【発売】ボルトン&ザルツブルク・モーツァルテウム管/ブルックナー:交響曲第0番
2024年08月26日 (月) 18:00 - HMV&BOOKS online - Classical

作品の真価を引き出した情報量の多い演奏&録音
ブルックナー:交響曲(第0番)ニ短調 WAB.100
アイヴァー・ボルトン(指揮)ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
ベルリン・クラシックス制作モーツァルテウム管弦楽団シリーズの1枚。装丁は美麗なディジパック仕様で、掲載テキストは英語とドイツ語。ウィーン生まれで36年間ザルツブルクで音楽ライターやドラマトゥルクとして活動するゴットフリート・カスパレクが有益な情報を書いています。
ボルトン&モーツァルテウム管のブルックナー
アイヴァー・ボルトン指揮モーツァルテウム管弦楽団のコンビは2004年から2015年にかけてザルツブルク祝祭大劇場でブルックナーの交響曲全集を録音していましたが、ホルガー・ウアバッハが担当した対向配置の第1番、第2番(2013、2015年)と、イエジー・ポスピーハルが担当した通常配置のほかの曲(2004〜2010年)では音の傾向が少し違っていました。
編集・ミックスまで自身のプロダクションで実施
今回は第1番、第2番と同じくホルガー・ウアバッハによる録音ですが、編集・ミックスまで自身のプロダクションでおこなっているため、間接音や残響、低音の保存具合が良く、ナチュラルでレンジも伸びているため、ボルトンとモーツァルテウム管弦楽団本来のサウンドを快適に楽しむことができます。
ボルトンは2020年に、「オーストリア共和国の特別な利益における並外れた功績」に対して、オーストリア国籍が与えられていますが、それも納得の見事なサウンドです。
対向配置でわかりやすい作品構造
このニ短調交響曲は、対位法的な書法が重要な役割を果たす作品のため、第2ヴァイオリンが目立つ場面も多く、ヴァイオリンを両翼に展開する対向配置は非常に効果的です。
また、対向配置を採用する演奏は、各楽器の音が聴き取りやすい傾向があるので、ブルックナーが指定した楽器編成(フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部)がもたらす音響効果を、ブルックナー本来の楽器間の音量バランスで確認できるのは理にかなっています。
さらに、ボルトンはフレーズの形をきちんと維持させるため立体感も申し分なく、音楽の細部までよくわかることから作品構造が理解しやすくなっているのも大きなポイントです。
前作第1番よりブルックナー的な書法
第0番という通称のおかげで習作と思われがちなこのニ短調交響曲ですが、実際に聴いてみると、オルガン的な美しいコラールや長い休止に加え、フガート、ユニゾン、オスティナート、野趣あふれるリズム、強力な金管など、おなじみのブルックナー的書法が大量に投入されているので、第1番から第9番の場合と同様、曲に親しんで慣れてさえしまえば、魅力あるブルックナー作品として十分に楽しむことができるものと思われます。
ブルックナーの他作品との共通素材
3年前に完成した交響曲第1番では宗教作品は引用しなかったブルックナーですが、ここではミサ曲からの引用をおこなって美しい効果を上げています。また、前年から上向いてきた仕事運・生活運のもたらしたインスピレーションのおかげか、のちに交響曲第2番、第3番、第9番にも転用されるような良質な楽想が数多く登場するのもこの作品の特徴です。
作曲当時のブルックナー
参考までに、作曲年と前年の時系列情報を記しておきます。
【1868年】
◆ 1月、ミサ曲第1番がリンツ旧大聖堂で初演。成功。
◆ 5月、ハ短調交響曲(第1番/1865〜1866年作曲)がリンツで自身の指揮で寄せ集めオケで初演。批評は好意的だったもののブルックナーは満足できず、23年後の大改訂再演まで封印。
◆ 9月、ミサ曲第3番完成。リンツからウィーンに転居。
◆ 10月、ウィーン楽友協会音楽院(現ウィーン国立音楽大学)の教授に就任(和声と対位法とオルガンを担当して年俸800グルデン。翌年ブルックナーが雇う家政婦は月7グルデン)。ウィーン宮廷の礼拝堂で、オルガニスト補佐、資料室副主任、合唱団第2歌唱指導者も無給で兼務。
◆ 12月、オーストリア文化教育庁から交響曲作曲奨励金として500グルデン支給。
【1869年】
◆ 1月、ニ短調交響曲(第0番)作曲開始。交響曲第2番と表記。
◆ 4月、フランス、ナンシーの巨大なゴシック教会「サンテプヴル教会」の招きにより、1867年のパリ万博で金メダルを得ていた同教会のメルクリン&シュッツェ・オルガン競演会に参加。
◆ 5月、ナンシー公演の成功により、メルクリン&シュッツェ社がブルックナーをパリに招き、前年に5年がかりでカヴァイエ=コルが完成していたノートルダム大聖堂のオルガンを演奏。客席にはフランク、サン=サーンス、グノーなども列席。
◆ 9月12日、ニ短調交響曲(第0番)、完成。
◆ 9月29日、ミサ曲第2番がリンツ新大聖堂の礼拝堂完成を祝してブルックナー指揮により初演。1866年に作曲されていたものの工期の遅れによりこのときに初演(リンツ新大聖堂全体の完成は1924年)。
◆ 11月、生地アンスフェルデン市より名誉市民の称号を授与。
作曲当時は交響曲第2番と明記
