ドン・ランディと言えば、ビーチ・ボーイズ、エルヴィス・プレスリーのツアーサポート、さらにはLAフュージョンの聖地でもあるライヴハウス「ベイクド・ポテト」のオーナーとしても知られる西海岸の名鍵盤奏者。初期のスウィンギーなジャズ・ピアニストとしての腕前を味わうなら、1962年の『Where Do We Go From Here:枯葉』がおすすめだが、ランディのジャズロック・マエストロ的な側面をエンジョイするのなら、やはりこの『リヴォルヴァー』丸ごとカヴァー集につきる。高速ジャズロック「Eleanor Rigby」、ハープシコードを駆使したラガ・アレンジの「Love You To」、ソフトロッキンなオルガン・ボッサ「Yellow Submarine」などなど、当時のうるさ型ジャズファンがもれなく眉をひそめたという大胆極まりないアレンジが痛快この上なし。
こちらもドン・ランディ絡みの丸ごとビートルズ・カヴァー集で、お題は『ラバー・ソウル』。名義は、ランディほか、トミー・テデスコ、ハル・ブレインらLAの腕利きセッション・ミュージシャンたちからなる覆面バンド、ミュージック・カンパニー。キンキーなギターの音色も印象的なワルツ「Norwegian Wood」、ピアノがスウィングしまくる「I’ve Just Seen A Face」あたりが秀逸だが、全体的には、ランディのピアノがご丁寧なまでに主旋律をなぞっている分ジャズ度は薄く、むしろモッズ・ファンが好みそうなR&B風のグルーヴィでヒップなアレンジが並ぶ。いわゆる「サバービア・クラシック」としてレア化していたが、2006年にこの新装ジャケでCDリリースされた。
古くからロック、ポップス、ラテンなどジャズ周辺の音楽に対して意識が高かったラムゼイ・ルイス。こちらは『ホワイト・アルバム』収録曲から10曲をチョイスしジャズピアノ・アレンジを施した、名ビートルズ・カヴァー集。「Back in the U.S.S.R.」や「Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey」では期待を裏切らないストレートなジャズロック・アレンジが楽しめるが、やはりハイライトはサンプリング・ソースでもおなじみの「Julia」。原曲の繊細で美しいメロディをここまでドラマチックに再現したジャズピアノ・カヴァーは他に見当たらない。チェス・レコードの名プロデューサー/アレンジャー、チャールズ・ステップニーによる流麗かつ挑発的なアレンジも聴きどころ。
NYのレゲエ・レーベル「イージー・スター」の腕利きミュージシャンたちからなるイージー・スター・オールスターズ。ピンク・フロイド、レディオヘッドに続くカヴァー・シリーズの第3弾として発表された『サージェント・ペパーズ』 ダブ/レゲエ・カヴァー集。ビートルズのレゲエ・カヴァー自体は珍しくないものの、この世紀のコンセプト・アルバムを丸ごとレゲエのリディムで飲み込むというアイデアは前代未聞。しかしポップなメロディとの相性は抜群で、ルチアーノ、フランキー・ポール、シュガー・マイノットといったジャマイカのレジェンド・シンガーたちによる名唱もずらり。中でも、マイケル・ローズが歌う「A Day In The Life」が出色。
世界中にビートルズ旋風吹き荒れる1964年発売の『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』に収録された、ポール作による初期の彼らを代表する名バラッド。ジョージのガット・ギターをメインとしたアコースティック・アレンジで、また間奏部に転調を挿し込むことで曲に豊かな表情を与えている。ちなみに、1995年に発売された『アンソロジー 1』では、エレキ・ギターやフルセット・ドラムを導入した初期の別テイクも聴くことができる。古くはソウルジャズ・シンガーのエスター・フィリップスのカヴァーが有名で、女性視点の「And I Love Him」という歌詞が付けられた。最近はカート・コバーンによるカヴァー発掘音源も話題を呼んでいる。
Brad Mehldau 『10 Years Solo Live』 (4CD)
ブラッド・メルドーが2004〜2014年にかけて世界各地で行なったソロピアノ・ツアーから19公演分の音源、全32曲を厳選。「Blackbird」やポールのソロ「Junk」と共に収められた「And I Love Her」では、師フレッド・ハーシュによるカヴァーにも劣らない密度の濃さと極限的な美しさに彩られた至福の世界を演出。同カヴァーにおいては、レギュラートリオによる名演もよく知られているが、ここは現代ジャズ・ピアノのオーソリティによる至高のソロ空間でこの名バラッドの温もりを堪能したい。
Pat Metheny
『What's It All About』 (2011)
