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recorda_me さんのレビュー一覧 

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     2012/12/13

    待ちに待った再発。ブルーノートLAシリーズの中でも1、2を争う名作にもかかわらず、なぜかMosaic盤ボックスセットの一部としてCD化されたのみだった本作、単独での再発がないのは僕にとっては七不思議のひとつだった。ラテンとジャズの奇蹟の邂逅、埋もれさせるにはあまりに惜しい名作がこうして甦るのは悦ばしい。
    アルバム全体の雰囲気を心地よく色鮮やかに染め上げているのは、ミッキー・ローカーの刻む歯切れのよいリズムに乗せて全篇フィーチュアされる鬼才エルメート・パスコアルの涼しげなフルート、ことに“BOOK’S BOSSA”に至っては本曲最高の名演であると信じて疑わない。
    初々しいフローラ・プリン嬢の“IT COULD ONLY HAPPEN WITH YOU”から“STORMY”へと続くムードたっぷりのタメの効いた歌いまわしがこれまた粋でクセになる。晩年ボサノヴァに傾倒したデューク・ピアソンの洒落たアレンジと上品なピアノタッチも随所に光り輝いて味わい深い。彼らしい心地よく美しい本盤が遺作になったとは泣けてくる。
    そよ風のように爽やかなブラジリアン・ジャズ、おもわず抱きしめたくなる愛らしい逸品だ。

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     2010/02/07

    ハドソン川に佇むアン・フィリップスの俯いた表情がすべてをもの語るこのジャズ・ヴォーカル屈指の名作、その内容を象徴するかのようなタイトル曲“Born to Be Blue”は「ブルーに生まれついて」と訳されるが、私には「ブルーになるべくして生まれてきた」のほうがしっくりくる。
    かつて人気俳優Kが飛び降り自殺をはかったとき世間はなぜ?と色めきたったが、私に意外感はなく憐れみとシンパシーを感じたものだった。彼も私と同じだったのだと思った。自殺しようとする者は例外なく孤独である。孤独とは独りでいるときに感じるものではない。独りでいればむしろ孤独を感じずに済む。孤独とは繋がりたい人と繋がれないときに感じるものなのだ。経験した者にしかわからない心情だろう。
    この失恋歌集に通低するのはそうした背筋が寒くなるような孤独感である。そんな絶望的な孤独をひんやりとした声で噛みしめるように歌うアン・フィリップスは、まるで胸の奥底に渦巻く彼女自身のやりきれない真情を吐露するかのようで、あまりに切ない。“Lonelyville”冒頭の女性のスクリームも孤独への恐怖を表現していると思えば奇異にも感じない。愛くるしいビヴァリー・ケニーが歌う“There Will Never Be Another You ”やジョニー・ソマーズの可憐な“When Sunny Gets Blue” もいいが、それらの曲もヘレン・メリル似のクールなハスキーヴォイスで切々と歌いあげるアン・フィリップスにかかれば、そこはかとなく漂う大人の女の情感が真に迫る切なさを醸しだしてくる。胸をえぐられるような思いで聴いたのが“Born to Be Blue”、まるで私の経験をなぞるような歌詞に、かつての自分の気持ちを重ねて泣いた。彼女の歌を聴いて初めてこの曲に身につまされるような寂しさを覚えた。そこには真実の人間の哀しみがこもっていた。そしてこの曲が好きになった。“For Heaven’s Sake”(お願いだから)など他の曲も心に染み入る名唱の連続で、アンの品のよい歌声とレトロな伴奏が郷愁を誘う。
    先述の俳優Kは己が還るべき場所を家族に見出し、その気持ちを歌にした。「生きろ!」と力強く歌う今の彼は、もう独りではないのだろう。

