無人島 〜俺の10枚〜 【森は生きている 連載編 〜第二弾 : 谷口雄〜】
Tuesday, October 28th 2014
無人島 〜俺の10枚〜 【森は生きている 連載編】 一覧
『グッド・ナイト』 森は生きている [2014年11月19日 発売]
予てよりバンドが血肉化してきた数々の有機的な音楽遺産に加えて、このセカンドアルバムでは、サイケデリックロックや、時にはプログレッシブロック〜アヴァンギャルド的な語法も交えつつ、枚挙するに戸惑われるほどの数多の要素や音楽美が溶かし込まれている。レコーディング〜ポストプロダクションにおいてもバンドの完璧主義が全面的に敷衍され、ベーシックトラックに於けるアナログテープ録音から、様々な楽器音・電子音の重層的配置、更にはリーダーの岡田拓郎自らによる偏執的とも言える精緻かつ玄妙なミキシング作業までを通して、生鮮と爛熟が奇跡的にバランスする、圧倒的な音楽世界が作り上げられている。そして、ファーストアルバムでも独自の美意識を薫らせていた歌詞表現も更に奔放な羽ばたきを得て、音像と詩的心象がただ一つに融解していくように、聴くものを幻夢の世界へと誘い混む。それは恰も、歴史に晒されながらも清廉を保つ芳醇なシンフォニーのようでもあり、かつてモンパルナスに集った吟遊の芸術家集団による狂騒歌のようでもあり、老練の工人によって紡ぎ出される生活歌( ブルース) のようでもあり、そして、いつか見た未来を朧気に映し出す幻燈の静寂音のようでもある。2014年という時代に屹立する、森は生きているという純音楽集団にしか創り出し得ない圧倒的名盤にして孤高の作品が、ここに誕生した。【HMVオリジナル スペシャル音源特典】
森は生きている「early tape of “グッド・ナイト” vol.2」CD-R
[収録内容]1.プレリュード demo
2.青磁色の空 demo
※特典は無くなり次第終了となります。ご購入前に必ず商品ページにて特典の有無をご確認下さい。
『グッド・ナイト』収録楽曲
- 01. プレリュード
- 02. 影の問答
- 03. 磨硝子
- 04. 風の仕業
- 05. 痕跡地図
- 06. 気まぐれな朝
- 07. 煙夜の夢 (a,香水壜と少女 / b,空虚な肖像画 / c,煙夜の夢(夜が固まる前))
- 08. 青磁色の空
- 09. グッド・ナイト
森は生きている プロフィール
岡田拓郎(Gt.,etc.) /竹川悟史(Vo.,etc.) /谷口雄(Pf.,etc.) /増村和彦(Dr.,etc.) /大久保淳也(Flute,Reeds, etc) 柔軟な吸収力と表現力を武器に、滋味豊かでいて瑞々しい独自の音楽を生み出す「純音楽楽団」、森は生きている。 2012年、リーダーの岡田拓郎を中心に東京で活動を開始。その年の末、ファーストCD-R「日々の泡沫」を発表し、自主制作盤にもかかわらず各レコード店にて軒並みソールドアウトを記録。2013年にはP-VINE RECORDS よりファースト・アルバム『森は生きている』をリリース。音楽シーンを代表する作品として各界から高い評価を得、発売を記念して行われた各地でのリリースツアーも大盛況のうちに終える。その後もさまざまなイベントやフェスへ出演するなど活発な活動を繰り広げる中、2014年にはファースト・アルバムのアナログ盤をリリース、それに合わせバンド初となるワンマン公演を東京渋谷WWW にて大盛況のうちに開催。11 月には待望となるセカンド・アルバム『グッド・ナイト』をリリースする。 カントリー、ソフトロック、サイケ、スワンプロック、アンビエント、モンド、トロピカル、ジャズ、ブルース、アフロ、クラシック、現代音楽etc…数々の音楽遺産を深く咀嚼しつつもあくまで現代的な表現として昇華する有機的且つ先鋭的なプロダクション、卓越した演奏、そして仄かに文学の匂いが薫る歌詞世界。森は生きているの奏でる音楽が、時代の心象を儚く切り取るように、そこここへ満たされていく…。 http://www.moriwaikiteiru.com/ |
無人島 〜俺の10枚〜 【森は生きている 連載編 〜第二弾 : 谷口雄〜】
