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2006年5月30日 (火)

許光俊の言いたい放題 第12回

特別長編 『ボンファデッリはイタリアの諏訪内晶子か?』

 TV局から、「まったくオペラを見たことがない主婦を劇場に連れて行くというのをやりたいんですけど」と電話がかかってきた。
 朝の主婦向け番組というのが気に入って、引き受けた。もし、いかにもな教養番組だったら、「つまんねえ」と思っただろう。場違いなところでオペラについて語るほうが笑えてよい。

 さて、では奥方たちにどの演目を見せるか? 調べてみたが、季節はすでに初夏。あまりおもしろそうな上演はない。と、目に付いたのが、トリエステ・オペラの「ランメルモールのルチア」。ああ、美人(と言われている)のボンファデッリ嬢が歌うやつね。ヴィジュアル系だから、テレビ向けでもあろうし、いいんじゃない。私の書いた入門書『オペラに連れてって!』でも初心者向けベスト10に入れた演目だし、渋谷で上演されるので、ビフォー&アフター・シアター企画もやりやすいだろう。

 で、プロデューサーに提案してみると、「狂乱の場」という用語が妙に気に入ったらしく、即、決定。
 その顛末は、6月17日(火)朝にオンエアされるので、ご覧になりたい方はどうぞ。フジテレビの「特ダネ!」というやつです。ボンファデッリ嬢の狂乱の場も、たぶんいくらか見られるはず。

 そのボン嬢(長いので略す)、かねてから美人の声望高く、各企業が熱心に売り込んでいたが、私はそういったものにはとんと興味がないので、無視していた。「どうせ大したことないだろ。本当にいいものなら、宣伝なんかしなくても売れるよ」と思っていたのである。が、今回は、ちょうどTDKコアからDVDが出たところでもあるし、このボン嬢について書こう。

 ズバリ、この人、イタリアの諏訪内晶子である。つまり、お嬢さん+優等生タイプなのだ。だから、劇場で「狂乱の場」を歌っても、妖しい狂気の美は現れてこなかった。でも、声の質も技術も、水準を上回っていて、大歌手かどうかはともかく、十分、悪くない。いや、かなり楽しめたと言ってもいいだろう。

 美人度のほうも、十分立派なものだ。ルチアとかジュリエットとか、お嬢さんが悲しいめにあうという話には、ドンピシャリの雰囲気である。オペラグラスでたっぷり拝見したが、時々額にしわが寄るクセさえ解決していただければ・・・。いや、でもこれはあら探しであって、こんな人に誘われたら、ホイホイついていっちゃうもんね。

 ただ、やせすぎは誉められない。パスタを4年も食べていないとインタビューで言っているが、それはいかんぞ。きっと、日本のいたるところでスパゲッティを発見し、「オー、ニホンジン、ぱすたキチガXネー。ワタシノ国、若イヒト、コンナニ食ベナイヨー」と思ったんじゃなかろうか(勝手な想像)。

 パスタも食べずに、どうしてイタリアの心が歌える? というのは言いがかりだが、本人の努力とは裏腹に、そのダイエットぶりが必ずしも効果を上げていないのだ。あまり痩せている人が伝統的な衣装を着ると、貧相に見えかねない(主人公よりも召使いのほうが似合ってしまう)。このへんの勘違いはぜひとも改め、適度に太ってほしい。それに、やせすぎていると、老けるのも早いぞ。

 ちなみに諏訪内嬢は、「この前はヘソ出して弾いていたですよ」と私の学生たちが言っていた。それでは風邪ひいちゃうじゃないか。弾くのはヴァイオリンだけでよい。
 ヴィジュアル系アーチストよ。見せびらかしたいのはわかるが、見当違いは、滑稽ですぞ。