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     2009/11/08

    十代の頃、僕が初めて出会ったジャズ作品がこのドン・フリードマンの『サークル・ワルツ』である。本作を端緒にジャズの深みに足を踏み入れたわけで運命的なものを感じずにはいられない。ジャズを聴き始めてから20年ほどになるが、本盤はピアノ・トリオの私的ベスト・テンから外れたことがない。しばらく聴かないと禁断症状がでて取だして聴かずにはいられなくなる。なくてはならない精神安定剤のようなものだ。きっと何千回も聴いたのだろうが、飽きるどころか聴きこむほどに味わいを増してくる。その時々の気持ちによって惹かれる曲も移り変わる。本作でフリードマンは神懸かりと言うほかない空前絶後の名演をみせる。この日一日、彼の肉体には神が宿ったのだ。
    「印象派」という形容が似つかわしいフリードマンのプレイは絵画的なイマジネーションに溢れており、聴いていると心がとろけるような至福感を覚える。冒頭の“Circle Waltz”、何度聴いてもホッとする。心が和む。落ち着くのだ。心の深みに静かに下降してゆく内省的なプレイが心地よさを誘うのだろう。自作曲も実に美しい。曲想爽やかな“Sea’s Breeze”での畳み掛けるようなプレイの爽快さと清涼感は彼ならではのものだ。“I Hear A Phapsody“で見せる切なさとやるせなさ、“In Your Own Sweet Way”でのリリカルな優しさも、原曲のもつ美しさを極限まで引き出している。幻想的な曲想の“Loves Parting”は夢の中にまどろみ漂うかのようで陶然とさせられる。唯一のソロ演奏となるコール・ポーターの“So In Love”ではいつになく熱く激しく、愛の孕む狂気と歓喜を描きだし涙を誘う。いずれもピアノの響きを活かした繊細なプレイが胸に沁みる。
    忘れてならないのはチャック・イスラエルの変幻自在のベースワークとピート・ラロッカの閃きに満ちた瑞々しいドラミング、彼らとの丁々発止のやりとりがドン・フリードマン一世一代の快演を引きだす結果になった。掉尾を飾る“Modes Pivoting”、3分半過ぎからピート・ラ・ロッカの力感溢れるドラミングを挟んで展開されるチャック・イスラエルのベース・ソロの格好よさは特筆ものだ。ヒラヒラと舞い落ちる枯葉を思わせるラストのピアノも幻想的で美しい。本盤はモダン・ジャズの到達点を示す一枚であり、歴史に残る奇跡の名演としてこれからも燦然と輝きつづけるだろう。

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     2009/11/08

    涙なくして聴けない名演など、そうそうあるものではない。僕にとっては本作がそれだ。精神疾患に苦しみ続けたというフィニアス・ニューボーンの緩急に満ちたプレイは聴く者を圧倒する凄みに満ちていて、その技巧には魂が篭もっている。深い苦悩と心の闇なくして生みだしえないものが、そこかしこに滲みでているのだ。まるでバド・パウエルのように。とりわけ他の追随を許さないのがピアノ・ソロ演奏の素晴らしさだ。本盤では“Angel Eyes“、” Stairway To The Stars”、“ She Mean’s Everything To Me”、 “Autumn In New York”がそれだが、どれも魂に訴えかけてくるような深みがあって胸を打つ。中でもジョージ・シアリングの“ She Mean’s Everything To Me”の名演は涙なくして聴けない。どうしても感情移入してしまって、聴くたびに目が潤んでしまう。これほどの訴求力をもつ演奏はめったにない。ところが本作は、どこもかしこもフィニアス節が躍如していて、不意に飛びだす物哀しいフレーズに泣けてくる。こういうしみじみとした感動はソロピアノにしか出せない。他のメンバーが加わった演奏もやはりピアノが異彩を放っており、まるでソロピアノのように聞こえる。そこが実にいい。フィニアスの作品中でも一、二を争う名盤だろう。彼は有り余る才能を有しながら若くしてシーンから姿を消し、晩年ときたま録音を残したものの恵まれた人生だったとは思えない。芸術家とは切ないものだ。でも亡くなってからも世界中の人々の心に感動をもたらし生活に潤いを与えてくれる。フィニアスも地上で人々に愛されたように、天国でも神様に愛されていることだろう。

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     2009/11/08

    デューク・ピアソンのピアノは、どうしてこうも品よく美しく響くのだろう。ジミー・ロウルズのプレイに通ずるものがあり、何気ないのに心揺さぶられるのだ。そんなジャズのもつ豊穣な世界に目覚めさせてくれたピアソンは僕の贔屓のピアニストのひとりである。彼にはソウル風のファンキーな側面と、甘く美しい曲を書くメロディストという二つの側面を併せ持つが、僕は後者の顔が好きだ。僕の愛する黄金期のドナルド・バード=ペッパー・アダムス双頭クインテットでも活躍したが、バンド・カラーにぴったりの資質であり、そちらでの好演も忘れられない。デューク・ピアソン最大の功績は“Say You’re Mine”という絶世の美旋律を遺してくれたこと。愛しいひとへの想いが溢れた、こんなにも切なく哀しい曲は他にない。それを自身の味わい深いピアノで聴かせてくれるのが本作である。他にもメロディアスで親しみやすい曲が多く、いづれも滋味溢れる素晴らしいものだ。真のテクニックとは指を速く動かせることでは断じてなく、心に、魂に訴えかけるものである。それを知らしめてくれるのがピアソンだ。『エンジェル・アイズ』をタイトルに冠したポリドール盤仕様のジャケットも麗しく、演奏がひときわ輝いて聴こえる。

