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Review List of うーつん 

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     2024/11/02

    劇作品としての声楽曲、演劇として体感するレクイエムだと感じた。
    ピションとピグマリオンらのチームにより、モーツァルトのレクイエムに新しい演奏方法が提示されたように思う。私が視聴したことがあるレクイエムの盤の中では、ブリュッヘン&18世紀オーケストラが1998年に東京でライヴ収録した演奏(Glossa Cabinet)を思い出した。レクイエムにフリーメイソンのための葬送音楽やグレゴリオ聖歌などを挟み込む独自プログラムは「ただのレクイエム」で終わらせない新鮮な感覚を体験させてくれた。

      ピション盤では曲中に他の曲を挟むことは同じだが、演劇またはモーツァルトをめぐるドラマの場面転換などの役割として組み込まれ、それが効果的に活かされていると思う。そもそも、音楽作品のCDとして考えるなら当盤のように歌唱しているところをぶった切るように次の曲が重なってくるのは御法度だろう。敢えてそんな要素を持たせてドラマが進行されるピションの意気込みとアイディアに驚かされた。レクイエム本来の意図である「死者の安息を請い、最後の審判を経ての神の御許での永遠の安息を願う」を連想するにはあまりにも果敢かつ劇的な演奏・歌唱は演劇・ドラマを彩る表現で素晴らしいと思う。それはモーツァルトの死(レクイエム)から振り返る形で、35年の人生を駆け抜けたモーツァルトの旅路をドラマ・演劇に仕立てているように私は感じた。

      昔よく訳されていた「鎮魂曲」というより、失意の中で息を引き取ろうとするモーツァルトの「復活」を祈るようなイメージで私は聴いた。一般的にモーツァルトの絶筆部分と言われるラクリモザは「息も絶え絶え」みたいな表現、そしてそこが「モーツァルトの人生の終わり=曲の終結」のようなクライマックス(説によるとラクリモザの後の曲にもモーツアルトの筆の跡はあるらしいが、それはそれ)にもドラマ性を感じた。最後に歌われた交唱『イン・パラディスム』は永遠の眠りについたモーツァルトへの「子守歌」として、そしてエンドロールの音楽のようにも思われた。

     はじめから最後まで、さまざまな意匠と気持ちが込められた当盤。昔から知られている曲に新しい視点と解釈の可能性、表現の幅広さをもたせたピション&ピグマリオンのチャレンジをぜひ皆さんにもお勧めしたい。

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     2024/10/27

    孤独に、しかし自由に…私が聴いて感じたのはそんなこと。19世紀のヴァイオリニスト、J.ヨアヒムのモットーとして知られる「自由に、しかし孤独に(frei aber einsam)」よりは「孤独に、しかし自由に」の方がしっくりくる気がした。前回の録音(2007年)と基本路線は変わらず技の冴えと流れるような演奏を聴かせてくれる。前回と比べて流れるような演奏の中にあって、より一層じっくり語ってくれているような気がした。

     特に前回より深まったと感じたのは「対話」。ソロ組曲の中で問いかけとそれに対する応答が充実して広がっている気がする。装飾音は前回より目立つ。中には弓を使わずピチカートで問いかけてくる場面もある。同じフレーズでも語り口は違っており、それが対話のような風景を想起させる。装飾とはいっても飾り立てる感じは皆無、話の口調が少し変化したといった感じだろうか。歳を経れば話し方も変わり、話す内容も変化するように。 装飾があり、対話があふれているといっても、多弁というのではない。人と人が一言ずつかみしめながら対話をし、考えを深める。そんな風景を、当盤を聴いて考えてしまう。今回特典で舞踏とのコラボ映像がついている。これも「対話」のひとつのバリエーションなのかもしれない。話すだけが対話ではない。お互いの表現手段は違えども互いの所作や表現を吸収し思考の対話をあたためていく…。ケラスは独りで演奏していても心の中で自由に対話して自身または作品の内奥を見つめている。私にはそう思える。

     今、世界を見回しても「対話」でなく、自分の言いたいことだけが一方的に流れていく現象が多くなってしまっているような気がする。ケラスはただ独りバッハと向き合って作曲家または作品、舞踏との対話をしているのだろうが、何となくそんなところにも思い至った。良い作品は思索を生む。私の思索なぞたかが知れているが、他の方にも当盤を手に取って対話の風景を愉しんでもいただきたい。ぜひ当盤を耳にして対話を通したいろいろな思索の世界を旅してみてはいかがだろう。おすすめです。

