【エイチオシ】 『Smart Citizen』発売記念!吉田ヨウヘイ×岡田拓郎×柳樂光隆・特別鼎談
2014年6月24日 (火)
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*ファゴット・・・ダブル・リードを用いて鳴らす管楽器の一種。U字状の折り返しがあるが全長は3m近くある。別名バスーン。 |
吉田:ロックバンドのフォーマットで新しいことをやるっていうのには、2パターンぐらいあると思っていて、ひとつはギターの奏法が牽引しているパターン。ギターの弾き方がロックの時代を作っているんだっていう。例えばビートルズのコードの鳴らし方が、それまでのプレスリーなんかとはちょっと違って革新的だったりとか。僕の中ではその流れがニルヴァーナで止まっている。あのダルッとしたストロークのギタースタイルの後は、ほぼ過去の参照と組み合わせだけで、新しい弾き方ってあまり発見されてないっていうイメージがあるんですよ。なので、新しい音楽を作るためには、新しいギターの弾き方を見付けるっていうのがひとつあるなと。
もうひとつは、ロックバンドの感性のまま、そこにロックではなじみのない楽器を突っ込むっていうパターン。で、日頃ジャズとかを聴いているうちに、ジャズ・サックス奏者の感性じゃなくて、ロックバンドやポップスを作る人の感性でサックスを吹いたら面白いものができるんじゃないかなって思って、あえて自分でサックスを始めたんです。そこに他の管楽器も入れたフォーマットが、今のバンドのスタートになっています。だから、ギターロックやロックバンドに聴こえるっていうのは、そもそもそういう音を目指しているっていうところですごく必然的で、むしろ管楽器主体の音楽にはしていないです。
ロックバンドの人が他のジャンルの人にある種の優位性を持っているのは、そういったポップスを作るための感覚を研ぎ澄ませているからじゃないかなって思ってます。ロックバンドのスケールで新しいことをやるための感覚を鍛えるために、他の色々な音楽を漁って聴いてるところもあると思うんで。そこが僕らのいちばん注力しているところです。
柳樂:フルートとかファゴットみたいな楽器を入れたりすると、ミックスなんかにしてもやっぱりプログレっぽくなるっていうか、響きを重要視してどうしても空間を広くとりたくなると思うんだけど、このアルバムはすごくコンパクトになっていて。おそらく意図的になんだろうけど、そのスケール感も面白かったんだよね。
吉田:多分スフィアン・スティーヴンスとかをよく聴いたりしてたのが大きかったのかなぁ。彼のサウンドにもクラリネットとか管楽器がすごい入ってるし、アレンジは壮大だけど、ちゃんとロックバンドのスケールに収まるようにしているんですよね。あと、今のブルックリンに出てきてる高度な音楽教育を受けた人たちにしても、ロックバンドのサイズ感でやるっていうことをバカにせずにできている最初の世代なんじゃないかなって。
柳樂:そうだよねぇ。
吉田:クラシカルなものにするんじゃなくて、あくまでロックのフィルターを通して高度なアレンジなんかを突っ込むわけだから、すごくコンパクトになる。そういういいお手本が沢山聴けるような状況になったから、自分でも同じようなことができるようになったとは思いますね。
柳樂:そういう意味で、今の吉田ヨウヘイgroupは、ブルックリンっぽいのかも。
吉田:ブルックリンの影響を受けてるバンドって日本でも結構いると思うんで、目新しいことじゃないのかもしれないんですけど、以前よく引き合いに出されていたダーティー・プロジェクターズだったり、他にもスフィアン・スティーヴンス、アニマル・コレクティヴ、ナショナル、ベイルートがやってるみたいなことがある程度まねできる編成や環境ができつつあったので、一つのバンドからの影響だけで完結するというよりは、自分が憧れているブルックリン・シーン全体の雰囲気が捉えられるようにっていう意識はありました。ベイルート的な音の感じは、森は生きているの管楽器担当の大久保くんに参加してもらって出したりしましたし。
スフィアン・スティーヴンス
『The Age of Adz』 (2010)
ミシガン州デトロイト生まれ。若くして独学で音楽家を志し、大学生の頃には、オーボエ、リコーダー、バンジョー、ギター、ヴィブラフォン、ベース、ドラム、ピアノなど多くの楽器の演奏に精通していた。2003年、”出身州”をテーマとしたアルバム『Michigan』が世界中で反響を呼び、エリオット・スミス以来の驚嘆すべき才能と騒がれる。2010年にリリースされた目下の最新オリジナル・フル・アルバム『The Age of Adz』は、ルイジアナ出身の黒人看板画家にしてアウトサイダー・アートの巨人、ロイヤル・ロバートソンが手掛けた特異な作品群を全面にアートワークとして配置。エレクトロニック・サウンドに、緻密にアレンジされたホーン、ストリングス、さらには何層にも折り重なるヴォーカルとコーラスといった要素を大胆に融合させたユニークな音像を浮かび上がる衝撃作となった。また、サン・ラックス、セレンゲッティー(MC)とのプロジェクト「シシフォス」でも活動中。
『The Age of Adz』 (2010)
ダーティー・プロジェクターズ
『Bitte Orca』 (2009)
N.Y.ブルックリンを拠点とする、鬼才デイヴ・ロングストレス率いる男3人女3人の混合音楽集団ダーティー・プロジェクターズ。名実共に彼らをUSインディー・シーンを代表するグループへと押し上げた、2009年DOMINO移籍後初となる5thアルバム。フォーク、ソウル、ヒップホップ、西アフリカ音楽など様々なエッセンスを取り入れ、変拍子などを多用しながらもあくまでポップなサウンド。そこに、デイヴの脱力ヴォーカルとドゥーワップのような女性コーラスのレイヤーが折り重なり、また乾いたトーンのギターが宙を舞う。前作以上に中毒性の高い奇妙な心地よさは、つまり「グルーヴとは何か?」という問いに対するひとつの回答でもあるかのようだ。
『Bitte Orca』 (2009)
ベイルート
『Rip Tide』 (2011)
ニューメキシコ出身、サンタフェ育ちのザック・コンドン率いるベイルート。十代の頃にはジャズバンドでトランペットを演奏していたというコンドン(ほか、ユーフォニウム、マンドリン、アコーディオン、各種鍵盤楽器などを演奏する)は、自身のルーツとなるジャズやワールド・ミュージック(バルカン〜ロマ〜マリアッチ)のイディオムをロックサウンドに取り込むことによってバンドのアイデンティティを見出した。2011年にリリースされたこの3rdアルバムでは、シンプルなバンド編成によって、穏やかに、そしてメロディをさらに重視した広義のポップ〜フォーク・ミュージックをベイルート流に推し進めた内容となっている。コンドンのソングライターとしての成熟も感じさせる、異国情緒とメランコリーが心のヒダで交差するあまりにも切ない一枚。USインディ界を牽引する人気女性SSW、シャロン・ヴァン・エッテンもゲスト参加。
『Rip Tide』 (2011)
柳樂:ブルックリンの話が出るとすごく分かりやすいよね。いわゆる前時代的なプログレって印象としてデカい風景みたいなものになるんだけど、90年代の音響派ってもっと“箱鳴り”っぽい、天井は高いけどそこまで広くない、教会みたいな感じ。で、ブルックリンってもっとコンパクトで、残響も割りと抑え気味でタイト。でも密度はとてつもなく濃いっていうさ。今回PADOK(パドック)がマスタリングしてるんだよね? どういうリクエストを出したりしたの?
