トップ > 映像DVD・BD > ニュース > 邦画 > 「TAO」 第2回 :ゲスト→都築響一 2 

「TAO」 第2回 :ゲスト→都築響一 2 

2009年2月19日 (木)

都築:うん、ほとんど来ないよ、9割5分くらい来ない。だからね、普通の仕事の仕方っていうのを例えばまあ、考えるとするじゃん?会議があってプレゼンして・・・それが通って動き出すって感じじゃない?で、スタッフと予算が決まってっていうさ。でね、そういうやり方を僕の場合は、ほとんどしたことがないの。だいたいのことは何かもう、やりたいことがまああるとするじゃない?スナックでも。自分で始めちゃうんだよ、"自費"で、だいたいは。それで、1つは"自費"でもやりたいか・・・「自分で金を払ってでもやりたいか」っていうのが1つのテストなの、自分に対してのね。

で、「それでもやりたい」っていうのをどんどん始めちゃう・・・始めながら、声をかけるわけ。で、それに付いて来れる媒体があれば一緒にやるし、なかったら自分だけでやるっていう・・・。で、"自費出版"・・・みたいなことになって。だからそこで、すぐに付いてくれるケースもあるし、最後の最後で付いてくれるケースもあるし、全然最後までダメ(笑)っていう時もあるけど、それはもうしょうがない。プレゼンとかっていうのはまず・・・待ってる時間がないってこともある、1つはね。


---  待ってる間に、なくなってしまう場所もあるし・・・。


都築:そう。・・・ってこともあるし、やっぱりこう、やる気、モチベーションっていうのは、時とともに失せていくもんだからさ・・・その前に始めないとね。やっぱり、こういう仕事には、プレゼンっていうものは基本的に向かないんですよ。結局さ、今雑誌がつまんない大きな原因っていうのは、編集会議っていうのをするからいけないんだよね。だってさ、例えば、まあ普通に雑誌が・・・編集部に行くとさ、週に1回、編集会議、企画会議みたいなのをやると、月曜日の朝ね。「毎回1人5個ずつテーマ出せ」みたいな話しを持ってくわけじゃない?それでみんなで潰し合いね。「こんなのおもしろくねえ」みたいな感じで、そっから残ったものが配本されるわけでしょ?「じゃあ君、これやって、今週」って。で、その時点ですでに、やる気は9割方失せてるわけよ。だって、自分のことじゃないんだもんね。

それからもう1つは、みんながじゃあ、「これをやろう」って納得させるのは何かっていうと、「これはおもしろいですよ」っていう"証拠を示さなきゃいけない"わけじゃない。「今流行ってる」とかさ。で、その証拠を示すっていうのは、"既に誰かがやってるから証拠を示せる"わけよ。


---  うん、うん、そうですね。


都築:例えば、こんな雑誌が出てるし、テレビでもこんなに取り上げられてるっていう。で、その時点で、それはもう、オリジナルじゃないわけよ(笑)。だからさ、やる必要ないわけ。だってこう、「取り上げられてるんならいいじゃん、もう」っていうさ(笑)。


---  そっちを見ておけばいいんですもんね?


都築:そうだよ。だからつまり、じゃあ・・・「取材っていうのはどういうことか」って言うと、"おもしろそうだけどわかんないから"取材に行くんだよね。そこに何かが起こってると思うんだけど、"何だかわかんないから見に行く"わけじゃない。そこに戦争が起こってるけれどもね、実態はどっちが悪いのかわかんないから見に行くっていうのと一緒であってさ。例えば「今、あの辺がおもしろいらしい・・・」とね。だけど、"どこにもなくてわかんないから自分が見に行く"っていうのが"取材"なんだよ。だけど、あるもの・・・「もう出来てます」っていうものを見せて、こういうのを作ろうっていうのは、"広告制作"なんだよ。


---  うーん・・・そうかあ・・・。


都築:だからさ、どっちがいい悪いじゃないんだけど、"やり方が根本的に違うもの"なんだよね、それは。だけど、今の作り方っていうのは、「これだけウケてる」っていう、"マーケットリサーチ"と一緒だよね。「これだけの人がこれだけのものを買ってるっていう・・・だから、こうしましょう」っていうのはねえ、"広告制作"であって、"取材じゃない"わけよ。"どこにもデータがないから、自分が作りに行く"んだから。でしょ?