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     2009/11/08

    音楽とは耳で聴くものではなく、心で聴くものである。ユング派心理療法家で名エッセイストでもある故・河合隼雄さんがそんなことを仰っていて印象に残っている。かつて生きる気力を根こそぎにされる経験をしたのち、僕はジャズ好きの社長さんの誘いを断れず寿司屋で飲んだのだが、心がグラグラの状態で呑めない酒をあおったものだから、なんとか堪えていた心の堤防が決壊し、とつじょ滂沱の涙を流したのだった。恥ずかしかったが滝のように流れてどうにも止まらなかった。音楽の話をしていたので僕はかろうじて、先だってこのダグ・カーンの『インファント・アイズ』を偶然、耳にしたときの衝撃を伝えた。渋谷の某店で流れていた“Infant Eyes”のジーン・カーンの絶唱に心揺さぶられ、ラストの“Peace”で全身の毛が逆立った。渇いた心に彼女の深みと潤いに満ちた力強い歌声が染み込んできた。「あのとき、もう少し生きてみようかと・・・」。俯いたまま眼鏡に溜まった涙が揺れるのをぼんやり見つつ絞りだすように言った僕を、社長さんは「美しいものを美しいと感じられるうちは全てが失われたわけではないよ」と慰めてくれたのだった。たしかに僕にはそれしかないのだった。今だってそうだ。それだけが生きる支えだ。いま絶望の淵にある方、どうか本盤を聴いてみてほしい。そして何かを取り戻してもらえたら、これに優る喜びはない。

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     2009/11/01

    かつて愛する人に贈ったこのヴィクター・ヤング集。“Sweet Sue,Just You”の愛らしいメロディと鍵盤上を目まぐるしくコロコロ転がるピアノが、早口でいつも一所懸命だった彼女の愛くるしい姿そのままのように感じられ、微笑ましく思ったものだった。本盤ではステイシー・ケントとデボラ・ブラウンが3曲づつ歌っているが、いずれも感動的な歌唱で魅了される。冒頭、“I Don’t Stand A Ghost Of A Chance With You (ほのかな望みさえなく)”のあまりにせつない歌詞を、ステイシー・ケントがやるせない歌声でしっとりと歌いあげるが、これが自分の置かれた状況や気持ちと重なって涙していたのを思い出す。僕の好きな“Street Of Dreams”でのステイシーは得意の都会的な洒落た唄い方を見せこの曲屈指の名唱となっている。デボラ・ブラウンが黒人ならではのコクのある歌声で語りかけてくる“A Hundred Years From Today”も情感豊かで心にじんわり沁みてくる。ラストを飾る“My Foolish Heart”も、囁くように切々と唄うステイシーの透明感のある歌唱にしんみりとさせられる。聴き終えたあとの静寂と余韻が素晴らしい。ヤン・ラングレンの容姿そのままの端麗なピアノのサポートもあってか、本作ではゲストの女性ヴォーカルが実にいい味をだしており、彩り豊かな見事な快作に仕上がった。

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     2009/10/29

    ミッチェル=ラフの名コンビが放った68年の『ブラジリアン・トリップ』と56年の『キャンパス・コンサート』を一枚に収めたCollectables屈指の好カップリング盤。前半はブラジルの錚々たる名手たちと吹き込んだボサノヴァ、後半は若きドワイク・ミッチェルの神懸り的なピアノソロに圧倒されるベース・デュオである。全編ドワイク・ミッチェルの、ときにクラシックの素養を垣間見せるエレガントなピアノが冴えわたる鳥肌ものの快演である。相棒のウィリー・ラフはベースのみならずフレンチ・ホルンも吹くが、これもボサノヴァに見事にはまっていい味をだしている。
    サンバでいう“サウダーヂ”とは何かと訊かれたら迷わず「愛しいひとへの郷愁」と答えたい。“Ah Voce (いとしいあなた)”,“Chuva (雨)”,“Nao Deixa(去らないで)”,“Sem Mais Chorar (涙することなしには)”,“E Nada Mais(ほかに何もない)”といった曲目からも窺えるせつなさと哀しみを、余すところなく描きだしてゆくミッチェルの繊細なプレイの鮮やかさは言葉にできない。それにもまして素晴らしいのは「誰にも奪えぬこの想い」で幕をあける後半、ミッチェルの溢れる歌心と超絶技巧が炸裂する。56年当時、こんな眩いばかりの輝きを放っていたジャズピアニストがいたとは俄かに信じがたい。ピアノの音の粒立ちがたまらなく美しく、聴いていて神妙な気持ちにさせられるような深みある響きに満ちている。「夕日に赤い帆」などはラストの一音の余韻に、ふいに落涙してしまったほどだ。教会の鐘の音を思わせる「リトル・ガール・ブルー」の荘厳さ、軽快に疾走する「アイル・テイク・ロマンス」の躍動感も素晴らしいが、圧巻は物哀しいフレンチホルンで始まる「身も心も」、まるで僅か7分余りの演奏にひとつの幸福な人生を凝縮して見せられているかのような錯覚に襲われ、泣きたくなる。これを聴いてなんど涙したかわからない、愛しいひとを想いながら・・・。

