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【特集】 こんなビートルズ・カヴァー、聴いたことない!? ULTIMATE BEATLES COVERS [前編]

2015年11月17日 (火)



美しくレストアされたプロモーション・フィルム/ビデオに、
まったく新しいステレオ/サラウンドのオーディオ・ミックスを合体させた
『ザ・ビートルズ1』の最新エディション、絶賛発売中!


Beatles 『Beatles 1』

2000年にリリースされ、これまでに全世界で3200万枚、日本でも320万枚のセールスを記録している大ベストセラーアルバム『ザ・ビートルズ1』の最新版が登場!

今回発売される『ザ・ビートルズ1』は、CDのみならず映像作品としても発売され、音源はジョージ・マーティンの息子であるジャイルズ・マーティンが担当。アナログ・マスターから全く新しいステレオ・ミックスがほどこされ、DVDとブルーレイには5.1サラウンドの音源も収録。また、ビートルズ初のミュージック・ビデオ集ともなる今作は、最新のデジタル技術で修復(4K/2K)された驚きの高画質映像により、1stシングル「ラヴ・ミー・ドゥー」からラスト・シングルの「ロング・アンド・ワインディング・ロード」までのミュージック・ビデオを瑞々しい画質でお楽しみいただけます。CD+2DVD 、CD+2ブルーレイの各輸入・国内盤をはじめ全14形態でのリリース。詳細は下記から!



【ニュースまとめ】 ザ・ビートルズ

11/6(金)に発売されたザ・ビートルズの究極のベスト『ザ・ビートルズ1』の新エディション。こちらでは『1』にまつわる様々なニュースをご紹介!


ビートルズ『1』発売から早1週間。
さて、そろそろカヴァー企画の出番でしょうか?

 発売から早1週間が経過するも、むこう数ヵ月はまだまだこの狂騒曲が続くと予想される、ビートルズ究極のベスト盤『1』。もちろん甲虫党諸氏のみなさまにおかれましては、このお宝品をたっぷりと時間をかけて愛玩されている最中ではあるかと思いますが、ここで、タイムリー欠乏症の洋楽市場を鼓舞するこのたびの慶事に便乗しようではないかと色めき立つジャズ村バイヤーから、もうひとつの抜き差しならない ”物語”をご提案。

 それつまりジャズミュージシャンによるビートルズ・カヴァーをしこたま集めるという既知感たっぷりの企画なのですが・・・とはいえ、新録やニューディスカヴァリーをぶ厚めに放り込めば、これがなかなかどうして体裁GOOD☆ 今回ジャズだけでなく、クラシックやワールドミュージックからも大胆ピックアップを敢行。『1』収録曲を中心に、「アレはないけどコレがある」の精神でかき集めた寄せ鍋的モンドセレクション、まさかの下剋上カヴァーも見つかるかも!?


ビートルズ、あの名盤をまるっとカヴァー!

Revolver Jazz Don Randi
『Revolver Jazz』 (1966)
ドン・ランディと言えば、ビーチ・ボーイズ、エルヴィス・プレスリーのツアーサポート、さらにはLAフュージョンの聖地でもあるライヴハウス「ベイクド・ポテト」のオーナーとしても知られる西海岸の名鍵盤奏者。初期のスウィンギーなジャズ・ピアニストとしての腕前を味わうなら、1962年の『Where Do We Go From Here:枯葉』がおすすめだが、ランディのジャズロック・マエストロ的な側面をエンジョイするのなら、やはりこの『リヴォルヴァー』丸ごとカヴァー集につきる。高速ジャズロック「Eleanor Rigby」、ハープシコードを駆使したラガ・アレンジの「Love You To」、ソフトロッキンなオルガン・ボッサ「Yellow Submarine」などなど、当時のうるさ型ジャズファンがもれなく眉をひそめたという大胆極まりないアレンジが痛快この上なし。

Rubber Soul Jazz The Music Company
『Rubber Soul Jazz』 (1966)
こちらもドン・ランディ絡みの丸ごとビートルズ・カヴァー集で、お題は『ラバー・ソウル』。名義は、ランディほか、トミー・テデスコ、ハル・ブレインらLAの腕利きセッション・ミュージシャンたちからなる覆面バンド、ミュージック・カンパニー。キンキーなギターの音色も印象的なワルツ「Norwegian Wood」、ピアノがスウィングしまくる「I’ve Just Seen A Face」あたりが秀逸だが、全体的には、ランディのピアノがご丁寧なまでに主旋律をなぞっている分ジャズ度は薄く、むしろモッズ・ファンが好みそうなR&B風のグルーヴィでヒップなアレンジが並ぶ。いわゆる「サバービア・クラシック」としてレア化していたが、2006年にこの新装ジャケでCDリリースされた。



Mother Nature's Son Ramsey Lewis
『Mother Nature's Son』 (1968)
古くからロック、ポップス、ラテンなどジャズ周辺の音楽に対して意識が高かったラムゼイ・ルイス。こちらは『ホワイト・アルバム』収録曲から10曲をチョイスしジャズピアノ・アレンジを施した、名ビートルズ・カヴァー集。「Back in the U.S.S.R.」や「Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey」では期待を裏切らないストレートなジャズロック・アレンジが楽しめるが、やはりハイライトはサンプリング・ソースでもおなじみの「Julia」。原曲の繊細で美しいメロディをここまでドラマチックに再現したジャズピアノ・カヴァーは他に見当たらない。チェス・レコードの名プロデューサー/アレンジャー、チャールズ・ステップニーによる流麗かつ挑発的なアレンジも聴きどころ。

Easy Star's Lonely Hearts Dub Band Easy Star All-Stars
『Easy Star's Lonely Hearts Dub Band』 (2009)
NYのレゲエ・レーベル「イージー・スター」の腕利きミュージシャンたちからなるイージー・スター・オールスターズ。ピンク・フロイド、レディオヘッドに続くカヴァー・シリーズの第3弾として発表された『サージェント・ペパーズ』 ダブ/レゲエ・カヴァー集。ビートルズのレゲエ・カヴァー自体は珍しくないものの、この世紀のコンセプト・アルバムを丸ごとレゲエのリディムで飲み込むというアイデアは前代未聞。しかしポップなメロディとの相性は抜群で、ルチアーノ、フランキー・ポール、シュガー・マイノットといったジャマイカのレジェンド・シンガーたちによる名唱もずらり。中でも、マイケル・ローズが歌う「A Day In The Life」が出色。



お次はクラシックのビートルズ・カヴァーをどうぞ

選・文●坂本光晴(aka 教授)

