インタビュー:佐野元春(Page2)

2007年7月6日 (金)


 

―インタビュー続き―          
               

─そんな 3 人とともに創り上げた今作。ほんとうに一貫して 4 人の「バンドサウンド」というところが強く出ていますよね。

佐野:まぁ、こうした例は日本ではねぇ、すごく少ない。でも UK では例えばポールウェラーのやってきたことを見てきた下の ( 世代の ) オーシャンカラシーンのメンバーやオアシスの面々がコラボレーションしたり、ポールウェラーの新しい音楽のセッションメンバーに入る。で、 TV 番組でその様子を見せたりとか、ありますよね。これは、ポールウェラーを古くから支援してきたファンにとってはとても良い景色として目に映るだろうし、新しい世代にとっては古いアーティストではあるかもしれないけれども、そのアーティストの価値というものを自然なかたちで知り得る。それは素晴らしいことだよね。

今回は自然なかたちでそれを実現した。これはぼくにとっては嬉しい事ですね。

       
    Ocean Colour Scene『On The Layline』  
    オーシャンカラーシーンが6月にリリーしたばかりの最新作『 On The Leyline』。今作ではPaul Wellerが楽曲提供を行っている。 彼等は今年のFuji Rockで来日!

 

─話が少し戻りますが、今作を流れる『「 Coyote 」という男の視点で切り取ったロードムービのサウンドトラック』というコンセプト。過去の作品と対比すると佐野さんの中ではどのような位置づけなのでしょうか?

佐野:常々曲を書いていて、自分が思うことなんですけれども、聴いてくれた人が聴いてくれた矢先から映像化できるような曲を書きたいなと思っています。そうしたソングライティングのアプローチということでいえば、初期でいうと『Back to the street』のなかの「情けない週末」も「アンジェリーナ」もそうですし、アルバム『Someday』のなかの何曲かもそうですしね。

うーん、僕のソングライティングのスタイルは、ひとことで言えば「ストーリーテリング」 (Story Telling) 、語り部的なアプローチ。つまり僕が怒っているとか、僕が誰かに振られて悔しいとか悲しいとかそういうような日記みたいなものは横に置いといて、いつも誰かのことを歌いたいと思ってる。誰かの人生のこと、誰かの喜怒哀楽を上手にスケッチをして物語にして、それを僕のリスナー、ファンに聴いてもらいたいなと思ってる。

そうすると、聴いてくれた方はその物語を受け取った先にそれを自分の物語としてまた紡ぎ直してくれることもあってですね、その時にはじめてその人にとってその曲は大切なものになっていくはずなんですね。上手くできてるかどうかはわからないけれども、僕はそういう「物語」をつくっていきたいと思っている。

 

─今作ではその「物語」の象徴的なキーとして「荒地」という言葉もまた重要だと思うのですが、実際に佐野さんにとっての「荒地」というのはどういう風景が見えているのかな?と。

佐野:まぁ、そもそもこのアルバムはね、この現代 … 僕達が生きているこの時代といったものを「荒地」として見立ててみようと。そこに主人公であるコヨーテ男を歩かせてみようというところが最初にあったんですね。しかしね、この現代を「荒地」としてみたててなにか創作をしていこうという態度は、なにも僕が発明したわけじゃない。古くはT . S . エリオットとか 50 年代のビートジェネレーションの作家達も同じようなアプローチをしたり。日本でいえば戦後現代詩の多くの作家達が " 荒地派 " なんていうグループをつくっている。まさに戦後間もない頃の芸術家たちですから、本当の「荒地」だったと思うんだけれども ( 笑 ) 、そこから詩作をしていたグループもいた。

そうしたなか、この作家のアプローチをそのままというわけではないんだけれども、僕も自分なりにこの現代を「荒地」として見立てて、どんな詞が出来るのかな?自分からどんな音楽が出てくるのかな?と、そういう好奇心もありましたね。

 

「荒地」という言葉をつかったのは実を言うと今回が初めてではなくて、『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』というアルバムの「新しい航海」という曲のなかで「荒地のなかに君が見えてくる」という一節を歌っている。まあそこから繋がってきている部分でもあります。
  ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
             
■佐野元春80年代を代表する名盤『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』  
 
「 もっとこの種類の音楽を聴きたいと思っている人はたくさんいる、と思っている。」

               

