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Calm Talkin' about JAZZ - 後編

CLUB JAZZ STORE

2008年2月22日 (金)



-Calmさんの楽曲の中では、パーカッションという楽器が、非常に重要な役割を果たしています。

「意外と、「すき間」が嫌いなのかも知れないんですよね(笑)。なんか、埋めたくなると言うか・・・。ドラム・セットだけでビートを組むよりも、パーカッションとかを入れていったりする方が、音の響き的にも好きなんですよね。だから、ついつい、パーカッションとか、トライアングルとか、シェイカーとかを入れたがるっていう(笑)。そういうのを入れただけで、また違ったグルーヴ感が生まれるんですよね。例えば、ロックのビートを叩いていても、パーカッションをちょっと入れただけで、やっぱりグルーヴ感は変わったりするんで」

-パーカッション奏者でお好きなアーティストは?

「面白いのは、Guemっていう、昔からフランスのレーベルから出している、黒人のパーカショニストですね。所謂、ラテン系のパーカショニストに比べると、ものすごくミニマルというか、同じようなループで延々演っているっていう。それでいいのか!って言いたくなるぐらいの人なんですけど(笑)。普通、リーダー作だと、手数がやたら多かったりとかするじゃないですか。でもこの人は、自分の、大所帯のパーカッション・アンサンブルがいるのに、それでも同じような感じでずっと叩いていたりするから、逆にその(ループ性を出した)発想が面白いなっていう。中々いないですよね」


Guem / Compilation
>Guem 『Compilation』

1stリーダー作『Percussions Africaines』(73年)、「千手観音」ジャケのレアグル
ーヴ人気盤『Guem & Zaka Percussion』(78年)等で知られる、ナイジェリア出身
でフランスを拠点に活動するアフリカン・パーカッション奏者、Guem。「打楽器の魔術
師」と呼ぶに相応しい、中毒性たっぷりのパーカッション・プレイは、当然、クラブ・フィ
ールドからも熱いラヴ・コールが絶えない。




-思い出せる範囲で構わないのですが、これまでのご自身の作品の制作中に、特に多くのインスパイアを受けたジャズ作品があったら教えてください。

「・・・う〜ん、なんだろうなぁ・・・やっぱり、Pharoah Sandersの作品になるかなぁ。特に、『Love In Us All』と、『Elevation』には、影響を受け続けてますね。あとは、John Coltrane『Africa / Brass』。意外と影響を受けているのが、Steve Colemanの作品かな。Steve Colemanは、初期・中期〜90年代初頭までのものは、ずっと好きなんで。最近のは、あまり聴いていないんですけど。あのリズムの組み方とかは、すごく面白いですよね。あ、あと、Egberto Gismontiも、昔からすごい聴いてたなぁ。あの人が、ピアノを弾いている『Alma』っていうアルバムを特に聴いてましたね。・・・そうだ!やっぱり、(キャリアを通して)一番強い影響を受けているのは、Gismontiかも知れないですね。ECMが好きだっていうのもあるし」

-今回の『Silver Moon』や、『Blue Planet』制作中に、よく聴いていたものだと?

「その時は、Bill Evansとかをよく聴いていたかもしれないですね。あと、Keith JarrettPat Methenyなんかの作品を聴いていましたね。Methenyは、Brad Mehldauとのデュオ・アルバムなんかも聴いたんですけど、主に聴くのは、やっぱり80年代の作品が多いですね。その辺の時代のフュージョンは、最近クラブでDJする時もよくかけたりするんで、その影響もあるのかも知れないです。一番よくかけているのは、Methenyの『First Circle』ですね」


Pharoah Sanders / Love In Us All
>Pharoah Sanders 『Love In Us All』

不朽の名曲「Love Is Everywhere」を収録した、74年発表のImpulse最終作。
「愛」とはこんなに美しいものなのか、と何度己に問いかけただろうか?と同時に、美し
すぎるゆえの儚さにも胸を締めつけられた19分53秒。コルトレーンに捧げられた「To
John」の集団即興のカオスにもまた、「愛」はたっぷりと染み込んでいるはずだ。