オール・ユー・ニード〜ビートルズ・クラヴサン組曲 アンデシュ・ダンマン『オール・ユー・ニード〜ビートルズ・クラヴサン組曲』
スウェーデン出身の実力派チェンバロ奏者アンデシュ・ダンマンが、フランス・バロックの作曲家、クープランの様式に従ってビートルズの名作の数々をクラヴサン(チェンバロ)組曲に仕立てたアルバム。バロック時代の作曲家には、当時の流行歌の旋律を取り入れて曲を作った人も少なくなかったということもあり、もしクープランがビートルズを聴けたならば書いたかもしれないという前提で音楽に仕上げているようです。「ミシェル」や「レット・イット・ビー」といった有名曲の旋律が、アルマンドやクーラントといったバロック時代に盛んだった舞曲の形式に変換、優雅な響きのチェンバロで美しく演奏されていきます。


ビートルズ・ゴー・バロック ピーター・ブレイナー&室内管弦楽団『ビートルズ・ゴー・バロック』
ビートルズのヒット曲を素材にアレンジした合奏協奏曲アルバム。合奏協奏曲はバロック期に人気のあった楽曲スタイルで、弦楽合奏を主体にソロも交えて展開される聴きやすく美しい音楽。バロック期ということで親しみやすい旋律が用いられることが多いのですが、ここではそうした様式の作品に、ビートルズの有名旋律を絶妙に溶け込ませ、バロックの大作曲家たちのスタイルを導入、ヘンデル風(第1番)、ヴィヴァルディ風(第2番)、バッハ風(第3番)、コレッリ風(第4番)に仕上げています。




ビートルズ・バロック レ・ボレアド 『ビートルズ・バロック』
ビートルズの有名曲をバロック時代のアンサンブルで演奏するという企画。演奏者の「レ・ボレアド」は主に古楽器を使用して活動するモントリオールの古楽グループ。選ばれた楽曲は、弦楽四重奏(1)、シタール(2)、チェンバロ(3・15)、リコーダー(6)、ハープ(9)、鳥の声(12)、ピッコロトランペット(13)、室内オケ(4)といった使用楽器が個性的なものが多く、それらをここでは、リコーダー、トラヴェルソ、チェンバロやヴィオラ・ダ・ガンバ、ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラなどに加え、パーカッションや鳥笛、ギター、ヴォーカルなども用いて、ほのぼのとした素朴な魅力を引き出しています。



Help! - Beatles Classics 1966 Quartet 『Help! - Beatles Classics』
日本人女性4名による弦楽器とピアノのユニット「1966カルテット」は、名前の由来がビートルズ来日年である1966年ということで、ビートルズの音楽とも深く関わっていますが、その代表作ともいえるのがこの「HELP!」。といってもビートルズのアルバム「HELP!」をそのままアレンジしたものではなく、初期・中期のアルバムから有名な曲を選んで原曲のエッセンスが感じられる形に仕上げています。




コーラル・ビートルズ ケネディ・クワイア 『コーラル・ビートルズ』
女声合唱によるビートルズ作品集。軽やかでポップな伴奏に乗り、独唱と大人数の合唱を巧みに使い分けたアレンジにより、ビートルズの有名旋律が女声ならではの美しさで表現されています。歌うのはアルゼンチンの女性コーラス・グループ「ケネディ・クワイア」で、すでに長いキャリアを持っているため声楽的な水準も実に高度。澄んだ独唱から柔和で厚みのある合唱まで幅広いサウンドで作品の魅力を引き出しています。




ビートルズ・アルバム キングズ・シンガーズ / カンゼル&シンシナティ・ポップス・オーケストラ 『ビートルズ・アルバム』
華麗で迫力のあるオーケストラ・サウンドで知られるエリック・カンゼル&シンシナティ・ポップス・オーケストラが、イギリスの有名な合唱グループ「ザ・キングズ・シンガーズ」と組んだビートルズ・アルバム。シンシナティ・ポップスもキングズ・シンガーズもふだんはクラシック作品をメインにとりあげていますが、ポップスも得意としており、センスの良い表現には定評があります。ここではサックスやトランペット、アコーディオンのソリストもゲストに招いて多彩で華麗なアレンジで聴かせています。



プレイズ・ザ・ビートルズ アーサー・フィードラー&ボストン・ポップス 『プレイズ・ザ・ビートルズ』
フィードラーとボストン・ポップスは、ビートルズがまだ現役だった時代にカバー・アルバム「プレイズ・ザ・ビートルズ」をリリース、アメリカで16万枚の売上を記録したことでも知られています。ビートルズ編曲アルバムの元祖ともなった「プレイズ・ザ・ビートルズ」ですが、オリジナルLP発売時には収録が見送られた曲やビートルズと無関係な曲が入っていたりと混乱もあったので、CD化の際、オリジナル音源をすべて収録のうえ、ライヴ・ヴァージョンも追加収録したのは朗報でした。



クラシカル・ビートルズ ロン・グッドウィン指揮ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団、他 『クラシカル・ビートルズ』
ビートルズの有名曲をさまざまなタイプのクラシック・スタイルでアレンジした音源集。2枚組で収録曲数も多いため、合唱、ギター、オーケストラ、独唱、ピアノ・デュオ、少年合唱、バロック・オーケストラなど多彩なアレンジが変化に富む面白さを感じさせます。最後に置かれた「ザ・ビートルズ・コンチェルト」は、イギリスの作曲家で指揮者、合唱音楽のスペシャリストとしても知られるジョン・ラターがアレンジしたものです。


ザ・ビートルズ・イン・クラシック ベルリン・フィル12人のチェリストたち 『ザ・ビートルズ・イン・クラシック』
世界最高水準のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のチェロ・セクション全員で構成されるチェロだけの室内アンサンブル。ゴリゴリの低音だけでなく、広い音域をカバーする歌いまわしの巧さも見事なもので、ここでもチェロならではの迫力のある音を活かしながら、繊細で抒情的な表現を聴かせています。1982年にベルリンのテルデック・スタジオでレコーディングされたこのアルバムは、以来30年に渡って親しまれてきたビートルズ・カバー・アルバムの名作でもあります。





世界の国からヤァ!ヤァ!ヤァ! ビートルズ名曲カヴァー列伝 【前編】

ここからは、今も世界中で産声を上げている数々のビートルズ・カヴァーから、ジャズやワールド・ミュージックのアーティストたちによる秀逸アレンジ作を楽曲ごとにセレクト。FAB4が腰を抜かしたであろうS級名演も、思わず紅茶を吹きだしてしまった迷演も、アクロス・ザ・ユニバース的こころで広くご紹介。まずは前編、こちらの14曲にまつわるカヴァーを♪

