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仲井戸 CHABO 麗市 インタビュー 2

ROLLING STONES STORE

2010年5月1日 (土)

interview
仲井戸 CHABO 麗市 インタビュー



(70年代初期のストーンズのライヴ映像などを鑑賞しながらお話は進みます。)

--- 60年代後半から70年代初期にかけてのストーンズのライヴ・パフォーマンスに関しては、どのような印象をお持ちですか?

 ライヴ・バンドとしてのピークであったことはまず間違いないよね。ブライアン・ジョーンズがいた64、5年ぐらいのステージが1回目のピークだとすれば、『ギミー・シェルター』、マジソン・スクエア・ガーデン ( 『Get Yer Ya-Ya's Out』 ) あたりから70年代前半にかけてのステージが、やっぱり2回目のピークだと思うね。ストーンズが、ある種最もストーンズっぽい。いわば黄金期。ブライアンがいなくなったり、ドラッグのことだったりって色々な問題を抱えつつも、それが妖しいムードにもなって、なおかつクリエイティヴ。 ストーンズ・ファンがいちばん好きな時期かもしれないよね。   

 『ギミー・シェルター』の中で、キースがスタジオで「Brown Sugar」をプレイバックするシーンあるじゃない? 「最高の1曲ができた!」ってムードのシーン。あれが彼らのこの時代を象徴してる感じがする。 あと、72年ぐらいには、出来たばかりの「Happy」をライヴでやっているでしょ。あれも大きい。いわゆるキースのソロとして、彼の歌うスタイルがちゃんと確立された最初の代表曲だろうしね。

--- それに加えて、ミック・テイラーの存在もやはり大きかったんでしょうね。特にキースにとっては。

 まぁ、上手いしさ。 めちゃくちゃ刺激にはなっただろうね。あれだけ弾けるミック・テイラーが入ったからこそ、キースは(註)5弦ギターのスタイルを確立したことも含めて、色々とコンビネーションを組み立てるようになったのかもしれないしね。 『メインストリートのならず者』のアルバム自体では、ミック・テイラー色みたいなものはそこまで強くないけど、随所でいいプレイはしてるよ。まぁ、『Sticky Fingers』もそうだけど、キースが本当に自分が中心となってサウンドを作り始めたアルバムかもね。


  (註)5弦ギターのスタイル・・・「Honky Tonk Women」や「Brown Sugar」などをプレイする際に、フェンダー・テレキャスター、”ミカウバー”の愛称でおなじみのバター・スカッチ塗装の1952年製、または“マルコム”の愛称がついた塗装をはいだナチュラル仕上げの1950年代中期製を手にするキース・リチャード。弦を何も押さえずに鳴らした状態が「G」のコードになるという、いわゆるオープンGチューニングが施されている。もともとブルース好きであったキースが1960年代終盤に曲作りの方法を模索していく中で、ブルース・アルバムを片っ端から研究した末、このチューニングに行き着いたと言われている。普通のチューニングから6弦をはずし、5弦と1弦を1音分下げる(5弦からG、D、G、B、D)チューニングとなっている。


--- キースはこの時期を境に、”ミカウバー”の愛称で知られることとなる(註)フェンダー・テレキャスターを使用し始めますよね。

 過渡期にあった気持ち的な部分も大きいんだろうけど、(註)ミック・テイラーのSGやレス・ポールに対して、リズムを刻むにはきっとフェンダー系の音が合うんじゃねーか、とかさ。2人ともレス・ポールじゃダメだと。そういうことをキースは探し出したんだろうね。


--- ハイドパークやオルタモント・コンサートでは、まだ両者レス・ポールで。

 キースはセミアコも使ってるね。色々試行錯誤して理想の音を見つけ出していくんだろうね。初期のキースのフェンダー系じゃない(註)セミアコとか俺はすげえ好きで、イカしてるよね(笑)。あの音は出そうと思ったって出せない、60年代の空気の音がする。


