「孤高の《オルガン付き》」
Monday, July 30th 2012
連載 許光俊の言いたい放題 第209回「孤高の《オルガン付き》」
いよいよ酷暑の夏が到来した。こうなると、暑さにきわめて弱い私の場合、食欲に限らず、なにごとも元気が出ない。しかし、不思議なもので、あまりにすごい音楽に触れると一気に全身の神経が張りつめる。逆に、お粗末な演奏に出会うと怒り狂う。こればかりはどうしようもない。くたびれていようが眠かろうが、音楽はたちまちにして私に劇的な効果を及ぼすのである。
幸いにも、暑さを忘れて呆然とするようなすばらしいＣＤに遭遇することができた。スヴェトラーノフ指揮のサン・サーンス「オルガン付き」だ。全体で４０分を超える演奏時間からして異常だが、実際、聴きはじめてすぐ、すっかりなじんでいるはずの作品がまったく聴いたことがないようなイメージで立ち現れてくるのに驚いた。この曲の冒頭はアダージョからアレグロへと変化するのだが、スヴェトラーノフはテンポをろくに速めない。あくまで克明に音を空間に刻みつけていくのだ。この雄大さはただものではない。まさに巨人的音楽である。やはり演奏芸術とはこうでなければならない。他の誰とも違っていて、しかも説得力がある。
叙情的なアダージョの部分は、レガートをきかせてたっぷりと歌う。むろんこの部分も他の指揮者よりは遅めだ。ここでも、ひとつひとつの音の重さが他の人とは違う。弦どうしのピチカートのやりとりがこれくらい生きている演奏も他にあるまい。そのピチカートを背景にして主旋律が浮き上がってくる個所など、どきっとするようなユニークさである。また、ことにオルガンにおいて聖歌風の趣が際立つのが印象的だ。
スケルツォに相当する部分は抽象的な音の建築として成立しており、ブルックナー交響曲第９番のスケルツォ楽章が連想されるほどだ。中間部の色彩感は、チャイコフスキー、それもバレエ音楽みたいなのがご愛敬。
そして、いよいよやってきました最後のマエストーソ部分。だが、ここは意外におとなしい。すばらしいのはその次だ。ピアノのきらきらした音色に重なって歌うヴァイオリンのかつて耳にしたことがない神秘的な美しさには息を呑んだ。それ以後はまるで「ボリス・ゴドゥノフ」戴冠の場のような荘厳さに圧倒される。ロシア的とも言いたくなるような極彩色が繰り広げられる。しかも、これは「パルジファル」か、それとも「シェエラザード」か、甘美で陶酔的な官能美すら現れる。やがて、まるでブルックナーの交響曲第８番フィナーレのような神々しい境地にまで達してしまうのだ。いやはや、サン・サーンスがブルックナーみたいに聞こえてしまうとは。オーケストラは決してがならない。騒がない。極大スケールで悠々と鳴っている。こけおどしはひとつもない。「オルガン付き」の演奏はしばしばギトギトになるが、ここでは余計な脂はすっかり抜けている。熱狂ではなく浄化に到達する「オルガン付き」なのだ。
この曲に限らず、サン・サーンスの音楽はあまりにも効率的、効果的、スマートに書かれているがゆえに、誰が演奏してもあまりかわり映えしない。演奏家の腕のふるいようがないのだ。しかし、このスヴェトラーノフは例外中の例外である。
今更言っても遅いけれど、スヴェトラーノフ（とソヴィエト国立交響楽団、ロシア国立交響楽団）にチャイコフスキーばかりやらせていた日本の主催者は、まったくわかっていなかった。また、安易に本場物をよしとしていた評論家も見識がなかった。プログラムがロシアものでなければチケットを買わなかった聴衆も想像力がなかった。もしかしたら、この「オルガン付き」がサントリーホールあたりで聴けたかもしれないのである。それが惜しい。あまりにも惜しい。
（きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授）
評論家エッセイ情報
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
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Saint-Saens Symphony No.3, Rosenberg Orpheus in Town Suite : Svetlanov / Swedish Radio Symphony Orchestra (1998, 1983)
Saint-Saens (1835-1921)
Price (tax incl.):
¥2,959
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(tax incl.):
¥2,575
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参考ＣＤ
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Import Symphonies Nos.8, 9, : Svetlanov / Swedish Radio Symphony Orchestra (1986, 1990)
Schubert (1797-1828)
Price (tax incl.): ¥2,959
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(tax incl.): ¥2,575Release Date:28/March/2012
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Import Symphony No.9, Slavonic Dance No.3 : Svetlanov / Swedish Radio Symphony Orchestra (1983)
Dvorak (1841-1904)
Price (tax incl.): ¥2,959
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(tax incl.): ¥2,575Release Date:28/March/2012
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Import An American in Paris, Piano Concerto, etc : Svetlanov / Swedish Radio Syomphony Orchestra, Siegel(P)(1996)(2CD)
Gershwin (1898-1937)
Price (tax incl.): ¥5,599
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(tax incl.): ¥4,872
Multi Buy Price
(tax incl.): ¥4,591Release Date:02/July/2011
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Import Franck Symphony, Chausson Symphony : Svetlanov / Swedish Radio Syomphony Orchestra (1979, 2002)
Franck, Cesar (1822-1890)
Price (tax incl.): ¥2,959
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(tax incl.): ¥2,575
Multi Buy Price
(tax incl.): ¥2,279Release Date:02/July/2011
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Import Sym, 9, : Svetlanov / Swedish Rso
Bruckner (1824-1896)
Price (tax incl.): ¥2,959
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(tax incl.): ¥1,390
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(tax incl.): ¥1,390Release Date:26/February/2011
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Import Roman Trilogy: Svetlanov / Swedish Rso
Respighi (1879-1936)
Price (tax incl.): ¥2,959
Member Price
(tax incl.): ¥1,390
Multi Buy Price
(tax incl.): ¥1,390Release Date:26/February/2011
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MITSUTOSHI KYO
Price (tax incl.): ¥792
Release Date:October/2003
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