ブルックナー40代なかばの1869年に作曲されたこのニ短調交響曲は、手稿譜には「交響曲第2番」と明記してあります。次作のハ短調交響曲は、1871年秋に「交響曲第3番」として書き始められ、2年後の1873年10月に「交響曲第2番」として自身の指揮で初演しているので、その2年間のどこかで、ブルックナーがニ短調交響曲の番号付けを断念し、ハ短調交響曲を交響曲第3番から第2番に繰り上げ変更したことになります。
番号付け断念に至った理由
ブルックナーは、このニ短調交響曲の楽譜をウィーン・フィル(宮廷歌劇場管弦楽団)音楽監督のオットー・デッソフ[1835-1892]に見せた際に、主題はどこにあるのかなどと侮辱されており、それが撤回・番号付け断念の理由になったと考えられます。デッソフはその後、ハ短調交響曲(交響曲第2番)についても拒否してブルックナーを傷つけているので徹底しています。
ブラームス派とワーグナー派
デッソフはブラームスの親友で、ワーグナー派(新ドイツ楽派)とは微妙な関係にありましたが、当時のブルックナーはワーグナーやビューローと交流するワグネリアンではあったもののまだ無名なので、ニ短調交響曲もハ短調交響曲も単にデッソフの好みではなかったということでしょう。ブルックナーは1861年に、新ドイツ楽派のオットー・キッツラー[1834-1915]からリストやワーグナーのオーケストレーションなどを学んでもいましたし。
また、ブラームス派の急先鋒、ハンスリック[1825-1904]は若い頃にブルックナーと知り合っていたことから最初は好意的でしたが、1874年にブルックナーがウィーン大学に音楽理論講座を開設するよう何度か当局に要請した際に、1870年に教授になっていたハンスリックがその都度激しく抵抗して阻止してからは、ブルックナーは攻撃対象にされています。
「第0番」の名の由来は引っ越し時の荷物整理
1894年12月、ブルックナーは終油の秘蹟までおこなうほど健康状態が悪化。住居のある5階から外出するには、特別な椅子に座った状態で2人がかりで階段を降りたり登ったりする必要があったため、1895年1月には庭に面した1階の部屋という条件で物件を探し始めています。
しかしなかなか見つからなかったため、フランツ・ヨーゼフ皇帝に申請したところ、ベルヴェデーレ宮殿敷地内の管理人用宿舎に空きがあったことから入居が許可。宮殿の庭園に面し、近くには礼拝堂もある理想的な物件でした。
ブルックナーは引っ越しに備え、保管してあった自筆譜や写譜の確認と処分をおこない、7月に転居しています。
その際、撤回後に20年以上そのまま保管されていたこのニ短調交響曲については、「第2番」と書かれているところに2本の打ち消し線を引いてさらにその下に「無効」と記したほか、「0」「無価値」「単なる試作」などといった言葉を各所に記入。
次作のハ短調交響曲が「交響曲第2番」として1892年に出版されているため紛らわしいことから、「第2番」の表記は確実に打ち消さなければならなかったことと、このニ短調交響曲には、ワーグナーに献呈したニ短調交響曲(第3番)や、目下作曲中のニ短調交響曲(第9番)にも似た素材が含まれることから、2つのニ短調交響曲のスケッチなどと混同されないように強く否定しておく必要があったとも考えられます。
カトリック教会関係者だったブルックナーには「0」は番号ではない可能性
なお、ブルックナーは宗教の世界と深く結びついていたことから、「0」については、番号として書かれたものではなく、単に否定するための文字として使ったと考えるのが妥当と思われます。
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交響曲(第0番) ニ短調 WAB 100 (46:39)
Track 1
第1楽章 Allegro / 自由なソナタ形式 / (15:40)
● 00:02〜03:45 呈示部 (03:43)
00:02 第1主題
01:10 第2主題
02:10 第3主題
02:50 コラール
● 03:45〜09:22 展開部 (05:37)
03:45 コラール
04:10 第2主題
06:27 コラール
07:46 第1主題
● 09:22〜12:34 再現部 (03:12)
09:22 第1主題
09:56 第2主題
10:56 第3主題
11:34 コラール
● 12:34〜15:42 終結部 (03:08)
12:34 第1主題
14:33 コラール
15:16 第3主題
Track 2
第2楽章 Andante / 自由なソナタ形式 / (13:49)
● 00:01〜04:42 呈示部 (04:41)
00:02 第1主題
02:11 第2主題
03:58 第3主題
0442 ● 04:42〜07:47 展開部 (03:05)
04:42 第3主題
06:29 第2主題
● 07:47〜11:00 再現部 (03:13)
07:47 第1主題
09:07 第2主題
1: 第3主題
● 11:00〜13:50 終結部 (02:50)
11:00 第1主題
12:05 第2主題
13:14 第1主題
Track 3
第3楽章 Scherzo. Presto - Trio. Langsamer und ruhiger / 三部形式 / (06:33)
● 00:00〜02:18 主部 (02:18)
● 02:18〜03:53 中間部 (01:35)
● 03:53〜06:09 主部 (02:16)
● 06:09〜06:33 終結部 (00:24)
Track 4