「And I Love Her」(1964年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

世界中にビートルズ旋風吹き荒れる1964年発売の『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』に収録された、ポール作による初期の彼らを代表する名バラッド。ジョージのガット・ギターをメインとしたアコースティック・アレンジで、また間奏部に転調を挿し込むことで曲に豊かな表情を与えている。ちなみに、1995年に発売された『アンソロジー 1』では、エレキ・ギターやフルセット・ドラムを導入した初期の別テイクも聴くことができる。古くはソウルジャズ・シンガーのエスター・フィリップスのカヴァーが有名で、女性視点の「And I Love Him」という歌詞が付けられた。最近はカート・コバーンによるカヴァー発掘音源も話題を呼んでいる。

Brad Mehldau 『10 Years Solo Live』 (4CD)
ブラッド・メルドーが2004〜2014年にかけて世界各地で行なったソロピアノ・ツアーから19公演分の音源、全32曲を厳選。「Blackbird」やポールのソロ「Junk」と共に収められた「And I Love Her」では、師フレッド・ハーシュによるカヴァーにも劣らない密度の濃さと極限的な美しさに彩られた至福の世界を演出。同カヴァーにおいては、レギュラートリオによる名演もよく知られているが、ここは現代ジャズ・ピアノのオーソリティによる至高のソロ空間でこの名バラッドの温もりを堪能したい。

Pat Metheny
『What's It All About』
(2011)

メルドーに続いて、こちらも巨匠メセニーによる至高のソロ・カヴァーの世界にして、そのビートルズ愛がストレートに伝わる名演。ほとんどの曲を自らチューンナップしたバリトン・ギターで演奏する中、本曲はシンプルな6弦アコースティック・ギター(ナイロン弦)で爪弾かれている。まるでオリジナルのメロディを宝箱から丁寧に取り出すように。この豊かなギターの音色こそ“メセニー流”と呼ぶにふさわしい。
Till Bronner
『At The End Of The Day』
(2010)

敬愛するチェット・ベイカー直系の甘い歌声も魅力的なドイツのトランペット貴公子ティル・ブレナー。十八番のクールなボッサ・アレンジによる本カヴァーでは、囁くようなヴォイスと官能的なトランペットに酔いしれる。シックなブルー・アイド・ソウル〜AOR的なフィーリングを嫌みなく漂わせたらこの男の右に出る者はいない。

Kevin Hays
『Andalucia』
(1997)
メルドーも「オリジナルな存在」と認める、リリカルなタッチとスウィンギーなプレイで魅了するNYピアニスト、ケヴィン・ヘイズ。ロン・カーター(b)、ジャック・ディジョネット(ds)という百戦錬磨のリズム隊を招いてブルーノートに吹き込んだトリオ盤より。アドリブも含めて熱量を帯びたかなりスリリングな展開を見せていて、この曲の4ビートのピアノトリオ・カヴァーではダントツの仕上がり。ディジョネットの猛プッシュも聴きどころ。
Diana Panton
『To Brazil With Love』
(2011)

カナダの美人歌姫ダイアナ・パントンが、師ドン・トンプソンのピアノをバックに清楚で透明感のあるヴォイスで歌い込んだ素晴らしいビートルズ・カヴァー。“And I Love Him”式カヴァーにおいては、ポールもお気に入りだったというエスター・フィリップスやナンシー・ウィルソン以来の秀作になるかもしれない。


Rita Lee
『Build Up』
(1970)

「ブラジルのビートルズ」と呼ばれたポップ/ロックバンド、ムタンチスの紅一点シンガーにしてブラジリアン・ロックの女王ヒタ・リーの1stソロ・アルバムから。バックがまんまムタンチスということで、モンド〜サイケ感も極めて強い。ゆえに今聴き返してみても、このGSっぽい野暮ったさがクセになる。アルバム全体のテイストはフレンチ・ポップ色が若干強め。
Grady Tate
『Windsmile Of Your Mind』
(1968)

名ドラマーでありながら、シナトラ、ナット・キング系のクルーナー・ヴォイスでシンガーとしても評価の高いグラディ・テイト。ゲイリー・マクファーランド主宰SKYEに残された忘れじのビートルズ名唱。プロデュースを手掛けたゲイリーの洒脱なオーケストレーションやハービー・ハンコックのピアノをバックに悠々とソウルフルに歌い上げている。回転力が高くグルーヴィな自前ドラムもさすが。



「A Day In The Life」 (1967)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1967年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録。ジョンとポールによる共作だが、実際には両者が別々に作った曲を、ジョージ・マーティンが書いたとも言われているオーケストラ・スコアをブリッジにして繋げている。この美しい弾き語りと壮大なオーケストレーションとの見事なコントラストがある種サイケめいた陶酔・酩酊感を呼び起こし、また実際には、「I'd love to turn you on・・・」という歌詞がドラッグを連想させるとして当時BBCでは放送禁止となった。

Wes Montgomery 『A Day In The Life』 (1967)
オリジナル発表時に価値観を180度ひっくり返されそうなほどの衝撃を受けたという当時のA&M/CTIプロデューサー、クリード・テイラー。前年の「夢のカリフォルニア」に続いて、ウェスを再度起用して“ジャズの大衆化”を図り、またしても大当たり。ドン・セベスキーの刺激的なアレンジや、グラディ・テイト(ds)、ロン・カーター(b)、ハービー・ハンコック(p)ら“分かっている”サイドメンのファインプレイもさることながら、やはり主役ウェスのジャズギターにおける表現レンジの幅広さや的確なフレージングなどにすべてが集約されると言っても大げさではないだろう。

Grant Green
『Green Is Beautiful』
(1970)
こちらもジャズ史にその名を残すギタリスト、グラント・グリーン。そのブルーノート盤から。ウェスとは異なり、彼のトレードマークであるシングル・ノートをメインにしたアーシー&ファンキーな仕上がりで、また本作が1970年に発表されたことを考えれば、ジェームズ・ブラウンを経由したビートルズの(ゴスペル〜)ファンク解釈と位置付けても乱暴ではない。エマニュエル・リギンズのハモンド・オルガンやクラウド・バーティらホーン隊のバッキング〜ソロオーダーもコッテコテ。
原信夫とシャープス・アンド・フラッツ 『Forest Flower』 (1968)
サンプリング・ネタで有名なレス・デ・マール版と迷ったがこちらを。日本が世界に誇る名門ビッグバンドが行なったコンサートで、タイトル通り、チャールス・ロイド的なアプローチで当時の人気ジャズロック・ナンバーやビートルズ曲をカヴァー。リーダーデビュー直前、まだ学生だった増尾好秋のギターワークが冴えまくる名演。アレンジは前田憲男。