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     2024/10/13

    楽器でなく、楽譜に歌わせているかのような親密な音楽を聴くことができた気がする。


     ヴァイオリン・ソナタは「歌う楽器」ヴァイオリンを、美音で目いっぱい歌わせてこそというのが当たり前だと思う。私の印象として、塩川悠子のヴァイオリンは美しく歌わせるより、きちんと楽譜を語らせるような鳴り方をしているように感じる。大げさなことをせずとも、声高に美音を押し付けなくとも作曲者が書き付けた想いをそのままヴァイオリンに乗せて届ける…(そうはいっても塩川さんのヴァイオリンは、とても美しく凛とした佇まいの音です)。  特にそう感じるのはブラームスでの第2楽章。(多分だが)ビブラートを少なめに音を発しながら、(ビブラートで感情の揺れを表すのでなく)そこに置かれた音をていねいに奏でて何とも言えない情感が心に浮かんでくるのだ。発売前、レビューページにアップされた音源でじんわりと心が暖かくなったように感じた。楽譜も読めない私が書くのは失礼と承知の上で、私は彼女の演奏に上記の感想を持った。


     そしてそのヴァイオリンを支えているのがアンドラーシュ・シフのピアノだ。こちらもヴァイオリン同様、楽譜に歌わせていて、余計な主張はしない。なのに心にスーッと沁み込んでくる。これがこのデュオの真骨頂なのかもしれない。  それにしても、なんでこんなに平易に弾かれているようで深く伝わってくるのだろう。美しい音と落ち着いた解釈だけでこんなに沁み込むとは思えない。そう考えているうちに思ったのは、シフの左手。右手がメロディーを奏でる中で見え隠れする左手の音の数々。左手の動きで音楽がより立体的に構築されているように思える。それは、何となくバッハの音楽などに聴かれる通奏低音のような役割をもっている気がする。シフがバッハ演奏においても多くの経験と智慧を持っていることを思い出された。ヴァイオリンの旋律とピアノ右手による伴奏を下支えし、それらの存在を浮かび上がらせるように、しかも目立ちすぎずに左手が時折的確に音をクローズアップしているように聴こえる。「2人での演奏」でなく「3人での演奏」のように感じる。そこにシフによる伴奏の素晴らしさの秘密があるように思える。(私の贔屓目でそう感じてしまうのかもしれないが…)


     ここに収められた2曲、曲想が違い対照的な印象だが作曲者ふたり(ブラームス、シューマン)の持ち味や特長をうまく紹介しているように思う。しかも極上の表現で。塩川悠子とアンドラーシュ・シフ…この良い年輪を重ねてきたご夫妻によるECMでのディスク(第1弾はシューベルト、第2弾はバッハ・ブゾーニ・ベートーヴェン。どちらも素晴らしい演奏)はこれで3枚目。これで終わりとせず、もういくつか発表されるのを心待ちにしたい。おそらくそれも私の心に何かを残してくれると思う。今回のブラームス&シューマンがそうであるのと同じように。そして他の皆さんの心にも何かを残してくれることを確信し、当盤をお薦めしたい。

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     2024/10/13

    ひとつひとつのフレーズを丁寧に紡いでひとつの音楽にし、それらをつないでひとつの作品にしていく。当たり前だがなかなかできない、そんな行為をこのディスクで聴き取ることができると思う。柔らかく空間に心地よく明瞭に拡がっていくフレーズが次から次へと入ってくる。これはガット弦などの仕様と録音空間そして技術の賜物なのだろうか。

     佐藤俊介がここでバッハに捧げているソナタとパルティータを聴き、私がまず惹かれたのはフレーズ(または各所の部分)がとても丁寧に、かつ慈しみがこもった演奏がされていること。「神は細部に宿る」という物言いがあるが、当盤にはそれがあるように思う。その積み重なりが2枚のディスクに仕上がったように思える。