吉田:去年出たダニエル・クオンの『Rくん』とか、もちろんツチヤニボンドのアルバムとか、PADOKさんがマスタリングした音が好きだったんですよ。とにかく音圧があるっていうのと、ちょっと歪んで聴こえるっていうのが気に入ってて。低音域がバシッとくるより、高音がちょっと強くて耳に痛い成分が出てる。一時音圧競争が行き過ぎて、ちょっと前までは「音圧レベルを下げた方が良い音」っていう風に言われてたと思うんですけど、でも自分の耳からすると、同じ音量なら圧がある方が迫力あるものになるのは当然っていうのがあって(笑)。
あと、アルバム自体の尺が短くなるのがあらかじめ予想できていたから、1回聴いて“疲れる”ものにしたかったんですよ。繰り返しずっと聴ける心地よいものじゃなくて、疲れる音にしたかった。1回聴いてお腹いっぱいになって満足できるような。その疲れる音のイメージを明確に作ってるのが、僕の中でPADOKさんのマスタリングだったんですよ。さっきのロックバンドのコンパクト感ともつながってくるんですけど、サイズはコンパクトだけど、ガツンとくるっていう。
柳樂:狭いけどパンチがあって、しかも奥行きがあるよね。
吉田:コンプでバキバキに歪ますわけでもないのに、ピリッとしたところがあって、ハイも効いてるし、結構特殊な感覚を持ってる人ですね。
Rくん
『Rくん』 (2013)
「Rくん」は、在日韓国系アメリカ人ミュージシャン、ダニエル・クオンが一人でほぼすべての録音、編集、ミックスを手がけた録音プロジェクト。録音は、2012年から2013年にかけて、主に東京の小学校2校とアパート3部屋で行われた。小学校は、ダニエルの当時の勤務先であり、音楽室の音響がよく、グランドピアノやヴィブラフォン等の貴重な楽器があったことから必然的に録音の場となった。ノートパソコン、ミキサー、マイクの最低限の機材を持ち込み、土台となるトラックのほとんどを録音。さらに、新しい要素や音色を足すために、自宅アパートの窓から前を流れる善福寺川やその周囲の音を録音した。その他のドラムや木管楽器は友人に演奏してもらった。『Rくん』 (2013)
それで結局「Rくん」とは何なのか? 何かを示唆している映画のタイトルやブラック漫画の1コマみたいなものだと思ってほしい。この作品を自虐的ユーモアと真に音楽を愛する人々に送る。 「少量」ずつ聴くことを勧める。
このアルバムは成功したんじゃないですか。極めて厳しい音楽(笑)。 (岡田拓郎)
柳樂:まぁでも、最初からロックバンドの音を作ろうとしていたっていうのには、なんかすごく納得できた感じだなぁ。
吉田:岡田くんも多分そうだよね? ハナからロックバンドの歌モノがやりたいっていう感じだったり?
岡田拓郎(以下、岡田):いや僕、いちばん最初はフリージャズっぽいことやりたかったから(笑)。
一同:笑
岡田:フリージャズの人がポップスの曲を採り上げてる感じ。ビル・フリーゼルのライヴとか、大友(良英)さんがニュー・ジャズ・オーケストラでちょっとポップな曲をやってるような感じの演奏で、はっぴいえんどの曲をやりたかったんですけど、みんなヘタクソすぎてできないってことになって(笑)、じゃまぁロックバンドをやろうかっていうことになり。
吉田:僕が最初に森は生きているのCDを聴いたとき、とにかくポップスなんだけど全然甘くないなって、すごく感動したんですよ。レビューとかには、「懐かしい」とか「落ち着く」って書かれてたんだけど、ものすごい厳しい音楽だと思った。で、ブログとか見たら、フリージャズが好きって書いてあったから、「あぁだからか」って。それで会ってからはすぐに仲良くなれたし、「甘くない」ってところにすごく興味を持ったこともあって、岡田くんの言ってることはよく分かるかなって。
柳樂:今回の吉田くんのアルバムにしても、甘くはないよね。
岡田:その辺のさじ加減は難しいと思いますけど・・・このアルバムは成功したんじゃないですか。極めて厳しい音楽(笑)。
吉田:危ないな、それ(笑)。
岡田:でもポップスとして聴けるから。あと、部屋が面白かったっていうのもあるんだろうね。
吉田:そうだね。若菜ちゃんのおばあちゃん家が空き家で、そこにエンジニアの人を呼んで、ドラムも持ち込んだりして、管を含めた6、7割の楽器は全部そこで録ったんですよ。千葉の山奥で。
柳樂:へぇ〜、面白いね。
吉田:お金はかけなかったけど、時間を気にせず録れたっていうのは大きかった。
岡田:コンクリートのスタジオは面白くないっていうか、そこで録った音自体が90年代っていう感じがすごいあって。この録音は、そういう小さな木造の部屋の鳴りの音を今っぽくやったっていう成功例じゃないですかね。ブルックリンの人たちの音にしても、木造建築の部屋で録りましたっていうようなものが多かったりするんで。やっぱりお金がないっていうのが大事なんだと思うな(笑)。
吉田:そうかもね(笑)。今回にしても、P-VINEに入ることが決まって、お金を出してもらってから制作に入ったわけじゃなくて、完全に盤ができてから契約してもらったっていうちょっと特殊なかたちだったんですよ。だから、作ってる最中の熱い気持ち、あとは「うまくいかなかったらどうしよう・・・」みたいな焦りや不安とかがしっかり反映されていると思います(笑)。メンバー全員、うまく行くまですごい己を追い込んで作ったんで、そういう意味での厳しさは結構出たかなって(笑)。
柳樂:今回の吉田くんのアルバムにしても、甘くはないよね。
岡田:その辺のさじ加減は難しいと思いますけど・・・このアルバムは成功したんじゃないですか。極めて厳しい音楽(笑)。
吉田:危ないな、それ(笑)。
岡田:でもポップスとして聴けるから。あと、部屋が面白かったっていうのもあるんだろうね。
吉田:そうだね。若菜ちゃんのおばあちゃん家が空き家で、そこにエンジニアの人を呼んで、ドラムも持ち込んだりして、管を含めた6、7割の楽器は全部そこで録ったんですよ。千葉の山奥で。
柳樂:へぇ〜、面白いね。
吉田:お金はかけなかったけど、時間を気にせず録れたっていうのは大きかった。