─今作のなかで「呼吸」という曲がありますよね。この曲だけはほとんどの楽器 ( ギター、ピアノ、ベース ) を佐野さん一人で演奏されてるんですが。

佐野:うん。そうだね。

─ちょっとそれが意外というか、というのもこのバンドサウンドのアルバムの中に 1 曲だけこういう曲があるということが。

佐野:あー、なるほどね。

─この曲はどういう意味を持つのかな?と気になるのですが …

佐野:僕は今回、集まってくれたあのミュージシャン達と演奏だけではなく「心のハーモニー」をしてみたかった。どういうふうにすると得られるか?というと、一緒に歌うということなんだよね。だからあの「呼吸」と言う曲はスピーカーの右左から、片寄君、小松君、深沼君のハーモニーがいっぱい聴こえてくる。僕のメインメロディーの伴奏でね。そうしてああしたテーマの曲を多感な頃に僕の音楽を聴いていた彼等の世代と一緒に歌ってみたかった。っていうのはあるね。そこに立ち現れるフレンドシップというか、友愛とか ... なにか現代においては見失いがちな「温かみ」のようなもの。それをひねくれたかたちではなく、表現してみたいものだなぁと思い、あのサウンドが出てきたわけです。自分でプレイをし、仲間達にハーモニーをつけてもらうというね。

─その今の「フレンドシップ」ということでいえば、特に古くからのリスナーも佐野さんが 25 年というキャリアを経た今、こんな素敵な作品を出してくれたということ。そこに自分を重ねあわせるリスナーの方も多いと思うんですけど。

佐野:うん。実際、僕の音楽をどなたが聴いてくれようが、どこで聴いてくれようが、聴いてくれる方がいくつだろうが、僕はお構いはしない。

僕の方から「こういう人に聴いてもらいたい」というのも無い。ただ、どこかで偶然に僕の音楽を見つけてくれ、気にしてくれた人がいるとしたならば、そしてなおそれを自分の音楽として大事にしてくれてる人が何人かいるとしたならば、それはソングライターとして本当に光栄なことだし、そうした彼等にもっともっと僕の新しい曲、古い曲だけでなく新しい曲をプレゼントしたいなぁって思いますよね。まあ … その連なりで 20 数年間ずっとやってんだけどね。だから、初期の僕の曲に登場した若い主人公がその後成長して最近のアルバムの曲の主人公になっている場合もあったりする。

というふうに、聴き手と一緒に曲も成長しているしね。曲と一緒に僕もリスナー、ファンの人達も大人になっていく。そのすぐ横っちょに僕の音楽があったりするのであれば、それほど光栄なことはない。

それと同時に僕は「佐野元春の音楽は聴いたことないんだよ。名前は知ってんだけど、今回『Coyote』はじめて聴いたんだけどスゲーよ!」っていうね、 10 代後半〜 20 代前半の声が今ネットを通じてばんばん入ってきて、それも嬉しいことですね。うん。先入観無く、その音楽を楽しめるというのは素晴らしいことであってね。

HMVオンラインselect〜佐野元春への入門盤3枚!  
                 
   

20th Anniversary Edition

  Grass 20th Anniversary Editions 2nd   Someday  
               

(写真左より)

『20th Anniversary Edition 1980-1999 His Works And Music』

初期曲を含むベストだとこれがおすすめ。いわゆる"代表曲"をだいたい網羅しています。「コンプリケーション・シェイクダウン」で天才的な言語感覚とビートを体験して、「ダウンタウンボーイ」でセンチメンタルな気分を感じ、「ハッピーマン」での壊れっぷりに驚き、矢野顕子と共演した「また明日」「レインガール」でロマンチックな佐野元春を知ってください。

『Grass 20th Anniversary Editions 2nd』

こちらもベスト盤です。どちらかというとラディカルな側面を濃縮したこの作品、若いリスナーにとっては"「Someday」のひと""「約束の橋」のひと”というイメージをいい意味で裏切る作品かと思います。「ディズニー・ピープル」でのアグレッシブな疾走感、「ミスター・アウトサイド」「インターナショナル・ホーボーキング」での独特のグルーヴ感、そして名曲「ジュジュ」、Bonnie Pinkとのデュエットによる裏名曲「石と卵」など...この感覚こそ佐野元春の重要な要素であるといえます!

『Someday』

オリジナルアルバムで入門編といえばまずはこの作品でしょうか。80年代の日本の音楽シーンを代表する1枚でもあります。全曲文句なしの傑作揃い。組曲的な展開と、ため息が出るほど的確な言葉で綴られた主人公の心情にぐっとくる「Rock&Roll Night」 に涙してください。

   

 

─では、お話は変わって今作のリリース形態についてもお伺いしたいんですが、今回パッケージでのリリースと同時に iTunes ストアでの配信 、こちらも行われているんですが、このリリース方法を採用された意図というのは ...