     オルガンや管弦楽と合唱の組み合わせであれば音を積み重ねて神への想いを表すところだ。ヴァイオリンのソロでオルガンの様に幾重にも音を積み重ねていくのは限界があろう。この曲集が、作曲当時仕えていた主の「宗教的な音楽は不用」という音楽的ニーズによる産物として生まれたものという考えもあるが、それでもバッハ自身は神への想いはあったと思う。解説書で紹介されている、楽譜に書かれたSei Solo(直訳だと「あなたは孤りきりだ」となるそう)は、「独りでこの作品と向き合い、その背後に在る神に対峙してほしい」というバッハの希望(または理想)なのかなと聴きながら感じた。このディスクを聴くことでそんな考えの可能性も気づくことができた。ぜひ多くの方にも聴いていただき様々な考えの可能性を見つけていただきたい。

     このディスクを購入したのはコンサートホール(2024年10月、浜離宮朝日ホール)のホワイエ。奥様のスーアン・チャイさんとブラームスのヴァイオリン・ソナタを柱にしたコンサートに参加し購入した次第だ。 コンサート際、サイン会が行われ少しお話しできる時間をもらえた。プログラムにあったクララ・シューマンの作品の中で夫ロベルトに似た音の選び方や使い方があるような気がして話しかけたのだが、私のあいまいで稚拙な質問にも丁寧に反応してもらい学ばされるところが多かった。演奏後、しかもサイン会とつづき疲れていたろうが丁寧に対応される氏に接して「こういう人物だからこそこんなバッハを表現できるのかな」と感じたことも付記しておく。 バロックからモダンまで幅広く演奏されるからこれからも演奏会やディスクで丁寧な仕事を追って行ってみたい。

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     2024/10/12

    フォルテピアノならではの美しい音と特性を最大限に活かして、ロマン的な感情移入で奏でられていると感じた。音たちが素直に伸びていき響きとなった時の余韻が得も言われぬ美しさを感じさせる。一音一音にフォルテピアノの、そしてそれを念入りに弾きこむ(惹きこむ)スーアン・チャイの確かな技術。フォルテピアノは現代のピアノ以上に個性があると思うが、彼女はそれを熟知し、かつ愛しているからこそこうした演奏ができるのかな、と思ってしまう。

     即興曲集では音楽の伸縮が自在で溜めや間合いの加減がシューベルトの心の綾を撫でるかのよう。その間に挟まれて珍しいフーガ2曲。私は当盤で初めて聴いたが即興曲で幾分心があつくなったのをクールダウンするようなタイミングなのが新鮮だった。
     以前からラ・フォル・ジュルネやサントリーホールの室内楽フェスなど参加もあり聴きたいと思いながら叶わずにいたが、先日(2024年10月)浜離宮朝日ホールで佐藤俊介氏と夫妻による、ブラームスのヴァイオリン・ソナタを中心とした公演を聴くことができた。その時はJ.B.シュトライヒャー(ブラームスの自宅にあったモデルとほぼ同じものらしい)のフォルテピアノを聴かせてくれた。深く落ち着き、ズシッとしながら音がきれいに伸びていくピアノの音色と美しい演奏を堪能できた。実は当盤はその会場で入手したのだが、正解だった。この演奏会と当盤のシューベルトを聴き、もっと彼女のディスクが増えてもいいと思うし、聴かれるべきだと思った。(今まで聴いてこなかった自分は棚に上げているが…)

    ささやかな希望だが、できれば浜離宮朝日ホールの公演の曲目を同じ楽器で録音してもらいたいものだ。

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     2024/10/12

    この盤で浴びることになる月の光はいつもと違う。
     当盤の目玉は何といってもソナタ14番だろう。レルシュタープの「月光」発言があろうとなかろうと幻想的な雰囲気の中で揺れる情感は古今のピアニストのインスピレーションを湧き起こしてきた名曲だが、ここに聴かれる演奏は過度な情感移入に偏らず、理性的な感情の発露が魅力的。

     今までの「月光、かくあるべし」な意識や演奏法(シフ曰く楽譜の指示とそれを実現するためのペダル等の使い方)を刷新するかのような音楽が清冽な録音であらわされる。なのに幻想曲風ソナタとしての品格や雰囲気は十分に感じられるのだからおもしろい。
     