(註) キース・リチャーズ、ミック・テイラーの愛器録

ギブソン セミアコ
(キース)
ギブソン レス・ポール
(キース)
ギブソン ファイアーバード
(キース)
ギブソン フライング V
(キース)
アンペグ クリスタル
(キース)
フェンダー テレキャスター
(キース)
ギブソン レス・ポール
(ミック・テイラー)
ギブソン SG
(ミック・テイラー)



 キースのギター・スタイルに関して言えば、元々の原点はチャック・ベリーだから、ブライアン・ジョーンズにエルモア・ジェイムスだとかのブルース・ギターを教えてもらったりしてたんじゃないかな。そういう意味で、ブライアンが60年代後半にヘビィなタッチになるまでは、やっぱりキースにとって、ギタリストとしてもブライアンの存在は大きかったんじゃないかな。

 ブライアンはあの若さにしてブルースに対するかなりの知識を持っていたし、スライド・ギターも抜群に上手かったし、どんな楽器でもすぐにマスターしていた、ミュージシャンとしてものすごく高い能力を持っていたヤツだったらしいからね。だから、キースも張り合ってさ、「なにくそ俺だって」ってなっていったんじゃないかな、それはイカしてることだよ。

 それでやがて、キースはソングライティングができるようになってくるから、そこでブライアンがいつの間にか取り残されたりってこともあっただろうし・・・俺は元々はブライアンが好きだったのね。60年代初期当時はキースより存在が大きくて。だから、ブライアンがギターを持っている姿にすごく憧れてたんだけどね。で、ブライアンがいなくなってからは当然キースに興味が出てくるよね、同じギタリストとして。しかも、フェンダーを使い始めた72年頃って、本当の意味でキース・リチャードができあがっていく最初の時代だよね。 声なんか若いね。今はかなりハスキーで(註)トム・ウェイツみたいじゃん(笑)、いいよね。


トム・ウェイツ   (註)トム・ウェイツ・・・特徴的なしゃがれた歌声、ジャズ的なピアノ演奏、しがない人々の心情をユーモラスに描きながらも温かい視線で見つめる独特な歌詞世界、ステージ上での軽妙な語り口、70年代後半からは映画俳優としての活動などでも人気を博す「酔いどれ詩人」、トム・ウェイツ。大ファンだったというキースを招いた『Rain Dogs』(85年)の御礼返しとして、翌年『Dirty Work』にゲスト参加するなど、ストーンズとの交流も深い(特にキースだが)。”しゃがれ声の酔いどれ天使”という点で、今はキースの方がトムの影響を強く受けてしまっているようだ。



 でもまぁ、ストーンズぐらいになると、ミックは間違いなくバンドの表看板なんだとか、チャーリー・ワッツがいなくちゃやっぱり成り立たないとか、そういうことを考えるぐらいだから全体が好きなんだろうけどね。どれだけうまいスタジオ・ミュージシャンがやったって、あの音は出ないわけだからさ。あのタイミング、うねり、”ストーンズ・マジック”だよね。


 ところで逆に、君はどういう風にストーンズと出逢っていったの?

--- 僕は、スーパーに売っていた「洋楽ロック 1000円CDベスト」シリーズみたいな編集盤を中学生のときに見つけまして、そこでストーンズを購入して聴いたのが最初の出逢いですね。 そのベストには「19回目の神経衰弱」、「Tell Me」、「Route 66」、「夜をぶっとばせ」なんかが入っていたと思います。

 もうDECCA初期の頃だよね。そこからどんどん辿っていくわけだ?