「All You Need Is Love」 (1967年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

「サマー・オブ・ラブ」のシンボルとしても名高い、ジョン・レノン作となる通算15枚目の英国オリジナル・シングル。1967年、世界初の通信衛星による31ヵ国同時中継放送の特別番組「Our World」のために作られ、レコーディング風景が同番組内で世界中継された。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」、グレン・ミラー楽団「イン・ザ・ムード」、イギリス民謡「グリーンスリーブス」、「ブランデンブルグ協奏曲」といった様々な楽曲がまるでコラージュのようにオーケストラ演奏によって盛り込まれている。

Dave Koz 『Collaborations: 25th Anniversary Collection』 (2015)
卓越したショーマンシップでスムース・ジャズ・シーンをリードするデイヴ・コーズは、ジャズ/フュージョンのみならず、ポップス、AOR、ブラコン、R&Bなど各方面から厚い信頼を受ける“美メロ“メイカー。そんな彼のもとに、エリック・ベネイ、ジョナサン・バトラー、グロリア・エステファン、リチャード・マークス、さらにはジョニー・マティス、スティーヴィー・ワンダーといった目も眩むほどの豪華なシンガー・ゲストたちが集結して吹き込まれた「愛こそはすべて」。それはそれは、奇跡とも言える美しさ。

akiko
『Across The Universe』
(2011)

デビュー10周年を記念し吹き込まれたakikoのビートルズ・カヴァー・アルバムから。これまでにもジャンルレスで多彩なカヴァー曲をリスペクトたっぷりに採り上げてきた彼女が、改めてビートルズの持つ「言葉にならないほどの凄いエネルギー」を感じながら歌い込んだという名曲の数々。アコースティック・ギター&ストリングス、チャイチー・シスターズのコーラスをバックに丁寧に歌われる「愛こそはすべて」。シンプルな装飾だからこそ実直に伝わる歌い手のまごころを満喫したい。
Anita Kerr Singers
『All You Need Is Love』
(1967)

ソフトロック界隈でも人気の混声ポップ・コーラス・グループ、アニタ・カー・シンガーズが、本家の発表から間髪入れずにリリースした好カヴァー。名アレンジャー兼ピアニストとしても活躍したアニタ・カーにしては、かなり堅実で原曲に忠実なアレンジだが、ジャズ的な匂いも感じさせるオープンコーラスの洗練さと相まって当時はかなり革新的な作品として注目された。



「Blackbird」 (1968年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1968年の『ザ・ビートルズ(通称:ホワイト・アルバム)』に収録された、アコースティック・ギターの弾き語りスタイルによるポール作のシンプルで美しいバラッド。「黒人女性の人権擁護や解放について歌った内容」という本人の発言のとおり、当時公民権運動の真っ只中にあった黒人女性ひいては黒人へのエールとも取れる部分において本曲は、ポール流の詩的なプロテスト・ソングと言えるのかもしれない。ゆえに、カサンドラ・ウィルソン、ディオンヌ・ファリス、ボビー・マクファーリンらのカヴァーがひときわ胸を打つ。

Cassandra Wilson 『Silver Pony』 (2010)
ジョナサン・バティステのピアノが転がり、ハーリン・ライリーのドラムが歌い、マーヴィン・スウェルのギターが滑らかに響く。カサンドラ・ウィルソンによる絶品カヴァーは、バックの素晴らしいアシストと絶妙なアレンジとの相互作用によって生まれた。ビリー・ホリディ直系とも言えるカサンドラの歌唱の凄みと温もりは言わずもがな。ポールによるこの「黒人(女性)へのエール」を受け止めて彼女は鳥となって羽ばたき、それは時代の言霊となった。

Sara Gazarek
『Yours』
(2005)

アレンジがとにかく秀逸。相棒ジョシュ・ネルソンの抑揚の効いたピアノに導かれ、サラもまた大空に羽ばたいてゆく。スタンダードの「Bye Bye Blackbird」とのコンビネーションによって物語が広がる仕掛け。溌剌としたピアノトリオ・リズムの上で晴れやかに舞うサラも印象的だ。
Nancy Harrow
『The Beatles & Other Standards』
(1989)

近年再評価も著しい伝説のNYシンガー、ナンシー・ハーロウによるビートルズ・カヴァー。ローランド・ハナ(p)、ジョージ・ムラーツ(b)、グラディ・テイト(ds)ら名手たちが顔を揃えたコンボ演奏がぐっと大人の色気を際立たせる。

Bobby McFerrin
『The Voice』
(1984)

七色の声を持つ天才ヴォーカリストが、完全アカペラ・ライヴのソースを元に作り上げたアルバムで、冒頭の「Blackbird」カヴァーからマクファーリンの超人的なヴォイス・パフォーマンスに圧倒される。オーガニックでグルーヴィ。技芸に長けているだけでなく歌心もしっかりとある。いつかポールのギターをバックにした共演セッションが実現してくれることを待つばかり!
Jaco Pastorius
『Word Of Mouth』
(1980)

ビートルズの大ファンでもあった不世出の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスの「Blackbird」はことさらユニーク。主旋律をトゥーツ・シールマンスのハーモニカが請け負い、ジャコのベースは、原曲ギターのアルペジオ部をダブルストップなどを駆使して再現しているという、そんな驚異の発想力(そして実現力)にとにかく舌を巻く。ドン・アライアスのビリンバウも神秘的な彩りを添えている。



「Can't Buy Me Love」 (1964年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1964年3月に6枚目の英国オリジナル・シングルとして発売されたポール作のアップテンポ・ナンバー。ジョージ・マーティンの提案で、インパクトのあるサビをイントロに置き、さらにエンディングでそれを連呼することで、曲にフックとダイナミズムがもたらされた。初主演映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」では、4人が野っ原を狂喜して駆けずり回るシーンにも挿入され、これをジョンはいたく気にいっていたそう。またポールは、エラ・フィッツジェラルドによるカヴァーを「彼女の大ファンだったから光栄なことだった」と語っている。

Count Basie 『Basie's Beatle Bag』 (1966)
カウント・ベイシー・オーケストラのヴァーヴ最終作品はゴキゲンなビートルズ集。「Can’t Buy Me Love」、「Help!」、「I Wanna Be Your Man」のようなポップチューンも、チコ・オファリルの手にかかればあっという間に洒脱なブラス・アレンジの効いた最高のビッグバンド・ジャズ・アンサンブルに。ファンキーなオルガンはもちろんベイシー。

Ella Fitzgerald
『Hello Dolly!』
(1964)