岡田:コンクリートのスタジオは面白くないっていうか、そこで録った音自体が90年代っていう感じがすごいあって。この録音は、そういう小さな木造の部屋の鳴りの音を今っぽくやったっていう成功例じゃないですかね。ブルックリンの人たちの音にしても、木造建築の部屋で録りましたっていうようなものが多かったりするんで。やっぱりお金がないっていうのが大事なんだと思うな(笑)。
吉田:そうかもね(笑)。今回にしても、P-VINEに入ることが決まって、お金を出してもらってから制作に入ったわけじゃなくて、完全に盤ができてから契約してもらったっていうちょっと特殊なかたちだったんですよ。だから、作ってる最中の熱い気持ち、あとは「うまくいかなかったらどうしよう・・・」みたいな焦りや不安とかがしっかり反映されていると思います(笑)。メンバー全員、うまく行くまですごい己を追い込んで作ったんで、そういう意味での厳しさは結構出たかなって(笑)。
森は生きている
『森は生きている』 (2013)
岡田拓郎(g,cho,etc)、竹川悟史(vo,g,b,etc.)、谷口雄(pf,org,cho,etc)、久山直道(b,g,cho,etc)、増村和彦(ds,per)、大久保淳也(sax,fl,tp,cl,cho,etc)、東京の西域、武蔵野田園の気風を充分に吸い込み、柔軟な音楽センスと吸収力を武器に、エターナルで胸躍るポップスを生み出す若き純音楽楽団「森は生きている」。『森は生きている』 (2013)
2012年、リーダーの岡田拓郎を中心に東京で活動を開始。その年の末、ファーストCD-R「日々の泡沫」を発表し、自主制作盤にもかかわらず各レコード店にて軒並みソールドアウトを記録。平均年齢20代前半のバンドが奏でる、瑞々しさに満ちた独自のチャンポン・ミュージックが、現代の風街的心象を美しく切り取っていく。60〜70年代の滋味に満ちた音楽遺産を深く咀嚼したアナログで有機的なプロダクション、そして同時に、現代のインディーシーンの最先端へも深いコミットメントを示すその音楽は、細野晴臣『HOSONO HOUSE』やジム・オルーク『ユリイカ』から連綿と続く、ハイブリッドな新世代ポップの金字塔というべきもの。卓越した演奏と音楽的滋養、仄かに文学の匂いが薫る歌詞世界、ふくよかな美意識を醸すアートワーク。それらすべてが、アンファン・テリブルと称するにふさわしい。
cero やシャムキャッツ、ミツメ、スカートなど、現在の東京とその周辺に渡る新世代のインディー・ポップ・シーンの興隆は、今や大きな潮流となりつつあるが、そんな中「森は生きている」が決定的な存在となることは必至であろう。今後の音楽シーンにとっての金字塔となる、処女作にして堂々の「名盤」がここに誕生した。
柳樂:前回のアルバム『From Now On』ではなかったこと?
吉田:前のアルバムは、僕のソロみたいな感じで。メンバーは徐々に集まっていた時期でもあったんですけど、あくまで自分の考えを具現化するためだけのものでもあったんですよ。でも今回は、さすがにほとんどのメンバーと1年間活動を共にしてきたこともあって、僕が作曲やアレンジしてると言っても、各々のプレイアビリティや嗜好・性格なんかを加味しながらフレーズやラインを作ったりしているんで、メンバーのことを考えながらという点では共作感が全然違うんですよね。
メンバー間で、「ライバルの森は生きているに勝つためにやんなきゃいけないのに、そんなに頼っていいのか?」っていう話になって(笑)。 (吉田ヨウヘイ)
柳樂:今回、岡田くんも参加しているんだね。
吉田:共同プロデュースをお願いしたんですよ。8曲中4曲ぐらいで、最終的に岡田くんの手が入っていて。去年知り合ってすぐに仲良くなって、色々音楽の話をするようになっていく中で、彼が作っているものをいろいろ聴かせてもらうようになったんです。森は生きているとは別に、即興や電子音楽系の録音を並行して作ってるから、「あ、こんなヤツが日本にいるんだ」ってすごく驚いた。そういうのを色々と聴かせてもらってるうちに、この人は何かの作品物に対して、どんどん録音を足していって高いクオリティのものにするっていうのが得意なんだなって。ロックバンドやって、いい曲書いて、いいギターを弾くっていうのと同等かそれ以上に、ポスト・プロダクションとかプロデューサー的な能力が高いんじゃないかっていう印象を持ったんですよ。
今回まず、スティール・ギターで「ロストハウス」っていう曲に参加してもらいました。・・・ただ、プロデュースを頼むかどうかは最後まで迷ったんですよ。メンバー間で、「ライバルの森は生きているに勝つためにやんなきゃいけないのに、そんなに頼っていいのか?」っていう話になって(笑)。「あいつらが聴いてビビるものにしたいのに、最終的に作品の完成度を上げてもらうっていうのはアリなのか?」って(笑)。
柳樂:志高えなぁ(笑)。
吉田:(笑)自分としては、作曲とか演奏は普段練習してるから、そこに関して追い込むことは全然できるんですけど、いかんせん録音物を作った経験は乏しかった。だから、ミックスとか最後のバランスを取る作業に関しては、どこまで追い込めるか正直自信がなかったんです。もし自分みたいな人間がもうひとりいたら、息切れしたところでバトンを渡したいっていう単純なイメージと、もうひとつは専門的な編集者みたいな人に客観的にバシバシ意見を言ってもらえたらなっていう感覚もあって。ただ、その時点で岡田くんが自分と同じものを嗜好してるかどうかっていうのは分かっていなかったんで、もしかしたら自分の意図したところから外れていくんじゃないかっていう懸念もあったんです。でも、「ロストハウス」のスティール・ギターを岡田くん家に録りに行ったときに、「今、俺ブルックリンばっかり聴いてる」みたいなことを言ってたから(笑)。
岡田:(笑)