     他の3曲も月光ソナタの影に回ることがない佳作揃い。どれも美しく豊かな響きとフレッシュな演奏が私たちの心をワクワクさせてくれる。「葬送」「幻想曲風」「田園」という通称(または作曲者の命名)があるが、どう捉えるかは私たち次第。シフの演奏は通称に左右されず音符からどのような表現が可能なのか、ベートーヴェンの実験精神をそのまま本人が楽しみながら表してくれている気がする。それをどうやって受け入れるのか、それこそが音楽鑑賞の醍醐味となるのだろう。聴いてみて、どんな「月の光」を感じるのか…ぜひ手に取って聴いていただきたい。

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     2024/10/10

    すばらしいコースメニューにはすばらしいデザートがつく。そう思わせるこのアンコール集。ベートーヴェンのソナタ・ツィクルスの後に弾かれたアンコールだが、スタジオ録音で既に聴いたはずの曲もここで改めて聴かされてみると、初めてその曲を体験したかのような新鮮な気持ちになるのに驚かされた。

    ベートーヴェンを(ディスクでも確認できるように)あれだけのフレッシュな解釈と見事な手腕で演奏した後、シフは(彼のコンサートを体験した方なら誰しも感じる)音楽を共有することができたという幸せな高揚感の延長線上に、これまたフレッシュな演奏を聴かせてくれるわけだ。音の間から感じる、心地よい疲れと、演奏者と聴衆が共に音楽を共有できた幸福感と満足感。そんな幸せな瞬間がこのディスクには記録されている。小曲の詰め合わせと侮るなかれ、コンサートの雰囲気もこの中には詰め込まれている。

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     2024/08/17

    現時点でキースの「最後に近い録音」のリリース。そんな意味でも貴重な記録だ。


     当盤における演奏…彼の即興演奏の旅はライブ全体を通して「どこに連れていかれるのだろう」という思いと、「どこに連れて行ってくれるのだろう」という期待で進んでいく。まったく先の見えないインプロビゼーションゆえ、その考えは一層強まる。彼の創造の最前線に立ち合い、その空気を共有する緊張感と垣間見えてくる光景に息をのむ。その光景は一瞬で後ろに過ぎ去り新しい光景が上書きしていく。曲を分解して分析し論じるほどの耳を私は持ち合わせていないがその空気はぜひ皆さんにも感じてもらいたい。そしてこの旅の一番最後に見えてくる景色が「 It’s A Lonesome Old Town」と「Answer Me My Love」。ここに辿り着くために今までの旅があったのかと感じ入ってしまう。これ以上ないほどの深く切ないキースのピアノに、感情が強く揺り動かされていく。ECMならではのジャケット写真にも通じる景色をともに感じてみていただきたい。

     
    ここに編まれたキース・ジャレットによる音楽たち、その一期一会の音楽はもう聴けなくなるのだろうか…。過去の未発表録音から(トリオ作品も含め)新しい「旅の記録」が出てくるのを静かに待ちたい。

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     2024/08/15

    ドラマでもオペラでもシアターピースでもない、『歌曲集「水車小屋の娘」』のディスクと感じた。様々な歌手が、いろいろな角度からこの「水車小屋」に光を当てているところだ。だからこそ面白いのだが、このハッセルホルンのディスクもまっとうな「水車小屋」に仕上げてきていると感じた。特に感情を高ぶらせたり感覚に訴えたり声高にあの若者を演じない。といっても何もしていないわけでもない。至る所、大事な部分や言葉、フレーズで彼独自のメッセージを送ってくれる。それは皆さんが聴かれてみて感じていただきたいところだ。

     素人の私でも判りやすいのは速度や強弱のメリハリ、声音の上手な使い分け。いろは坂のような曲がりくねった坂道を一本調子でアクセルを踏み続けることをしないのと同じように、歌の中でゆっくりと進んで徐々にアクセルを踏んでいったり、強く踏み込んだ後に弱く抑えて歌と詞に活力を与えている。(第1曲「Das Wandern」の「Die Steine selbst〜 」の部分で石臼の動きや重さをうまく、わかりやすく伝えて、しかも音楽が単調にならぬように気を配っているところなどがその代表) あえて贅沢な注文を出すなら声に勢いがあるあまり、しっとりと哀しさをしのばせてほしいところで朗々と歌われる部分が垣間見られることだろうか。

