Quiet Corner クワイエット・コーナー Vol.9

Quiet Corner クワイエット・コーナー

国境を越える音楽の共時性

昨年のビルボード東京「Benny Sings with We'll Make It Right来日公演」後の深夜、ベニー・シングスとその仲間達は、渋谷にある僕の店「Bar Music」にやってきた。70年代のマイケル・フランクスの名盤『The Art of Tea』をBGMに彼らを迎えたことで、その場の空気は和やかなものとなった。「ありがとう、このレコードは僕たち全員のフェイヴァリットなんだ」──そして彼らは口々に自分の好きなアーティストの名を告げてきた。トッド・ラングレン、ギル・スコット・ヘロン、アーマッド・ジャマル、ディオンヌ・ワーウィック、エルヴィス・コステロ、ア・トライブ・コールド・クエスト......。お互いに驚いたのは、求めるアルバムが、ことごとくその場にあることだった。海を隔てた場所で活躍する彼らとの、これ以上ないシンクロニシティの喜び。もちろんそこには、同じ時代をまったくの同世代として生きていることに主たる理由があるのだろう。そして最後に、メンバーのひとりがDJブースでベニー・シングスの「We Ain't Going Nowhere」をプレイした。ベニー自身は少し恥ずかしそうにしていたが、全員で顔を見合わせながら笑顔で合唱となり、「バイバイ、また来るから」──彼らは店を後にした。ふと気がつくと、ターンテーブルで回っていたのはマイケル・フランクスのもうひとつの70年代名盤『Sleeping Gypsy』。言葉以上の何かが交わされたように思える、音楽とともにある幸福な夜の記憶だ。
文●中村智昭(MUSICAANOSSA/Bar Music)

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