吉田:自分が目指してる方向と同じものを取り入れてるんだって、これ以上ない偶然とタイミングを感じて、だったら一番信用している人にお願いするべきかなって。1回自分で作った仮ミックスを岡田くんに聴かせたんですよ。そうしたら、「ブールヴァード」っていう曲を聴いたときに、「これじゃダメだよ」って言われて(笑)。「ライヴだったらこれでいいかも知れないけど、アルバムとしては耳に残らないから、ここまで行け」って、後日グリズリー・ベアの音源が送られてきたっていう(笑)。
岡田:(笑)別に頭ごなしに「ダメだ」なんて言ってないんですけど、引っ掛かりがあまりなかったというか、スーッと普通に気持ち良く聴けちゃったんですよ。この手の割りと平坦に進む曲って、ライヴだったらダイナミクスとかでいくらでも聴かせようはあると思うんですけど、ただ録音になったときに結構伝わりづらいから、そこをもっとイジっちゃおうかなと思って(笑)。
柳樂:たしかに、以前ライヴで観たときとだいぶ違うものになってるもんね。
吉田:エレクトロニカ的なプロダクションが入ってるんですけど、それは岡田くんのアイデアで最終的に突っ込んだものなんですよ。でも自分的には、結構死にそうな思いで作ったんで、あっさり「ダメだ」って言われて、「マジかよ・・・」って丸一日ぐらい悶々としてたんですけど(笑)。とはいえ、そもそも頼んだ理由が、息切れしたところでさらに追い込んでくれる人が欲しかったわけだから、岡田くんが言うのであればって、素直に聞き入れる方向に転換できました(笑)。
で、そのあと家に来てもらい、1日かけて打ち込みの音を作って、ポスト・プロダクション的なものを色々足しつつ出来上がったっていう感じです。「新世界」も同じような手法を踏襲して、ふたりで相談しながら作った曲ですね。「アワーミュージック」は、自分の中では地味に聴こえていたから、何か足さなきゃなって思っていたんですけど、岡田くんが「これはそのままでいい」って言ってくれたんで、判断は仰いだけど結果的にノータッチ。
柳樂:「前に住んでいた街」も、以前YouTubeに上がっていたものから随分変わったよね。
吉田:YouTubeに上げてた方がどちらかと言えばイレギュラーで。元々アコースティックで弾き語りで作った曲だったんですけど、その後バンドアレンジしてライブでやっていたので、普段は録音のような感じで演奏してました。この曲は、録音当日に西田くんがギターソロをかなり作り込んできたんですよ。なんか、ネルス・クラインを聴いて「これじゃイカン!」って発奮したみたいで(笑)。
岡田:でも、ネルス・クラインはジャズ派生だけど、西田ってクラプトン感あるよね(笑)。
柳樂:基本的にはロックだよね。
吉田:西田くんはその辺でもがいてるところはあるかも。ロックが出発点だから、ジャズ的なアプローチとか、それこそ自分になくてネルス・クラインにあるようなものを見付けて取り入れたいって思ってるんじゃないのかなって。
柳樂:なるほどね。でも今は、ジャズ・ミュージシャンがネルス・クラインの影響を受けてる感じだしさ。カート・ローゼンウィンケル以降のギタリストって、カートのやり方で行き詰まったところで、完全にネルスのギターからヒントを得ているから。
吉田:フリーキーな感じをみんなうまく出してきますよね。
岡田:ブランドン・シーブルックとか。
柳樂:フリーキーなバンジョー。
岡田:ネルス・クラインを45回転で聴いたような感じで、たまんないですよね(笑)。
吉田:今は、ああいうことをするのが全然ダサくない。
柳樂:でも、このアルバムでの西田くんの存在ってやっぱりデカいよね。
吉田:僕は、西田くんのギターの音さえ入れば、ロック感は担保できると思っているところがあるんですよ。割りとロックっぽくない音を使って離れていっても、西田くんのギターを入れればロック感を残していけるんじゃないかなって。
ネルス・クライン・シンガーズ
『Macroscope』 (2014)
ウィルコでの活動をはじめ、ジャズ、ロック、アヴァンギャルド、ポストロックなど、ジャンルもスタイルも異なる様々なミュージシャンたちと共演している異才ギタリスト、ネルス・クライン。そのソロ活動の中核を成すネルス・クライン・シンガーズ名義でのMack Avenue新作。本作では、これまでのトリオに加え、キーボードにチボマットの本田ユカ、パーカッションにブラジルの奇才シロ・バティスタ、さらにビョークとの共演でも知られるエレクトリック・ハープ奏者ジーナ・パーキンスと個性的なゲストも参加。そのサウンドもこれまで以上の多様性を獲得している。ジャズ〜フリージャズ〜オルタナティブロック〜ポストロックを紡いできたネルスのギターは、ポスト・カート・ローゼンウィンケルを模索する新世代ジャズギタリストにも大きな影響を与えている。ネルス・クラインが見つめる先に見えるもの。そこから、ジャズが様々なジャンルに侵食している現在のシーンが見えてくる。
『Macroscope』 (2014)
ブランドン・シーブルック
『Sylphid Vitalizers』 (2014)
「バンジョー界のスティーヴ・ヴァイ」とも称されるN.Y.ブルックリンのバンジョー奏者/ギタリスト、ブランドン・シーブルックは、ジェラルド・クリーヴァーのブラック・ホスト、ピーター・エヴァンス・グループ、ジェレミー・ユーディーンのリーダー作への参加などでも注目を集めていたバンジョー界の風雲児。自己トリオ、シーブルック・パワー・プラントでは、2009年と2011年にアルバムを発表(日本未流通)。アンプリファイド、エレクトリック・エフェクト、ボーイング(弓弾き)などを駆使しながら、時に”極悪バンジョーによる拷問”とまで言われるメタリックなノイズを撒き散らし、時に牧歌的でアーシーな香りを漂わせる、驚異の二重秩序スタイルを展開。本作は2014年6月リリースの最新作アナログLP+ダウンロード・コード。
『Sylphid Vitalizers』 (2014)
カート・ローゼンウィンケル
『Star Of Jupiter』 (2012)
