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ベートーヴェン(1770-1827)

SACD 交響曲全集 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&ウィーン・フィル、バイロイト祝祭管弦楽団、ストックホルム・フィル(+第5番コペンハーゲン・ライヴ)(6SACD)

交響曲全集 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&ウィーン・フィル、バイロイト祝祭管弦楽団、ストックホルム・フィル(+第5番コペンハーゲン・ライヴ)(6SACD)

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    mimia  |  石川県  |  不明  |  2023年10月18日

    LP時代から幾度となく発売され続けてきた演奏で、古くからのファンは、また?という思いは当然ある、と思う。 SACDとしては2度目。 しかし、買ってしまったのだ。 理由は主に二つ。 1950年のコペンハーゲンでのライブの5番がおまけに付いている事(ワーナーの策略にまんまとハマった?)。この演奏はTahla盤で持ってはいるが、SACDではどうかな?と思った。 もう一つの理由は、2番の録音状態が少しでも良いかな?と淡い期待をしたこと。 この二曲についてコメントします。 まず2番。 EMIがセッションによる録音を進めていた、フルトヴェングラー によるベートーヴェン交響曲全集は、フルトヴェングラー の死によって、2番 5番 9番が未収録に終わってしまい、この三曲には、当時発掘出来たライブ録音をあてざるを得なかった。 9番に関しては、EMIが録画に携わったバイロイトでのゲネプロのものを使用。これは音質的にはあまり違和感が無い。が、2番と8番は良質とは言えない録音状態のものしか手に入れることが出来なかった。 その後、8番には良好な音質のライブ録音が他レーベルにより発掘されたのだが、現在のところ、2番にはこれ以外のものが出てきていない。 この演奏は、1948年ロンドンでのライブ。驚くべきことに、この時フルトヴェングラー は、ウィーンフィルと5回のコンサートで、ベートーヴェンの交響曲を全曲演奏している。 生涯ただ一度のベートーヴェン・サイクルだった。 ただ残念ながら、録音状態が良くない。 しかしそれでも耳を凝らして聴いていると、この音にも慣れてくるから不思議である。素晴らしい演奏だ。 第一楽章序奏部の深々として、なおかつ雄大な表現は他ではなかなか聴けない。主部に入ると一転してものすごい推進力で突き進む。気力体力とも完全充溢の快演でもある。 この演奏は、録音状態のせいか、あまり評価される事がないし、2番はフルトヴェングラー に合わないなどと言う批評家もいるけれど、むしろ、2番という曲の真価を改めさせる演奏だと思う。 ベートーヴェンの交響曲全曲を俯かんした時に先ず感じるのは、3番以降の圧倒的存在感だろう。 私もずっと思っていたのは、2番と3番の間にある深い隔たりだった。言い換えれば、なぜ3番の交響曲がいきなり誕生したのか?という驚きだった。 3番未満の曲がつまらないと言うのではない。2番の交響曲なども、ウィーン古典派の交響曲として、モーッアルトの最後の三曲とともに最高の形式美を備えた曲だと思う。 ただ、3番の交響曲は音楽の概念を変えるほどのインパクトがあって、次元が違ってしまったように思えていたのだ。 フルトヴェングラー の演奏を何度も聴くうちに、その万全ではない音にもかかわらず、見えてきたものがあった。 この曲と3番の間にあると思っていた深い溝が少しずつ埋められていった。 2番の交響曲は、ベートーヴェンの生涯でも最大の危機の時代に書かれているので、それにもかかわらずこのような明るい曲を生み出した、という評価がされることが多い。 フルトヴェングラー の演奏から聴こえてくるこの曲は、そういう無邪気な姿をしていない。 いわゆるハイリゲンシュタットの遺書は、この2番を生み出せたがゆえに、遺書としてではなく、再生への決意として書き得たのだ。そういう曲としての姿をしている。 ある山の頂きに立った時、さらなる向こうに巨大な山塊が望まれる。二つの山は深い谷に隔てられて、向こうにたどり着くのは不可能に見える。しかし、良く目を凝らしてみると、確かに稜線は続いている。そこに道はあり、歩き続ければ、次の頂きに辿り着ける。 フルトヴェングラー の演奏は、2番が確かに3番へと道で繋がっているのだと教えてくれる。 この演奏を、録音が良くないからとスルーするのはもったいない。 