孤独にちなむ個性豊かで魅力的な歌を弦楽四重奏の伴奏で
ソリチュード(孤独)〜グリーンスリーヴズ、枯葉、ドイツ・リートなど
カタリーナ・コンラーディ&コスモス四重奏団
ルチア・ポップを彷彿とさせる美声と気品ある解釈により、ハンブルク州立歌劇場を拠点に各国で活躍中のソプラノ歌手、コンラーディの新録音。彼女の歌曲アルバムはどれも凝った内容ですが、今回はソリチュード(孤独)のさまざまな面を多様な歌によって探求して行くというコンセプト。共演はバルセロナのコスモス四重奏団。
声と弦の響きは相性が良く、弦楽四重奏の変化に富むしなやかな演奏が多彩な収録曲の魅力を際立たせています。
ヴォルフ×2
アルバム冒頭の「告白」(トラック1)は、ひとりっ子だったために親の愛情過多に苦しめられたことを嘆く曲。
アルバム最後の「祈り」(トラック26)は、主に対して慎ましい施しを求めるもので、ほどほどどの幸せが良いという気持ちが歌われています。ドイツ語歌唱。
イングランドの歌×2
恋人と土地との別れを悲しむ有名曲「グリーンスリーヴズ」(トラック2)は、オペラ歌手が歌うと少しグロテスクになることも多い曲ですが、コンラーディは清純な美を引き出しています。
「おお死よ、われを眠りに」(トラック24)は、ヘンリー8世の妻アン・ブーリン [c.1501-1536](エリザベス1世の母)が、処刑を待つ部屋で書いたとされる詩による作品。1611年に出版されたリュートのタブラチュア譜からアーノルド・ドルメッチ [1858-1940]が声とチェンバロのために編曲したものを、ピーター・ウォーロック [1894-1930]が声と弦楽四重奏のために編曲しています。英語歌唱。
カタルーニャの歌×2
バルセロナの音楽家、エドゥアルド・トルドラ [1895-1962]は、ヴァイオリニスト、弦楽四重奏団員、指揮者として活動しながら作曲もおこなっていた人物。作風は親しみやすく旋律の魅力にも恵まれ、カレーラスやロス・アンヘレスなどカタルーニャの歌手に愛唱されていました。ここでは代表作の「さだかならぬ歌」(トラック4)と「海沿いの緑のブドウ畑」(トラック22)を収録。耽美的な歌を聴かせています。カタルーニャ語歌唱。
シャンソン×2
ジョゼフ・コズマ [1905-1969]はブダペスト生まれのユダヤ人でショルティの親戚という家系。ブダペスト音楽院で作曲と指揮を学んだのち、ハンガリー国立歌劇場のコレペティートアとして働き、1929年からはベルリン国立歌劇場に所属するものの、ヨーロッパ中で「三文オペラ」などを大ヒットさせていたブレヒトの巡業団に参加する道を選び、ワイルやアイスラーと協働することになります。1933年にナチが政権をとるとフランスに活動の場を移し、7年後にドイツに占領されてからも滞在していたため自宅軟禁となり仕事も禁じられますが、作曲活動は秘密裏に継続。終戦直後に30分ほどのバレエ音楽「ル・ランデヴー」を作曲し、続いて依頼されたマルセル・カルネの映画「夜の門」の音楽に旋律を転用し、ジャック・プレヴェール [1900-1977]が、恋人と別れ過去を懐かしむ詞を付けたのが「枯葉」(トラック21)です。
ジャック・ブレル [1929-1978]は2千5百万枚以上を売り上げたベルギーのシンガーソングライター。シャンソン「行かないで」(トラック25)は、自身の恋愛の不手際にちなんで、恋人と傷つけ合い孤独になる男を描いています。2回登場するサビのメロディー(00:57〜、02:28〜)としてリストのハンガリー狂詩曲第6番のラッサン(アンダンテ)の旋律が引用されています。フランス語歌唱。
クララ・シューマン×2
ハイネの詩による「彼女の絵姿」(トラック5)は、失恋して彼女の肖像画に見入る哀れな男の歌。アメリカのバリトン歌手によって有名になった曲で、「僕は暗い夢の中にいた」の初期ヴァージョンです。
「フォルクスリート」(トラック20)は同じくハイネの詩による作品。駆け落ちした2人が不幸の中で死んで行くという歌ですが、書かれたのはシューマンとの結婚の年なのが皮肉です。ドイツ語歌唱。
シューマン:「6つの歌」
ロベルト・シューマン晩年、心を病み始めた時期に書かれた「6つの歌」は心理描写に長けた作品で、ここではクルターグの無伴奏歌曲と組み合わされています。
第1曲「心の痛み」(トラック7)は「ハムレット」で心を病んで溺死する寸前のオフィーリアの孤独な歌。
第2曲「窓ガラス」(トラック8)は、失恋の心の痛手と窓掃除の際にガラスが割れて血だらけになった失恋女の孤独を描写。
第3曲「庭師」(トラック10)は、白馬に跨り駆け抜ける美しい姫に見とれる孤独な庭師の話。
第4曲「糸を紡ぐ女」(トラック12)は、恋愛話で賑やかな糸紡ぎ部屋の中でひとり孤独な女の悲しみを描いた曲。