---  そうですね。


都築:だから、僕の仕事でも例えばさ、「じゃあ、スナックをやろう」と思うとするよね。そういう時にまあ一応さ、スナックでも秘宝館でもいいんだけど、まあ、検索はかけるよね、今だったら。例えば、Googleとかさ。で、そこにさ、たぶん普通の人は出てくると何か、誰かが行ったブログとかいろいろ出てくるとうれしいと思うわけよ、情報があって。でも僕の場合さ、検索でヒットしないとすごいうれしいわけ。いろいろ出てきちゃうってことは、"すでに負け"っていう感じ。だって、やる必要ないし。だけど、たいして出て来ないと思うと、すごいうれしいね。そうすると、「やる価値がある」っていう感じがするわけよね。

だって今、スナックってさ、Googleで検索しても、個々のスナックしか出て来ないからね。スナックガイドなんかないわけだしさ。ぐるナビとかはあるけど、ぐるナビスナック版とか、ないわけじゃない?(笑)。


---  ないですね(笑)。


都築:でも、バーとかなんて、いくらでもあるわけ。居酒屋巡りだの何だの。でも、スナック巡りなんてほとんどない。まあ、ちょっとだけあるんだけどさ、ほとんどない。だから、そういうこう・・・検索が及んでないところで僕達は勝負したいわけだけど、それがこういう業界における"最前線"っていうものなんだよね。でも、普通の雑誌の人達の考える最前線っていうのは、それより下なんだよ。検索がヒットする中での最前線なの。でもそれはもう、遅いんだよね。「何だかわかんないけど、おもしろそうだから行く」っていうのが一番前線であって、戦争行ってもね、こう・・・ね、殺したり殺されたりするとこなんだよね。やっぱ、そうじゃなくて、司令部でのうのうとしてるのが今のその企画編集会議における雑誌作りっていうものなんだよ。


---  HMVに置き換えても、そういうところがすごくありますね・・・(笑)。


都築:(笑)。でも、みんなそうじゃない?例えば、大きなさ、商品を作るとかっていうんなら別かもしれないけどさ、音楽を作ったり、文章を・・・記事を書いたりっていうのは全部それじゃない、本当はねえ。だって、新しい音楽を作るのにさ、「こういうサウンドが今流行ってますから」っていうんで作ること自体もう、"広告制作"じゃない?それは。だから、そうじゃなくて、絶対流行る・・・他に例がないけど、聴いたことない音っていうのを出したいわけじゃない、本当は(笑)。でもそれは、説得力ないわけよ。だって、他にないんだから。だから、企画会議で「これだけ他にありますよ」っていうのとは違う作り方なんだよね。

だから、全部がそれで通るとは思わないけど、でもとりあえず、僕達の仕事はそういう風になっていくのが筋だろうと思ってやってるんだけど。だから僕としては偶然、仕事を始めた時の教わり方がそうだったの。


---  大学の在学中に・・・。


都築:うん、在学中にバイトを始めたの。ちょうど「POPEYE」が出来た頃で、それでバイトとして入ったのね。だから本当、「1時間にいくら」っていう時給で。それがそのうち原稿書くようになって、「1枚いくら」になったっていうだけで。だから、給料っていうものをもらったことがないんです、僕は1回も。就職をしたことがないわけよね。


---  その1つ1つのお仕事に対して、いくらっていう・・・。


都築:そう。「POPEYE」5年間、「BRUTUS」5年間って、10年間くらいはあの辺で仕事したんだけど、それは途中でさ・・・「社員にならないか?」みたいな話しもあったんだけど、こうね?なってりゃ今頃、悠々自適だと思うんですけど・・・(笑)。


---  (笑)。


都築:給料いいしさ。だけどやっぱね、やってもやんなくても同じお金をもらうっていうのが嫌だったんだよ、何か生理的に。それはいい悪いじゃないんだよ?全然。何か自分は・・・要するに何でかっていうと、仕事しないでだらだらして金もらってるおっさんっていうのを死ぬ程見てきたわけよ、そこでね。フリーに仕事丸投げして、自分達は麻雀とかして、「出来た?」とか言ってるようなおっさんみたいな・・・まあ、それはどこの業界にもいると思うんだけどさ、そういう人達をたくさん見て、「こうだけはなりたくないな」って思ったんだよね。だからやっぱ、「やったらやるだけの評価をされたいし、やんなかったら評価されない」っていう方が何か、生きる上でモチベーションが沸くなって思ったの。

で、そういう風にまあ・・・道を選んだんですけど、だからその時にこう、やっぱ編集なんて素人だしさ、もちろん。でも、10年間いて、1回も編集会議出なかったんだよね。だから、仕事が欲しければ自分で探して考えて、編集長なりデスクのところに行って、「こういう企画を考えたんですけど・・・」って言いに行ったりするんだけど、でもさ、おもしろいかどうかわかんないわけ。だから例えばさ、「今ニューヨークがおもしろいらしい、んですけど・・・」って言うんで、「じゃあ、行ってみ」っていう話しになって、で、行って、記事を作って帰って来るっていうだけ。だから、極端に言えば、となりの人が何してるかっていうのは、本が出てみるまでわからないんだよ。だから当然、バッティングとかもあるわけ。でもいいんだよ、バッティングなんかしたって。そんだけおもしろがってるってことなんだから、みんなが。