1996年のリーダーデビュー以来、先進的なプレイと新感覚センスでその未来を切り開く現代ジャズ・ギターの”皇帝”カート・ローゼンウィンケルが、アーロン・パークス(p)、ジャスティン・フォークナー(ds)、エリック・レヴィス(b)という新カルテット率いて「宇宙」をテーマに、自身のスピリチュアル・ジャーニーを壮大なスケールで描き出し、また録音エンジニアには名匠ジェームス・ファーバーを迎え、じっくりと作り込まれた大作。ジャズを超越した幻想的なサウンドと、テクニカルでエモーショナルなギターが高揚感を誘う。今年3月には、アーロンほか、オーランド・レ・フレミング(b)、コリン・ストラナハン(ds)とのカルテットで来日公演も行なっている。
『Star Of Jupiter』 (2012)
レアグルーヴにしても、サンプリング視点とかで扱うとちょっとダサいんだけど、そんなこと全然知らない人がイチから捉え直せば、すごい面白いものになるんだよね。 (柳樂光隆)
柳樂:あと、えらいファンキーな曲も多くない? 特にベースが。
吉田:実は、「Jazz The New Chapter」の執筆に参加させてもらったときに、ブルックリンとジャズがつながっている話なんかをよく目にしてたんですね。みんなJ・ディラのビートに影響を受けてたりとか。ディラがサンプリングに使ってたいわゆるレアグルーヴ的な音源にしても、ちょうど自分がよく聴いてたものだったりしたんで、意識的にそういったレアグルーヴ色をロックに入れてみようかなっていうのは考えていたところだったんですよ。
柳樂:パツンとしたドラムブレイクとかも入ってるもんね。
吉田:レコード屋でバイトを始めたときに、クラブ・ミュージック的な視点のものなんかを周りに色々教えてもらったんですよ。レアグルーヴとか、ヒップホップのネタもの系ジャズとかって、ロックバンドをやってたり演奏することに夢中になってる人にとっては、取り入れることができる要素がたくさんあるにもかかわらず、そもそものアクセス機会が極端に少ない。ロイ・エアーズなんかはその象徴ですよね。クラブ界隈では有名だけど、バンドマンにはあまり知られてないみたいな。だから、そういうものを改めて拾って聴いてみたら、今バンドに取り入れられる音楽要素としても魅力は擦り減っていないなって、すごく感じていたんですよ。他にも、プラシーボとかユセフ・ラティーフとか、まだまだ使えるものがいっぱいあった。そうして貯めていたものを一気に吐き出したんで、レアグルーヴやファンク的な要素が曲の中に感じられるんじゃないのかなって思います。
柳樂:一時期、「レアグルーヴって今どうなの?」っていう空気があったけど、でも自分がまだ珍屋(レコード屋)で働いてた2000年頃、この感じがまた戻ってきたなっていう実感みたいなのがあったのね。当時のムーヴメントを知らない人が純粋にこの辺の音を聴いて、いいよねっていうさ。店でたまにリンダ・ルイスとか聴いてると、「これ誰ですか?」とかよく訊かれたもん。あとレアグルーヴじゃないんだけど、店内でUAを聴いてた若いコが、「コレいいですね。“ユーエー”っていうんですか?」って(笑)。ホント衝撃だった。90年代がすごい遠くなってるっていう感覚。だから、サンプリング視点とかで扱うとちょっとダサいんだけど、そんなこと全然知らない人がイチから捉え直せば、すごい面白いものになるんだよね。ロイ・エアーズとかまさに。
これは、森は生きているを最初に聴いたときに感じたことなんだけど、あの音の感じって、自分たちが大学生ぐらいに聴いていた感覚で言うと、完全にDJやトラックメイカーの人たちがサンプリングを用いて作る音楽だと思うのね。でも、この人たちにはDJ的なサンプリング感覚みたいなものがまったくないなって、それがすごい新鮮だったのを覚えてる。色んな音が混ざってるんだけど、90年代の感覚とは全然別。多分、「誰々のこのネタだから」みたいな前情報やバイアスが一切排除されてるところから消化してるからなんだろうけど。
岡田:そういう風に先に盛り上がっている人たちがいてくれたから、そのいいところと悪いところを精査できた部分はあると思う。逆に僕が90年代に音楽をやってたら、渋谷系みたいなことをやってたかもしれないし、レコードを聴きまくってるミュージシャンが90年代にいたら、まぁ必然的にああいう世の中になっちゃいますよね。
吉田:多分あの時代って、プレイヤー志向じゃない人がミュージシャンとして表に立つことが主流になって、しかもその「プレイヤー志向じゃない人の音楽」ということを強く考えること自体すごく価値があったというか。でも、その後みんな冷静になって、プレイヤーの方がいいことあるみたいな揺り戻しがあったわけで。いずれにしても、音楽が好きなのは大前提で、プレイヤーとしての気骨を大事にしてるかどうかが大きな違いだと思うんですよ。
僕らも、結構「これネタ的に使えるね」って言いながらレコード探して聴いてるんですけど、それを音楽的にかなり要素分解させて突っ込んでることもあって、元ネタが何かっていうのがほぼ分からないと思うんですよね。それがDJやトラックメイカーとの制作上での大きな違いかなって。
柳樂:だから、アウトプットされたものがかなり違うものになるっていうね。森は生きているにしても、そういうところがすごく新鮮だった。
岡田:鮮度が続くといいけどなぁ(笑)。
柳樂:(笑)でも、音楽自体の強さがあるからさ。例えばジャズにしても、70年代ぐらいまでは、「あ、これはビル・エヴァンス要素」「こっちはバド・パウエル」みたいなのがあったけど、マルグリュー・ミラーぐらいから、もう分かんないじゃない。さらに、ケニー・カークランド、ブラッド・メルドーになるともっと分かんない。解体と再構築が繰り返されすぎて。でも要素とは関係なく、今のジャズには、昔のジャズと比べても遥かに強度があるんだよね。
岡田:ある意味、それが当たり前なのかもしれないですよね。むしろ、90年代の切って貼ってのサンプリング手法に影響を受けた渋谷系の音楽が特殊だったのかもしれないけど、でもレコード以前の音楽がいかに発展していったかっていう話になると、絶対“切って貼って”ではないわけで。結局、精神的な部分と向き合って新しいものを作っていったんだと思うし。