     それにしてもこのレーベルのリリースの勢いと品質の高さと言ったら…。「水車小屋」でもこのハッセルホルン盤が2022年11月の録音、そして先に入手しレビューにも書かせてもらったユリアン・プレガルディエン盤(カタログNo : HMM902739)が2023年11月録音。 歌手(そしてバリトンとテノールの声質)が違うからといってこんなに短期間に同じ曲を出さなくてもと思うくらいの勢いにうれしさを感じる。見事に乗せられて両方入手してしまった輩がここにいるのだから。それぞれ歌手の個性と芸の高さを満喫できるのが何よりも嬉しい。しかも「水車小屋」という素晴らしい作品で。

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     2024/08/10

    これからが楽しみなリート歌手がまた一人。名前はハッセルホルン。プログラムの妙もあり、手にしてみた。

     レビューにある『フィッシャー=ディースカウの再来かと思うような』というキャッチも頷けるような声の質と歌い口。幾分艶を消したような光沢の少ない色合いの落ち着いた声と思う。歌に対して正攻法で歌う系統の歌手と感じた。個人的に諦観や余韻を表現してほしい歌(D774など)でいくらか元気がいいようにも感じたが、そこはこれからいろいろな歌曲を経験することで聴かせてくれることだろう。全体として、丁寧に歌を解きほぐしていくタイプの歌手とも感じた。

     「美しき水車小屋の娘」(2022年録音)もリリースし、これもこれから聴いていくつもりだが、2028年までにシューベルトが晩年に至るまでの数年に創られた歌曲を中心としたディスクを発表する予定とのこと。これは楽しみな企画だ。ハッセルホルン…今後も注目していきたい歌手がまた一人。

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     2024/08/08

    数ある同曲の盤の中でも特異で、だからこそ持っておきたいディスクだと思う。


     入手後、当盤を数回、更にテノール歌手で数点(ボストリッジ2点、シュライアー、父プレガルディエン2点、パドモアなど)聴き比べしてみたがやはり当盤の立ち位置は特異。ボストリッジが主人公に憑依したかのような歌唱、シュライアーは詩と音楽を調和させた端正な歌唱、パドモアは傷つきやすい繊細な主人公の様を詩によって表現し、父プレガルディエンはリリカルにそして爽やかに(なればこそ逆に若者の、この恋物語の悲劇性が浮かび上がってくる)歌い上げている。

     なら、当盤のプレガルディエンはというと、詩に対し一体化を図り、そこにのめり込む。そして詩(または言葉)が持つエネルギーや感情を音楽にぶつけていき、結果としてメロディーが変わり歌唱というより呻きや叫びや独り言のように歌が楽譜から逸脱することに繋がっていく。  即興的な歌い口、メロディーの改変をちりばめるやり方なら、父プレガルディエンが2007年の録音(Challenge Classics)で既に出ているが、子プレガルディエンはそれを違う角度から解釈し、さらに先鋭化させ詩の意味に迫ろうとする鬼気すら感じる。 ベザイデンホウトの伴奏もそこを見事に支えて彼の表現が独りよがりにならぬよう、意味を持たせようとしているように思える。いわばユリアンが水車小屋の外に飛び出そうとするかのような勢いで表現するのを、ベザイデンホウトのフォルテピアノ(とても良い音だ)で水車小屋の中にうまく滞在させているかのよう。

     聴き手によってはこの表現を「冒涜」と解釈する方もあるだろうし、「表現の極地(または極致)」と受けとる方もいるだろう。歌曲と呼ばず、詩に音がついたものと捉えることもできる。それだけユリアン・プレガルディエンとベザイデンホウトの取り組みが「水車小屋」に深く、そして強く踏み込んでいると私は思う。故にその評価もかなり分かれると推察する。正直いって私の意見もまだ決まりきっていないことを告白しておく。「定番」とか「水車小屋のベスト1」ということはできないが、それでもこのディスクを入手したのは損と思わない。それだけの価値があるディスクだと思う。何度も聴くのは根気がいるが、何度も聴かないと彼らの表現に追いつくこともできない。なかなか大変な「水車小屋」なのは確かである。だからお薦めしてみたい。