だから、そういう風なやり方をずっとして来て、それが普通だと思ってたのね。だけど、何か他の仕事もいろいろするようになってから、「違うんだな」っていうのがわかったんだよね。だから、最初の育てられ方がすごくラッキーだったっていうことなんだろうねえ。


---  初めにそのやり方を否定されたら、やりたいと思ってることも出来ないですもんね。


都築:そう。最初っからこうね、「じゃあ、お前も会議に参加していいよ」って言われて、「アイデア出してみ」って言われて、自分の考えたもの出して、それが他の人の担当とかになったらさ、"既に心はじじい"よ、そこで(笑)。


---  "既に心はじじい"・・・(笑)。


都築:「あーあ」っていう話になる。「こういうもんなんだ世間は・・・」っていうことになっちゃうのね。だから、そういう風にスタートがそうじゃなかったっていうことが僕にとってはすごい、ラッキーなことだと思いますねえ。っていうことを考えるとね、長澤さんってもう、部下を持つ立場でしょ?(笑)。


---  ええと・・・わたしは、今の会社のこの部署に来て、まだ2年半くらいなので、部下はまだ・・・(笑)。


都築:ああ、そうなんだ(笑)。意外に短いんだね。


---  ええ(笑)。ここに来る前はお店で販売を1年しながら、1人暮らしをしてたんですけど、もう本当にお給料が安かったので、ぎりぎりな生活しか出来なくて・・・仕事内容も・・・(一部自粛♡)だったので、音楽が好きだったのに嫌いになりかけちゃったんですよね。お金ももらえなくて、「やりたいことって何だろう?」っていう風になって来た時に、今の部署の募集があって・・・。同じHMVではあるんですけど、今は媒体がWEBなので、在庫を抱えずにいろいろな展開が出来るっていうこともありましたし・・・。


都築:そうだよねえ。


---  ええ(笑)。なので、今のところが前よりは・・・って感じで、何とか・・・なんですけど・・・(笑)。"小売業"っていうのがあるので、先ほど都築さんがお話しして下さったように、"今売れてるもの"をみんなで"広告制作"しようとするんですけど・・・。


都築:まあ、そうだよねえ・・・。みんなが売ってるものを売るっていうのはさ、そんなの誰でも出来るんだもんね(笑)。


---   ええ(笑)。関心があるものに対しては、"情熱だけは注げる"と思うし、それをやっているつもりではいるんですけどね・・・。


都築:ねえ。まあ・・・だけどさあ、今おいくつか知らないけどさ・・・。


---  ・・・28です(笑)。


都築:そうするとさあ、だんだん部下を持つことになってくると思うんだよね、一緒に働く若い・・・だから、「これが働くの初めてです」って言う人も、これから当然出て来るよね?そういう人達を育てるなり、ある期間、一緒に仕事する時には、やることを考えた方がいいよ、これから。最初にいい・・・こうさ、いいスタートをさせてあげるっていうことが大事よ、これから。自分はもういいんだからさ(笑)。「好きなことはこういうことで・・・」っていう、「これが実現ないんだったら、ここにいる必要がない」っていうのがわかっちゃえばそれでいいんだけどね、「これから仕事の世界に入って行くんです・・・」っていう人には、いいスタートを切らせてあげられるようにするのがだんだん、年長者の務めになっていくっていう感じよね。


---  実は・・・今年はもう、辞めようと思ってたんです・・・(笑)。すごく・・・例えばこうやって、お話しをさせて頂くことに関しては、インタビューは直接的な売り上げにつながらない・・・それよりも、「ライトユーザーが付くような記事を作れ」とかって言われたこともあるんですけど、それって逆に、ユーザーの方をバカにしてる感じがすごくあって・・・。なので、何かそういうところも含めてもう・・・冷めてしまって・・・(笑)。


都築:そうだねえ(笑)。だってさ、そんなの売る記事なんかさ、出来りゃやるよっていう感じじゃない?(笑)。でも、何が売れるかわかんないわけじゃない。だからね、僕今ね、「Esquire エスクァイア」っていう雑誌で、新しい連載をしてるんですけど、東京のいろんなところを巡るやつをね。で、こないだね、演歌のレコード屋さんの取材っていうのをしたのよ。で、今ね、演歌ってさ、昔から"店頭キャンペーン"っつうのがあるわけじゃない。店の前に箱を置いて・・・っていうさ。歌を道行く人達に聴いてもらうっていうのが出来るのって、3軒くらいしかないわけ、東京でね。で、その1つで、演歌の業界では有名なところがあるの・・・十条に。


---  十条なんですか?