柳樂:だから発想的には、ベッカ・スティーヴンスがアニマル・コレクティヴの電子音を生でやるとか、ロバート・グラスパーがレディオヘッドをジャズのフォーマットでやるとか、そういうものに近い気がする。
吉田:音楽的な特徴を切り取って、楽器を替えてやってみようとか。ベースのリズムがかっこいいから、これをドラムで表現してみようとか、そういうのは結構ありますね。多分、1曲に対して少なくとも5曲以上は元ネタがあるんですよ。
岡田:そんなにあるんだ。大滝詠一さんみたい(笑)。
吉田:フレーズを丸々拝借したものもあれば、全体のサウンドデザインやカラーを似せたり、Aメロ・Bメロ・Cメロでそれぞれリズム・パターンの参照があったり、本当に色々。例えば、「ブールヴァード」は、プラシーボのリズムと、ユセフ・ラティーフをNujabesがサンプリングした曲、それがテーマのメロディの発想の基になってます。
まったくのゼロからと、影響を受けたものをベースに作るのと、どっちがいいのか試してみたこともあったんですけど、結局、衝撃を受けたものを再構築して、さらにそれを超えようとして作り込む方が、自分に課すハードルが高くなるっていうか。そうして作ったものの方が、ゼロから作ったものより強度が上がるっていうのを個人的には感じてるんですよ。だから、何も考えずに作り始めるっていうやり方は、今は敢えてしてないです。
プラシーボ
『Ball Of Eyes』 (1971)
1971年発表の第1作にしてプラシーボ・サウンドを決定づけた代表作。同時期のUS 勢にはない独特のクールなアレンジとループ感丸出しのグルーヴィなサウンドは、まさしくレアグルーヴの鏡。本家マーヴィン・ゲイとひと味違った艶っぽさの「Inner City Blues」からプラシーボ・ワールドが全開。サム&デイヴのヒット曲「You Got Me Hummin'」は、当時流行したブラスロック風のホーン・アレンジを取り入れた重厚なサウンドに仕立てられ、「Humpty Dumpty」はJ・ディラはじめヒップホップ・クラシックの数多元ネタとして引用された代表曲。ボトムを支えるグルーヴィでループ感溢れる極太ビート、クールなハーモニーの中を複雑に絡み合うホーン・アンサンブル、それらが混じり合った極上のプラシーボ・サウンドを。
『Ball Of Eyes』 (1971)
Nujabes
『Metaphorical Music』 (2003)
ユセフ・ラティーフ「Love Theme From ”Spartacus”」ネタのクラシック「The Final View」を収録。それまでアナログの12インチ・シングルを中心にリリースを重ねてきたNujabesが渾身の力を注ぎ込んで完成させた2003年の初アルバム。ユセフ・ラティーフの本曲を多くのアンダーグラウンド・ヒップホップ・ファンに知らしめることとなった、美しくも儚い名曲「The Final View」ほか、「Luv (sic)」という名作を生み出したshing02とのゴールデンタッグによる「F.I.L.O」、Hydeout Productions の礎を築いたMC、サブスタンシャル&ペース・ロックの「Blessing it -remix」、サインのMCサイス・スターの「Lady Brown」など、Nujabesという類稀な才能を持つトラックメイカーがひとつの時代を築き上げたことを窺い知る歴史的名盤。
『Metaphorical Music』 (2003)
ユセフ・ラティーフ
『Eastern Sounds』 (1961)
1956年からサヴォイ、プレスティッジ、リバーサイド、インパルス、アトランテック、CTI、また自主レーベルYALなどに60枚以上のリーダー作を残すマルチ・リード奏者ユセフ・ラティーフ。柔らかなオーボエが奏でる「Love Theme From ”Spartacus”(スパルタカス〜愛のテーマ)」が、Nujabes「The Final View」ほか様々なアーティストにサンプリングまたはカヴァーされ、クラブ界隈で一気に需要が高まった1961年録音のプレスティッジ盤。東洋思想を前面に出し、異端と言われるそのプレイスタイルが奏でる至高のモード・ジャズは、当時のジャズ喫茶界隈での評価は今イチだったと聞くが、実際は「コルトレーンにも強い影響を与えた」というのだから、彼こそがジャズに新しい価値観をもたらした黒衣のジャイアンツだったのかもしれない。いずれの曲にも、一介のオリエンタルを超えた、土着(グローカル)と宇宙を感じさせ、尚ジャズの不文律をしっかり保った独特のユセフ節が宿っている。
『Eastern Sounds』 (1961)
柳樂:プラシーボっていうのは分かるなぁ。なんか、どちらも共通して“箱庭感”があるしさ。
吉田:当時あまり理解されなかったジャズロック的な感じを、今こういうロック文脈で表現するとすごいパワーあるなって思うんですよね。
柳樂:あれもさ、完全にプログレになりそうなものなんだけど、プログレじゃないしね。すごい不思議なサウンド。
吉田:そうなんですよ。なんであのビートで小じんまりした世界に収まっていたのか、本当に不思議ですよね。同時代の人たちはどんどんプログレに進んでいったのに対して、こういう具合にミニマル感のあるファンクを作ってコンパクトなところにとどまっている。デヴィッド・アクセルロッドなんかにしてもそうですけど、そういうところがすごい興味深いなって。
柳樂:大きいはずのものをコンパクトにまとめるって、それ自体が高度なことだし、ポップスに影響を与えやすいんじゃないかなって思う。ハンコックの「Speak Like A Child」だって、木管とか入っているのに異様にコンパクトで、ピアノトリオにしか聴こえないじゃん。で、吉田くんのアルバムにもそういう面白さがあるんだよね。
吉田:1曲の尺を5〜7分ぐらいに収めるか、それより長くするか、あとはポップにするかしないか、そういうところで明確なスイッチがあって。しかも自分の価値観に当てはめながらっていうか、そこは切り替えてやらなきゃいけないもんだとは思ってるんですよ。