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     2009/10/25

    名門ジョンズホプキンス大学の医学生時代にデビューし、COLUMBIAに立て続けに録音したデニー・ザイトリンの初期の傑作4枚のうち、何度も再発された“Live At the Trident”を除くスタジオ録音の3枚とその未発表音源が、とうとうMosaicからコンプリートでCD化された。“Cathexis”と“Carnival”のカップリング盤はCollectablesから出ており随分と癒されたが“Zeitgeist”だけは待てど暮らせどCD化されず業を煮やしていた。どれも60年代中期の才気迸る瑞々しい名演ばかりであり喜ばしいかぎりだ。
    自分の名前に掛けた「ザイトガイスト(時代精神)」というタイトルに象徴されるように、人間の心の深淵を垣間見せてくれるような懐の深いピアノを弾く。作曲家としても非凡であり、その雄大な曲想にはまるで上質の映画を見ているかのような物語性があり、聴く者の心に深い余韻を残す。俗にエヴァンス派として括られるが、どこかヒンヤリとして無機質で、ときに重厚で粘りのあるタッチは甘さを寄せつけず、それでいてあくまでもエレガントに優しく語りかけてくる。そこに人間を信じる暖かみを感じるのだ。“Music is Drug.”の言葉どおり、彼のピアノを聴いていると心が落ち着く。僕の愛する“Night And Day”はいつになく軽やかで心地よい。僕にとってジャズは身体の痛みとそれが生み出し続ける負の情念を、つかのま忘れさせてくれる麻薬のようなものだ。この精神科医を志した若者が弾くピアノにたまらなく惹かれる。人間という存在の切なさ、その心の不可思議さを、さながら万華鏡のように色彩感豊かに映しだしてゆく。これほど陰翳に満ちた深みのあるピアノを弾く人を他に知らない。この後、長らく音楽活動を休止してしまったのが惜しまれてならない。

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     2009/10/04

    ビル・エヴァンスに代表される叙情派ジャズ・ピアニストの流れを汲む陰影にみちた表現が印象に残るベント・エゲルブラダの、これは長らく目にされることもなく「幻の名盤」として崇められていた64年録音の名品。冒頭“Schizo”の切迫した曲調は、心が分裂していくさまをあしらったジャケットの絵柄そのままに聴いていて胸が痛くなるほどだ。“My One And Only Love”の切ない調べに己の想いを重ねて落涙し、続く“Our Delight”の優しさに肩を抱かれるように慰められる。私は本盤を聴くとき、どうしても桐野夏生の一連の小説を彷彿とさせられる。心の奥底の暗い深みにまで錨を垂れてゆくようなヒンヤリとした感触があり、それでいて人間を見つめる眼差しには仄かな温かみがある。哀しくも美しいラストの“Monique”は同郷の歌姫、モニカ・ゼタールンドに捧げられた曲ではなかろうか。本盤には心の内奥を抉られるような何かがあることは間違いない。