ワーナークラシックスがSACD化して、格段に音質アップするという事はあり得ない。元もとのスペックに限界がある。 ただ私の聴いた限りでは、高音に張りが増し、全体としては音に艶がでた印象があり、情報が豊かになった効果はあるようだ。 ほんの少しの改善でも、この演奏には嬉しい。 次に、コペンハーゲンライブの5番にコメントします。 フルトヴェングラー はウィーンフィルとともに、1950年の9月下旬から約一か月間、23回のコンサートというスケジュールでヨーロッパ各地へツアーに出ている。 この演奏は、そのツアーの6回目のコンサートでの録音。 ちなみに、このツアーではもうひとつのコンサートが記録されている。第一回目の9月25日、ストックホルムでのもの。 この時のコンサートは全曲が録音されたうえに、MEMORIESレーベルの2枚組では、開幕に演奏されたスウェーデンとオーストリアの国歌も残されていて、ひとつのコンサートをまるまる体感できる。また、この日もベートーヴェンの5番が演奏されていて、10月1日のコペンハーゲンでのものと聴き比べが出来て面白い。 さて、コペンハーゲンの5番です。 記録された12種の中では、おそらく最も重おもしく開始される。重苦しいと言うべきかも。 一般に、フルトヴェングラー の5番の開始は重いのだが、第一楽章再現部から終結部に至り、輝かしくこの楽章を終えるのが気持ち良い。しかし、コペンハーゲン5番は、真に輝かしく晴れるのは、最終楽章まで待たなければならない。 12種の中で演奏様式が一番近いのは、1954年のウィーンフィルとのセッションによる演奏だと思うが、ライブである方がいっそう重く、人間味が溢れ出ている。 前述の、6日違いのストックホルム5番は、もっと躍動的で、1947年のベルリンフィルとのライブに似た印象がある。 同時期の演奏でも、ひとくくりにできないのがフルトヴェングラー の演奏である。一筋縄ではいかない。 私は、どちらのタイプも好きです。 ただし、フルトヴェングラー の演奏をパターンで分類するのは間違いだ。 フルトヴェングラー はベートーヴェンの5番を生涯に250回以上演奏している。(山下山人氏の集計による) つまり、250通りの演奏をしたと言った方が正しいように思う。 ひとつだけ言えることがある。 演奏会と、レコードの発売を前提としたセッションでは、演奏する心構えが違っていたということだ。 コンサートでは、常に一期一会。その一回限りで消えゆく楽曲に、全精力をかけていのちを吹き込む。 その覚悟が、他に追従を許さぬ演奏を可能にしたことのひとつの理由である。フルトヴェングラー の言い方にならえば、常に「再創造」という行為だ。 一方セッションでは、何度も繰り返して聴かれるもの、という前提を意識していた。 その時、その場での感情の高まりによる即興はできうる限り避け、沸き起こる生命感よりも客観性や理性を優先し、曲の構造や姿の美しさをあらわにする。 そういう演奏を後世に残すべきと考えていた。 私たち聴者は、演奏会ライブとセッションのどちらがより好きだ、とは言えるけれど、どちらが正しいとか良いとかは評価できない。 世評とは違い、1952年以降フルトヴェングラー は、気持ち的には録音に積極的になっている。しかしスケジュールが過密過ぎて、残された機会は主に、病に倒れた後の闘病中の回復期に限られた。1952年の11月末からと、1954年の3月の2回だけだったが、このセットに納められた交響曲の大部分と代表的な序曲の多くが収録された。健康がついには取り戻せず、死期が迫っていたことを思うと、不幸中の幸い、という慣用句では軽すぎる。悲劇中の光明、とでも言いたい。 フルトヴェングラー は希にみる思索家であり、演奏という行為に関しても、彼ほど深く考え続けた音楽家は、私には他に思いあたらない。 同じ演奏が二つとない、というのは一見好き放題な演奏と思われがちだけど、曲の理解と演奏の基本には深い思索と広大な教養があった。セッションとライブを聴き比べて、違いの面白さを楽しんだ後は、その奥に共通する一本の太い芯をみつける事こそ、フルトヴェングラー を聴く醍醐味だと思う。その芯は曲の本質に真っ直ぐつながっているはず。 このレビューの初めに、「また?」と書いてしまったが、それは嬉しい悲鳴でもある。 何度も何度でも再発してほしいと思う。 私自身のためではなく、優れた演奏の記録をこの先もずっと残してほしいからだ。 未来の聴者にもフルトヴェングラー を聴いてもらいたい。 フルトヴェングラー を聴くということは、真に音楽の素晴らしさを知るということだから。

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