっていたので、割とフットワーク軽く、時代や街のグルーヴに乗って思い切りよく始めたんだけど、音楽を好きな人間として、このチャンネルのありがたさや、人生のなかでの大切さというのがどんどん増していって。この20年間を振り返ると、リスナーの皆さんにも、一緒にやってきた仲間にも、感謝の思いが強く募りますね。特に今はコロナ禍で厳しい世の中なので、日々の選曲ができることにも、こうしてアニヴァーサリーを迎えられたことに対しても、そういう思いがさらに高まっていますね。
山本:吉本さんは、1999年のカフェ・アプレミディのオープンや、2000年のカフェ・アプレミディのコンピレイション・シリーズのスタートを近くで見て、2001年の「usen for Cafe Apres-midi」チャンネルも開始当初から選曲家として参加されてきたわけですが、今の思いはいかがですか?
吉本宏(以下、吉本):そうだね、2019年にカフェ・アプレミディが20周年を迎えたわけだけど、1999年当時、橋本くんがお店を始めると聞いて初めて行ったのが夜で、落ちついた雰囲気で大人たちが集い、素敵な音楽が流れていて、とてもいい空間だなと思ったのが印象に残っていて。次にお昼に行ったときかな、マイケル・フランクスのアルバム『Sleeping Gypsy』の「Down In Brazil」がかかっていたのが、本当に象徴的なシーンで。あの空間であの曲が流れているっていうのが僕にとって特別な体験だったし、それがやっぱり選曲の原点にもなっていて。アプレミディに最初に入ったときの印象っていうのが選曲のイメージの源泉である、というのはずっと変わらないかな。
そして翌2000年にはカフェ・アプレミディのコンピCDシリーズがスタートするんだけど、最初の打ち合わせで橋本くんが「老人のジャケットにする」っていう話をして。
橋本:幸せそうな老人と、フランスの伝統色の組み合わせね。
吉本:そう。ちょうどその日、老人が座って遠くを見つめているという印象的な写真を偶然見かけて、老人をキーワードにした不思議なシンクロから音楽のエッセイを書くムッシュ・エスプレッソが誕生したんだよね。お店のオープンからカフェ・アプレミディのコンピCDシリーズ、そして「usen for Cafe Apres-midi」のスタートまでが積み重なって、自分のなかでは場の雰囲気に合わせて“選曲する”という考え方が醸成されていったような感覚だな。
山本:このあたりのエピソードについては、カフェ・アプレミディ・シリーズ15周年の記念盤『Cafe Apres-midi Orange』がリリースされた際の特集ページに詳しく書かれています。
橋本:いろんなインスピレイションの源泉があって。カルトーラのコーヒーカップ&ソーサーのアルバム・ジャケットであったり、特にあの頃は吉本くんと会ったり電話で話したりするなかで、音楽だけじゃなく、ヴィジュアルとか空間とか、いろいろなものからインスピレイションをうけて、カフェ・アプレミディが提案するもののイメージが膨らんでいったな、という始めた当初の思い出があるね。
吉本:やっぱり今も変わらないのは、音楽そのものはもちろん大切なんだけど、音楽が流れている時間やシチュエイションを愛している、ということだと思うんだ。それは選曲にもつながっていくんだけど。
橋本:音楽のある風景、だよね。
吉本:勇樹くんが最初にアプレミディに行ったのはいつ?