メルドーに続いて、こちらも巨匠メセニーによる至高のソロ・カヴァーの世界にして、そのビートルズ愛がストレートに伝わる名演。ほとんどの曲を自らチューンナップしたバリトン・ギターで演奏する中、本曲はシンプルな6弦アコースティック・ギター(ナイロン弦)で爪弾かれている。まるでオリジナルのメロディを宝箱から丁寧に取り出すように。この豊かなギターの音色こそ“メセニー流”と呼ぶにふさわしい。
Till Bronner
『At The End Of The Day』 (2010)
敬愛するチェット・ベイカー直系の甘い歌声も魅力的なドイツのトランペット貴公子ティル・ブレナー。十八番のクールなボッサ・アレンジによる本カヴァーでは、囁くようなヴォイスと官能的なトランペットに酔いしれる。シックなブルー・アイド・ソウル〜AOR的なフィーリングを嫌みなく漂わせたらこの男の右に出る者はいない。
Kevin Hays 『Andalucia』 (1997)
メルドーも「オリジナルな存在」と認める、リリカルなタッチとスウィンギーなプレイで魅了するNYピアニスト、ケヴィン・ヘイズ。ロン・カーター(b)、ジャック・ディジョネット(ds)という百戦錬磨のリズム隊を招いてブルーノートに吹き込んだトリオ盤より。アドリブも含めて熱量を帯びたかなりスリリングな展開を見せていて、この曲の4ビートのピアノトリオ・カヴァーではダントツの仕上がり。ディジョネットの猛プッシュも聴きどころ。
Diana Panton
『To Brazil With Love』 (2011)
カナダの美人歌姫ダイアナ・パントンが、師ドン・トンプソンのピアノをバックに清楚で透明感のあるヴォイスで歌い込んだ素晴らしいビートルズ・カヴァー。“And I Love Him”式カヴァーにおいては、ポールもお気に入りだったというエスター・フィリップスやナンシー・ウィルソン以来の秀作になるかもしれない。
Rita Lee
『Build Up』 (1970)
「ブラジルのビートルズ」と呼ばれたポップ/ロックバンド、ムタンチスの紅一点シンガーにしてブラジリアン・ロックの女王ヒタ・リーの1stソロ・アルバムから。バックがまんまムタンチスということで、モンド〜サイケ感も極めて強い。ゆえに今聴き返してみても、このGSっぽい野暮ったさがクセになる。アルバム全体のテイストはフレンチ・ポップ色が若干強め。
Grady Tate 『Windsmile Of Your Mind』 (1968)
名ドラマーでありながら、シナトラ、ナット・キング系のクルーナー・ヴォイスでシンガーとしても評価の高いグラディ・テイト。ゲイリー・マクファーランド主宰SKYEに残された忘れじのビートルズ名唱。プロデュースを手掛けたゲイリーの洒脱なオーケストレーションやハービー・ハンコックのピアノをバックに悠々とソウルフルに歌い上げている。回転力が高くグルーヴィな自前ドラムもさすが。
「A Day In The Life」(1967)
作詞・作曲: ジョン・レノン/ポール・マッカートニー
1967年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』に収録。ジョンとポールによる共作だが、実際には両者が別々に作った曲を、ジョージ・マーティンが書いたとも言われているオーケストラ・スコアをブリッジにして繋げている。この美しい弾き語りと壮大なオーケストレーションとの見事なコントラストがある種サイケめいた陶酔・酩酊感を呼び起こし、また実際には、「I'd love to turn you on・・・」という歌詞がドラッグを連想させるとして当時BBCでは放送禁止となった。
Wes Montgomery 『A Day In The Life』 (1967)
オリジナル発表時に価値観を180度ひっくり返されそうなほどの衝撃を受けたという当時のA&M/CTIプロデューサー、クリード・テイラー。前年の「夢のカリフォルニア」に続いて、ウェスを再度起用して“ジャズの大衆化”を図り、またしても大当たり。ドン・セベスキーの刺激的なアレンジや、グラディ・テイト(ds)、ロン・カーター(b)、ハービー・ハンコック(p)ら“分かっている”サイドメンのファインプレイもさることながら、やはり主役ウェスのジャズギターにおける表現レンジの幅広さや的確なフレージングなどにすべてが集約されると言っても大げさではないだろう。
Grant Green
『Green Is Beautiful』 (1970)
こちらもジャズ史にその名を残すギタリスト、グラント・グリーン。そのブルーノート盤から。ウェスとは異なり、彼のトレードマークであるシングル・ノートをメインにしたアーシー&ファンキーな仕上がりで、また本作が1970年に発表されたことを考えれば、ジェームズ・ブラウンを経由したビートルズの(ゴスペル〜)ファンク解釈と位置付けても乱暴ではない。エマニュエル・リギンズのハモンド・オルガンやクラウド・バーティらホーン隊のバッキング〜ソロオーダーもコッテコテ。