ポールが「とても光栄だった」と語っていたエラ・フィッツジェラルドによる貫禄のカヴァー。こちらもジョニー・スペンス楽団をバックにしたゴージャスなビッグバンド・アレンジになるが、やはり主役の歌の表情とその迫力が肝。この曲の根っこにブルースやR&Bのような黒さがあることを改めて感じさせてくれる傑作カヴァー。
Michael Buble
『It's Time』
(2005)

ビッグバンド・アレンジによるカヴァーの歴史は現代にもしっかりと受け継がれ、当代きってのエンターテイメント型ポップジャズ・シンガー、マイケル・ブーブレが、デイヴィッド・フォスター総指揮の下この曲を男前にスウィングさせる。また、この手の新世代クルーナーによるビートルズ・カヴァーでは、マット・ダスクの「Please Please Me」も聴き逃せない。



「Come Together」 (1969年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1969年10月に、「サムシング」との両A面シングルとして発売された21枚目の英国オリジナル・シングル。内部分裂寸前のバンドの状況を打開するために行なわれた、おなじみ「ゲット・バック・セッション」でレコーディングされた本曲。当時、カリフォルニア州知事選への出馬を表明した“LSDの教祖“ティモシー・リアリーへの「応援ソング」としてジョンがペンをとった曲だが、冒頭の「Shoot me!(俺を撃て!)」をはじめ、その難解で意味深(でもクール)な歌詞から、他のメンバーへの皮肉が込められているなど様々な見解が存在している。マイケル・ジャクソン、エアロスミスを筆頭に、今昔秀逸なカヴァーも多い。

Jacky Terrasson 『Take This』 (2015)
ポスト・バップから、ポップス、ヒップホップ、アフリカン・リズム、カリビアン、クラシックまで多彩なエレメンツを採り入れた、天才ピアニスト、ジャッキー・テラソンのImpluse!第1弾アルバムから。ユニークなカヴァー楽曲が並ぶ中、アフロ・カリビアン・リズムで料理されたこの「Come Together」もまた世界に二つとない非凡且つダンサンブルな仕上がりに。ヒューマン・ビートボックス&ヴォーカルはスライ・ジョンソン。朝まで踊れます!

Andreas Varady
『Andreas Varady』
(2014)

弱冠18歳、クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子ギタリストとしてデビューを果たしたアンドレアス・ヴァラディ。ウェス〜ベンソン系譜のギタリズムが完璧なテクニックを伴って躍る「Come Together」にあんぐり。ヒップホップ、もしくはジャスティン・ビーバー世代によるビートルズのジャズ・カヴァーというのは決してレトリックではなく、若さゆえのアクティヴさとハングリーさが時代という概念を超越したにすぎないのだ。
Avishai Cohen
『Lyla』
(2003)

昨今、その目覚しい活躍でメインストリームの潮流を形作るまでに至ったイスラエル=NYジャズ陣営。その第一世代にして現代最強のベース奏者アヴィシャイ・コーエン。ボーイングによる分かりやすいテーマ演奏は、いかにもロック的だが、彼特有のダークなフィーリングに原曲の魔性がアジャストした結果だろう。ドラムも完全にロックしています!

Phe Cullen
『Phe Cullen』
(2002)

知名度はそこまでないイギリスのシンガーだが、ジミヘン、ストーンズ、ツェッペリン、モット・ザ・フープル、ジェスロ・タルなどのカヴァーをハスキーなヴォイスでしっとりと歌い上げる好盤。ジャズ・テイストは薄いが、主役の声の強さに耳を奪われる「Come Together」は一聴に値する。ブライアン・ブロンバーグ(b)やランディ・ウォルドマン(p)ら職人たちが伴奏を付けているのもポイント。
Wilson Das Neves
『Samba Tropi』
(1970)

ブラジル音楽史上最高のサンビスタ、ウィルソン・ダス・ネヴィスが1970年エレンコに残したグルーヴィ・ブラジリアンの傑作より。重厚なブラス・セクションと切れのあるパーカッションがベースとなり、キンキーなギターソロが闇夜を切り裂く、ちょっぴりカオスでサイケなサンバ・ジャズファンク・アレンジの逸品。



「Eight Days A Week」 (1964)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1964年の『ビートルズ・フォー・セール』に収録。「そりゃ忙しいよ・・・1週間に8日も働いているんだからさ」というリンゴのボヤキから歌詞の着想を得ている、ジョンとポールの完全共作&デュエットによるポップ・ナンバー。歌詞の面も含めアルバム全体には、アメリカ・ツアー中に出会ったボブ・ディランからの影響(特にジョン)が色濃く反映されていると言われている。英国ではシングル発売されなかったものの、アメリカ、カナダではシングル化され、見事チャート1位に輝いている。

Ken Navarro 『Test Of Time』 (2012)
比較的ジャズのカヴァーは少ないものの、LAのスムース・ジャズ・ギタリスト、ケン・ナヴァロによるライトなアコースティック・アレンジの本曲は、なかなか的を得た仕上がり、というか主役のビートルズ愛が窺えるほっこりとした出来。アール・クルー、ピーター・ホワイトあたりがカヴァーすれば概ねこのような感じになりそうではあるが、メロディをよりブライトに聴かせる点ではこの人がピカイチかもしれない。

Cherkasy Jazz Quintet 『Remembering The Beatles』 (2009)
2012年、お色気ジャケの『Latin Soul』がヒットしたウクライナのハードバップ・コンボ、チェルカスィ・ジャズ・クインテットのビートルズ集。この「Eight Days A Week」をはじめ、「It Won't Be Long」、「Birthday」など、ジャズ界隈ではあまり採り上げられることのない楽曲を二管フロントの正統派ハードバップ・サウンドでクッキンした、そのチャレンジ精神と清々しさに一票!
Max Greger 『Greger's Groove Party』
ドイツを代表するマルチリード奏者/コンダクター、マックス・グレガー。50年代にはダスコ・ゴイコヴィッチのコンボで、また自身のビッグバンドを率いて60年代には『Maximum』という素晴らしいアルバムも残している。こういうシンプルなポップ・チューンほど統制のとれたビッグバンド・アレンジがよくハマるというお手本。



「Eleanor Rigby」 (1966年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

メンバーが一切楽器を持たず(しかもリンゴ不参加)、その代わりに8名のストリングス・オーケストラのみによって演奏された、ポール作の深遠で不思議な世界観をもつ1曲。エリナー・リグビーという身寄りのない老女と孤独なマッケンジー神父、ふたりの架空の登場人物の悲劇を書いた歌詞、そして弦楽8重奏を伴ったクラシカルな作風に、この時期(『リボルヴァー』レコーディング時)のポールのアーティストとしての大きな成長を窺わせる。イギリスでは、「イエロー・サブマリン」との両A面シングルとして1966年に発売され、この年のシングルの最高セールスを記録した。

