これは，中村紘子さんのチャイコンでなく，スベトラ先生のチャイコンです。あちこちに先生らしさが出まくって，聴いていて自然と笑みが出てきます。

リヒテルのチャイコンはカラヤンと共演した録音が有名ですが、今ひとつ息が合っていないような気がして余り好きになれませんでした。しかし、この録音はムラヴィンスキーとの息も合っており、安心して聴くことができます。透徹したようなオケの音色も魅力的です。ラフマニノフの方も、深く厳かなピアノの音色とザンデルリンクの紡ぎ出す温かみのあるオケの音色が何とも言えない調和を醸し出しています。なお、音がやや薄い印象もありますが、1959年のモノラル録音としてはそれなりにきれいな方だと思います。

　チャイコフスキーはロシア音楽特有の「暗さ」を全く感じさせない、豪華絢爛、輝くような演奏。ラフマニノフは旋律の歌い回し、音楽運びが抜群にうまい。ほとばしる情念とロマンに圧倒される。ワイセンベルクはカラヤンと一色同化した演奏で、テクニックも完璧。録音良好。多くの人に聴いてほしい名演。

チャイコもラフマニノフも両方すばらしいが、特にラフマニノフはホロヴィッツ最高の名演。これを超えるラフマニノフ３番はないんじゃないか。 これで音質がもう少しよければ文句なし。

チャイコはアルへ登場でone＆onlyとは言えなくなったが、ラフマニノフは王座を脅かす対抗馬不在で、カッチェン＆ショルティ(decca)ぐらい。やはり超強力カップリング盤と断言できる。リマスターによる音質改善にも大感謝。リヒテルの男臭いリリカルなロマンチシズムと超ド迫力ロシアンパワーは永遠に不滅。

ギレリスのみの評価。これほどの歴史的名演奏を廉価盤の中の廉価盤にするとは理解に苦しむ。７９年録音しては鼻声気味の音だがギレリスのライブとは信じられない千変万化な音響、完璧な解釈には言葉がない。騙されたと思って聞いて欲しい。