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Review List of うーつん 

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  • 6 people agree with this review
     2021/06/24

    落ち着いた佇まいの表情をもった演奏を満喫できるディスクと思う。いわゆるモダン楽器による厚みと重みをもったブラームスの協奏曲と明らかに一線を画す演奏は、現代のオケとピアノの掛け合いに慣れた我々に新鮮な喜びを与えてくれるものとしてお勧めしたい。

      私自身でいうと前述の厚みと重みをもった演奏も好きである。ツィメルマンとラトル&BPOの1番は愛聴しているし、ギレリスやバックハウスの2番などもよく聴く。とはいえ、そもそもブラームスのピアノ協奏曲で古楽器オケとヒストリカルなピアノ独奏の組み合わせ自体が珍しく、初めて聴いたのだがどちらも面白く甲乙を付けるような問題ではないと思う。

      1番は若書きの作品であるが、当盤では勢いに任せて前のめりになることなくじっくりと清らかな響きで進んでいく。2番は歌に溢れ、しかもその歌が大声になることなく、さながら室内楽のような親密さで心に染み込んでいく。2曲ともおそらく楽譜に信を置いて演奏しているのだろうが、そこにこだわりすぎず自然な感興にも不足していない。「響き渡る」でなく「沁みこむ」という印象と言えば理解していただけるだろうか。普通の息遣いでの良質な協奏曲を愉しむことができると思う。

      このディスクでは普段大規模なオケの響きでなかなか聴こえてこない音の模様がくっきりと出てきて新鮮な発見の連続。ピアノ(ブリュートナー、1859年ころ)は確かに現代のスタインウェイなどと比べてしまえば音の輝きも少なく、音は広がっていかないし、これを大ホールでモダン・オケと合わせたら何も聴こえてこないことだろう。しかし、シフの演奏とエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団の繊細なバックアップのおかげで、鈍いが落ち着いた音の光沢を帯び、逃げずに留まる音をじっくり愉しむことができる。バッハやモーツァルトならいざ知らず、ブラームスの協奏曲で古楽器系アプローチはなかなか広がらない気もするが、だからこそこのディスクの価値が維持され、次のアプローチを志す演奏家に一石を投じることになるのではと思う。

      更に蛇足ながら…。 A.シフはECMに連続でブラームスの作品(クラリネット・ソナタとこの協奏曲)をリリースしている。願わくば、ブラームスのヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタ(チェロはM.ペレーニ希望!)にピアノ・トリオ、更に後期ピアノ小品集なども取り上げてもらえたら嬉しいのだが…。 リクエストし過ぎかな?

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  • 2 people agree with this review
     2021/06/05

      美しすぎる武満の音楽を満喫できる一枚。作曲者没後25年を振り返る時、晩年の到達点を俯瞰するのに格好のディスクなのではないだろうか。CDのプログラミング的にもなんとなくシンメトリーを形づくっておりディスク全体の構造も考えられている。

      私が初リリース時に入手した時には指揮者もピアニスト二人も存命だったが、このレビューを書いている時には指揮者(O.ナッセン)もピアニストの一人(P.ゼルキン)も作曲者と同じ世界に旅立ってしまっている。武満の生の声を知っている人々が少なくなってくる中で今回(2021年7月)の再リリースは嬉しいニュースになると思う。プログラム的には『夢の引用』がメインになろうがどれも耽美的なまでに美しく、そして覚めている。

      新しいCDフォーマットの音質については分からないが、音楽の質の高さや美しさはおすすめできる内容。

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     2021/05/31

      ヤング・バッハが豊かに成長していく時期の鍵盤作品を一堂に聴くことができる良盤。もちろん、後のバッハが創作した「名作揃い」というわけではないが、バッハを愛する者であればCDラックに入れておきたいセットであるはずだ。

      21世紀の現代においてバッハのように旅し、師の教えを吸収しつつそこを乗り越え作品を創造するような高校生や大学生が果たしているだろうか。自分に照らして考えてみても到底比較にならない低レベルなティーンエイジャーだったのだから偉そうなことは言えないが…。 現代の我々と異なり当時の青年の成長密度は驚くほど濃密だったのだろう。

      「フーガ ト短調 BWV 578」などは、中学時代に音楽の授業で取り上げられていたことを覚えている。教科書には「フーガ」という音楽形態を勉強するための教材としてであったが、アラールのディスクを聴いているとフーガの勉強のためより、「自分より数歳上でしかなかったバッハがここまでの技量と音楽性を持ち合わせていたことを発見させ、その成長に追いつけるように」という意味で教育に活用すべきだったのではと思ったりもしていた。

