--- 前回の来日公演から、丸1年となるわけなのですが、1年ぶりの日本はいかがでしょうか?
ウーター・ヘメル(以下、ウーター) 去年、日本に初めて来た時は、レーベルのオフィスがある六本木に、2回目にツアーで来た時は、新宿に滞在したんだ。ヒルトンに泊まったんだけどね(笑)。オフィス街がある西新宿のエリアは、さすがに活き活きとした雰囲気に少し欠けるというか・・・(笑)、そんな印象だったけど、今回は、渋谷に滞在しているっていうのもあって、前回とは全く違う印象を受けてるよ。活気があって、10代ぐらいの若いコたちがいっぱいいるからね。ああいうコたちを“ギャル”って言うんだよね?(笑)
--- (笑)そうですね・・・わりともれなく。前回は、大阪も行かれたんですよね?大阪のジャズ・リスナーや音楽ファンは、東京とはまた違った熱狂的な部分を持っていると思うのですが、かなり熱烈な歓迎を受けたのではないでしょうか?
ウーター 大阪には、昨日もプロモーションで行ってきたんだ。ジャズ・ファンに関して言えば、東京の人たちは、わりとシャイな印象があって、それに較べると大阪は、もうちょっと熱気があるような人が多かった気もするけど・・・でも、東京も大阪もすごく盛り上がってくれたんで、ファンの違い云々っていうのはあまり感じなかったんだ。
ただ、東京と大阪では、街としてかなり違うなって印象を持っていて。ボクが行ったエリアにもよると思うんだけど、東京は、とにかく若いコの活気に溢れていて、大阪は、ビジネス・スーツをカチッときめて、結構年配の人たちが多かったかなって印象があるんだ。街も小ぎれいで、シンプルで。東京は、文化でも何でも、あまりにも色々なものが詰め込まれすぎてて、どちらかって言うと、大阪の方が“リアル・ジャパン”なんじゃないかなって感じたよ。
--- デビュー・アルバム『Hamel』をリリースしてからは、だいぶ ご自身の周りを取り巻く環境が変わったのではないでしょうか?
ウーター そうだね。『Hamel』リリース後は、自分の生活も周りの状況も、本当にガラッと変わったよ。ボクは元々、普通にオフィスで仕事をしてたり、ヴォーカル・レッスンの講師なんかもやっていたんだけど、あのアルバムを出してからは、当然だけど、プロパーなアーティストとして週に何回も演奏するようになったからね。要するに、他の仕事は全く持たず、純粋にアーティストとして生活をするようになったっていうところで、ライフ・スタイル全般も含めて、以前とは全然違うものになったって言えるかな。
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4 Wouter Hamel 『Hamel』
ウーターのデビュー・アルバムにして、世紀のポップ・ジャズ大傑作。ホーン、ピアノを交え軽快にスウィングしていく「Details」、フリーソウル・ライクな天高く舞い上がるような爽快感を残す「Cheap Chardonnay」、ベニー・シングス直系のジャジーAORチューン「Fantastic」、ウーターのメロディ・メイカーとしての天賦の才が一気に溢れ出た「Don't Ask」、「Breezy」など名曲満載の全12曲。
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--- 様々なシーンのアーティストとのコラボレートなど、対外的なオファーもそろそろ増え始めてきたのではないでしょうか?