第5曲「森の中」(トラック14)は、ひとり森の中に入り、カップルの蝶や鳥、鹿を見て自分の孤独を嘆く男の話。
第6曲「夕暮れの歌」(トラック16)は、天空の導きに従い、悩みや不安を解消する決意を示す歌。ドイツ語歌唱。
シューベルト:「ミニョンの歌」
ゲーテによる「ミニョンの歌」D.877(トラック18)は4曲で構成されていますが、第1曲「ただ憧れを知る者だけが」は、竪琴引きの老人とのデュエットで、同じ歌詞をずらしたり一緒になったりして歌うため通常はカットされて3曲構成となり、曲順も変更されることが多くなっています。
コンラーディはここで第1曲「ただ憧れを知る者だけが」(01:08〜)を独唱曲として扱い、以下、テキスト内容の時系列に従って、第2曲「喋れと言わないでください」(03:31〜)、第4曲「ただ憧れを知る者だけが」(07:01〜)、第3曲「私を装わせてください」(09:40〜)と配置(第4曲と第1曲は同一テキスト)。
誘拐されドイツに連れてこられて旅芸人一座の踊り子をしているイタリア貴族の娘ミニョンの孤独と、ヴィルヘルム・マイスターへの思いを描いた美しい曲。ドイツ語歌唱。
クルターグの無伴奏歌曲を挿入
ハンガリーの作曲家、ギョルギー・クルターグ [1926- ]が、ハンガリーの詩人ヨージェフ・アッティラ [1905-1937]の詩の断章に付曲した無伴奏歌曲集「アッティラ・ヨジェフ断章」(全20曲)から8曲を抜粋し、気分転換できるよう各所に大胆に挿入しています。
そこで示されるのは、アッティラが14歳の時に癌で死去した母のイメージと考えられますが、思い起こす主体であるアッティラ自身が問題を抱えていることから母のイメージも変転。悪夢を示すトラック11などけっこう不気味です。ちなみにアッティラは32歳で鉄道自殺しています。ハンガリー語歌唱。
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演奏者情報
◆ カタリーナ・コンラーディ(ソプラノ)
1988年6月13日、キルギスの首都フルンゼ(現ビシュケク)で誕生。ロシア語話者だったコンラーディは、2003年、15歳の時にドイツ語を話せない状態でハンブルクに移住。2009年にピネベルクのヨハネス・ブラームス学校でアビトゥーアを取得。2013年からベルリン芸術大学で声楽をユリー・カウフマン、現代リートをアクセル・バウニ、リート解釈をエリック・シュナイダーに師事。2014年から2016年にかけてミュンヘン音楽演劇大学で芸術学修士号を取得し、声楽をクリスティアーネ・イーフェン、リートをドナルド・ズルツェンに師事。
2013年からミュンヘン室内オペラ、2014年からホーフ劇場、2015年からヘッセン州立劇場に出演し、2018年からハンブルク州立歌劇場に所属。ドレスデンのゼンパーオーパーや、バイエルン州立歌劇場、バイロイトなどにも出演。
一方、現代音楽を含む幅広いレパートリーを持つリート歌手としても知られ、ロンドンのウィグモアホールなどでリサイタルを開催しています。
また、コンサート歌手としては、2017年にハンブルクのエルプフィルハーモニーのオープニングコンサートに出演し、ヘンゲルブロック指揮で「エグモント」の「クレールヒェンの歌」を披露し、2019年にはハーティング指揮バイエルン放送響とマーラーの「復活」でソプラノソロを歌っていました。
◆ コスモス四重奏団
ベルナット・プラット(第1ヴァイオリン)、エレーナ・サテュエ(第2ヴァイオリン)、ララ・フェルナンデス(ヴィオラ)、オリオール・プラット(チェロ)により2014年にバルセロナで結成。2015年、コペンハーゲンのカール・ニールセン国際室内楽コンクール第3位、2018年、ハイデルベルク・イレーネ=シュテールス・ヴィルシング財団コンクール第1位、同年、カンブラ・モンセラート・アラベドラ音楽コンクール第1位、2019年、ワイマールのヨーゼフ・ヨアヒム室内楽コンクールで第3位獲得。
以後、ヨーロッパ各地で演奏をおこない、2021年から2024年にかけてはバルセロナでカタルーニャ音楽堂のレジデンス・アンサンブルとしても活動。
カタルーニャの弦楽器製作者、ダヴィッド・バゲが彼らのために特別に作った楽器を演奏。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
ヴォルフ (シュテファン・ホイケ編曲)
1.
◆ 「メーリケ歌曲集」〜「告白」 01:14
伝承歌 (アンドレアス・タークマン編曲)
2.
◆ グリーンスリーヴズ 04:34
クルターグ
3.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「庭で」 01:23
エドゥアルド・トルドラ (ジョルディ・ドメネク編曲)
4.