Chick Corea / Gary Burton 『Hot House』 (2012)
チックのビートルズ・カヴァーと言えば、上原ひろみとの「Fool On The Hill」が挙げられるが、GRP期のオムニバスにも収録された「Eleanor Rigby」を盟友バートンとの15年ぶりのデュオで再演したこちらも忘れるわけにはいかない。テーマ・メロディの後に展開する美しい音の調和とスリリングな拮抗に、互いの手を知り尽くした両雄にしか成し得ない他に類を見ないコンビネーションの妙を窺わせる。

Najponk
『A Child Is Born』
(2015)

現代チェコ・ジャズ・シーンのトップ・ピアニスト、ナイポンクによるソロピアノ集から。弾き過ぎない美学は「Eleanor Rigby」においても例外なく、メロディの良さを生かしながら必要最低限のジャズ・イディオムとブルース・フィーリングを加味することで、この名曲にスウィングという新たな息吹を与えている。
David T. Walker
『For All Time』
(2010)

職人ギタリストの至芸ここに極まれり。でしゃばらず押し黙らずの、よき湯加減のギタリズムは半世紀以上も変わらず。デヴィT御大のビートルズ哲学が静かに爆発したか否か、とにかく、バッキング、オブリ、ソロに至るまでがソウルフルにジェントリーに鳴り響く。

Stanley Jordan
『Magic Touch』
(1987)

ストリートの“たたき上げ”ギタリストにして両手タッピング奏法の革命児スタンリー・ジョーダンのビートルズ・カヴァーは、さすがに独特。ギターを鍵盤楽器の概念で弾き倒す常軌を逸した驚異的なテクニックは、「Eleanor Rigby」ぐらい少しハイブロウな曲じゃないと映えないのだろう。その突き抜けぶりは、かつて「サージェント・ペパーズ」を激演したジミヘンのDNAをも受け継ぐ。
Latin Dimensions
『Best Of The Latin Dimensions』
(1968)

60〜70年代ニューヨーク・サルサの名門グループによる初期の傑作ビートルズ・ラテン・カヴァー。サイケでモッドなコーラスが絡むイントロから一転、リズミカルなツゥー・スリー・リズムで怪気炎を上げる流れは、ベタなれどやはり腰にくる。1966年のアルバム『It’s a Turned On World』では、本曲のほか、「Yesterday」も採り上げている。



「For No One」 (1966年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

「エリナー・リグビー」と同じくリボルヴァー期におけるポールの飛躍と充実ぶりを伝える、ジョンも「傑作」と認めた名バラード。実体験に基づく男女の心のすれ違いを題材にした歌詞はいかにもポールらしいが、特筆すべきは、フィルハーモニア管弦楽団のホルン奏者アラン・シルヴァが吹奏するフレンチ・ホルンをオーバーダブし、またクラヴィコードというバロック時代の小型鍵盤を使用するなど、多彩な楽器の表情豊かな音やその響きを採り入れる抜群のサウンド・コーディネイト術だ。この2曲と後に掲載の「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」で、ポールがジョンとは異なるベクトルを持つ天才アーティストだということを改めて世に知らしめた。ジャズやクラシックの秀逸カヴァーが多いのにも頷ける。

山中千尋 『ビコーズ』 (2012)
そんじょそこらの「ジャズ meets ビートルズ」作品とは一線どころか二線も三線も画する、主役の表現力の強さや想像力の逞しさに溢れ返ったピアノトリオ+タブラによるビートルズ集(ビートルズにインスパイアされたオリジナル新曲も収録)。「Beacuse」や「Drive My Car」で躍動するピアノ、「Your Mother Should Know」のアレンジ・センスなど随所にほとばしるビートルズ愛。中でも、親しみやすい原曲のメロを生かしながら、フットワークが軽く自由度の高いピアノトリオ・マナーで料理した「For No One」は彼女ならでは。

Nicki Parrott / Ken Peplowski
『Like A Lover』
(2011)

ヴィーナス・レーベルの看板女性シンガー/ベーシスト、ニッキ・パロットとクラリネット/テナー名手ケン・ペプロウスキーのデュオによる「For No One」カヴァー。余計な装飾を省いたベースとクラリネットのみの伴奏が楽曲にさらなる説得力を与えている。柔らかく伸びのあるクラリネット・ソロが郷愁を誘う。
Francesco Giannelli
『Occhi』
(2013)

イタリアの男性ジャズ・シンガー、フランチェスコ・ジアネッリによるカヴァーは、主役によるそのダンディな歌唱もさることながら、名ピアニスト、ジョヴァンニ・チェカレリ(p)らバックを務めた精鋭たちの色彩豊かな演奏も聴きどころ。ゆったりと深遠に香り立つ、大人のためのビートルズ。

Caetano Veloso
『Qualquer Coisa』
(1975)

ジャケットを見れば一目瞭然。ブラジル・トロピカリズモの旗手カエターノ・ヴェローゾが捧げる究極のビートルズ・オマージュ。フォーキー・ボッサによる美しく繊細なフォルムで描かれた「For No One」では、カエターノ作品でおなじみのペリーニョ・アルバカーキのメロウなギターにもうっとり。「Lady Madonna」カヴァーもオススメです。
Martin Haak Kwartet
『Retouch』
(1974)

知る人ぞ知るオランダのジャズ・ピアニスト、マルティン・ハークによるトリオ+パーカッション・カヴァー。いかにもヨーロピアンな、甘くせつないメロディと清々しさに溢れる展開は、原曲メロを味わいつくして完璧に咀嚼したからこそ成せる業。ジャズピアノ・カヴァーの醍醐味をたっぷりと!



「Get Back」 (1969年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1969年4月に発売された19枚目の英国オリジナル・シングル。録音自体は1月23日にスタート。タイトル通り、原点返りをもくろんだ「ゲット・バック・セッション」の中から生まれた曲で、「Jo-Jo(ジョン)よ、ビートルズに帰ってこい!」と解釈可能な歌詞はもちろんポール作。元々は、パキスタン移民のせいでイギリス人に仕事がない旨の政府への抗議ソングだったが、あまりにも辛辣な内容だったために歌詞の変更を余儀なくされた。シングル・ヴァージョンは、ジョージ・マーティンによるプロデュースだが、アルバム『レット・イット・ビー』に収められたものは、フィル・スペクターの再(オーバー)プロデュースによって編集された別ミックスとなる。

Sarah Vaughan 『Songs Of The Beatles』 (1977)
マーティ&デヴィッド・ペイチ親子のプロデュースで吹き込まれたサラ・ヴォーンの名ビートルズ集は、時代のサウンドを味方に付けた、70年代のサラを語る上でも欠かせない一枚に。スティーヴ・ポーカロ、ジェフ・ポーカロといったTOTO組に、リー・リトナー、ディーン・パークスらが参加とくれば、自然とクロスオーヴァー度は高くなるというもの。「Get Back」にしても、誰もが予想しなかったスーパー・ファンキー・ディスコ・チューンにカスタム。これはすごい!