      第1集と同様、オルガンやチェンバロ、更にはクラヴィオルガヌムなる楽器まで登場。ソプラノとのコラールも取り混ぜ4枚の量ながら飽きさせない造りと響きはぜひとも聴いていただきたい。同じ時代を生きた他の巨匠の作品も混ざっており時代の風も感じられる、充実極まる内容と曲目と視界の広さを愉しんでほしい。お勧めです。
     
      
      

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     2021/05/25

      バッハの偉業に真っ向から挑戦するかのような野心的なシリーズが始まった。1人でバッハの鍵盤楽器(チェンバロ、オルガンなど)のための作品をすべて演るという。若い演奏者だからこそここまで思い切った企画に飛び込めるのだろうか。バッハの音楽を愛する一音楽愛好者として楽しみにしつつ、応援していきたい。

      第1巻となる当盤では若かりしバッハの作品と、彼に影響を与えた作品を混ぜてその成長を記録したものとなっている。なるほど、たしかに「若さゆえ」と思わせる瑞々しい作風であるが、バッハがバッハたる「端緒」を見つけてみたり、当時の「先輩」から得たものを作品に活かそうとしている部分を探すのも一興だ。バッハのディスクというととかく充実期から後期にかけての作品や有名曲をフォーカスしたディスクが多くなるため、小品や有名とは言い難い曲を集めるのは割と難しい気がするのでこうした企画は挑戦的であると同時に、我々リスナーにとっても利点が多い。作曲年代順に揃えてくれているのでバッハの伝記を読みながら音楽をさらうこともでき、まことに集めがいのあるシリーズだ。加えて、ディスクごとに楽器も替えており、音色や機構の違いに思いをはせるのも愉しいことだ。同時にこれほど多種多様な楽器が散らばっているヨーロッパの奥深さにも驚かされる。頭でわかっていてもこうして聴いてみることで「耳の旅」ができるのもこの全集の特長となるであろう。

       諸説あるが、「学(まな)ぶ」という言葉は「真似(まね)」から派生したという。バッハも当時の巨匠たちの技法を真似してはそこから学んでいったのだ。ローマが一日にして成らなかったのと同じく、J.S.バッハも一日にして成ったわけではないのだ。その過程と道のり、そして作品の進化(深化)をバンジャマン・アラールの演奏によって追っていきたい。

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  • 1 people agree with this review
     2021/05/03

      クレーメルによる会心の一撃!
      2019年にAccentus MusicからリリースされたDVD(ドキュメンタリー『ギドン・クレーメル 自分の声を見つけること』)にもこのヴァイオリン協奏曲が少し登場し、いつかリリースされたら…と思っていた。今回登場した一枚はその期待にたがわぬ鬼気迫るテンションで我々に訴えかけてくる。

      聴きながら、この協奏曲(そしてカップリングのソナタでも)でヴァイオリンに与えられた役割とは何だろうか、と考えた。私なりの考えではヴァイオリンは「叫ぶこと」を要求されているということだ。作曲者の声にならない(声にできない)叫びをこの楽器に込めたような気がした。ショスタコーヴィチなら声にせず音楽の裏にそのメッセージを忍び込ませるところだろうか。音楽の外見は似ているが内実はかなり違う。しかしその根底にある想いは同じな気がする。

      時代は違えど、同様の空気を吸って生きてきたクレーメルにとって、自らの楽器でその叫びを再現するのは当然のことであって、すべきことでもあるのかもしれない。クレーメルから見るとヴァインベルグはそんな共感をもって接することができる作曲家なのだろう。作曲者の「伝えたいこと」を代弁することを自らに課して、使命感をもって紹介しているのだろう。いわゆる一般的な音楽マーケティングからは(おそらく)ほど遠い場所に存在するヴァインベルグの音楽にこれほど力を入れるのもそう考えると理解できる気がする。「売れ筋」とは言い難いが、そんなメッセージに耳と意識を傾けたい方に聴いていただきたい。

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  • 5 people agree with this review
     2021/05/01

      紹介レビューにある通り「鮮烈な演奏」。モダン楽器の晴々とした響きとは違うが、それに負けない迫力は一聴の価値あり。湧き上がる音楽に突き動かされていくような心地よい推進力と全面に拡がる新鮮な音の咆哮。と言っても前後見境なく走り回るという印象は皆無で、じっくりリハーサルで楽器間のバランスや掛け合いを理知的に検証した後で、それを爆発させたような印象。第1楽章の最初の和音の合奏から「おっ!」と思わせ、その新鮮な驚きと「ワクワク感」は最後まで続く。作曲者がこの曲に込めた気概と「ある英雄」に向けた熱いまなざしを感じずにはいられない。第2楽章も単なる深々とした葬送行進曲というよりは、荘厳と気品を兼ね備えた印象。そして、第3楽章から第4楽章にわたるエピソードのつながりとコーダに向け計算されつくした興奮にのせられてしまう自分がいた。あれこれいじったり変な大見得をきっているわけではないのに不思議とのせられてあっという間に聴き終わってしまう。いろいろな名盤を押しのけてトップを狙える新たな「英雄」の登場を喜びたい。