--- そうですね。その後色々とオリジナル・アルバムを聴いていくうちに、『Beggars Banquet』や『Let It Bleed』でガツンとやられてしまうという流れですね。その2枚にのめり込むと、あとは自然にカントリー・ブルース、カントリー・ロック、ゴスペル、スワンプ、ファンキー・ロックなどに広がっていきましたね。

 広がることもそうだし、それまで直接的には関係ないと思っていたことがリンクし始めるんだよね、音楽って。そういうつながりが判ったりするだけでも面白いんだよね。

--- それこそ『メインストリートのならず者』あたりのストーンズを最初敬遠していたのが、デラニー&ボニーやレオン・ラッセルなどを聴くようになったことをきっかけに、この時期のストーンズにハマり出したという人も周りにはいました。

 先にストーンズが憧れてた連中を聴いてからってパターンね(笑)。

--- そのパターンですと、「ストーンズのは雑だからちょっとな・・・」となりかねないような気もしたのですが(笑)、そうならないところがストーンズの昇華の仕方の上手さといいますか、オリジナリティの強さといいますか。

 そうだね。あとさ、逆もあって。例えば、(註)クリームの「Crossroads」を聴いちゃったヤツが、オリジナルを辿っていって、ロバート・ジョンソンを最初に聴いたら「何だよコレ!?」っていうね(笑)。


クリーム / Wheels Of Fire: クリームの素晴らしき世界   (註)クリームの「Crossroads」・・・エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーによる英国ブルース・ロックの”スリー・ザ・ハードウェイ”=クリームの68年のアルバム『Wheels Of Fire』に収録されたライヴ音源。クラプトンのギター・プレイの最高峰との誉れも高い本カヴァーでは、原曲(「Cross Road Blues」)を跡形もなく解体し、自由奔放なまでの解釈を加えることにより、逆説的にロックとブルースの相関性を示したのではないだろうか。


--- ありますよね(笑)。ストーンズの「Love In Vain」は、まだロバート・ジョンソンのオリジナルのムードに忠実な部分も多少ありますけど・・・

 まだね。「Crossroads」はすごいことになってるもんね(笑)。ロバート・ジョンソンのあの原曲をよくこんな風に解釈したよなっていう。そこが面白いよね。

 あの頃の時代って、本当に自分の足でレコード屋さんに行って、今言ったオリジナル・ブルースだったりの音を探すわけだよね。耳で憶えたアーティストのLPをレコード屋で探して探して、「マディ・ウォーターズのアルバムあるかな?」 「ないなぁ・・・」とかさ。ミックやキースもそうだったと思うけど、そういったことに燃えるわけじゃない? で、探してたLPが手に入ったら、それを擦り切れるまで聴くわけでしょ? ある種とてもロマンティックだよね。今より情報が少なかっただけに、当時のそういう情熱はみんなものすごかったんじゃないかな。

--- まだまだお話は尽きないのですが、残念ながらお時間が来てしまったようですので・・・・最後に今一度、チャボさんにとって『メインストリートのならず者』とはどのようなアルバムと言えるでしょうか?

 何と言うか・・・例えば、俺は世の中で“失敗作であろう”って烙印を押されたような作品にも、トータルで興味があるのね。少なくとも自分の中では魅力があるんじゃないだろうかってさ。このアルバムにしても出た当時は、2枚組で曲数が多かったりで面食らったり把握できなかったっていう世間の評判もあったけど、自分も色々な時代を通して聴き直していくうちに、多面的にストーンズならではの魅力をすごく感じさせてくれる作品になってる。

 ストーンズにはそういうアルバムはいくつかあるけど、その中でもベスト3に入る。18曲の並び、「ジャガー/リチャード」のオリジナル、カヴァーのチョイス、キースのスタジオ・ワーク、ミックの詞。ストーンズをコアに追求したいバンドの連中なんかにはバイブル的なアルバムかも知れない・・・本当に興味が尽きないアルバムだよね。しかも全然古くない。

--- たしかに古臭さを感じさせないですよね。

 だから、彼らが時代に合わせて作ったアルバムってわけじゃない。だからこそ逆にどの時代に飛んでも常に新鮮だってことなのかもしれないよね。

 でも、今こうして俯瞰して見ると、物語は果てしないよね(笑)。俺たちは外部でこんな風に勝手に言ってるけど、もちろん本人たちしか知らない物語はこの100倍ぐらいあるんだろうけどさ(笑)。




