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「弱音の美学を堪能する」

Monday, June 7th 2010

連載 鈴木淳史のクラシック妄聴記 第21回

「弱音の美学を堪能する」

 噂のオモシロ指揮者、ジャン=クリストフ・スピノジが新日フィルを振るというので、大喜びで聴きに行った。
 いやあ、期待以上のエンタメ古楽だった。愉悦感たっぷりの音楽に、アクション激しい指揮姿。ハイドンの雌鶏の動機に合せて、指揮台の上で鶏の真似をするなど(鳩みたいに見えたけど)、いちいち可笑しいことをやってのける。この交響曲の演奏中、スピノジが数え間違え、オーケストラがトゥッティで揃って落ちるという大チョンボをやらかしてしまったのだけど、それも後々にギャグに繋げ、客席の笑いを取るという徹底ぶり……。
 いや、感心したのは、そこ(だけ)ではない。新日フィルが見事なまでにフランスあたりから来た古楽オーケストラに大変身していたのだ。統一された軽快なフレージングに、《熊》交響曲のフーガも明瞭に浮かび上がる。快感。
 たった一度の演奏会だから、リハーサルの時間は限られているだろう。それだけで、このレベルまででやり遂げるスピノジの能力、そして新日フィルの適応力の高さに感じ入った。

 スピノジの弱音を生かすようなデュナーミク操作は見事だったけど、それについてはすでに大家といっていいヤーコプス。彼のモーツァルトの交響曲シリーズ第二弾がリリースされた。
 今回は第39番と第40番。前回の第38番と41番で披露したユニークな解釈を期待し耳を傾けたのだけど、またしても一杯食わされた感、胸やけしそうなくらいのデフォルメ尽くしの演奏なのだ。
 とにかく面白い。テンポはやりたい放題に変化し、突然のタメや弱音によって、聴き慣れたはずの曲が予想もしない展開を始める。第40番第1楽章展開部のホルン浮き出しやら、第39番終楽章コーダが「ひっそり」終わる趣向やら。
 驚いたのは、第40番第4楽章の提示部。第1主題が繰り返されるとき、なぜかヤーコプスは、旋律の途中でフッと力を抜くように弱音を響かせたかと思うと、次の瞬間、平気な顔でそこに休符を置いてしまうのだ。おいおい。
 まさしく、ためらいパウゼ。ドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》第2楽章にも、こういう場面あったっけなあ、などと思ってみるものの、これはレッキとしたモーツァルトの交響曲。退廃的な空気がドッと立ち込める。
 モーツァルトは変化の音楽なのだ。繰り返される部分では、ヤーコプスは決して同じアーティキュレーションを用いたりはしない。このバリエーションに富んだ演奏は、古典派というカテゴリーを超え、モーツァルトの超絶した個性を浮き上がらせてくれる。
 
 弱音を生かす演奏家といえば、ネルソンスの新譜、ストラヴィンスキーの《火の鳥》と詩篇交響曲を収めたアルバムも要注目。今年のウィーン・フィル公演、サロネンと共に来日する予定の若手注目株だ。
 ネルソンス指揮バーミンガム市交響楽団とのチャイコフスキーはこの連載でも一度取り上げたことがある。その後にリリースされた、R.シュトラウス集、《英雄の生涯》はイマイチ特徴に欠けた凡演だったけど、《ばらの騎士》組曲のほうは、クライバーが指揮したウィーン・フィルの再来と思ってしまうほどに細やかで、瑞々しい表情が印象に残っている。
 今回のストラヴィンスキー作品集からも、ネルソンスならではの、鋭く、そして柔軟な表現が聴こえてくる。「カスチェイ王の魔の踊り」では弦楽器が優雅に歌い、詩篇交響曲では、木管アンサンブルがオルガンのように重厚に響く。
 《火の鳥》といえば、「夜明け」から「カスチェイの手下たちの踊り」までは、やけにメカニカルであったり、または渾沌としすぎる演奏が多いことに不満を覚えていたものだ。しかし、ネルソンスは一味違う。見事なドライヴを発揮、まるでバルトークの音楽を思わせるエモーショナルなウネリで聴かせてくれるのだから。
 そして、弱音表現。ヤーコプスではリラックスした鼻歌交じりのなかにそれが現れるのに対し、ネルソンスの場合、まるで押し殺したような緊迫した弱音だ。《火の鳥》の「導入部」、「王女たちのロンド」末尾の弦トレモロ、終曲直前の「深い闇」での、ゾクゾクするような緊張感。
 録音条件の良くないといわれているバーミンガムのシンフォニー・ホールで、幅広いレンジをまるごと録ろうと慎重になったためだろうか、音像がいささか遠く感じる。再生するにあたって、多少機材を選ばなければならないのが、残念といえば残念なところ。

 思えば、今回取り上げた三人は、いずれもオペラ指揮者でもある(ネルソンスは、来年の「東京・春・音楽祭」にて《ローエングリン》を振る予定だ)。オペラ的な躍動感や歌謡性、ドゥラマトゥルギーなどを巧みに、交響曲や管弦楽曲に如才なく取り入れ、それで全体を壊さずに豊かな表現力で聴かせる。
 交響曲を交響曲らしくやり遂げるクレンペラーだのヴァントだのといった時代が終わり、寂しくなるなあと思っていたものだが、今鳴いたカラスがもう笑う、今では新鋭たちのその屈託ない器用さにホレボレしてしまう日々。

(すずき あつふみ 売文業) 


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