もし「東京インディー」っていう括りがあるなら、多分こういう曲の作り方が、その中での逸脱した感じを作ってるんだろうね、このバンドの。 (岡田拓郎)
柳樂:今回、リズムとかってどうなの? 割りと分かりやすいロックっぽいのも多いじゃない。でも、ちょっとループ感のあるものもあったり。ディラっぽいビートとか。あと、妙にウワモノっぽくシンバルだけ叩いてるのもあるし。リズムはすごい考えて作ってるよね。
吉田:そうですね。意外に、ロックっぽいリズムの曲って元ネタがジャズだったりする場合が多いかも。ジャズのアルバムの中で、ジャズドラマーがロックっぽい8ビートを叩いてるものとか。珍しいから新鮮に響いたりするじゃないですか。そういうのを部分的に取り出して、そのまんま叩いてみようとか。「新世界」のイントロのドラムは、68年ぐらいのイギリスのジャズ・レコードから取ったんですけど。ジャズ・ドラマーがロックのビートを叩いていて面白かったんですよ。
柳樂:ジャズ・ドラマーが叩いたロックって変だもんね。よく分かってないから、やらされてる感がものすごくて(笑)。スティーヴ・マーカスのアルバムとか。ジャック・ディジョネット以降は、割とちゃんとしてるんだけどさ・・・でも、大谷(能生)さんは「ディジョネットも16ビートは叩けてない」って言ってた(笑)。
岡田:ラリー・コリエルが参加してるアルバムの8ビートもすごかったよね(笑)。
吉田:ゲイリー・バートンとやってる『Duster』だ。あれ最高だよね(笑)。たしかアル・フォスターとやってるアルバムもあって、そこでロックとかポップスを普通にやってるんだけど、最終的に何がしたいかよく分からない感じになってて、すげぇいいんですよね(笑)。
柳樂:ゲイリー・バートンって元々はもろカントリー畑の人なんだよね。で、ジャズロックになって、途中メセニーとやったりもして。しかもピアソラともやってるし、今はジュリアン・レイジとやってるでしょ。なんか一貫してるんだよね。アメリカのフォーク・ミュージックと民族音楽的なフォーク、その両方にしか関心がない。徹底的に白人なんだよね。
吉田:なんとなくですけど、どこかですんなりいかない感じになれば耳を引くっていうのが自分の中にあるのかもしれないですね。8ビートを叩いたときに、「これは8ビートだな」っていう安心感があると、そこに耳の焦点がいかなくなるから、サウンドの中でドラムが支えてくれる量っていうのがすごい減るんですよ。逆にそこが、どうしても気になっちゃうようなものになっていれば、ドラムが支えてくれるバランス量が増える。
うちのバンドって8人いる割に、比較的均等に支え合ってる部分が多いんで、ドラムにしても、シンプルで聴き流せるような感じだと成り立たないみたいなところがあるんです。
柳樂:実際、他のメンバーに自分の意図を伝えるときってどうしてるの?
吉田:ドラムだったら、自分が咀嚼したビートのイメージを、「こういう風に真似てくれ」って説明しながら、それを練習してもらったり。ただ、アレンジャーや作曲家志向な人じゃない限り、音源を丸投げして「ここから取ってくれ」って言われても、結構難しい作業なんだなってことを感じます。
柳樂:全部ギターで曲作ってるの?
吉田:今は完全に頭の中で作ってますね。電車の中とかで。さっき言ったみたいに元ネタをいくつか持ってて、それを混ぜ合わせたところでコードやメロディなんかが浮かぶ。それをメモって家で打ち込むっていう感じです。今回は、そういう風にほとんど楽器を使わずに作ってるんですよ。
岡田:すごいね。
柳樂:岡田くんはギターで?
岡田:僕、全部ギターで作っちゃいますね。吉田さんと待ち合わせすると、たまに「電車でいいアイデアが浮かんできたからちょっと遅れる」みたいなメールとか来るんですけど。フランク・ザッパかお前は、みたいな(笑)。
吉田:でも、そういうやり方で全部作ったのは今回が初めてで。昔はギターやピアノで作ってたんですけど、そうすると奏法上の制約を受けるし、その世界観に引っ張られちゃう気がして、あまりいい方向にいかないかなと思って。
柳樂:たしかにギターで作ってる感じしないよね。前のアルバムにはあったけど。
岡田:鍵盤で作ってる感じもないですよね。
吉田:普通にピアノで弾き語りできるようなことを、そのまま管楽器のハーモニーに置き換えたり、それだけで十分面白くなるとは思ってて。で、それはピアノで弾いちゃうと、当たり前だけどピアノの音が鳴っちゃうんです。
岡田:もし「東京インディー」っていう括りがあるなら、多分こういう曲の作り方が、その中での逸脱した感じを作ってるんだろうね、このバンドの。
吉田:だと嬉しいね(笑)。
柳樂:森は生きているもそうだと思うけどね。あんまり他と同じ枠の中にいるって感じはしない。
岡田:僕もそのつもりですけど。ただ、今回の吉田ヨウヘイgroupのアルバムはもっと逸脱してますよね(笑)。
吉田:それ、「売れない」って言われてる気がするんだけど(笑)。
柳樂:だって、とりあえず一回聴いてもよく分かんないしさ(笑)。
岡田:僕も分かんなかった(笑)。
柳樂:いや、もちろんキャッチーなんだよ、基本的に。なんか面白い音も鳴ってるしね。ただ、そもそも音がたくさん入ってるっていうところでさ。フルートやファゴットが鳴ってるのに、ベースはすごいファンキーで、しかもロックっぽい割りと自由なギターが入ってるって、これは噛み砕くの大変だと思うよ(笑)。
でもまぁ、あとは評価されればって感じだよね。ミュージックマガジンの年間ベスト10位ぐらいには入る気がするんだけどな。
吉田:入るといいけどなぁ。
柳樂:いや、そんな軽いもんじゃないから(笑)。
一同:笑
森は生きているがすごいスピードで上に行ったから、これは自分たちも成長しないと、やっぱり付き合ってもらうのが難しくなるなっていうのは感じてて・・・ (吉田ヨウヘイ)
柳樂:さっきの話に戻るけど、吉田くんは森は生きているやROTH BART BARONとの関係についてはどう思ってるの?