Pharoah Sanders / Elaevations
>Pharoah Sanders 『Elevation』

古代エジプト、アフリカにテーマを求めた74年発表作。Pharoahのサックスは、哀愁
を帯びたトーンで前半部を折り返し、叫ぶにも似た激情的なブロウを繰り返す中盤を経
て、再び穏やかな表情で収束を迎える。Calm氏の言う「一貫して、自分の音楽性に
ウソをつかずにやっている」という点でも、本作が最も、Pharoahの音楽家としての誠
実でピュアな面を映し出している。



John Coltrane / Africa / Brass
>John Coltrane 『Africa / Brass』

61年、ColtraneのImpulse最初の作品。『Ole Coltrane』にも吹き込まれた
「Africa」、「Greensleeves」、「Blues Minor」が、Eric Dolphyによるブラス・アレ
ンジで全く新しいものに生まれ変わった。特に、モード演奏の見本のようなイギリス民謡「Greensleeves」の素晴らしさは、筆舌に尽くしがたい。




Egberto Gismonti / Danca Das Cabecas
>Egberto Gismonti 『Danca Das Cabecas』

1977年発表のEgberto Gismonti、ECMデビュー作。ピアノやギターのソロ演奏を
交えながら、Nana Vasconcelosとほのぼのとしたデュオを展開。プリミティヴな音響
が徐々に音楽の形を取り始め、7分ほど経過したあたりでGismontiのギターと、Vasconcelosのヴォイス&パーカッションが、渾然一体となって一気にクライマックス
へとのぼり詰めていく。



Steve Coleman and Five Elements / World Expansion
>Steve Coleman 『World Expansion』

変拍子ファンクの開祖=M-Baseの主唱者としても知られ、大の日本びいきでもあった
彼が、宮本武蔵「五輪書」の「地、水、火、風、空」から名付けた「ファイヴ・エレメンツ」
を率いての86年盤。Cassandra Wilsonが3曲で参加している。





Pat Metheny / First Circle
>Pat Metheny 『First Circle』

Pat Methenyグループにとって最後のECM録音となる84年盤。Lyle Mays(p,synth,org,tp)、Steve Rodby(b)の最強トリオに、Paul Wertico(ds)、
Pedro Aznar (voice,perc,g)が加わり、圧倒的な音の厚みを手に入れた。
Methenyグループとしての初期における頂点を極めた忘れじの1枚。






-『Ancient Future』には、Don Cherry「Utopia & Visions」、Ensemble Al-Salaam「Peace」、2つのカヴァーが収録されていますが、録音するに至った経緯と、この2曲への思い入れについてお聞かせ下さい。

「単純に楽曲が好きで、それを今の録音方法でモダンに演ると、どんな風になるかなぁと思って録りましたね。Don Cherryの方は、まだCD化されていないんで、オリジナルを聴いたことがない人の方が多いかと思うんですけど。まぁ、是非CD化したいなと思っているんですけどね・・・。あれは録音状態が、Cherry自身のスイスの自宅かなんかで録った、すごくラフな感じのものなんですよ。楽曲も、勿論、十分かっこいいんですけど、もうちょっと「つめた」ヴァージョンが聴きたいなっていうのがあって、それなら自分で作るしかないと思ってカヴァーしたんですよ。」

「Ensemble Al-Salaamは、もうあのまんまストレートにやってもいいかなって思ったんですよね。で、もう少しイマっぽい音圧とかでやれればって。そういう意味でカヴァーしたいなと思ったんですよね」

-「Peace」は、何と言ってもベースラインが素晴らしいですよね。

「いいですよね。楽曲の中では、ベースラインが一番の肝だと思うんで。ベースラインがいい曲、あと、ピアノのリフがいい曲っていうのは、やっぱりいいですよね。」




-ここで、日本のジャズ作品で、Calmさんのフェイヴァリットを教えていただけますか?

