あのラッパライネンが遂に再来日〜今度も...
Tuesday, February 14th 2006
連載 許光俊の言いたい放題 第47回
「あのラッパライネンが遂に再来日〜今度も激ヤバのサロメか?」
今から2年ほど前のことだ。たまたま何かでNHKホールに出かけた私は、休憩中、退屈しのぎに、コンサートやオペラのチラシの束をめくっていた。
ほとんどは、どうでもよいような内容。「つまらないなあ」と、ろくに見もせずに、ゴミ箱行きになった。
しかし、分厚い束の中に、たった1枚だけ、思わず目を瞠るようなものがあったのだ。
「抜群のプロポーション」
「狂おしく演じ歌う」
「元ミス・カリフォルニア」
何これ? およそクラシック離れした扇情的な文句が大きな文字で印刷してある。その1枚を手にして、私は唖然と立ちつくした。
武蔵野市民文化会館で上演されるシュトラウス『サロメ』(ザクセン・アンハルト劇場)のチラシだった。ご存じの方も多いだろうが、あそこは経費節約のためか、再生紙にワープロ打ちでごく簡素なチラシを作っている。が、この場合、かえってそれが生々しい表現力を持っていた。怪しげな、隠微な匂いがした。何かすごいんじゃないか。ピンと来た私はその場で公衆電話に飛びつき、さっそくチケットを申し込んだ。何しろ、主役は美人が多い北欧系の人で、しかもミス・カリフォルニアだという。盆と正月がいっぺんに来たような豪華な組み合わせではないか。
結論から言うと、大当たりだった。かの名演出家ヴァルター・フェルゼンシュタインの息子ヨハネスが作った舞台は、細部まで実に論理的に筋が通った立派なものだった。おそらく多くの人にとって『サロメ』は、例の踊りと、最後のサロメのモノローグ以外はさしておもしろくないオペラだろうが、とんでもない。それぞれの登場人物の性格や役割がきっちりと描き分けられていて、このオペラが、また台本がこんなにもよくできた作品だったのかと感心させられた。オーケストラの水準も十分高く、官能的な響きを満喫できた。
そして、ラッパライネンが演じるサロメは、わがままな若い娘の雰囲気がぷんぷんして、エロティックで、何より最後がすごかった。ヨカナーンの首を手にして歌いながら、だんだんと衣服が落ちていく。えっ、えっ、えっ、マジ?と驚きながら見守る中、最後は完全な裸身が照明によって白く輝き、音楽的クライマックスに到達する。あのリヒャルト・シュトラウスの壮麗なオーケストラの響きに包まれ、歌手が全裸で数分間歌い続けるのは、いまだかつて体験したことがない、たいへんな迫力であり、衝撃であり、特別の体験だった。見ているほうもサロメ同様、すっかり恍惚としてしまった。この恍惚を何度でも味わいたく、そのあとも2回見に行ったほどだ(しかも、もっと行くべきだったと後悔した)。
このプロダクションは、東京をはじめ、日本の何カ所かで上演されたのだが、どういうわけか、朝日新聞で白石美雪がヒステリックに批判していたのをはじめ、中途半端にオペラを知っている人々には評判が悪かった。確かに、ラッパライネンの声質は超一級品ではないし、大ホールを満たすだけの強さもない。だが、考えてもみたまえ。もともとザクセン・アンハルト劇場は、こじんまりした客席の劇場なのだ。そういうところで制作されたものを、オーチャードホールの後ろのほうの席で見て、どうして真価がわかろう。しかも、ラッパライネンは毎日のように『サロメ』と『さまよえるオランダ人』に出演という殺人的スケジュールをこなしていたのである。
逆に、この上演は何の先入観も持たない人々には、ものすごいインパクトだったようだ。一度は福島県の郡山まで出かけて見た。客の入りは悪かったが、おそらくオペラなどあまり、あるいは全然見たことがなかったであろう人々は大興奮し、ほとんどが終演後、出演者たちのサイン会に押し寄せた。男性客たちはプログラムを買って開いてみて、「なんだ、舞台写真はこれだけか」とがっかりしていたし、女性客も何だかわからないがやたら嬉しそうだった。もちろん、当夜と同じキャストのライヴCDを買い込む人も多かった。某週刊誌の女性記者も「プレイメイトみたい!」と喜んでいた。
また、さんざんオペラを見ている人にも評判がよかった。海外でもオペラを見まくっている某文芸誌記者は「ここまでやるのか?!」と仰天していたし、要するに、なまじオペラはこういうものという先入観がある人、一流のオペラはこういうものという頑固な基準がある人は、舞台が発散する力を素直に受け取れなかったのである。
ともかく衝撃的な舞台だったので、拙著『オペラに連れてって! 完全版』にはこのときの写真をふんだんに入れたし、お医者さん向けの雑誌とか、韓国の音楽雑誌とかにも写真入りで紹介した。反応はきわめてよく、「ぜひ見たい!」という声が多かった。
さて、その主役のラッパライネンが、なんと6月、再び日本に来るのだ。今度はポーランド国立歌劇場とともに『サロメ』を演じる。ここのところワシントンだのニューヨークだのケンタッキーだの、テロが怖くて行きにくいところでばかりサロメを歌っていたので、実にありがたい。
しかし、なんと、東京公演の主役を歌うのはラッパライネンではない。シルヴィ・ヴァレールだ。この人は、近頃、世界中のあちこちでやたら歌っていて、海外の劇場に行くと、よく遭遇する。悪い歌手ではないが・・・。おまけに会場はNHKホール。
ラッパライネンが出演するとはっきり告知されているのは、関東では群馬県の高崎市だけだ(群馬音楽センター)。私はもちろん、チケット発売日に電話して、最前列を買った。なんと最高席で1万円という値段はきわめてリーズナブルと言うしかない。新国立劇場の半額である。
ラッパライネンは福岡でも歌うらしいが、ちょっと遠いので、行くかどうか迷っているが、たぶん行くことになるだろう。宣伝文句には「サロメは官能的に舞い最後の1枚も脱ぎ捨てる」とあるので、期待は高まるばかりだが。