◆ 「さだかならぬ歌」 02:56
クララ・シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
5.
◆ 「彼女の絵姿」 02:27
クルターグ
6.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「水が濁り氷になる」 00:34
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
7.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「心の痛み」 01:45
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
8.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「窓ガラス」 01:44
クルターグ
9.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「時間」 00:52
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
10.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「庭師」 01:28
クルターグ
11.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「たくさんの人がいて彼らは私を取り囲んだ」 00:37
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
12.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「糸を紡ぐ女」 01:25
クルターグ
13.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「銀色の泡を持つポプラの中で」 01:04
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
14.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「森の中」 01:53
クルターグ
15.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「夜はブドウのように柔らかい」 00:48
シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
16.
◆ 「6つの歌」Op.107〜「夕暮れの歌」 02:37
伝承歌 (アンドレアス・タルクマン編曲)
17.
◆ 「カッコー、カッコーが遠くから鳴く」 02:33
シューベルト (アリベルト・ライマン編曲)
18.
◆ 「ミニョン」D.877 13:02
クルターグ
19.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「私は15年間詩を書いている」 00:34
クララ・シューマン (アリベルト・ライマン編曲)
20.
◆ 「フォルクスリート」 02:04
ジョゼフ・コズマ (ロベール・ジャコブ編曲)
21.
◆ 「枯葉」04:35
エドゥアルド・トルドラ (ジョルディ・ドメネク編曲)
22.
◆ 「海沿いの緑のブドウ畑」 02:09
クルターグ
23.
◆ 「アッティラ・ヨジェフ断章」Op.20〜「私は誰とも何の関係もない」 01:28
作者不詳 (ピーター・ウォーロック編曲)
24.
◆ 「おお死よ、われを眠りに」 02:37
ジャック・ブレル (ロベール・ジャコブ編曲)
25.
◆ 「行かないで」 04:10
ヴォルフ (シュテファン・ホイケ編曲)
26.
◆ 「メーリケによる7つの歌」〜「祈り」 02:05
カタリーナ・コンラーディ(ソプラノ)
コスモス四重奏団
ベルナット・プラット(第1ヴァイオリン)
エレーナ・サテュエ(第2ヴァイオリン)
ララ・フェルナンデス(ヴィオラ)
オリオール・プラット(チェロ)
Track list
Hugo Wolf (Arr. by Stefan Heucke)
1. Sieben Mörike-Lieder: Selbstgeständnis 01:14
Traditional (Arr. By Andreas Tarkmann)
2. Greensleeves 04:34
György Kurtág
3. Attila József - Fragmente, Op. 20: A kerten (The heat) 01:23
Eduard Toldrà (Arr. by Jordi Domènech)
4. Canço incerta 02:56
Clara Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
5. Ihr Bildnis 02:27
György Kurtág
6. Attila József - Fragmente, Op. 20: Kásásodik a víz (The water thickens) 00:34
Robert Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
7. 6 Gesänge, Op. 107: Herzeleid 01:45
8. 6 Gesänge, Op. 107: Die Fensterscheibe 01:44
György Kurtág
9. Attila József - Fragmente, Op. 20: Az idö futva terem (Time) 00:52
Robert Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
10. 6 Gesänge, Op. 107: Der Gärtner 01:28
György Kurtág
11. Attila József - Fragmente, Op. 20: Sokan voltak és körülvettek (Many came and pressed around me) 00:37
Robert Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
12. 6 Gesänge, Op. 107: Die Spinnerin 01:25
György Kurtág
13. Attila József - Fragmente, Op. 20: A nyárfák közt (The sweet breeze) 01:04
Robert Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
14. 6 Gesänge, Op. 107: Im Wald 01:53
György Kurtág
15. Attila József - Fragmente, Op. 20: Oly lágy az este (The evening is as soft as a grape) 00:48
Robert Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
16. 6 Gesänge, Op. 107: Abendlied 02:37
Traditional (Arr. by Andreas Tarkmann)
17. Kuckuck, Kuckuck ruft's aus der Ferne 02:33
Franz Schubert (Arr. by Aribert Reimann)
18. Mignon, D.877 13:02
György Kurtág
19. Attila József - Fragmente, Op. 20: Tizenöt éve (For fifteen years) 00:34
Clara Schumann (Arr. by Aribert Reimann)
20. Volkslied 02:04
Joseph Kosma (Arr. by Robert Jacob)
21. Les feuilles mortes 04:35
Eduard Toldrà (Arr. by Jordi Domènech)
22. Vinyes Verdes Vora el Mar 02:09
György Kurtág
23. Attila József - Fragmente, Op. 20: Nincs közöm senkihez 01:28
Anonymous (Arr. By Peter Warlock)
24. O Death, Rock Me Asleep 02:37
Jacques Brel (Arr. by Robert Jacob)
25. Ne me quitte pas 04:10
Hugo Wolf (Arr. by Stefan Heucke)
26. Sieben Mörike-Lieder: Gebet 02:05