      メユール自体初めて聴くのであまり偉そうに言えないがカップリングされた序曲は何やら「ドン・ジョヴァンニ」の序曲を連想させる雰囲気とパワーを感じさせる。前回の第5番のディスク同様、時代の空気を味わえる粋なカップリングも好印象。

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     2021/04/12

      2度目のゴルトベルクである当盤は、前回(1度目)と比べても遜色なく、むしろ全く違った音色と演奏を聴けるものなので1度目の録音を聴いている方にもぜひ聴いていただきたい。

      個人的な感想として、1度目のゴルトベルクがザラったした感触とすると、当盤は同様の造りながら仄かに滑らかさや艶やかさ、光沢をまとったような印象を持った。黒楽茶碗のような面持ちを連想させられた。演奏自体も1度目が楷書体、当盤はそれを少し崩して草書体のエッセンスも取り入れたようなひらめきと自由さを感じた。聴きようによっては日本の琴のように聞こえる部分もあったり、ひとつの楽器でこれほどの「音のバリエーション」が出せるのかとびっくりさせられたまま最後のアリアまで聴かせてくれる。さらにそこで終わりとせず、2台のチェンバロとポジティーフ・オルガンを絡ませた14のカノン BWV1087をカップリングしてくるあたりも心憎いプログラミング。

      楽器の特性をフルに活用し、装飾や音の出し方を聴くと武久源造が「楽器の特長を存分に引き出しながらゴルトベルクに彩りを添えたい」と考えて奏でたのではと思ってしまう。また、これだけの表現を許容できるゴルトベルク変奏、それを創りあげたバッハの凄さに今更ながら舌を巻く思いだ。

      名盤として知られるA.シュタイアーのゴルトベルク(2009年録音、Harmonia Mundi)もたしか同様の楽器を使っていたような気がするが(違っていたらごめんなさい)、音の多彩さ・パレットの豊富さは聴き比べしても面白そうだ。 これだけの演奏(と各変奏・音表現を的確に捉えたすばらしい録音にも拍手)があまり評判にならないのが不思議なくらいだ。

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     2021/03/24

     新型コロナウィルスが我々人類に与えた影響は経済損失という数字で表せるものよりはるかに広範囲に深い傷となって今もその猛威は衰えを見せない。そんな中で独りで何ができるのか。何をすべきなのか。その解答の一つがこのディスクだと思う。2020年、世界中の作曲家の「コロナ下での創造」と、じっくり引きずるような曲調であるバッハのサラバンドを混ぜることでひとつの世界観を味わうことができる。現代曲と考えず「コロナ下の今を生きる声に耳を傾ける」気持ちで聴いてみてほしい。そうすると聴こえてくるはずだ。痛みと苦しみと孤独、そして慰めや仄かな希望が。

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     2021/03/13

     当盤のテーマは「舞踏・リズム」といったらよいだろうか。奇をてらうような小細工は無し、微に入り細に入り音の手入れをするわけでもない。もともと楽器自体と個々の奏者らによるメッセージ発出力が強い団体と思っているが、そこからきびきび出されるリズムの照射は聴いていて「作曲者存命中の演奏やそこから受け取る感情の昂ぶりもこんなかんじだったのだろうか」と思える。ベートーヴェンが育ててきたリズムが持つ力の持続と拡がりを2枚のディスクでしっかり感じていける好カップリング。 指揮者がドーピングして煽るような熱狂の渦みたいな7番を期待するとすこしイメージに合わない方もいるかもしれないが、作品自体が持つ「基礎体力」で健全に7番に向き合いたい方におすすめです。 

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  • 2 people agree with this review
     2021/03/09

     ずいぶん昔、NHK音楽祭の放送だっただろうか、交響曲第5番を聴いてびっくりした記憶がこのコンビの初体験。そこからようやく昨年末、この全集&序曲集ボックスで購入するに至った。録音されてから10年以上経ているが、今聴いても新鮮な響きに満ちている。日本酒やワインなどで開栓した時のフレッシュなアロマ、程よいガスが舌を刺激し、豊かな味が染みわたる…そんな感動をこの全集には感じる。お酒もクラシック音楽も伝統に胡坐をかかず新しいものへの挑戦する構造では変わらない気もする。このコンビが繰り広げるベートーヴェンは、古い音楽を古いと思わせずにむしろ「今作ったばかり」な清々しさと覇気が強く感じられる。楽譜の問題もあるが、そこにこだわっても執着しない推進力のある演奏とスケールが非常に魅力的。200年も昔の作品が「現在進行形」で再創造されていく感覚を味わいたい方におすすめです。

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  • 4 people agree with this review
     2021/03/03