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     2009/09/04

    この本に登場する女を「絶対に友達になりたくないタイプの人間ばかり」と評した人がいる。酷いことを言う。この薄汚れた社会と愚直に向き合ってズタズタになった女たちにいとおしさを感じないのか。「欲求が高すぎるがゆえに苦しむ人たち」とも。はたしてそうか。幼少期から親や教師に「他人よりも優れるという絶対的な価値観」を刷り込まれ、生涯そのマインドコントロールに苦しめられる滑稽と悲惨、誰にも共通するのは寒々しいまでに孤独であるということ。私には痛ましいまでにわかるのだ、彼女らの気持ちが。彼女たちは認めてもらいたかったのだ、自分という存在を。「あなたの愚かさに私の心は痛みます」そう言って憐れんだ女の聖書を投げつけハイヒールで踏みにじる娼婦、和恵の凄絶な手記は涙なくして読めない。負けた者は劣等意識に苛まれ、勝ち続けた者も目的を見失い虚無感に襲われる。カネや学歴、美醜の織りなすこの酷薄な階級社会でもがきつづける彼女たちは他ならぬ我々自身の姿なのだ。それは誰をも幸せにはしない。著者は「この世のありとあらゆる差別を書いてやろうと思った」と述べている。何かに殉じることなしにこの不毛な堂々巡りは終わらない。胸に去来するのは福田恒存の名著『私の幸福論』にあった「ひとりでもいい、他人を幸福にしえぬ人間が、自分を幸福にしうるはずがない」という言葉、終にはそこに行き着くのだと思う。私が得たくて得られなかった家族の意義も、そこにあるに違いない。

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     2009/09/04

    この本に登場する女を「絶対に友達になりたくないタイプの人間ばかり」と評した人がいる。酷いことを言う。この薄汚れた社会と愚直に向き合ってズタズタになった女たちにいとおしさを感じないのか。「欲求が高すぎるがゆえに苦しむ人たち」とも。はたしてそうか。幼少期から親や教師に「他人よりも優れるという絶対的な価値観」を刷り込まれ、生涯そのマインドコントロールに苦しめられる滑稽と悲惨、誰にも共通するのは寒々しいまでに孤独であるということ。私には痛ましいまでにわかるのだ、彼女らの気持ちが。彼女たちは認めてもらいたかったのだ、自分という存在を。「あなたの愚かさに私の心は痛みます」そう言って憐れんだ女の聖書を投げつけハイヒールで踏みにじる娼婦、和恵の凄絶な手記は涙なくして読めない。負けた者は劣等意識に苛まれ、勝ち続けた者も目的を見失い虚無感に襲われる。カネや学歴、美醜の織りなすこの酷薄な階級社会でもがきつづける彼女たちは他ならぬ我々自身の姿なのだ。それは誰をも幸せにはしない。著者は「この世のありとあらゆる差別を書いてやろうと思った」と述べている。何かに殉じることなしにこの不毛な堂々巡りは終わらない。胸に去来するのは福田恒存の名著『私の幸福論』にあった「ひとりでもいい、他人を幸福にしえぬ人間が、自分を幸福にしうるはずがない」という言葉、終にはそこに行き着くのだと思う。私が得たくて得られなかった家族の意義も、そこにあるに違いない。

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     2009/08/14

    本作が再発されたときの脱力感といったら・・・、コレクターなら血の気が引く思いは慣れたものだが、これには卒倒しそうになった。内容の素晴らしさもさることながら、ヴィオラォンを抱えてうつむいたチタの横顔が、世を儚むような哀しみを湛えているように思われ、たまらなく好きだった。いつもブルーな私の気持ちにそっと寄り添ってくれるかのようで、涼しげな歌声が尚のこと胸に染みた。ボサノヴァの名曲がチタの歌唱によって命を吹き込まれてゆく感動は何度聴いても薄れることがない。どうか彼女の儚げな歌声とともに、歌詞の素晴らしさを噛み締めてほしい。

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     2009/08/12

    “20年越しの恋”が叶った・・・。十代の頃、学校帰りにジャズ喫茶で本盤を耳にし、少し鼻にかかったチタの伸びやかでハスキーな歌声の虜になった。なんて可憐な歌声、なんて美しいメロディ・・・、溜息がでるばかりだった。なんとしても手に入れようと意気込んだものの、オリジナルLPはとんでもない高値で取引されており涙を呑んだ。そんな憧れの作品が再発されたことに胸の高鳴りを禁じえなかった。ボサノヴァの女性シンガー兼コンポーザーとしてヴェラ・ブラジルに迫る才能を有したのは、このチタだけである。本作はチタの作曲家としての才能が見事に花開いた逸品であり、全曲本人が手がけているが、どれも涙ものの素晴らしさだ。「スカートを穿いたジョアン・ジルベルト」という最大の賛辞に「傷ついたものよ」と冗談めかして笑うのは何よりの彼女の自信の表れ。リマスターのミスで音質がいまひとつなのが心残りだが、奇跡の再発と呼ぶに相応しい快挙だろう。

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