Dave Koz 『Collaborations: 25th Anniversary Collection』 (2015)
卓越したショーマンシップでスムース・ジャズ・シーンをリードするデイヴ・コーズは、ジャズ/フュージョンのみならず、ポップス、AOR、ブラコン、R&Bなど各方面から厚い信頼を受ける“美メロ“メイカー。そんな彼のもとに、エリック・ベネイ、ジョナサン・バトラー、グロリア・エステファン、リチャード・マークス、さらにはジョニー・マティス、スティーヴィー・ワンダーといった目も眩むほどの豪華なシンガー・ゲストたちが集結して吹き込まれた「愛こそはすべて」。それはそれは、奇跡とも言える美しさ。
akiko
『Across The Universe』 (2011)
デビュー10周年を記念し吹き込まれたakikoのビートルズ・カヴァー・アルバムから。これまでにもジャンルレスで多彩なカヴァー曲をリスペクトたっぷりに採り上げてきた彼女が、改めてビートルズの持つ「言葉にならないほどの凄いエネルギー」を感じながら歌い込んだという名曲の数々。アコースティック・ギター&ストリングス、チャイチー・シスターズのコーラスをバックに丁寧に歌われる「愛こそはすべて」。シンプルな装飾だからこそ実直に伝わる歌い手のまごころを満喫したい。
Anita Kerr Singers
『All You Need Is Love』 (1967)
ソフトロック界隈でも人気の混声ポップ・コーラス・グループ、アニタ・カー・シンガーズが、本家の発表から間髪入れずにリリースした好カヴァー。名アレンジャー兼ピアニストとしても活躍したアニタ・カーにしては、かなり堅実で原曲に忠実なアレンジだが、ジャズ的な匂いも感じさせるオープンコーラスの洗練さと相まって当時はかなり革新的な作品として注目された。
Count Basie 『Basie's Beatle Bag』 (1966)
カウント・ベイシー・オーケストラのヴァーヴ最終作品はゴキゲンなビートルズ集。「Can’t Buy Me Love」、「Help!」、「I Wanna Be Your Man」のようなポップチューンも、チコ・オファリルの手にかかればあっという間に洒脱なブラス・アレンジの効いた最高のビッグバンド・ジャズ・アンサンブルに。ファンキーなオルガンはもちろんベイシー。
Ella Fitzgerald
『Hello Dolly!』 (1964)
ポールが「とても光栄だった」と語っていたエラ・フィッツジェラルドによる貫禄のカヴァー。こちらもジョニー・スペンス楽団をバックにしたゴージャスなビッグバンド・アレンジになるが、やはり主役の歌の表情とその迫力が肝。この曲の根っこにブルースやR&Bのような黒さがあることを改めて感じさせてくれる傑作カヴァー。
Michael Buble
『It's Time』 (2005)
ビッグバンド・アレンジによるカヴァーの歴史は現代にもしっかりと受け継がれ、当代きってのエンターテイメント型ポップジャズ・シンガー、マイケル・ブーブレが、デイヴィッド・フォスター総指揮の下この曲を男前にスウィングさせる。また、この手の新世代クルーナーによるビートルズ・カヴァーでは、マット・ダスクの「Please Please Me」も聴き逃せない。
Wilson Das Neves
『Samba Tropi』 (1970)
ブラジル音楽史上最高のサンビスタ、ウィルソン・ダス・ネヴィスが1970年エレンコに残したグルーヴィ・ブラジリアンの傑作より。重厚なブラス・セクションと切れのあるパーカッションがベースとなり、キンキーなギターソロが闇夜を切り裂く、ちょっぴりカオスでサイケなサンバ・ジャズファンク・アレンジの逸品。
Ken Navarro 『Test Of Time』 (2012)
比較的ジャズのカヴァーは少ないものの、LAのスムース・ジャズ・ギタリスト、ケン・ナヴァロによるライトなアコースティック・アレンジの本曲は、なかなか的を得た仕上がり、というか主役のビートルズ愛が窺えるほっこりとした出来。アール・クルー、ピーター・ホワイトあたりがカヴァーすれば概ねこのような感じになりそうではあるが、メロディをよりブライトに聴かせる点ではこの人がピカイチかもしれない。
Cherkasy Jazz Quintet 『Remembering The Beatles』 (2009)
2012年、お色気ジャケの『Latin Soul』がヒットしたウクライナのハードバップ・コンボ、チェルカスィ・ジャズ・クインテットのビートルズ集。この「Eight Days A Week」をはじめ、「It Won't Be Long」、「Birthday」など、ジャズ界隈ではあまり採り上げられることのない楽曲を二管フロントの正統派ハードバップ・サウンドでクッキンした、そのチャレンジ精神と清々しさに一票!