「すごい好きなのは、山本邦山の『銀界』とか、板橋文夫『渡良瀬』。あとは、プーさん(菊地雅章)と、日野皓正さんの双頭ユニットの東風(こち)とか。プーさん関係は、基本的にすごい好きですね。日野さんも、その辺と、昔、フライング・ディスクっていうレーベルからCD化されていた『Hip Seagull』が好きですね。なぜか、日野さんのホーム・ページを見ても、そのアルバムだけが載ってないっていう・・・本人は気に入ってないのかな?そのレコードは、クラブ・ジャズ界隈ではすごく有名。でも、盤が全然見つからないんで、ロンドンとかでは、かなり高い値が付いているんですよ。」

益田幹夫さんの『Mickey's Mouth』もすごい好きですね。2曲ほど、コロされるぐらい(笑)スピリチュアルな曲があるんですよ。」

-「和ジャズ」つながりで、昨年リリースされた、阿川泰子さんのリミックス・アルバム『Re-Mode』についてお伺いします。「Some Morning」をリミックスされていますよね?

「あれは、須永さん(須永辰緒)仕切りの企画だったんですよ。これまで全く面識がなかったんですけど、去年の前半ぐらいに、初めて須永さんとお会いして、その時に頼まれたっていうのが、事のいきさつですね。選曲は、指定で。割と最近の曲だったんで、聴いてなかったんですけど」

-やはり、阿川さんの作品もよく聴かれてましたか?

「流行りましたからねぇ。「Skindo-Le-Le」とか。一時期、テレビとかにもよく出てたし。「おしゃれカンケイ」とか(笑)。」

-2002年に、コンピ『渋谷ジャズ維新』シリーズで、Baystate音源をコンパイルされていますよね。Calmさんにとって、このレーベルの魅力とは?

「Baystateは、日本人がやった日本のレーベルなわけで、日本人の「志」を表わしてるって思うんですよ。勝手な解釈ですけど。これは、どうしてもやりたかったんですよね。実は、その『渋谷ジャズ維新』っていう企画案自体も、自分でメーカーの方に出したんですよ。で、若杉さんに全部立ってもらってって感じだったんですよ。」

「外国人ミュージシャンが演奏していて、且つレーベル・カラーも思いっきり「アフロ・スピリチュアル・ジャズ」に寄っているのを、日本人仕切りでやっているっていうところが、すごく誇りに思えて。全部のアルバムとは言わないですけど、かなりの数のアルバムは、内容がめちゃくちゃ濃いんですよ。」

『Black Renaissance』なんかは、当時、高くても1000円ぐらいで中古屋で売られてたんですけどね。例えば、日本のフュージョンの、海外でちょっとしたレアなLPとか、所謂「和モノ・ジャズ」なんかは、イギリス人が特に注目してたんですけど、彼らが買い占めちゃう前までは、ものすごく安かったんですよね。だから、本当に500円とか、ヘタしたら「エサ箱」系にあったものなんですよね(笑)。その後、都心で高くなり始めた時代でも、地方や、ちょっとした郊外、例えば横須賀の方なんかに行くと、500円コーナーで川崎燎があったりとか(笑)。沖野さん(沖野修也)は、一律500円とかで、『Black Renaissance』を、合計8枚ぐらい買ったって言ってましたからね(笑)。」


山本邦山 / 竹の組曲
> 山本邦山 『竹の組曲』

尺八の鬼才・山本邦山が、前田憲男(p)、荒川康男(b)、猪俣猛(ds)といった名手揃
いのジャズ・トリオと一体になって繰り広げる、深い味わいに満ちた「静と動」の世界。
カテドラルの余韻を生かしたアコースティックの響きが心地良い。





板橋文夫 / 渡良瀬
> 板橋文夫 『渡良瀬』

栃木県宇都宮の同郷の偉人、渡辺貞夫に誘われてジャズ界に入ったといわれる豪腕
ピアニストによる、82年に発表された幻のアルバム。激情の奏者という肩書きとは違っ
たナイーブな側面を聴かせる。81年10月東京録音。





阿川泰子 / Re-mode: Club Jazz Digs Yasuko Agawa
> 阿川泰子 『Re-mode: Club Jazz Digs Yasuko Agawa