佐野:僕からの新作を早く聴きたい人はダウンロード販売、ちょっと時間掛かるかもしれないけれども、パッケージも含めたトータルアートを楽しみたい人にはパッケージを。そういうことですね。

聴き方、楽しみ方は色々あっていいと思うんですよね。僕は 10 代のときにリスナーの側にいたときにね、自分のお気に入りのソングライターやバンドのアルバムが出るといえば、やっぱわくわくしたものですよね。早く聴きたい為に、発売前にラジオで特集してないか?とか一生懸命番組を漁ったこともあるし。またパッケージが出たら出たで、レコード屋に並んだら いの一番 で発売日に並んで買うっていうね。うん、だから昔とそれほど変わって無いんですね。僕は今レコードレーベルを主宰しています。音楽リスナーの環境がどんどん変化していってる。レーベルの方もフットワーク軽く彼等にフックしていきたい。そんなふうに思っている。

─そういう配信という方法も含めて、作品を届けるプロセスの変化に対する認識というのは佐野さんの中でいつ頃からあったのでしょうか?

佐野:そもそもインターネットが開放された時から、現在の状況というのは直感でね、感じていたよね。で、インターネットが使えるようになったのは … 振り返ってみれば 1995 年、 6年くらい。国内で初めてのアーティストホームページを開設したのも僕でしたし、このインターネットはいままでの過去、それまでのいろいろな構造を変えていくだろうという予兆はすでにそのときにあった。音楽ビジネスに及ぼす影響も直感としてあった ので、その都度僕からの意見を当時契約していたレコードメーカーに伝えて ... 最初は けんもほろろ だったんだよ。だけど、今になってようやく僕が言ってきたことが解ってるんじゃないかな?あ、ここはカットで ( 笑 )

というふうに、デジタル配信に限らず僕は単純にこう思ってる … 僕がつくりだす音楽がある、そしてこの様な音楽を聴きたいと思っているリスナーがきっと何人かいる。その彼等に、滞りなく届けられるということですよね。僕は今こうして新作『 Coyote』を色々なやりかたでリリースしているけれども、この『Coyote』の様な音楽を聴きたいと思っているリスナー全員に届いているかと言ったら、全然届いていないと思っている。もっとこの種類の音楽を聴きたいと思っている人はたくさんいる、と。

だからその人達に時間が掛かってもいいんですけれども、きちんと届けていくというのが僕が主宰している Daisy Music の一つの課題。

今までとは違うやり方でやる。メジャーカンパニーにはできないやり方で探求していきたいと思っています。

─わかりました。ではちょっと話はかわって今回のコンセプトにある「サウンドトラック」。佐野さん御自身が好まれている映画音楽ってありますか?

佐野:うん。映画音楽だよね。他愛もない恋愛映画とか好きですよ。それからギャング映画ね。多感な頃に観た「思い出の夏」っていう映画、その背景に流れる音楽がとても美しくてね。レコードを買いました。まだ中学生の時かな。それとかギャング映画だよね「あーかっこいいなぁ」っていうのがあって … ニヒルなバックミュージックかなんか流れてて「いいなー」って思ってね。思わずサントラ盤買っちゃったりとかしてね。高校生の頃かな。

─今回のアルバムを映画にされたりとかって ...

佐野:うん。実際アルバムを制作するなかで映画のシナリオめいたものはありました。僕のなかで、筋書きがあり主人公がいて、その主人公と関連した脇役がいて。

シナリオはあるんでね、どっかの映画監督が興味あるっていうんだったらば映画化してもいいんじゃない?まぁ、僕が映画化したいんだよ ( 笑 ) 。でもそのまえに「そのエネルギーあったら新作つくれ」ってファンから言われるんだけどね ( 笑 ) 。
               

─では最後になりますが、今作について現在の佐野さんからリスナーの方へのメッセージを頂けますか?

佐野:俺は図に乗ってるかもしれない。
でも『Coyote』はどう客観的に聴いても ” ベストアルバム・オブ・ジ・イヤー ” だと思うよ。

...うーん、でもそう発言すると誤解するかな ( 笑 ) 。

       

─いや、そんなことはないですよ。

佐野:もうひとつの結論言っといてもいい ?( 一同笑 )

実際まだリリースしたばかりでしょ。本当のこと言ってすごくまだホットなので、この多くの人達から本当に高く素早く反応が戻ってきていることにホントのこと言うとちょっと戸惑っている。うん。たしかに自信作です。『The Sun』とはちがうアプローチでよくこのアルバム、この曲が出てきた。もう「ありがとう」っていう感じだよね。

でもまだリリース間もないということもあり、ホントのこというとまだホットでよく客観的に見えてないね。

これが今度はスタジオから解き放たれて、ライブでの表現をこの先またファンには観てもらうわけで、そのときにまたこの『Coyote』の本当の真価が問われるんじゃないかな。そして、これまでのファンにも『 Coyote 』から聴いたという初めてのファンにも、そのライブ会場においてね、心地よい一撃を食らわしてやりたいなというふうに思ってる。

 

2007年6月27日Daisy Musicにて
インタビュー協力:Daisy Music/MFMP

 

―次のページではリスナーからの質問に佐野さんが答えてくれています!―


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