The Jayhawks 「Tomorrow The Green Grass」数多のミュージシャン方がこの企画に参加してきたことと思うが、実際に無人島の地で過ごしたことがあるのは私くらいではないだろうか。十代の頃、仲間と連れ立って瀬戸内海の無人島へ。当時のことを思い出すには、このアルバムの力を借りる必要がある。ジェイホークス、私のルーツ。マーク・オルソンとゲイリー・ルーリズの少し危うげなハーモニーも、そのエバーグリーンな演奏も、若い私にアメリカ音楽の扉をノックさせるには充分すぎるほどだった。この46分の物語が終わらぬうちに、無人島体験の思い出とともに、私のお気に入りのレコードたちを紹介したいと思う。The Band 「The Band」「無人島」。これほど少年の冒険心をくすぐる言葉はないだろう。とはいえ私の体験には残念ながら、船が難破した挙句辿り着いたとか、目が覚めたらそこにいたとか、そういうドラマチックな展開があったわけではない。春休みの計画。予定は一週間。終わりの決まっている無人島旅行なんて!まずは東京から鈍行を乗り継いで乗り継いで、丸一日を費やす鉄道の旅だ。当時の私は、今はなき吉祥寺のHMVのワゴンセールでザ・バンドのセカンド・アルバムを買って、彼らの伝記を読んだりしていて、放浪者のような暮らしに憧れていた節がある。たかだか二十時間の鉄道旅行では何が分かるわけでもないのだが、まだ尻の青いガキだった私は山陽本線のボックスシートに丸くなって、ホーボー気分で悦に入っていた。そして今と変わらず、ザ・バンドのセカンドは人生で一番大切なアルバムだ!と心に誓っているのだった。 GROUP 「Before Turning Off the Light」私たちはようやく港に着いた。地元に住む人によれば、その島には一つだけ井戸がある、だから飲み水の心配はいらないよ、と。一安心。当時の私たちは、自転車に乗って半島を一周したり、山奥の雪原に掘った穴で何日間か過ごしてみたりと野営の経験だけは一人前だったので、水さえあればどうにでもなる自信があったのだ。食料を買い込んで、意気揚々とチャータした漁船に乗り込む。海は穏やかで、船酔いにはならずに済んだ。短い時間ながらも快適な航海、名前も知らない島の間を縫っていく奇妙な体験のお供には、このアルバムを挙げたい。海の深い群青色と、島に息づくものたちが構成する深いビリジアングリーンと、そして空の色とが、油絵具というよりは顔料そのものの細かい粒子のように混ざり合っている光景。素晴らしいインストバンドも同じで、音の粒が綿密に絡み合っていながら、しかし完全に形を失うことなくそれぞれの楽器が意思を持っている。 Barry Mann 「Survivor」船はお目当ての島にたどり着いた。どうしてこの島を選んだのか今となっては思い出せないのだが、ガイドブックで読んだか、地図で見つけたか、まあそんなところだろう。小さな島だった。砂浜に上陸し、船に別れを告げて、まずは例の井戸を探しに出かけた。浜から少し内陸の方に登って、草むらを入ったところにその井戸はあった。ポンプは錆だらけ。恐る恐るレバーを引いてみるが、びくともしない。これはまずい。どうにか蓋を開けて中を覗いてみると、泥や苔、その他微生物の死骸で構成されたもの。そういうものだ。急いで今来た道を引き返したが、時既に遅し。船は遥か沖、大声を張り上げても、もちろん携帯電話の電波も届かない。迎えの船が来るまではあと五日。かくして私たちの、ちょっとしたサバイバルがはじまった。 Don Shirley 「With Two Basses」ひとまず飲み水を確保しなくては。港では意気揚々の豪傑だった私たちだが、実はそれぞれの水筒、それから十リットルほどのタンクに水を汲んであった(備えよ常に、が私たちのモットーだ)。しかし私たちは総勢十二名だ。五日間を過ごすにはあまりに少ない。そこで島をくまなく探検し、飲み水を探すことにした。島の中腹は木が覆い茂っていて、さながらジャングルのようであった。得体の知れない動物の骨が転がっていた。そういうものだ。それから、戦時中に掘られたか、防空壕のような穴。良く分からないコンクリートの塊、その他。発見の連続。 このジャマイカ人ピアニストの五十八年作にも、聴くたびに発見がある。一台のピアノと二台のコントラバスのみという珍編成を巧みに束ねた、信じられないくらいにダイナミックな作品。1曲目の「ポーギーとベスのテーマ」は感動的なほどめまぐるしく、無人島での冒険譚にぴったりだ(余談だが、「野球ジャケ」というのも高得点)。 Judee Sill 「Judee Sill」結局島からは碌な飲み水を手に入れられず。仕方がないので、三時間に一回、持ち込んだなけなしの水から「コップに半分だけ」飲んで良いというルールを作った。民主的なルール形成。それから、食材として用意していた野菜も、水分補給にずいぶん役立った。若さゆえの適応力で夜になる頃にはすっかり慣れ、テントに入った私たちはようやく十代の少年らしい事柄―主に女性のことについて語らいはじめた。十代の私たちと女性たちの名誉のために詳細は伏せるが、代わりに私の一番好きな女性シンガーソングライターの作品をここで挙げる。Bruce Cockburn 「High Winds, White Sky」後悔があるとすれば、島に楽器を持って行かなかったことくらい。私たちの野営は海岸にあったので、海岸線から太陽が顔を出したり、夕時になって太陽が海に沈んでいく様をはっきりと見ることができた。