【取材協力:7thMother/EMIミュージック・ジャパン】






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仲井戸”CHABO”麗市 ライヴ・スケジュール


GO!! 60 Extra
仲井戸”CHABO”麗市 with 早川岳晴
[梅田シャングリラ5周年記念感謝祭 〜LIKE A ROLLING STONE〜]

会場:大阪城野外音楽堂(雨天決行)
日時:6月12日(土)OPEN 11:00/START 12:00
料金:前売り3,800円
お問合せ:Shangri-La Tel:06-6343-8601



One of Love Vol.1
途上国の子供たちに未来の仕事を贈るプロジェクトGIG


会場:東京・SHIBUYA ENTERTAINMENT THEATER PLEASURE PLEASURE
日時:2010年6月21日(月)OPEN 18:30/START 19:00
参加アーティスト:仲井戸”CHABO”麗市、泉谷しげる、土屋アンナ、ichiro、m.c.A.T.、One of Love スペシャルバンド、斎藤ノブ、夏木マリ
料金:全席指定 6,500円(税込)1ドリンク,1ROSE 付
   ※3歳以上チケット必要
お問合せ:ディスクガレージ03-5436-9600 (平日12:00〜19:00)



YO-KING presents 『王様のアイディア』

会場:名古屋・Electric Lady Land
日時:2010年6月24日(木)OPEN 18:30/START 19:30
ゲスト:仲井戸”CHABO”麗市 with 早川岳晴
料金:自由(整理番号付き)前売り 5,000円 / 当日 5,500円(税込/ドリンク別)
お問合せ:JAILHOUSE 052-936-6041 / www.jailhouse.jp



ROCK THE JOINT!

会場:東京・町田市民ホール
日時:2010年7月9日(金)OPEN 18:30/START 19:00
出演:シーナ&ロケッツ、麗蘭
料金:全席指定 3,400円(税込)
お問合せ:町田市民ホール
〒194-0022 東京都町田市森野2-2-36
TEL. 042-728-4300

profile

仲井戸麗市 (なかいど れいち)

 1950年東京・新宿生まれ。70年にフォーク・デュオ、古井戸を結成。72年には1stアルバムにしてフォーク史に輝く名盤『古井戸の世界』をリリース。シングル・カットされた「さなえちゃん」の大ヒットをきっかけに知名度を飛躍的に向上させていく。その後もコンスタントな活動を続け、ライヴ盤を含む計8枚のアルバムを発表した古井戸は、79年に惜しまれつつも解散。同年、RCサクセションに正式加入した”チャボ”は、生ギターからエレクトリック・ギターに持ち替え、ブギの効いたブルース・フィーリングを武器にエモーショナルかつスリリングなプレイをキメまくり、バンド大躍進の原動力となった。とくに、ステージにおける忌野清志郎とのコンビネーションは、ジャパニーズ・ロックのひとつのハイライトと云える。90年には、ストリート・スライダーズのギタリスト、土屋“蘭丸”公平と孤高のルーツ・ロック・ユニット、麗蘭を誕生させ、91年に唯一のスタジオ盤『麗蘭』を発表。その後もライヴ盤を中心にコンスタントに作品をリリース。ソロとしては、RC在籍時の85年に1stアルバム『THE仲井戸麗市BOOK』でキャリアをスタート。以後、『絵』(90年)、『DADA』(93年)、『グレート・スピリット』(97年)など、“うた心”と“ロック・スピリット”がギッシリ詰まった数々の傑作を世に出していく。2009年10月11日の東京SHIBUYA-AXにて仲井戸麗市は、たった一人でステージに立ち、RCサクセションの楽曲を弾き、歌うというライヴを行っている。2010年に、その模様を完全収録したCD、DVD『I Stand Alone』がリリースされている。