Max Greger 『Greger's Groove Party』
ドイツを代表するマルチリード奏者/コンダクター、マックス・グレガー。50年代にはダスコ・ゴイコヴィッチのコンボで、また自身のビッグバンドを率いて60年代には『Maximum』という素晴らしいアルバムも残している。こういうシンプルなポップ・チューンほど統制のとれたビッグバンド・アレンジがよくハマるというお手本。
Chick Corea / Gary Burton 『Hot House』 (2012)
チックのビートルズ・カヴァーと言えば、上原ひろみとの「Fool On The Hill」が挙げられるが、GRP期のオムニバスにも収録された「Eleanor Rigby」を盟友バートンとの15年ぶりのデュオで再演したこちらも忘れるわけにはいかない。テーマ・メロディの後に展開する美しい音の調和とスリリングな拮抗に、互いの手を知り尽くした両雄にしか成し得ない他に類を見ないコンビネーションの妙を窺わせる。
Najponk
『A Child Is Born』 (2015)
現代チェコ・ジャズ・シーンのトップ・ピアニスト、ナイポンクによるソロピアノ集から。弾き過ぎない美学は「Eleanor Rigby」においても例外なく、メロディの良さを生かしながら必要最低限のジャズ・イディオムとブルース・フィーリングを加味することで、この名曲にスウィングという新たな息吹を与えている。
David T. Walker
『For All Time』 (2010)
職人ギタリストの至芸ここに極まれり。でしゃばらず押し黙らずの、よき湯加減のギタリズムは半世紀以上も変わらず。デヴィT御大のビートルズ哲学が静かに爆発したか否か、とにかく、バッキング、オブリ、ソロに至るまでがソウルフルにジェントリーに鳴り響く。
Stanley Jordan
『Magic Touch』 (1987)
ストリートの“たたき上げ”ギタリストにして両手タッピング奏法の革命児スタンリー・ジョーダンのビートルズ・カヴァーは、さすがに独特。ギターを鍵盤楽器の概念で弾き倒す常軌を逸した驚異的なテクニックは、「Eleanor Rigby」ぐらい少しハイブロウな曲じゃないと映えないのだろう。その突き抜けぶりは、かつて「サージェント・ペパーズ」を激演したジミヘンのDNAをも受け継ぐ。
Latin Dimensions
『Best Of The Latin Dimensions』 (1968)
60〜70年代ニューヨーク・サルサの名門グループによる初期の傑作ビートルズ・ラテン・カヴァー。サイケでモッドなコーラスが絡むイントロから一転、リズミカルなツゥー・スリー・リズムで怪気炎を上げる流れは、ベタなれどやはり腰にくる。1966年のアルバム『It’s a Turned On World』では、本曲のほか、「Yesterday」も採り上げている。
山中千尋 『ビコーズ』 (2012)
そんじょそこらの「ジャズ meets ビートルズ」作品とは一線どころか二線も三線も画する、主役の表現力の強さや想像力の逞しさに溢れ返ったピアノトリオ+タブラによるビートルズ集(ビートルズにインスパイアされたオリジナル新曲も収録)。「Beacuse」や「Drive My Car」で躍動するピアノ、「Your Mother Should Know」のアレンジ・センスなど随所にほとばしるビートルズ愛。中でも、親しみやすい原曲のメロを生かしながら、フットワークが軽く自由度の高いピアノトリオ・マナーで料理した「For No One」は彼女ならでは。
Francesco Giannelli
『Occhi』 (2013)
イタリアの男性ジャズ・シンガー、フランチェスコ・ジアネッリによるカヴァーは、主役によるそのダンディな歌唱もさることながら、名ピアニスト、ジョヴァンニ・チェカレリ(p)らバックを務めた精鋭たちの色彩豊かな演奏も聴きどころ。ゆったりと深遠に香り立つ、大人のためのビートルズ。
Caetano Veloso