テントから少し離れた場所で焚き火があって、無造作に積まれた薪の隙間から夕陽が漏れる様は大変美しかった。ここにギターがあれば完璧だっただろう。私は元々ピアノ・プレイヤーだったが、十代の後半はギターに浮気していて、ブルース・コバーンが私のギター・ヒーローだった。このアルバムでフィンガー・ピッキングを研究して、変則的なチューニングに頭を悩ませたものだ。ジャケットは雪景色だが、柔らかく寄り添うメロディは、きっと真夜中の焚き火のように私たちを包み込んでくれるだろう。Kenny Vance 「Vance 32」その時私は一人きりで、右手に「金属たわし」を持っている。そして左手にはフライパン。洗い物は私たちの野営では日常の行為だ。しかし眼前には海原が広がり、見上げれば空と私を遮るものは何もない。ここが無人島であることが強調される。相変わらず飢えている喉。人の手が加えられているのは、洗い場のために仲間が掘った深さ三十センチほどの穴、だけ。こうなると、この島にフライパンやたわしが存在することが間違っている―いや、一種の罪であるようにさえ思えてくる。日常のガジェットが非日常になるとき、現実がぼろぼろと崩れていって(まるでディックの『調整班』みたいに!)、あの深さ三十センチの穴に吸い込まれていくような感覚があった。無人島生活でももっとも強烈な体験だった。後にこのアルバムを聴いた時に、なぜかこの奇妙な感覚がよみがえった。たしかに良質なシンガーソングライターものではあるのだが、カーニバルの雑踏がコラージュされていたり、時折ドゥ・ワップが混ざったりしていて、どこか怪しげで奇術的な手触りがあるからかもしれない。針を落とすとレコードの溝に吸い込まれそうで、そわそわしてしまう。 Bobby Charles 「Bobby Charles」無人島生活の終わりは、存外にあっけないものだった。三日目の夜も更けた頃、例によって砂浜で焚き火を囲んでいると、沖の方からうっすらと漁船が近づいてくるのが見えた。船はそのまま私たちのいる海岸にやってきて、ボビー・チャールズのような風体の漁師が物珍しそうに声をかけてきた。聞くと、漁で余った魚をこちらにくれるという。ありがたい申し出だが、私たちの答えは決まっていた―「魚より、水を!」―後生だから。考えてみると、「この島には飲み水が出る井戸がある」というのも結局のところ「Small Town Talk」だったわけだ。噂を信じちゃいけないよ、と。まさか無人島にまで来てそんなことを学ぼうとは。 結局その漁師の助けを借りて充分な量の飲み水を手に入れたが、安心しきったのかその後の無人島生活はすっかり緊張感を失ってしまった。弛緩した雰囲気のままお迎えの船を待つばかりとなった。 The Belmonts 「Cigars, Acappella, Candy」最後に一つだけ。ブルース・コバーンの項で、島にギターを持って行かなかったことを後悔していると書いてしまったが、島での暮らしに音楽が存在しなかった訳ではない。むしろ満ち溢れていたようにも思う。私たちは歌うことができた。それは野営を張った砂浜でもそうだったし、島の反対側にあるもう一つの海岸には大量の流木が(そして大量のゴミが)流れ着いていて、私たちはそれらを使って盛大なキャンプ・ファイヤーをした。これまでの人生で一番大きな炎を囲んで、夜通しアカペラで歌い続けた。気高きベルモンツのような美しさは無かったが、心は満たされていた。実のところ、いざ私が再び無人島に幽閉されたとしても、レコードのことなんて考えられないだろう、と思う。願わくばこのアルバムのタイトルのように、Cigarsと、Acappella、Candyがあれば生きていける―そしてもちろん、新鮮な飲み水と。しかし私の肉体が滅んでも精神が残るという思想に則れば、どういったレコードの記憶を携えて生きるかは、大変重要だ、とも思う。 |
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森は生きているが1stアルバムのさらに上いく圧倒的完成度のセカンドアルバム『グッド・ナイト』を11月19日に発表する。アルバムの発売を祝し、『無人島 〜俺の10枚〜 【森は生きている 連載編】』がスタート!毎週火曜夕方更新を目安に各メンバーがHMVの鉄板企画「無人島10枚」に参戦してくれます!発売週まで続く連載をどうぞお楽しみ下さい。
第一弾 : 増村和彦 | 第二弾 : 谷口雄
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HMVの邦楽バイヤーによる、邦楽専門アカウントです。独自の視点でオススメ作品をご紹介!特集・連載企画などもバシバシUpしていきますよ。
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