Jimmy McGriff
『Mean Machine』
(1976)

ビリー・プレストンの参加も含めた曲の性質上、こうしたジャズ・ファンク・アレンジのカヴァーが70年代当時多かったのではないだろうか。コーネル・デュプリーの粘着系のバッキングとジェリー・フリードマンの一撃必殺のソロにて、原曲よろしくの冴えたギター・コンビネーションを見事に再現している。
Eric Krasno
『Reminisce』
(2009)

ソウライヴのギタリスト、エリック・クラズノの初ソロ・アルバムから。カヴァーのタイプとしてはジミー・マグリフのアップデート版といった趣ながら、クラズノのギターはオクターブ奏法をメインとしたウェス〜ベンソン系スタイルでまろやかに疾駆。アラン・エヴァンスのドラムも絶好調で、「Funky Drummer」のクライド・スタブルフィールドを彷彿とさせるブレイクが超クール。



「Hello, Goodbye」 (1967年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

テレビ映画「マジカル・ミステリー・ツアー」の先行曲で、音楽的な成熟を迎えた後期作品の中では比較的シンプルでキャッチーなメロディをもつポップ・ナンバー。英国では1967年11月に16枚目のシングルとして発売され、ポール作の親しみやすい本曲(PVの監督もポールです!)がA面を飾り、ジョンによるサイケデリックな「アイ・アム・ザ・ウォルラス」がカップリングという、この頃の両者の個性の違いがはっきりと表れる形となった。

T-SQUARE 『うち水にRainbow』 (1983)
名曲「君はハリケーン」を収録し、ジャケット・デザインや曲名などアルバム・コーディネイトを松任谷由実が手掛けたというトピック満載のスクエアの人気アルバム。オープニングのアッパーなビートルズ・カヴァーから、上げ潮期にあったバンドのコンディションのよさと、大胆ながら綿密に練られたアレンジ・センスの高さを窺わせてくれる。安藤まさひろのギターソロも神。ビートルズにことさら思い入れがないR50の元バンド小僧も、当時こぞってこのスクエア・ヴァージョンをカヴァーしていたとか。

David Matthews
『Hello Goodbye』
(1994)

マンハッタン・ジャズ・クインテットでおなじみのデヴィッド・マシューズ率いるNYオールスター・グループによるビートルズ・カヴァー。高速ジャズボッサ・アレンジで、スクエア・ヴァージョンに引けをとらない爽やかでリッチな仕上がりとなっている。とにかく、こんなに楽しく聴けるビートルズ・ジャズ・カヴァー集は他でめったにお目にかかれない。
Bud Shank
『Magical Mystery』
(1968)
本家の『マジカル・ミステリー・ツアー』発売に合わせて企画された、西海岸の名サックス奏者バド・シャンクによるロック/ポップス集。『マジカル〜』からのナンバーを前半、その他バカラックやモンキーズなどのヒット曲を後半に収録。チェット・ベイカー(flh)との2管フロント、さらにはサイケなエフェクト処理によって、安い企画モノカヴァーとは一線を画する妙な(ドラッギーな?)聴き心地のよさを与えてくれる。



「Here Comes The Sun」 (1969年)

作詞・作曲: ジョージ・ハリスン

『アビー・ロード』に収録された、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、「サムシング」と並ぶ、ジョージの名曲。春の暖かい日差しを浴びているかのような爽やかで心地よいメロディラインは、親友エリック・クラプトンと日向ぼっこをしているときに思い付いたという。そのエピソードもどこかジョージらしい。カヴァー曲に関しては、原曲のメロディがあまりにも素晴らしいだけに、どれも甲乙付けがたいところだが、やはりニーナ・シモンによるものが歌唱力も含めてアタマひとつ飛び抜けているだろうか。「オー!ダーリン」のB面曲として世界で唯一シングル発売されるなど“陽の国”日本でも人気が高い。

Danilo Rea 『Something In Our Way』 (2015)
70年代にはトリオ・ディ・ローマで数々のジャズ巨匠との共演も果たしているイタリアのベテラン・ピアニスト、ダニーロ・レアがソロで吹き込んだ、まさかのビートルズ×ストーンズ“たすき掛け”カヴァー・アルバム。リリカルなタッチにフィットするのは、どちらかと言えばやはりビートルズのキャッチーなメロディ。「Here Comes The Sun」など、奥行きのあるメロディを抑揚を付けながら巧みにジャズ化した、お手本のような好アレンジが並んでいる。

Laurence Juber
『LJ Plays The Beatles』
(2000)

ジャズ・ギターによるビートルズ・カヴァーの醍醐味は何と言っても痛快なテクを満喫できるところにあるのかもしれないが、この人はちょっと例外。なにせポールのウィングス最後期のギタリストだったのだから、本ビートルズ集にしても少し特別な匂いがする。フィンガースタイル・ピッキングを中心としたアコースティック・ギターによる「Here Comes The Sun」。もろジャズではないので、インプロやアドリブを交えたスリルには欠けるものの、ハーモニーを重視した過不足ないアレンジで爪弾かれており癒される。
Rachel Z
『Everlasting』
(2004)

ジョニ・ミッチェル、スティング、ピーター・ガブリエルなどなど、これまでにも様々なロック、ポップス楽曲を採り上げてきた才媛レイチェルZ。ステップス・アヘッドなどで活躍していたのだからそもそもそういった方面の楽曲への理解も深い。ハンコックっぽいタッチも窺えるハチロク・アレンジのアグレッシヴな「Here Comes The Sun」は、現代ピアノトリオ・ジャズ・ファンに特にオススメしたい。

Nicki Parrott
『Summertime』
(2012)

彼女の定番「四季」シリーズ、その夏をテーマにした一枚から、歌メロの旨味を存分に引き出した好アレンジが光る本ヴァージョンを。ビートルズ・カヴァー作品で知られるジョン・ディ・マルティーノのピアノやポール・マイヤーズのギターもそうだが、全体的に“ジャズ過ぎない”アレンジが逆に好印象で、心地よいメロディとしなやかな歌声がスッと入ってくる。
Nina Simone
『Here Comes The Sun』
(1971)