今回も武蔵野市民文化会館で上演があるけれど、主演はラッパライネンではなく、ケリー・ケイ・ホーガンという人である。またまた扇情的なチラシによると
「美貌の新星」
「狂おしく歌い踊る」
「過激なまでの大胆な演出」
ということで、舞台写真が何枚も出ている。武蔵野としては尋常でない力作のチラシだ。
何より
「ワルシャワと同じ演出で公演が行われるのは東京では武蔵野だけ!」
という文言が気になる。どういうことだろう・・・。
このホーガンという人は、経歴を見ると、ラッパライネンとやたら重なっている。もしや、ふたりともヴィジュアル系歌手の発掘が得意な事務所に所属しているのか? むろん、こちらも見に行くことにした。
何にせよ、今度の6月は史上稀なヴィジュアル系サロメの競演となるかもしれない。チケットを買ってわくわくしながら待つのは楽しいことだ。念のために言っておくと、『サロメ』だけは絶対に前のほうで見たほうがよい。いくら前でも前すぎるということはない(また、常日頃あまり大きな劇場で上演していないオペラハウスが来日する場合には、やはり前の席を選ぶべきだ)。
なお、『サロメ』にはいろいろなCD,DVDがある。CDなら、正直言って、有名なカラヤン(ウィーン・フィル)でもベーム(ハンブルク国立歌劇場)でもショルティ(ウィーン・フィル)でも、どれでもよい。映像なら、コヴェントガーデンの舞台収録であるユーイング主演のがサロメの狂気をよく表現している。ブリブリしたのがいい人は、マルフィターノのものもある。ストラータスは、オーケストラの演奏がすばらしいが、視覚的にはおもしろくない。いずれも、これさえ見れば!というほどではないが、ラッパライネンをいっそう堪能するためには、見ておくといいかもしれない。
ともかく、「サロメ」という作品は、舞台で接したとき初めて、作曲者の本当のすごさがわかる作品なのである。これは絶対に間違いない。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学助教授)
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
featured item
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Import Salome : Karajan / Vienna Philharmonic, Behrens, Baltsa, etc (1977-78 Stereo)(2CD)
Strauss, Richard (1864-1949)
Price (tax incl.): ¥3,410
Member Price
(tax incl.): ¥2,967Release Date:25/June/1999
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Import Salome: Bohm / Hamburg State Opera G.jones F-dieskau Dunn Cassilly Ochman
Strauss, Richard (1864-1949)
Price (tax incl.): ¥3,300
Member Price
(tax incl.): ¥2,871Release Date:15/June/1994
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Import Salome: Solti / Vpo Nilsson Stilze Wachter Hoffmann
Strauss, Richard (1864-1949)
Price (tax incl.): ¥5,447
Member Price
(tax incl.): ¥5,012Release Date:07/July/1987
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FEATURED TITLE
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Salome: P.hall Downes / Royal Opera House Ewing Devlin Riegel Etc
Strauss, Richard (1864-1949)
Price (tax incl.): ¥7,150
Multi Buy Price
(tax incl.): ¥5,934Release Date:21/December/2003
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Import Salome: Malfitano, Terfel, Dohnanyi / Royal Opera House Covent Garden.o
Strauss, Richard (1864-1949)
Price (tax incl.): ¥3,410
Multi Buy Price
(tax incl.): ¥2,626Release Date:07/March/2003
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生きていくためのクラシック -世界最高のクラシック 第2章 光文社新書
MITSUTOSHI KYO
Price (tax incl.): ¥792
Release Date:October/2003
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