吉田:僕らと森は生きているとROTH BART BARONの3バンドって、そんなに盛り上がりきってないときに仲良くなって、その中で森は生きているがすごいスピードで上に行ったから、これは自分たちも成長しないと、やっぱり付き合ってもらうのが難しくなるなっていうのは感じてて・・・
岡田:そんなことないよ(笑)。
ROTH BART BARON
『ロットバルトバロンの氷河期』 (2014)
自主でリリースされた2枚のEPが絶大な指示を受け即完売。サマソニなど多くの注目イベントに出演し、すでに熱狂的なファンを獲得し始めている、中原鉄也(ds,p)と三船雅也(vo,g)の2人組バンド、ROTH BART BARON。遂に完成したデビューアルバムは、海外の空気までも時代の感覚として取り込んだ新時代のマスターピース。フリート・フォクシーズ、ボン・イヴェール、グリズリー・ベアなどが引き合いに出される、多種多様な楽器と壮大なサウンドスケープ。少ない言葉から紡ぎだす剥き出しの感情、満ちあふれた生命力は美しいメロディに乗って圧倒的な世界観を表現。
『ロットバルトバロンの氷河期』 (2014)
吉田:いや、結構迷惑かけちゃうと思ったんだよね、バンド同士の付き合いだから。あまりに差がつくと、先に行っているバンドが一緒にやる理由がなくなっちゃうから。知名度にしろ演奏力にしろ、どこかで付いていって、ビビらせたり、一緒にやったら負けるみたいなのを感じさせないといけないと思うんですよね。ただの友達っていうことではなく、本当に音楽が魅力的だなと思って付き合っているわけだから。
先に売れたっていう意味では、岡田くんもそうだし、ceroとかシャムキャッツとかにもすごい感謝してるところはあって。自分が岡田くんと同じぐらいの年齢のときって、リスナー志向の人が売れてるっていうことがあまりなかったような感覚があって。
このバンドをやり始めたときに、そういう同時代の人気のあるインディーズ・バンドのインタビューを読むと、音楽に対してかなり勤勉で詳しいことが分かって。色々な音楽を吸収して、しかもそれをオリジナルなカタチで打ち出そうとしてる。僕みたいなリスナー志向が強いタイプにとっては、すごく頑張りがいのある状況を作ってくれたんじゃないかと思って。
先に売れたっていう意味では、岡田くんもそうだし、ceroとかシャムキャッツとかにもすごい感謝してるところはあって。自分が岡田くんと同じぐらいの年齢のときって、リスナー志向の人が売れてるっていうことがあまりなかったような感覚があって。
このバンドをやり始めたときに、そういう同時代の人気のあるインディーズ・バンドのインタビューを読むと、音楽に対してかなり勤勉で詳しいことが分かって。色々な音楽を吸収して、しかもそれをオリジナルなカタチで打ち出そうとしてる。僕みたいなリスナー志向が強いタイプにとっては、すごく頑張りがいのある状況を作ってくれたんじゃないかと思って。
柳樂:例えばなんだけど、リスナーを多少突き放すことも必要だと思ったりする? 100%理解できるものを提示してもちょっと退屈かなみたいな。
吉田:まず自分が興奮するためにも、いいと思ったことを最優先します。そこで多少分かりにくさとか、敷居の高さが出ちゃっても致し方ないとは思いますけど、それでもできるだけ、誰が聴いても分かりやすい感じにはしようと。だから、自分の意図を分かってほしいとかも特にないです。いいと思ってもらえれば。
ただ作る側としては、焦燥感があったり、エッジの際に立たされているような状況じゃないと、結構集中して作れなかったりするんですよ。そういうヤバイ状態で作ってるっていう魅力自体を、何となくいい熱気として感じてくれたらいいかなとは思ってます。
柳樂:まぁでも、自分みたいなおっさんが喜んで聴いてるってことは(笑)、吉田くんの意図も含めてちゃんと伝わってるんだと思う。僕にしても、元レコ屋勤務でハードリスナーだからさ。そういう人たちが聴きたい日本のインディー音楽ってあまりなかったもん。そういう意味でも、最近はようやくというか、リスナーとしての感性で作り込んだちゃんとした音楽がたくさん集まっている感じはあるよね。
吉田:いやぁ、そう言われるとすごく嬉しいですね。
【取材協力:Pヴァイン・レコード】
吉田ヨウヘイgroup
「Smart Citizen」 リリース・ツアー
「Smart Citizen」 リリース・ツアー
6月29日(日)
名古屋K.D.ハポン
w/トゥラリカ、THE PYRAMID
7月12日(土)
京都UrBANGUILD
w/キツネの嫁入り、Turntable Films、middle9
DJ:田中亮太、岡村詩野
8月2日(土)
札幌SOUND CRUE
w/the winey been project、and more
8月3日(日)
札幌SOUND CRUE
w/SiMoN、and more
"Smart Citizen" release tour ONE MAN LIVE
8月28日(木)
渋谷CLUB QUATTRO
19:00 開場/ 20:00 開演
前売 ¥2,500 /当日¥3,000 (税込/整理番号付/ドリンク別)
森は生きている、ROTH BART BARONのメンバーがサポートでの参加が決定!
柳樂光隆 プロフィール
(なぎら みつたか)
1979年生まれ。東京都在住、島根県出雲市出身。音楽ライター/ジャズ評論家。元珍屋レコード店長。ジャズ専門誌、音楽誌を中心に、主にジャズ、もしくはジャズっぽいものについて寄稿。最近では、シャイ・マエストロ、クリス・バワーズ、エリマージ、テイラー・マクファーリンのライナーノーツを手がけている。監修・著書に『JAZZ The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』 (シンコーミュージック刊)がある。
(なぎら みつたか)
1979年生まれ。東京都在住、島根県出雲市出身。音楽ライター/ジャズ評論家。元珍屋レコード店長。ジャズ専門誌、音楽誌を中心に、主にジャズ、もしくはジャズっぽいものについて寄稿。最近では、シャイ・マエストロ、クリス・バワーズ、エリマージ、テイラー・マクファーリンのライナーノーツを手がけている。監修・著書に『JAZZ The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』 (シンコーミュージック刊)がある。
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