ウーター 実際のところ、コラボレーションしようっていうオファーはそんなにないんだけどね。
ライヴの時に、「As Long As We’re In Love」っていう曲を、エレクトロな感じのものもやりたいなっていうことで、リミックス・ヴァージョンで演奏することが多いんだ。オールド・フラッグ、ファイスト、オランダのサイモン&キプスキーなんかの曲もリミックスしたりして演ったりとかね。
前回のビルボードでのライヴの時に、そのサイモン&キプスキーのリミックス曲を演奏したんだけど、お客さんの中にそれに気付いた人がいて、「ウーターのライヴに行ったら、あなたたちの曲のリミックスを演っていたよ」ってサイモンたちに伝えてくれたんだ。で、ボクがオランダに帰ったら、彼らから「ライヴでボクらの曲を演奏してくれたんだって?」って連絡があってね。そこから、本当にリミックスをやろうよっていう流れになったんだ。そういった日本のファンのアシストがあったからこそ実現したことだから、それにはすごく感謝してるよ。その曲は、今、アニメ番組のテーマ・ソングにもなっているんだ。
--- ちなみに日本では、『Hamel』リリース時に6曲入りのアナログ12インチ・シングル「EP」が、とある有名ダンス・ミュージック・アナログ専門店でも大プッシュされていましたよ。
ウーター へぇ、知らなかったな。多分だけど、そのEPって、オランダのRush Hourから500枚ぐらいの限定カットで出回っていたものなんじゃないかな?リリースされてたことは知ってたけど、まさか、それが日本にも流通されて、みんなに知られてるなんていうのは、思いもよらなかったよ。
--- ウーターさんの作品は、日本だけでなく、韓国、台湾、タイといった国でも人気があるということですが、これまでにプロモーションも含めて、日本以外のアジア諸国に訪問したことはあるのでしょうか?
ウーター ライヴにしてもプロモーションにしても、日本以外のアジア諸国には、まだ行ったことがないんだ。韓国では、『Hamel』もリリースされていて、今回の新しいアルバムがリリースされるかどうかはまだ分からないんだけど、5月に初めて行く予定になっているんだ。日本でのビルボード・ライヴの前に、韓国でプロモーション、それから、フェスに出演するスケジュールがあってね。
タイでもリリースされているから、行く予定があったんだけど、ちょうど情勢が不安定な時期だったんで、断念せざるを得なかったんだ。バンコク・ジャズ・フェスティヴァルに出演する予定だったから、本当に残念だったね。
--- 私自身もそうですが、日本では、わりと30歳代周辺のリスナー層が、ウーターさんの作品を愛聴している場合が多いと感じるのですが、例えば、もっと上の世代、リアルタイムでフランク・シナトラやトニー・ベネットの若い頃を聴いてきたようなジャズ・ファンからの反応などはいかがでしょうか?そうした感想なり、ご意見なりを耳にしたことはありますか?
ウーター 上の年代の人にも、良いリアクションは、結構貰えたりするかな。実際、1930〜40年代にリアルタイムでジャズを聴いていたボクのおばあちゃんが、『Hamel』の中の「A Distant Melody」を聴いて、「昔を思い出すわ」って言ってくれたりね。オランダ本国では、年輩の人からの反応もすごくいいんだ。サイン会にも参加してくれて、「若い時の気分に戻ったみたい」って言ってくれたりもするんだ。すごく光栄なことだよね。
--- 昨年2月のビルボード東京でのライヴを拝見したのですが、アルバムよりも、ステージの方が、いくらかジャズのイディオムが多く詰まっているような印象を受けました。
ウーター 実際にCDは、プロデューサーのベニー・シングスの制作・録音スタイルに因るところもあってね。彼のプログラミングやサンプリングにも精通しているっていうテクニカルな部分で、きっちりとしたクリアーなものに仕上がっているんだけど、ライヴでは、もっとハチャメチャに盛り上がる感じや、もっとジャジーでリラックスした部分が、全面に出てるんだと思うよ。そういう点では、ボクの音楽は、CDとライヴでは随分違うんじゃないかなって思うけどね。
--- ライヴでは、ホレス・シルヴァーの「Filthy McNasty」のカヴァーを披露されていましたよね?こういったモダン・ジャズの楽曲も、これまでにカヴァーなどで頻繁にとりあげてきたのでしょうか?
ウーター 今のバンドを結成する前に、ソウル・ジャズやハードバップのタイプをやっていたバンドを組んでいたんだけど、そこでも、こういったジャズの有名曲のカヴァーなんかをよく取り上げていて、例えば、ニーナ・シモンや、ホレス・シルヴァーで言えば、「Jody Grind」なんかをね。だから、今でもその時のなごりがあって、バンドのセットにはそういった曲がよく出てくるんだよね。
(つづきます)