須永辰緒氏監修。クラブ・ジャズ世代にもなじみの深い、阿川泰子の数々の名曲を国内
外ジャズ〜ハウス・シーンのトップ・クリエイター達が多大なるリスペクトを以ってリミック
スを施した1枚。海外からは、Nicola Conte、Gerardo Frisina、Rasmus Faber、
Five Corners Quintet、一方国内からは、須永番長を筆頭に、小林径、Calm、
A Hundred Birds、Quasimodeといった現況クラブ・シーンの辣腕達が一堂に集結。



阿川泰子 / Sunglow
> 阿川泰子 『Sunglow』

当時の邦人ジャズ・アルバムとしては、異例の30万枚台の大ヒットを記録した、「ネクタ
イ族のアイドル」=阿川泰子の81年発表5作目。クラブ・ジャズ系リスナーからは、Viva
Brasilらのカヴァーでもおなじみの「Skindo-Le-Le」所収により和ジャズ〜フリーソウル
のバイブルとしても崇められている。バックを務めた松岡直也&Wesingによる、目眩めく
ブラジリアン・フュージョン/ボッサ・サウンドが体を揺らす傑作。



V.A. / 渋谷ジャズ維新: Calm Collection - Baystate Issue
> V.A. 『渋谷ジャズ維新: Calm Collection - Baystate Issue

日本のジャズ・クラシックを今日的な視点で再編集する『渋谷ジャズ維新』シリーズの第
2弾。「胎動する黒人ジャズの発火点」をキャッチ・コピーに、激動の70年代アフロ・アメリ
カン・ジャズを、日本企画で音盤に刻み込んでいたレーベル=Baystate。世界中のクラ
ブ・ジャズ・フリークが血眼になって探していたレーベルの貴重音源が、Calm氏のコンパ
イルでいよいよ陽の目を見ることとなった。



V.A. / Freedom Jazz: ベイステイト・スピリチュアル・ジャズ・コレクション
> V.A. 『Freedom Jazz: Baystate Spiritual Jazz Collection

ジャズ・ファンは元より、クラブ・ジャズ、ジャジー・ヒップホップ・シーンからも熱い注目を
集める、日本初のスピリチュアル・ジャズ・レーベル=Baystate。その全貌に迫り得る、
70年代の入手困難音源を中心にセレクトした強力コンピ。各タイトルからのハイライト楽
曲を、惜しげもなく詰め込んだ、まさに一生モノとなる「スピリチュアル・ジャズ・コンピ」の
決定版。



Harry Whitaker / Black Renaissance
> Harry Whitaker 『Black Renaissance』

1976年に発売されるも、契約的な問題があり、即発売中止になった「いわくつき」の
レア盤にして、Roy Ayer's Ubiquityでも活躍した天才ピアニスト、Harry Whitaker
を中心に、Woody Shaw(tp)、Azar Lawrence(ts)、Mtume(per)らが加わった
プロジェクト=Body、Mind & Spiritによるスピリチュアル・ジャズの金字塔。






-現在のジャズ・シーンで注目しているアーティストはいますか?

Nostalgia 77とか、Carlos Nino周辺(Build An Ark)なんかは、面白いことやってるなって感じはしますね。Q-Tipともやってる、ギタリストのKurt Rosenwinkelもいいですよね。『Heartcore』っていう、ヒップホップの精神が入っているジャズ・アルバムを、Verveから出しているんですけど、これは、すごくクールですね。」



Kurt Rosenwinkel / Heartcore
> Kurt Rosenwinkel 『Heartcore』

神秘的かつ繊細なメロディ、ホーン・ライクなシングル・ライン、温かみのあるトーン、リヴ
ァーブやエコーによる空気感、そして複雑なハーモニー・・・という独自のスタイルを持つ、
Pat Metheny以降のジャズ・ギター・ヒーロー、Kurt Rosenwinkel。Q-Tipをプロデュ
ーサーに迎えた'03年Verve盤。もはや、「ギタリストのリーダー作」という枠を超えた、
革命的で先鋭的なエレクトリック・ミュージック・アルバム。




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     小西康陽 「Talkin' about JAPANESE GROOVE」はこちら
     Mitsu the Beats 「Talkin' about JAZZ」はこちら
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