      隅々まで音楽芸術への敬虔な共感がいきわたり、スケールの大きさ、振幅の幅広さ、音響が織りなす臨場感…すべてがこのディスクに詰まっている。マタイが演奏された環境に近い音場を再現し、前から後ろから音楽が迫ってくる様は自分がドラマの中に含まれているような気にもさせてくれる。

      西洋音楽の伝統の系譜の中に生きているヤーコプスにとってマタイはまさに血となり肉となっているものなのだろう。このディスクはバッハ演奏史・マタイ受難曲演奏史の系譜の中でも一つの頂に数えられると思う。

      かつてG.マーラーは「伝統とは灰を崇拝することではない、火を守る(伝える)ことだ」と何かの折に言ったそうだが、ここにあるヤーコプスの立ち位置と挑戦こそそのよい例なのではないだろうか。今まで培ってきたものに新しい試みを加えてマタイのドラマは進んでいく。そこに淀みはなく、どの楽器にも確信を持った解釈が沁みわたり、こと歌への理解の深さは素人の私が聴いていてもハッと気づかせてくれる。

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  • 4 people agree with this review
     2021/02/27

     生き生きと、そして節度も保った状態で第9が演じられている。革新と理念の最終的な表明である交響曲第9番ゆえ、演じる方も自然に熱のこもったディスクが多いと思う。もちろん当盤でも熱気をはらんでいる様子は感じるが、音楽の「攻め」としては穏やかな部類ではないだろうか。「第9」のスケールに煽られて表現が飛ばし気味になることはない。部分をおろそかにせず、きちんと歩みを進めながら音楽が語られていく雰囲気だ。第4楽章の声楽はさすがBCJと思わせる、一体感と安定感が感じられる。聴いて興奮する類の第9という感じはしない。が、声楽付きの交響曲として最良の形で表してくれていると思う。大上段に構えない第9を聴きたい方におすすめしたい。

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     2021/02/13

     どこか鄙びた味わいのあるシューベルト・即興曲集。作曲者の感情に肉迫しようとする演奏という感じはしない。 もしも感情や音が形なすものであるなら、それをそっと手で触り、その質感を体感することによって作曲者の心情に寄り添うような。手で触れるからこそわかる、ほのかなぬくもりを感じる。曲間を武久自身の即興によってつなぐ部分もあるが、控えめで曲のバランスを保ちつつ即興曲という性格に寄り添った美しい瞬間も聴きどころと思う。

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  • 3 people agree with this review
     2021/02/13

      バッハの持ちうる技術・芸の精髄を詰め込んだような曲目と演奏だ。「音楽の捧げもの」で今まで愛聴していたのはクイケン兄弟&R.コーネンによる1994年録音のディスクだったが、それとの聴き比べも実に愉しめた。クイケン兄弟によるBWV1079は、ミニマルな構成をもって室内楽を最大限の面白さを表現し聴かせるような感覚を味わってきた。 それに対し鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンのメンバーによる当盤では、バッハの「秘儀」に参加しているような気になった。限定された素材ながら一曲ごとに光の当たり方が変わり、ぞくっとさせられた。おそらく1975年に発見された「14のカノン BWV1087」がカップリングされていることもあるのだろう、ひとつの素材が綾なす芸の究極を体験することで「秘儀」感がより一層増してくる。

      その秘儀を体験した後の感覚は人それぞれだろうが、私は気持ちが研ぎ澄まされたような感覚をもたらされた。曲目的に音楽を大いに楽しむ…という類ではない。それよりバッハの奥の院に案内され、その中をそぞろ歩いたような気持になる。奥の院を出るときに最後に奏でられるソナタ BWV1038で柔らかで暖かな日差しを感じ、その秘儀が終わりを告げる…。 演奏の感想レビューにはなっていないが、晩年のバッハが目指した“究極のその先”の一端を味わえるディスクとしておすすめしたい。

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     2021/01/29

     普段なら会場の聴衆ともどもほろ酔い気分で聴けそうなニューイヤー・コンサートも今回は無観客・拍手なしのしらふ気分で鑑賞することになってしまった。独特の華やかな空気は当然少ないが、逆に典雅なワルツや趣向を凝らしたポルカをじっくり愉しめるのがよかった。
     最近の、お祭り騒ぎにしすぎのニューイヤー・コンサートでないから購入に踏みきってみた。とはいえ、無観客・無拍手で行うニューイヤー・コンサートほど味気ないものもないだろう。来年からは超満員の観客の中で「美しく青きドナウ」が演奏される、元の日常に戻れますように。

     指揮がムーティだからだろうか、折り目正しく崩さず、かといって四角四面でない格調高く薫り高い音楽に仕上がっていると思う。ショーに陥らないシュトラウス・ファミリーなどの音楽を愉しみたい方に。

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