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作家・道尾秀介さん インタビュー

2009年12月4日 (金)

interview
作家・道尾秀介さんインタビュー

風景、感情が、一瞬のうちにひっくり返される。
物事には、見つめる目も角度も様々であることを、その時に気づかされる。
それは、道尾秀介さんの作品の魅力のうちのひとつではないでしょうか。
活字でしかできないことを、という強い想いから生み出される道尾さんの作品に、いま多くの読者が虜になっています。
道尾さんの小説をまだ読んだことのない方は、きっと読み終えた後に「こんな小説、読んだことがない!」と感じるはず。
2009年度版『このミステリーがすごい!』では、作家別投票で第1位に選ばれ、今年は『向日葵の咲かない夏』の文庫版が80万部を突破。初の連作短編集『鬼の跫音』は直木賞候補にもなりました。進化し続ける作家・道尾秀介さんに、今年4冊目(!)の単行本となる最新刊『球体の蛇』についてお話をうかがいました。
音楽が大好きな道尾さんに、お気に入りのCDも教えていただきましたので、最後までどうぞお楽しみください!



--- 最新刊『球体の蛇』、とても哀しくて美しい小説だと感じました。
いったん読み終えてから、プロローグを読み返すと、初めて読んだ時には感じ取れなかったものを感じて、ぐっときました。

 『球体の蛇』は特にそうですけど、僕はパーソナルな物語が好きなんです。
社会的にこの人はどうだとか、そういったことをまるっきり考えないで、その人の目線だけで真っ直ぐに描かれたものが好きだし、自分でもそれを書いているつもりです。
今回はその意味で、すごくうまく仕上がったと思っています。
プロローグを書いているとき、全体像はまだおぼろげだったんですよ。プロローグは初稿からほぼ書き直していないんですけど、最終的に、こんなにきれいにプロローグに収束してくれることになるとは思っていませんでした。
ラストシーンを書いたあとにプロローグを読み返した時、もしかしたら結末が見えていたのかなぁって自分でもびっくりしましたね。

--- 道尾さんは、「ミステリー」にカテゴライズされることや、テクニックを強調されることに対する違和感をよくおっしゃっていますが、先日、大沢在昌さんとのトークショーで、ご自身の作品を「版画」に例えていらしたのが印象に残っているのですが、くわしく聞かせていただけますか。

 僕はもともと、ミステリーをまったく意識していなくて、登場人物の感情なりテーマなりを、一番効果的に読者にぶつける方法やタイミングは何かって考えて、それでああいったスタイルを選んだんですね。
でも、デビューしたら「本格ミステリの新星!」とか言われて、「本格ミステリ?なんだそれ」って(笑)。
僕自身は、あまりミステリーを読んでこなかったので、「本格ミステリ」も「叙述トリック」っていう言葉も知らなかったんですけど、僕が書いたものがどうもその「叙述トリック」にカテゴライズされるらしいっていうことを、デビューしてから知ったんです。
そのことをあのイベントでは「版画」にたとえてお話したんですね。
彫刻刀で板を彫る作業を遊びでやっていて、ある時ふとそこに墨を塗って、紙を押しつけてみたら、全部さかさまに写って面白いということに気がついた。それをたくさん作って、人に「これ面白いと思いません?」って見せたら「それ版画だよ」って言われて、「あ、これ版画っていうのか」っていう感じなんですね。「もともとこういうのはあったのか」って。

--- 最新刊『球体の蛇』は、非ミステリーと紹介されているのを目にしますが、いかがですか。

 いったん活字になってしまったらもう、お金と時間と労力を使って読んでくれた人のものなので、どんな小説と呼ばれてもいいんです。
『球体の蛇』をミステリーだという人もいると思いますが、それに対してべつに「いやいやミステリーじゃないよ」とは言わない。ジャンルというものに対しては、もともとまったくこだわりを持っていないんですよ。
例えば、世の中でミステリーと呼ばれているものって、スケートで言うとフィギュアスケートに近いと思うんですね。魅せるという意味で。純文学は、ひたすら自分の中で一つのものを追い求めていくという意味でスピードスケートに近かったりする。
僕はただスケートがやりたいだけなんです。スピードを求めているときに「3回転入れなきゃダメじゃないか」って言われたり、ここはスピンをしたいって思った時に「前に進んでないじゃないか」って言われることには、まあ抵抗はありませんが、違和感はありますね。

--- 道尾さんの作品は、「道尾秀介」というジャンルのように感じます。

 趣味でランニングをやっていて、いつもipodで音楽を聴きながら走っているんですけど、このあいだふっと面白いことに気づいたんですよ。 僕のipodって、あらゆる曲が入っているんですね。ヘヴィメタからハードロック、クラシックも、オカリナ・ソロもピアノ・ソロも入っていますし、テレサ・テンや研ナオコも中島みゆきも、とにかく大好きな曲が色々入っていて、それをシャッフルで聴いているんです。だからipodの気まぐれで、次になにがかかるのか、まるっきりわからない。
でも、どんな曲がかかっても全然テンションが下がらないんです。 激しいメロディラインを持っていたり、アップテンポの曲の方が、気持ちが乗りそうに思いますよね。でも、ゆっくりした曲が急に流れてきても、まるっきりテンションが下がらない。
それはきっと、曲にこめられた魂みたいなものがあって、それが伝わってきて気分を高揚させてくれるのかなぁって。
人間って、頭と心のほかに、魂というものがありますよね。
たぶん人間の感情を揺さぶるのは、頭や感情だけで作られたものじゃないんですよ。
小説の場合も、頭だけ使って書かれた小説もあれば、心だけ使って書かれた小説もあります。でも、どちらも面白くない。
頭だけ使って書かれたガチガチの作品はつまらないし、心だけで書かれたものも、心を持っていない人間なんていないんで、読んで感じられるのは、せいぜい共感。共感して、それでおしまいなんです。 
でも、魂のこもっているものは一読してわかりますよね。魂って作品のクオリティを強烈に押し上げてくれますから。
自分の書く小説も、もし魂をこめるのに失敗したら無価値だと僕は思っています。

                                  

『球体の蛇』 道尾秀介
新刊『球体の蛇』(角川書店) 道尾秀介
  1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。
乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に激しく惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになる。
しかしある晩、思わぬ事態が私を待ち受けていた・・・。

profile

道尾 秀介

  1975年、東京都生まれ。2004年、『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。
2005年に発表した第2長編作『向日葵の咲かない夏』で、本格ミステリ大賞候補になり、注目を集める。
2007年『シャドウ』で、第7回本格ミステリ大賞を、2009年に『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。
デビューからわずか5年ながら、ミステリー、ホラー、文芸など、ジャンルの壁を打ち破る大躍進を続ける、いま最も注目されている作家。
ほかに、『ソロモンの犬』、『ラットマン』、『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『花と流れ星』などの作品がある。

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