『Qualquer Coisa』 (1975)
ジャケットを見れば一目瞭然。ブラジル・トロピカリズモの旗手カエターノ・ヴェローゾが捧げる究極のビートルズ・オマージュ。フォーキー・ボッサによる美しく繊細なフォルムで描かれた「For No One」では、カエターノ作品でおなじみのペリーニョ・アルバカーキのメロウなギターにもうっとり。「Lady Madonna」カヴァーもオススメです。
Martin Haak Kwartet
『Retouch』 (1974)
知る人ぞ知るオランダのジャズ・ピアニスト、マルティン・ハークによるトリオ+パーカッション・カヴァー。いかにもヨーロピアンな、甘くせつないメロディと清々しさに溢れる展開は、原曲メロを味わいつくして完璧に咀嚼したからこそ成せる業。ジャズピアノ・カヴァーの醍醐味をたっぷりと!
Sarah Vaughan 『Songs Of The Beatles』 (1977)
マーティ&デヴィッド・ペイチ親子のプロデュースで吹き込まれたサラ・ヴォーンの名ビートルズ集は、時代のサウンドを味方に付けた、70年代のサラを語る上でも欠かせない一枚に。スティーヴ・ポーカロ、ジェフ・ポーカロといったTOTO組に、リー・リトナー、ディーン・パークスらが参加とくれば、自然とクロスオーヴァー度は高くなるというもの。「Get Back」にしても、誰もが予想しなかったスーパー・ファンキー・ディスコ・チューンにカスタム。これはすごい!
Jimmy McGriff
『Mean Machine』 (1976)
ビリー・プレストンの参加も含めた曲の性質上、こうしたジャズ・ファンク・アレンジのカヴァーが70年代当時多かったのではないだろうか。コーネル・デュプリーの粘着系のバッキングとジェリー・フリードマンの一撃必殺のソロにて、原曲よろしくの冴えたギター・コンビネーションを見事に再現している。
Eric Krasno
『Reminisce』 (2009)
ソウライヴのギタリスト、エリック・クラズノの初ソロ・アルバムから。カヴァーのタイプとしてはジミー・マグリフのアップデート版といった趣ながら、クラズノのギターはオクターブ奏法をメインとしたウェス〜ベンソン系スタイルでまろやかに疾駆。アラン・エヴァンスのドラムも絶好調で、「Funky Drummer」のクライド・スタブルフィールドを彷彿とさせるブレイクが超クール。
Danilo Rea 『Something In Our Way』 (2015)
70年代にはトリオ・ディ・ローマで数々のジャズ巨匠との共演も果たしているイタリアのベテラン・ピアニスト、ダニーロ・レアがソロで吹き込んだ、まさかのビートルズ×ストーンズ“たすき掛け”カヴァー・アルバム。リリカルなタッチにフィットするのは、どちらかと言えばやはりビートルズのキャッチーなメロディ。「Here Comes The Sun」など、奥行きのあるメロディを抑揚を付けながら巧みにジャズ化した、お手本のような好アレンジが並んでいる。
Laurence Juber
『LJ Plays The Beatles』 (2000)
ジャズ・ギターによるビートルズ・カヴァーの醍醐味は何と言っても痛快なテクを満喫できるところにあるのかもしれないが、この人はちょっと例外。なにせポールのウィングス最後期のギタリストだったのだから、本ビートルズ集にしても少し特別な匂いがする。フィンガースタイル・ピッキングを中心としたアコースティック・ギターによる「Here Comes The Sun」。もろジャズではないので、インプロやアドリブを交えたスリルには欠けるものの、ハーモニーを重視した過不足ないアレンジで爪弾かれており癒される。
Rachel Z
『Everlasting』 (2004)
ジョニ・ミッチェル、スティング、ピーター・ガブリエルなどなど、これまでにも様々なロック、ポップス楽曲を採り上げてきた才媛レイチェルZ。ステップス・アヘッドなどで活躍していたのだからそもそもそういった方面の楽曲への理解も深い。ハンコックっぽいタッチも窺えるハチロク・アレンジのアグレッシヴな「Here Comes The Sun」は、現代ピアノトリオ・ジャズ・ファンに特にオススメしたい。