山本:1999年のオープンした年ですね。お店に入ったら、マイルス・デイヴィスの『Miles Ahead』がかかっていて、A面が終わると、キャロル・キングの『Rhymes & Reasons』に変わって、そのジャンルをこえた自然な流れが心地よかったです。
橋本:その並びを聞いただけで、その頃のカフェ・アプレミディの雰囲気がよみがえるような気がするね。90年代にクラブ・シーンに浸かってたところから、ちょっと揺り戻したくつろいだ感じがフレッシュに感じられたんだよね。
吉本:結局、音楽と一緒に記憶しているじゃない? だから僕は選曲するときも、その曲を聴いてまたその時間を思い出せるような音楽を選びたいと思っているし、こうして音楽が思い出とともに循環しているような気がするんだよね。
橋本:そうだね。音楽を聴いて、それが記憶や思い出と結びついていくような、そういう体験が僕たちは好きで。そういうところで共感しあえる人間が集まって、それが「usen for Cafe Apres-midi」のセレクター仲間になって、ひとつの音楽放送チャンネルを作ってきたというところはあるかな。特に初期は、吉本くんが言ったような素敵なイメージがよみがえるんだけど。長い20年の間には、続けていくうちにいろいろなことがあったり、各セレクターそれぞれにもコンディションの浮き沈みなども当然あるなかで、僕が大きかったなと思っているのは、2009年にアプレミディ・レコーズというレーベルを始めたことなんだよね。
山本:ちょうど僕もHMV渋谷店から本社のバイイング部に異動したタイミングで、これはぜひ大きく展開したいなと。もちろん、サバービア〜カフェ・アプレミディのいちファンということもあったんですけど。
橋本:「usen for Cafe Apres-midi」で培ってきたものをコンピレイションCDでも表現できる場として、稲葉さんがディレクターとして手を挙げてくださって、アプレミディ・レコーズが生まれて、第1弾のリリースのときに、パブリシスト的な役割で山本くんが僕のインタヴューをやりたいと言ってくれて。その後もリリースのたびに対談をしたり全曲解説を手分けして書いたりして、自分が「usen for Cafe Apres-midi」を通して選曲で表現してきたようなものを、また違うかたちで残せるようになったことで、より自分のモティヴェイションが高まったという経験をしたのを覚えてて。2009年の春の稲葉さんと山本くんの登場というのは、アプレミディ・レコーズだけじゃなくて、僕らのやってきたことへの共感者であり、これから物事を成し遂げていくためのパートナーが増えたということで、「usen for Cafe Apres-midi」にとっても大きなことだったんだ。
山本:そのときのインタヴューでもお話したのですが、『音楽のある風景』シリーズが始まったときって、カフェ・アプレミディ・シリーズの立ち上げ時のテーマ、“午後のコーヒー的なシアワセ”のイメージにも近いものを感じました。
吉本:確かに、『音楽のある風景』シリーズのリリースは、「usen for Cafe Apres-midi」の在り方や選曲についての考え方を示すうえでとっても重要な出来事だったね。
橋本:最初の5年は勢いで「usen for Cafe Apres-midi」をやってたところもあるんだけど、5周年を迎えたときに、仲間たちと『音楽のある風景』という本を作って、皆が一度立ち止まって、選曲や「usen for Cafe Apres-midi」に対する思いを共有して形にしたことで、そこで絆の原点みたいなものができた印象があって。この『音楽のある風景』というタイトルを、アプレミディ・レコーズの最初のコンピCDシリーズのタイトルにも使ったのは、「usen for Cafe Apres-midi」の季節の移ろいや一日の時間の流れに合わせて選曲するっていうコンセプトを、コンピレイションCDでも表現したいと思ったからなんだよね。
吉本:この本が2006年7月25日発行なんだけど、番組を始めてからしばらくは試行錯誤していた部分もあって、たまにセレクターの皆で集まったりしてはいたんだけど、やっぱり5年の節目で、セレクターの思いを文章にして本にすることで、メンバー全員の選曲の方向性がはっきりしてきたよね。
橋本:離れていても気持ちがつながっている感覚が生まれたのを覚えているよ。
吉本:こうやって20年も「usen for Cafe Apres-midi」が続いた理由として、5年ごとの節目で本やコンピレイションCDを作ってきたことが大きいんじゃないかな。橋本くんも以前に言っていたけど、日々アップデートされる現在進行形のプログラムの現在地を示す意味合いがあるっていうね。
橋本:そうだね。こうして5年ごとにかたちにできていることで、何か生まれたり、生き残ったりしているものがあるんだろうね。特に今回は、CDというメディアをめぐる状況が一段と厳しいなかで、この機会を実現させてもらって本当に感謝しかないな。
山本:カフェ・アプレミディ・シリーズの10周年と15周年のコンピレイションCDも、『音楽のある風景』シリーズと強く共鳴する部分があったと思います。
橋本:アプレミディ・レコーズを始めたことによって、「usen for Cafe Apres-midi」における僕の選曲もグッと広がったんですよね。その逆もあるんだけど、2000年代に、僕以外の選曲仲間たちが「usen for Cafe Apres-midi」の定番にしていった心地よくて素敵な曲を、僕がCDのコンパイラーとして表現させてもらえるようになって。サロン・ジャズに象徴されるように、街に愛される音楽、皆に愛される音楽だから、新しいファンも生まれてきたし、セレクターやリスナーのネットワークも広がっていって。だからアプレミディ・レコーズ初期の2009年から2011年くらいまでのコンピレイションCDはどれも印象的だし、リリースするたびに山本くんがHMVのウェブサイトで記事にしてくれたことは、将来振り返ったときにとても貴重なドキュメントになっていると思うんだよね。