第4楽章 Finale. Moderato - Allegro vivace / 序奏付きの自由なソナタ形式 / (10:00)
● 00:00〜04:11 呈示部 (04:11)
00:00 序奏
01:08 第1主題(フガート)
02:17 第2主題
02:56 第1主題
03:32 コラール
● 04:11〜06:52 展開部 (02:41)
04:11 第2主題
05:16 第1主題(フガート)
06:28 移行
● 06:52〜08:33 再現部 (01:41)
06:52 第1主題
07:24 第2主題
● 08:33〜10:00 終結部 (01:27)
演奏者情報
◆ ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
ルーツはコンスタンツェ・モーツァルト[1762-1842]が資金援助して1841年にザルツブルクで設立された「大聖堂音楽協会とモーツァルテウム」で、宗教音楽演奏を担うオーケストラとして発足。一時はモーツァルテウム音楽院に所属していましたが、1938年に音楽院から独立して、プロのオーケストラとしての活動を開始。
1958年にザルツブルク州とザルツブルク市の運営団体となり、コンサートのほか、ザルツブルク州立劇場での演奏会も担当。
ベルンハルト・パウムガルトナーやレオポルト・ハーガーによって名声を確立したのち、ハンス・グラーフ、ユベール・スダーン、アイヴァー・ボルトンらが首席指揮者を務めてきました。
近年は客演指揮者にトレヴァー・ピノックやジョヴァンニ・アントニーニらを招いてピリオド風な演奏もおこなうようになり、2017年からは古楽に強いイタリアのヴァイオリニストで指揮者のリッカルド・ミナージが首席指揮者を務めています。
こうした環境の中で、モーツァルテウム管弦楽団はピリオドもモダンも完全に消化し、説得力のある演奏を聴かせることができるオーケストラに進化。特に、得意のモーツァルトやその時代の音楽での演奏は、細部に至るまで素晴らしいものとなっています。メンバーは91人ですが、実際の活動は室内編成のものが多く、そのため室内オーケストラとして広く知られています。
ちなみに、モーツァルテウム管弦楽団には、メルツェンドルファー(墺)、ハーガー(墺)、ヴァイケルト(墺)、グラーフ(墺)、スダーン(蘭)と連なる首席指揮者たちとのブルックナー演奏の伝統もあります。
CDは、Berlin Classics、SONY Classical、Deutsche Grammophon、ORFEO、OEHMS、Victor、Solo Musica、Alphaなどから発売。

◆ アイヴァー・ボルトン(指揮)
1958年、イギリスのランカシャーに誕生。ロンドン王立音楽院やナショナル・オペラ・スタジオで学び、オックスフォード・スコラ・カントルムで指揮者デビュー。1982年からグラインドボーン音楽祭に出演し、1984年にはオリジナル楽器アンサンブル「セント・ジェームズ・バロック・プレイヤーズ」を設立。1990年、イングリッシュ・ツーリング・オペラの音楽監督に就任。1994年、スコティッシュ室内管弦楽団の首席指揮者に就任。2004年にはザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の首席指揮者に就任し、2015年からは名誉指揮者として頻繁に指揮。2020年に、オーストリア政府により「共和国の特別な利益における並外れた功績」に対して、オーストリア国籍が与えられています。
CDは、Berlin Classics、Oehms Classics、Farao Classics、Virgin Classics、Orfeo、Teldec、ASV、Conifer、EMI、SONY、Harmonia mundi、Prosperoなどから発売。

トラックリスト (収録作品と演奏者)
ヨーゼフ・アントン・ブルックナー [1824-1896]
◆ 交響曲(第0番) ニ短調 WAB 100
1. 第1楽章 アレグロ 15'47
2. 第2楽章 アンダンテ 13'55
3. 第3楽章 スケルツォ.プレスト−トリオ 06'39
4. 第4楽章 フィナーレ.モデラート−アレグロ・ヴィヴァーチェ 10'09
ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
アイヴァー・ボルトン(指揮)
録音:2018年10月6〜7日、ザルツブルク、祝祭大劇場
Track list
Bruckner Symphonie in D-Moll 'Nullte', WAB 100
1. I. Allegro 15'47
2. II. Andante 13'55
3. III. Scherzo. Presto 06'39
4. IV. Finale. Moderato 10'09
Orchester Mozarteumorchester Salzburg
Dirigent Ivor Bolton
Recorded October 6 -7, 2018, Grosses Festspielhaus, Salzburg
Recording Producer & Balance Engineer: Holger Urbach
Editing, Mix & Mastering: Holger Urbach Musikproduktion, Ratingen
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