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松浦弥太郎さん インタビュー (2)

Thursday, March 4th 2010

interview
松浦弥太郎さんインタビュー


--- 松浦さんは、『暮しの手帖』の編集部や「COW BOOKS」で、働き方について話し合われることもあるそうですが、松浦さんがスタッフに一番求めることはどういうことですか。

 一番求めること・・・素直であることです。

--- それは仕事に対してですか。

 全てに対してですね。 どんなことでも、基本的にはすべて受け入れるっていうことですよね。
分かりやすく言うとですね、例えば、僕は「会議」というのはやりませんが、自由に話し合うというのは大切だから、お茶を飲みながらとか話します。ルールがひとつそこにはあって、その場だけじゃなくてコミュニケーション全体にも言えることなんですけど、それは「どんなことも否定しない」ということです。そして、注意しなくてはいけないことは、何かを正当化するために、何かを否定するっていう方法を取ることです。

--- わりとよくある光景のような気がします。

 そうなんですよね。でも、そういう習慣がついてしまうとよくないなって僕は思っていて、基本的に、世の中にあるものは、自分が理解できるかできないかは別として、存在そのものが、すでにあるものなんですよ。それについてノーって言うと姿勢として僕はどうかなと。イエスでもノーでもないっていう状況でも僕はいいと思っているんですよ。
考え方にしても物にしても、今ある、すでに存在しているものだから、それをノーと言って否定して、これがいいんだ!っていう発想の持ち方っていうのでななくて、あるものに重ねていくことで理解を深めたり、良くしていける方向に考えていくほうがいいと思います。
例えば、それが人だった場合、その人のダメなところを言っていくことで、相手はどう思う?っていうことですよね。
ダメなところかもしれないけど、そこをターゲットにする必要はない。
だったらいいところを見つけて、そこを磨いていこうよっていうほうが僕はいいと思っているんです。いつもそういう風に考えます。
だから自分が迷ったときは、考えの先にある対象を人に置き換えてみるとよくわかりますよね。

--- 確かに、なにかを見つけるなら、いいところを見つけたいですね。

 どんなものでも、プラスとマイナスでバランスを取っているんです。
そのマイナスをなくしてしまったら、プラスの部分もバランスが崩れるわけだから。
自分自身もそうですよね。正常と異常みたいなものが同居して、それが自分の魅力になっているわけだから、異常なところを追求されて、それをなくしてしまったら正常な部分もバランスがくずれておかしくなってくる。

 松浦弥太郎さんインタビュー


--- シリーズ前作に、「嘘をつかれても、その嘘も引き受ける。嘘をつかなくてはいけないだけの理由があるのだろう」とあって驚いたのですが、今のお話と通じる気がします。

 嘘なんていうのは、小さいですよね。僕にとっては嘘のひとつやふたつ、どうでもいいです。嘘をつくなんて人間らしくていいと思いますよね。

--- そうですか・・・!嘘だとわかった瞬間に、追及してしまいたくなるところですが・・・。

 自分が相手の立場になって考えてみたら、嘘をついているだけで相当傷ついて、すでにつらい思いをしているわけでしょう。どんな小さな嘘でも本人は重々わかっているはずですよ。それ以上つらい思いをさせてどうするのと思います。
そこで追及したりしても、相手を負かして自分が納得するだけで、いったいそこから何が生まれるんだろうって思います。

--- 相手をまるごと受け入れるんですね。

 他人とコミュニケーションする上で、常に自分はひとりであるっていうことは意識しないといけないですね。そこはバランスをとらなければいけないと思います。
言葉がいいかどうかわかりませんけども、どんなに泣いたり叫んだりしても、一人という孤独からは逃げられません。人間は一人で生まれてきているわけですから、最後も一人で死ぬわけで、誰かと手をつないで死ぬわけにはいかないですよ。
コミュニケーションの目的とは、相手や物、自然など、なんでもよいのですが、自分の愛情を伝えることだと忘れてはいけません。そのためのコミュニケーションなのです。

--- 松浦さんは、「孤独であること」についてよく書かれていますね。

 ええ。それはなぜかと言うと僕らはいつも関係性の中で生きているわけですよ。でも、人と関係するには自分が自立していないと、関係はできないんですよね。
他人は、自分にとっての浮き輪じゃないから。コミュニケーションっていうのは自立している人間同士のできることですから。
コミュニケーションを常にいい状態に持っていくためにはバランス感覚が必要で、ひとりである自分と、他人と関係していく自分のバランスを考えないと。

--- では、最後に松浦さんにとっての「暮らし」とはどういうものか教えていただけますか。

 暮らしの先には何があるのって考えると、やっぱりそこには、幸せ、あたたかい何かみたいなものを目指して成長していくための時間の過ごし方だと僕は思っています。
では、その幸せって何かということを考えると、人と深くつながることだと僕は思っているんです。決してお金や物がある生活ではなくて、人と深くつながることが幸せっていうことなんだろうなぁって思っています。
だから常に考えなくてはいけないことは、仕事でも暮らしでも、どんな行いでも、自分が考えること行動すること、やっていることすべての先には、いつも必ず人がいるっていうことですよね。
それを忘れてはいけないと思います。人というのは生身だから何かをしたら傷つく弱い生きものなのです。
暮しや仕事において、その考えや行動は人を幸せにするものかといつも考えます。
そういうことを思いながら日々を過ごすということが、僕は暮らしだと思っています。

--- 本日はどうもありがとうございました。
次ページでは、松浦弥太郎さんのおすすめの音楽CDを挙げていただきました!)



『あたらしい あたりまえ。』 松浦弥太郎
新刊『あたらしい あたりまえ』(PHP研究所) 松浦弥太郎
 
「昨日より今日を少しでも、あたらしい自分で過ごしたい。今日一日があたらしくあれば、大切な一日を自分らしく過ごせて、それだけでうれしくなります。 仕事と暮らしにおいて、私たちが社会と分かち合うべきことは、自分が発見したり、工夫したり、気がついたりした、あたらしさなのです。」(はじめに より)
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profile

松浦弥太郎 (まつうら やたろう)

1965年、東京生まれ。『暮しの手帖』編集長、「COW BOOKS」代表。
高校中退後、渡米。アメリカの書店文化に惹かれ、帰国後、オールドマガジン専門店「m&co.booksellers」を赤坂に開業。
2000年、トラックによる移動書店をスタートさせ、02年「COW BOOKS」を開業。書店を営むかたわら、執筆および編集活動も行う。06年より『暮しの手帖』編集長に就任。
著書に『本業失格』『くちぶえサンドイッチ 松浦弥太郎随筆集』『くちぶえカタログ』『場所はいつも旅先だった』『最低で最高の本屋』『軽くなる生き方』『日々の100』『今日もていねいに。』などがある。

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