 と、有意義な提案をしたところで、問題のボン嬢主演の「椿姫」DVDの話だ。以下、要点を箇条書き風に記そう。

1 オケ、合唱はいかにもイタリアの地方臭ぷんぷん。このローカル色が好きな人にはいいだろう。芝居小屋的、芸能的雰囲気がある。
2 てことは、何もかもゴージャスで光り輝くような上演を求める人には、物足りないだろうね。
3 アルフレード役の歌手は、かつてしりあがり寿が描いていたようなネットリした外観。他に人材なかったのかなあ。最後、ヴィオレッタが息絶えたあとのアルフレードのイモぶりはすさまじく、ドミンゴ大先生の偉大さを思い知らされた
4 ジェルモンを歌っているブルゾンは、昔より味が出てきたね。この上演全体の中で場違いなくらい高級感がある。
4 カメラは、上演の収録の常として、よくない。アップや切り替わりが下手。
6 字幕は、ケアレスミスあり。些細なことだけど、全体の印象がチープになるんだよなあ。

 肝心要のボン嬢に関して。見所はズバリ2カ所だ。

1 第1幕。恋を打ち明けたアルフレードと早々とキス。「え、もうですかあ」とその早さに感心したが、甘かった。最後、彼女のほうから、男に熱烈濃厚で長いキスを。清純派的雰囲気があるだけに意外でした。けっこうな時代になったものですなあ。ここのところ、ちゃんとトラックの頭になっているのが憎い! 何度も見ちゃったよ。
2 最後、死の床にある彼女のもとにアルフレードが来てから以後。ここは熱演で、いいです。病気で苦しんでいる様子は、あまり見たことがないほどリアルだし、「パリを離れてふたりで暮らそうよ」とアルフレードが歌っているのをまったく無関心に聞き流すあたりの表情もデモーニッシュ。だいぶ思い切ってやっているぞ。

 というわけで、「清純派のお嬢様女優が、汚れ役の娼婦に挑戦!」という、ちょっと前の映画みたいな味わいをもつDVDであった。清純派も無頼派もなくなり、一億総コギャル化した現代日本では得難い風情である。

 ボン嬢の特色は、はかなさにある。「この美しさ、いつまで?」「痩せているのに、こんな難役歌って、カラダに無理があるんじゃないの?」 彼女があと20年もトップを張れるとは到底思えない。そこに趣がある。

 ひとことでまとめよう。
 ボンファデッリは、今見ろ!

 そして、ふたことめ。
 ちゃんとしたスタジオで、ボン嬢主演の映画版「椿姫」を撮れ! (2003年6月14日記。きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授)


許光俊の言いたい放題
→第12回 『ボンファデッリはイタリアの諏訪内晶子か?』
→第11回 『やっぱりすごいチェリビダッケ』
→第10回 『急げ!超必見、バレエ嫌いこそ見るべき最高の《白鳥の湖》』
→第9回 『《クラシックプレス》を悼む』
→第8回 『一直線の突撃演奏に大満足 バティス・エディション1』
→第7回 『ケーゲル最後の来日公演の衝撃演奏』
→第6回 『必見! 伝説の《ヴォツェック》名画がDVD化』
→第5回 『予想を超えた恐るべき《レニングラード》』
→第4回 『快楽主義のベートーヴェンにウキウキ』
→第3回 『謎の指揮者コブラ』
→第2回 『残酷と野蛮と官能の恐るべき《ローマの祭》』
→第1回 『謎の指揮者エンリケ・バティス』

その他、引用など
→『ケーゲルの《アルルの女》、他』
→『ヴァント、最後の演奏会〜ブルックナー《ロマンティック》、他』
→『ザンデルリング最後の演奏会 完全収録〜ベルリン交響楽団 記念BOX』


→許光俊の著作を検索


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歌劇『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』全曲 ボンファデッリ、ほか

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ヴェルディ(1813-1901)

ユーザー評価 : 3.5点 (6件のレビュー) ★★★★☆

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発売日:2003年05月21日

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ボンファデッリ

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発行年月:2003年03月
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