Nina Simone
『Here Comes The Sun』 (1971)
「Here Comes The Sun」カヴァーの代表と言えばやはりこちら。すべてはニーナの表現力の豊かさに尽きるが、こちらもジャズ然としていないアレンジを手掛けたプロデューサーのハロルド・ホィーラーの功績も称えられてしかるべき。またここでは、「春の到来」ではなく、当時アメリカで初めて黒人に投票権が与えられたことで差し込んだ「希望の光」への賛歌として本曲が採り上げられている。
Gal Costa 『Lua De Mel Como O Diabo Gosta』 (1987)
カエターノ・ヴェローゾらと共に70年代トロピカリアの中心的存在として活躍したブラジル・ポピュラー・ミュージックの女王ガル・コスタ。こちらは、シュール&キッチュな“お風呂”ジャケで有名な1987年『蜜月』に収められたビートルズ・カヴァー。時代性もあり、ブラコン〜AOR風の大仰なロマンティック・バラッドに仕立がっているが、歌に力のある人だけにオケに食われることなく、美しいポルトガル語の響きをもってしっとりと聴かせてくれる。
Joyce
『Delirios De Orfeu:オルフェの陶酔』 (2005)
昨今のジャズ・スタンダード・カヴァー・アルバムも好評だったブラジルを代表するSSWジョイスのアコースティック・サウンドによるビートルズ。「And I Love Him」パターンと同じく女性視点の歌詞に変えて語りかけたラブソング。スタンダード・バラッドを聴いているかのような彼女特有のアンニュイな雰囲気に浸りたい。
Perry Como
『Just Out Of Reach』 (1975)
シナトラと並ぶエンターテイメント・シンガー、ペリー・コモがチェット・アトキンスのプロデュースでナッシュヴィルにて吹き込んだアルバムから。ピアノとストリングス主体の伴奏を背に優雅に歌ったある意味で期待を裏切らないアレンジ。むせび泣くギターソロはメンフィスの名手レジー・ヤングか?
Charles Lloyd
『Love In』 (1967)
1967年、サマー・オブ・ラブに呼応する形でロックの殿堂フィルモア・オーディトリアムに登場したチャールス・ロイド・カルテットのビートルズ名カヴァー。デビュー直後のキース・ジャレットが初々しくも生真面目なピアノを添え、ジャック・ディジョネットがキレのよいドラムを刻む。ロイドのフルート・プレイには、ジャズとロックが本気で張り合えたこの時代ならではのリベラルさを感じさせる。
ai kuwabara trio project
『Love Theme』 (2015)
日本の若手女性ピアニストの中では、すでに頭ひとつ飛び抜けている存在と言える桑原あいのトリオ・プロジェクト。こちらは通算4作目となる最新カヴァー・アルバムに収められたビートルズ曲。キング・クリムゾンやスクエアプッシャー・カヴァーのすさまじいテンションとは対照的に、エレキベース・ソロから導かれるリズミカルでメロディアスなトリオ世界が巧みなアレンジのもと構築されている。
Ray Bryant
『MCMLXX』 (1970)
リズム・アンド・ブルースやゴスペル・エッセンスたっぷりでお贈りする名ピアニスト、レイ・ブライアントのソウルフルな「Hey Jude」。抜けが良く太く豊かなピアノと原曲の持つムードは相性抜群。70年代、ソウルジャズ的解釈によるピアノ・カヴァーの最高峰だろう。
Pete Jolly
『Timeless』 (1969)
一方こちらは、60年代西海岸の洒脱なハードバップ・エキスに溢れたフル・スウィンギンなピアノトリオ・カヴァー。テーマ、アドリブ共にひと工夫ふた工夫あるアレンジが施されており、9分以上の尺ながら飽きさせずに一気に聴かせるあたりはさすが。それにしてもピートのピアノはよく転がる。