山本:橋本さんは「60年代のスウィンギン・ロンドンやグリニッチ・ヴィレッジ、50年代のサンジェルマン・デ・プレやボサノヴァが生まれた頃のリオに憧れたりするように、10年後、20年後にこれを聴いた人が2000年代の東京の空気感や公園通りの雰囲気を感じてくれたらいいですね」と話していました。
吉本:『音楽のある風景』シリーズでのインタヴューや鼎談で、あの頃の空気感や音楽について残すことができたよね。
橋本:2009年の最後にリリースした『音楽のある風景〜冬から春へ』が、ジョー・クラウゼルのメンタル・レメディーの「The Sun・The Moon・Our Souls」から始まってアルゼンチンのアンドレス・ベエウサエルトの「Madrugada」で終わり、翌年のコンピレイション『美しき音楽のある風景〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』や『チルアウト・メロウ・ビーツ』に受け継がれ、さらに『素晴らしきメランコリーの世界』の2枚、そして『音楽のある風景〜食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』と『音楽のある風景〜寝室でくつろぐサロン・ジャズ・ヴォーカル』へと、それこそ物語が紡がれるようにつながって。「usen for Cafe Apres-midi」の選曲仲間とリンクしながらいろんなことが起きていって、『ブルー・モノローグ』では自分の気持ちがすごく救われたのを覚えているよ。
山本:あの時期のアプレミディ・レコーズのリリースは、当時のシーンをよく映し出しているように思います。それ以降も、FMシリーズに象徴されるアーバン・ミュージックや、ソウルやジャズともクロスオーヴァーしていく流れにもつながっていく部分とか、リスナーとしても心地よく、違和感なく聴き続けられたのは大きかったんじゃないかと思います。
橋本:やっぱり5年ごとにアニヴァーサリー・コンピCDを作れたのが、句読点というか節目のようになっているなと感じるね。2011年の『Haven't We Met?』はチャンネルの10年間の集大成でもあり、2009年から始まったアプレミディ・レコーズを含めたチームワークの結晶だったと思うんだ。スタートからその頃までは、ある種スモール・サークル・オブ・フレンズというか、趣味が近くて価値観が共有できる、同じような世界観を愛する人たちと共感したいという意識が強かったと思うから、その集大成というか。それがだんだんとその後、村上春樹作品の歴史でよく言われるような、ディタッチメントからアタッチメント、コミットメントへというような感覚になっていくんだよね。僕らの大好きなこういう音楽が街の空気みたいになったらいいな、という単純な思いは変わらないんだけど、箱庭的なところから、街に出ていくみたいな。
山本:それはその頃からの橋本さんの選曲や活動を見ていて、強く感じるところですね。
橋本:それまでは“Evergreen Review”という気持ちが強かったけど、その決定版になったあのコンピを契機にして「タイムリーにしてタイムレス」という意識が強くなっていって。ボサノヴァ的なカフェ・ミュージックが僕らの想像をこえて一般化し、消費されてしまったという背景があったから、こちらのイメージも更新していきたいと思ったんだよね。そういう、アップデートしていきたいっていう意識が反映されたのが、『Haven't We Met?』以降の2011年から2016年までにリリースしたFMシリーズや、メジャー・レーベルで出した『Free Soul 〜 2010s Urban』シリーズだったんだけど、特にオバマの時代の総決算だった2016年がアーバン・ミュージックの大豊作の年だったと言われているけど、そこまでの5年間をドキュメントしたいと思ったのが15周年のアニヴァーサリー盤『Music City Lovers』のコンセプトだったと言えるね。「街に愛される音楽」を掲げて、それまでの趣味性の高いインドアな空間から、街にアプローチしてみようという。
吉本:『Haven't We Met?』はトリステ・ジャネロの「A Beginning Dream」っていうオープン当初のアプレミディらしい曲で始まるけど、『Music City Lovers』はライの「3 Days」で始まる。そこだけ見ても、10周年と15周年の間にあった変化はよくわかるよね。『Music City Lovers』の選曲は現在進行形感がよく出てきていて、やっぱり5年ごとの現在地の確認、という意味合いはすごくあるよね。「usen for Cafe Apres-midi」も、当初はやっぱりカフェや趣味のよい雑貨屋さんとかで流れることが主眼だったけど、どんどんいろいろなお店や全国展開のセレクトショップ、大型の商業施設などでも流れるようになってきて、それまでのイメージとは違う新しい空間に合う選曲が求められるようになったからね。
橋本:もっとマクロな視点で選曲するっていうことが、「usen for Cafe Apres-midi」が広く認知されるにつれて、より大切になっていったということはあるよね。
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