「最近聴いたCD」

2008年5月23日 (金)

連載 許光俊の言いたい放題 第144回

「最近聴いたCD」

 5月の連休中は、ラ・フォル・ジュルネに1日出かけた以外は、このサイトで買ったグールドの80枚組セットを少しずつ聴いていた。80枚というといかにも大量で怖じ気づいてしまうが、実はそれほどの量ではない。というのも、もともとのLPの仕立てそのままだから、CD1枚の収録時間があまり長くないのだ。いまどき、ベートーヴェンのピアノ協奏曲1曲だけしか入っていないCDなぞ、なかなかあるまい。だから、けっこう快調なペースで次々に聴いていける。
 で、『グレン・グールドの生涯』(フリードリック著、宮澤淳一訳、青土社)を読んだ。翻訳の音楽書をあれこれ読んでいると、かなりレベルが低いものも相当数見かけるが、これは丁寧ないい訳である。
 そうそう、グールドといえば、カラヤンとのライヴが非常におもしろい。フルトヴェングラーが死んで3年しかたっていなかった時期だから、ベルリン・フィルが実に重厚で雰囲気豊か。のちのカラヤン風のギラギラ演奏とは別物で、伝統的なドイツのオーケストラの味わいを満喫できる。
 グールドは一見この伴奏に合わせて非常にオーソドックスかつ立派に弾いているように見えるが、実はこれは彼の本意ではない。内心ではカラヤンとベルリン・フィルの音楽にいらだっているのだ。ところどころで癇癪を爆発させたみたいになっているし、第1楽章のカデンツァなど、好き放題やらせてもらうぜとばかりに突然奔放になる。協奏曲ならではのスリルだ。

 テンシュテットの「ドイツ・レクイエム」は、近頃の「小編成で清潔感、透明感重視」を吹き飛ばす雄大な演奏である。曲が曲だけに、躁状態になって暴れたりはしないが、思いは深い。第2曲では編成の大きさを生かした圧迫感が印象的。それと対照的なコラール風の部分の素朴な美しさ。
 特に後半の楽章がいい。劇的な緊張や壮大なフーガを経て、最終楽章は包み込むような大きさ、やわらかさ、やさしさを持っていて、思いのほか肯定的な表情で曲が閉じられる。合唱団は澄んだ美しさを失わないままに非常に感情豊かで熱い。濁りや鈍さを感じさせず、大味でないのだ。イギリスの合唱のレベルを痛感させられる。テンシュテットの病的な傾向についていけない人でも、美しさと深さを兼ね備え、ゆったりと起伏するこの演奏なら大丈夫だろう。

 「国歌ファンタジー」なるアルバムは、世界各国の国歌をピアノ編曲で弾いたもの。ベートーヴェンやリストの編曲は、彼らの個性がよく出ている。何といってもベートーヴェンの変奏曲が一番聴き応えがある。俗な歌なんぞを主題にしても立派な音の構築ができてしまうのである。最後にカラヤン編曲の「第九〜喜びの歌」が入っているが、この指揮者、指揮の才能とは裏腹に、編曲や作曲の才能はからっきしだったようだ。

 エッシェンバッハとフィラデルフィア管弦楽団のCDが何枚か定期的に出ていたが、その中でもっともよいのが最新の『悲愴』だ。特に最初と最後の楽章で、とにかく厚みがあるゴージャスな弦楽器群の魅力がたっぷり味わえる。といっても、ムード音楽調ではない。フィナーレでは時に「こんなにきれいでいいのか」とドキリとするような音色がする。全体に遅めだが、エッシェンバッハにしてはわざとらしさがない。ものすごく感情移入が激しいというほどではないが軽薄でもなく、これはこれでよいバランスの演奏である。
 おまけのピアノ独奏が佳品。オーケストラを指揮すると、大ざっぱになりがちなエッシェンバッハだが、ピアノだと比べものにならないくらい繊細だ。文句なしの抒情美。なんだ、ピアノをもっと弾いてくれよと言いたくなった。やりたいこととできることが必ずしも一致しないのが世の常ではあるけれど。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 

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