「Here Comes The Sun」カヴァーの代表と言えばやはりこちら。すべてはニーナの表現力の豊かさに尽きるが、こちらもジャズ然としていないアレンジを手掛けたプロデューサーのハロルド・ホィーラーの功績も称えられてしかるべき。またここでは、「春の到来」ではなく、当時アメリカで初めて黒人に投票権が与えられたことで差し込んだ「希望の光」への賛歌として本曲が採り上げられている。



「Here, There and Everywhere」 (1966年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

「エリナー・リグビー」、「フォー・ノー・ワン」、そしてこの「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」は、1966年最充実期のポールを物語る上で欠かせない重要曲のひとつ。中でも、美しく切ない歌メロが淡い情景を浮かび上がらせる本バラッドは、ポール自身「ビートルズ時代の自作曲」の中で最も好きな曲として挙げ、後年のソロ時代に何度もリメイクしているほどの自信作。カヴァーにおいてはおよそ歌モノが定番ではあるが、曲のもつリリカルな雰囲気も手伝って、ジャズ・ピアノ・アレンジによる良質なものも多い。

Gal Costa 『Lua De Mel Como O Diabo Gosta』 (1987)
カエターノ・ヴェローゾらと共に70年代トロピカリアの中心的存在として活躍したブラジル・ポピュラー・ミュージックの女王ガル・コスタ。こちらは、シュール&キッチュな“お風呂”ジャケで有名な1987年『蜜月』に収められたビートルズ・カヴァー。時代性もあり、ブラコン〜AOR風の大仰なロマンティック・バラッドに仕立がっているが、歌に力のある人だけにオケに食われることなく、美しいポルトガル語の響きをもってしっとりと聴かせてくれる。

Joyce
『Delirios De Orfeu:オルフェの陶酔』
(2005)

昨今のジャズ・スタンダード・カヴァー・アルバムも好評だったブラジルを代表するSSWジョイスのアコースティック・サウンドによるビートルズ。「And I Love Him」パターンと同じく女性視点の歌詞に変えて語りかけたラブソング。スタンダード・バラッドを聴いているかのような彼女特有のアンニュイな雰囲気に浸りたい。
Perry Como
『Just Out Of Reach』
(1975)

シナトラと並ぶエンターテイメント・シンガー、ペリー・コモがチェット・アトキンスのプロデュースでナッシュヴィルにて吹き込んだアルバムから。ピアノとストリングス主体の伴奏を背に優雅に歌ったある意味で期待を裏切らないアレンジ。むせび泣くギターソロはメンフィスの名手レジー・ヤングか?

Charles Lloyd
『Love In』
(1967)

1967年、サマー・オブ・ラブに呼応する形でロックの殿堂フィルモア・オーディトリアムに登場したチャールス・ロイド・カルテットのビートルズ名カヴァー。デビュー直後のキース・ジャレットが初々しくも生真面目なピアノを添え、ジャック・ディジョネットがキレのよいドラムを刻む。ロイドのフルート・プレイには、ジャズとロックが本気で張り合えたこの時代ならではのリベラルさを感じさせる。
ai kuwabara trio project
『Love Theme』
(2015)

日本の若手女性ピアニストの中では、すでに頭ひとつ飛び抜けている存在と言える桑原あいのトリオ・プロジェクト。こちらは通算4作目となる最新カヴァー・アルバムに収められたビートルズ曲。キング・クリムゾンやスクエアプッシャー・カヴァーのすさまじいテンションとは対照的に、エレキベース・ソロから導かれるリズミカルでメロディアスなトリオ世界が巧みなアレンジのもと構築されている。



「Hey Jude」 (1968年)

作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー

1968年8月に発売された18枚目の英国オリジナル・シングルにして、彼らが設立したアップル・レーベルから出た最初のレコード。ロンドンのトライデントスタジオで録音され、当時の最新鋭機器の8トラックレコーダーを用いた彼らにとっての最初の曲となり、また後半のリフレインを含む7分超えの演奏時間は、当時のポップスとしては異例の長さとなった。そもそもは、離婚が決定的となったジョンの息子ジュリアンを励ますためにポールが書いた曲ではあるが、「そんなに落ち込むなよ。悲しい歌も気分次第でマシになるんだ。あの子を受け入れてごらん。そうすれば少しづつだけどうまくいくさ」というメッセージはそれにとどまらず、時代や人種を越えて世界中のあらゆる人にエールをおくる世紀の一大アンセムとなった。

Don Ellis 『At Fillmore』 (1970)
究極のアヴァンギャルド「Hey Jude」カヴァー。前述のチャールス・ロイドと同じくフィルモア・ウエストに登場した、鬼才トランペッター、ドン・エリス率いるオーケストラ。冒頭3分はエフェクト“フルテン”のトランペット・ソロでオリジナルを大分解。おなじみのメロディが姿を現し、ビッグバンド・スタイルによるレギュラー・アンサンブルが始まったかと思うも束の間、再び鬼才の電化ラッパがサイケの形相でバリバリと独り言ちる。ラストは迫力のビッグバンド・サウンドにて大団円だが、こんな破天荒なビートルズ・カヴァー、後にも先にもない!

Maynard Ferguson
『M.F.Horn 2』
(1972)

「ロッキーのテーマ」でおなじみのハイノート・トランペッター、メイナード・ファーガソンのビッグバンド・カヴァーは、ブラス・アンサンブルを重視したリッチ&ゴージャスな仕上がりに。本家同様、合唱によるラストのリフレインも再現。ピート・ジャクソンのエレピも良いアクセントになっている。
Ray Bryant
『MCMLXX』
(1970)

リズム・アンド・ブルースやゴスペル・エッセンスたっぷりでお贈りする名ピアニスト、レイ・ブライアントのソウルフルな「Hey Jude」。抜けが良く太く豊かなピアノと原曲の持つムードは相性抜群。70年代、ソウルジャズ的解釈によるピアノ・カヴァーの最高峰だろう。

Pete Jolly
『Timeless』
(1969)

一方こちらは、60年代西海岸の洒脱なハードバップ・エキスに溢れたフル・スウィンギンなピアノトリオ・カヴァー。テーマ、アドリブ共にひと工夫ふた工夫あるアレンジが施されており、9分以上の尺ながら飽きさせずに一気に聴かせるあたりはさすが。それにしてもピートのピアノはよく転がる。
Assagai
『Assagai』
(1971)

南アフリカの名テナー、デュデュ・プクワナ擁するアフロ・ジャズロック・バンド、アサガイによるサルサ風味漂うグルーヴィなアフロ・カヴァーで、つまりは同地のムバカンガ的な解釈に近い。後半リフレイン部のブラス・アレンジがロッキッシュでかなりかっこいい。




後編は12月12日アップ予定です。