「ザンデルリンクとジュリーニ」
Wednesday, December 28th 2011
連載 許光俊の言いたい放題 第201回「ザンデルリンクとジュリーニ」
2011年は世界中でいろいろなことが起きた年だった。日本の震災、原発事故についてはもはや触れまい。思いがけず独裁者たちが次々に倒れたのも驚きだったが、どういうわけか私の周囲でも不運や不幸が信じられないほど頻繁に置き、生まれて初めて、こんな年があるのかと星の並びでも調べたくなったほどだ。これを書いている最中にも今年いっぱいでペーター・コンヴィチュニーがライプツィヒの主席演出家を辞めるというニュースが飛び込んできた。あまりにも突然で、劇場当局も唖然としているらしい。こんなに大晦日まで油断できない年も珍しい。青弓社から発売されてきた「クラシック・スナイパー」も今月発売の第8号でおしまいになった。これは、とにかく脱力系の、読者の幸福な微笑を呼び起こすことを目的としたシリーズである。中では第7号の「吉田秀和は本当に偉いのか?」が一番話題になったようだけれど、これはシリーズ中では例外的にシリアスな内容である。最終号は「クラシック被虐の悦び」という、少年少女なら本屋では買い求めにくい特集だ。親に見つかれば、怪しい本を読んでいるのではないかと勘ぐられるかもしれない。逆に、子供は親が変な本を読んでいるのではないかと誤解するかもしれない。
今年死んだ演奏家の中では、何と言ってもやはりクルト・ザンデルリンクが大物だった。すでに引退していたので、他の老指揮者が死んだときのようなショックはなかったとはいえ、もっと彼の生を聴いておけばよかったという思いは強まるばかりだ。
ケルン放送交響楽団との「田園」は、この指揮者のすばらしさをしのぶのに最高のCDである。「田園」のCDなんて数えられないほどあるけれど、この演奏はそのうちの最高の部類に入る。おそらくテンポはもっとも遅い部類に入るだろうが、ゆったりと奏される美しさはまさに陶酔的だ。ゆったりと言っても、わざとらしさや戦略っぽさは皆無である。常にリズムがきっちりしているから、テンポを落としても重くならない。ごく自然に、当たり前にゆったりとしていてきれいなのだ。決して録音が少なくないケルン放送響にとっても、これを上回る演奏はほとんどないのではないか。
中では「嵐」だけが別人のような厳しさで奏される。これを聴けばはっきりわかるだろう、「嵐」の楽章だけは、人間の音楽ではないのだ。人間の手に負えない、自然そのもの、宇宙そのものの音楽なのだ。それに対して、他の楽章はすべて憩う人間の音楽なのだ。私にしてもこれまでいったい何回何種類「田園」を聴いたかわからないが、この事実を恐ろしいまでに鮮やかに示してくれたのは、このザンデルリンクの演奏だけである。
音質もきわめてよい。間違いなく彼の代表盤のひとつである。
こうした過去の大家のライヴ録音としては、ジュリーニがベルリン・フィルを指揮した「マ・メール・ロワ」(これは昨年の発売のようだが)も何度も聴いた。現在とは傾向が異なる、まさに熟成の極致にあるかのような弦楽器がエロすぎる。管楽器との絡みも繊細微妙の極致で、柔らかに呼吸するさまには聴くたびに息を呑む。ジュリーニのこの曲の演奏としてはコンセルトヘボウとのCDがよかったが、ベルリン・フィルとの演奏はあれをも凌駕するのだ。ジュリーニとベルリン・フィルでは「セミラーミデ」序曲も異常に大げさな弦楽器や、これから突撃でもするんですかと尋ねたくなるような金管楽器がおもしろい。非ロッシーニ的ロッシーニ演奏として楽しめる。
こちらのCDには、シューベルトの交響曲第4番も入っており、冒頭の一撃からして壮大深刻で、いったい何が始まったかと思うほど。そのあとの暗さもすさまじい。快速になってからあとのチェロ、コントラバスの存在感も圧倒的だ。重量感を失わないまま軽快に踊ろうとする力業。この濃厚感はまさに肉と赤ワインの世界である。私はクラシックを聴くことは、基本的にこの濃さを味わうことだと思うので、こういう演奏は大好きである。
メヌエットに至っては、まるでショスタコーヴィチかというあまりの猛々しさに仰天間違いなしだ。フィナーレの流麗かつ立体的なアンサンブル、オペラのような劇性(弦のトレモロの不気味さなど、「リゴレット」のようだ)にも驚愕する。とにかくすさまじい演奏の徹底度である。こんなに強烈なシューベルト演奏、他にあっただろうか?
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
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Sym.6: K.sanderling / Cologne Rso +brahms: Double: Zehetmair Meneses
Beethoven (1770-1827)
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Giulini / Bpo: Schubert: Sym, 4, Franck: Psyche Et Eros, Debussy: La Mer
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¥3,630
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Ma Mere L'oye, Concerto For The Left-hand: Giulini / Bpo Block(P)+debussy: La Mer
Ravel (1875-1937)
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生きていくためのクラシック -世界最高のクラシック 第2章 光文社新書
MITSUTOSHI KYO
Price (tax incl.): ¥792
Release Date:October/2003
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