都築:そう(笑)。"ミュージックショップ・ダン"って言って、すごい有名なとこなの。みんなここから巣立って行くっていうみたいなところでね、すごい演歌を応援してる、熱いレコード屋があるわけよね。まあっつたって、CDとカセットばっかりなんだけどね。カセット重要だから、演歌界ではさ。

それで、何でこの話しをするかっていうとね、今逆に・・・・今になってさ、「演歌を売りたい」とか、「演歌のキャンペーンに来て欲しい」っていうCD屋が増えてんだって。それは、なぜかって言うと、HMVみたいなところは別としてさ、街のレコード屋さんっていうのはここ10年くらい・・・ここ10何年っていうのは、J-POPを売ってりゃ済んでたんだって。でも、J-POPっていうのは、"対面販売"の必要がないんだよね、説明する必要がないわけ。置いときゃ売れてたわけ。だから、売れなきゃ返品・・・だけど、売れるっていうさ。だから、取次ぎから来たものを並べてりゃ売れるっていう商売だったわけ。で、それが上にあって、演歌はその下にこう、"コア"としてあるわけだけどさ。それでだけど、上澄みのJ-POPがなくなっちゃったと・・・売れない・・・ね、そうすると何が残ってるの・・・っていうと、演歌しかないんだって。

で、それにようやく気が付いて(笑)、「今からじゃあちょっと、演歌歌手呼んで下さい」とかって言う人は増えてるんだけど、「そうはいかない」っていうさ(笑)。演歌の人達としては、昔から応援してくれる人のところにもちろん行くわけだしさ。「今J-POP売れなくなったからこっちです」って言われても、「前断られたでしょ」みたいな話しになる(笑)。だからやっぱり、長いことそれをやってるかどうかっていう、本気かどうかっていうのをさ、見抜くわけよ、当然、やる方だってね。

だから、演歌の人達に聞いてもさ、やっぱりこう・・・いろいろキャンペーン周りの話しとか聞いてるとおもしろいんだけど、一番記憶に残るのはやっぱ、「応援してくれたお店じゃなくて、嫌な思いをした店は絶対忘れない」っていうわけよ(笑)。「嫌な思いって何?」みたいなさ(笑)。粗雑に・・・何かもう・・・粗末に扱われたり、いろいろあるんだけどさ、ただ「本当は好きじゃないっていうのがありありとしてるんだけど呼ばれた」とかさ、まあいろいろあると思うんですけど、「そういう扱いのとこはもうとにかく、こっちが売れても忘れない!」っていうね。

だからねえ、そういうのって、今までさあ、10何年間、「演歌は売れる」と思って扱って来たCD屋がないわけよ、たぶん、その数軒しかね。だけど、今になったらこっちしか売れないっていうさ・・・そういうのは、長期の見通しを持ってやってるとかっていうんじゃないわけじゃない。見通しなんか、ない(笑)。"情熱だけはある"・・・っていうところが最終的には勝ったりするわけだよ。だから、「今売れ線のものだけをやる」って言うのはさ、商売のやり方としてもリスキーだと思うよね、逆に。






主な出版アイテムは↓

I Love 秘宝館
デザイン豚よ木に登れ
現代美術場外乱闘 秘宝館 House Of Erotica アスペクトlightboxシリーズ
Happy Victims: 着倒れ方丈記
イメクラ
刑務所良品
ラブホテル: Satellite Of Love
Roadside Japan: 珍日本紀行 東日本編
Roadside Japan: 珍日本紀行 西日本編
TOKYO STYLE
ローカル
精子宮: 鳥羽国際秘宝館・SF未来館のすべて

  左から:『I Love 秘宝館』、『デザイン豚よ木に登れ』、『現代美術場外乱闘』、『秘宝館 House Of Erotica アスペクトlightboxシリーズ』、 『Boro』、『Happy Victims: 着倒れ方丈記』、『イメクラ』、『刑務所良品』、『ラブホテル: Satellite Of Love』、『Roadside Japan: 珍日本紀行 東日本編』、『Roadside Japan: 珍日本紀行 西日本編』、『TOKYO STYLE』、『ローカル』、『精子宮: 鳥羽国際秘宝館・SF未来館のすべて』


「TAO」 第3回 :ゲスト→木村文洋
「TAO」 第1回 :ゲスト→EGO-WRAPPIN'
「TAO」 企画前夜:ゲスト→吉田豪