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     2024/07/30

    当シリーズ第4弾。待望の「渦」を含む美しい一枚に仕上がった。「渦」は2019年サントリーホールでの世界初演(望月京との個展。2人のどの作品もすばらしかった)で耳にして、今までにないような細川の勢いを感じたのを思い出させてくれる。その次の年からコロナ禍の渦に巻き込まれて世界はとんでもない方にいってしまったが、それでも新譜として発表される時期になったのは喜ばしいかぎりだ。改めて聴いてもいつもの細川の語法でありながら、より深みを増した「音響のうねり」とその果てにみられる彼岸のような美しい静けさ。
    「ゲネシス(2020)」に聴けるヴァイオリンとオケによる「生のドラマ」も聴きごたえがある。彼の協奏曲によくみられる「個の楽器」「オーケストラ」で描かれる「見立て」の楽想や「自然への畏敬」はここでも健在。
    最近初演されたもう一つのヴァイオリン協奏曲の録音もぜひ期待したいし、2025年上演予定の新作オペラ「ナターシャ」も収録してほしいものだ。今後も細川俊夫の作品をじっくり追いかけてその響きに身を浸してみたい。他の盤のレビューでも述べさせてもらっていることだが、現代音楽と肩ひじ張らずに聴いてみてほしい。少なくとも私は現代音楽としてより精神世界の体験として、閑けさを心に取り戻す材料として彼の音楽に親しんでいる。そんな聴き方でもお薦めしたい。

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     2024/02/13

    鏡の迷宮に迷い込んだような曲集という印象を持った。「瞑想」というアルバムタイトルからすればもう少し静かで穏やかな曲集かと思った。が、数回聴いて前述のとおり、鏡の迷宮に迷い込みその光や映る影や気配に眩惑され、自分が果たしてどこにいるのか、そもそも自分が本当にそこにいるのか・・・そんな感覚になった。音はキラキラと変化し、楽想も変容する。しかし外的にあちこちを旅するような感じでなく、自分の内面を鏡で視るような不思議な感覚。私としては「瞑想」というより「沈思」といった言葉の方がこのディスクに合うのでは、とも感じる。シュタイアーの自作『Anklange』には特にそういった感触があると思う。一般的な意味での瞑想を考えるより、チェンバロからはじき出された音とその余韻である響きを静かに、そして深く聴いてその音の向こう側にある「何か」を考える・・・そういった意味で「瞑想」を捉えてもらうとよいのではないだろうか。シュタイアーの意欲作、ここにおすすめしてみたい。

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     2024/02/06

    有名な大作揃いでない不利を感じさせない良盤といえるだろうか。
    響き渡る壮大なオルガンを想像するより、会衆の親密な集まりで流れる小さな音楽を想像してもらえたらいいのではないだろうか。
    派手ではないがじっくりとオルガンの豊かで温かい響きを愉しめるのがおすすめ。大曲だとどうしても曲の構造とか音の絡みに耳がいってしまうがこういった小曲集だとオルガンの滋味深い響きの変化に耳を傾けていけるのに気付いた。演奏時間も短いため集中も途切れにくい。私のような聴く耳を持たない者には親切な構成ともいえそうだ。

      ところでこのシリーズ、ジャケット写真デザインが巻貝尽くし。パイプの形状のイメージ絡みなのか、巻貝の巻き方の数理的な法則(があるらしい…)からパイプの音出しの数理的な仕組みを連想したものなのだろうか。4巻目の当盤でようやくその辺に思い当たった。本来の意図は判らないがデザインの美しさも見ていて愉しい。個人的な感想だが、良いディスクはジャケットデザインも良いと思う。

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     2024/01/11

    クララ(または女性)の立場から見たシューマンのリートという印象を持った。先日入手し愛聴している「シューマン:『詩人の恋』、クララ・シューマン:歌曲集 ユリアン・プレガルディエン、エリック・ル・サージュ、サンドリーヌ・ピオー(カタログNo:ALPHA457)」とペアで聴くとなかなか面白いと思う。
    プレガルディエンがロベルトの立ち位置からクララを歌い、当盤のサンプソンはクララの立ち位置からロベルトを見るというのが私の見立て。
    プレガルディエン盤の『詩人の恋』の4曲目「Wenn ich in deine Augen seh’ 」の中で「Ich liebe dich」と歌う部分にピオーの声を忍ばせクララを想起させる演出にハッとさせられるが、当盤では「子供の情景 op.15」をところどころに登場させロベルトの存在を表しているような気がしてならない。

    曲目、配置、伴奏、そしてサンプソンの清楚であり、かつロベルトの「在りし日」を回想しているかのような歌い口に静かな感動をもらった気がする。お薦めです。

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