「夏は薄味?ヴァントのセット」
Tuesday, August 7th 2012
連載 許光俊の言いたい放題 第210回「夏は薄味?ヴァントのセット」
セットもののCDが安い。これだけ安いと、ダブりがあっても買ってしまう。問題は音質だが、同じソースがいろいろな番号で売られているとき、どれが一番音がよいかなど、よほどその方面に興味がある人でなければわからない。自称音質改善された盤も多いが、いちいち比較検討するほどの暇も金も熱意も私にはない。とりあえず安いセットで演奏を揃えてしまうほうが気楽で便利である。少なくとも私はそう考えている。というわけで、我が家には、まだ全部聴いていないセットがごろごろしている。しかし、これが安いという感覚は、かつて1枚2000円以上でCDを買っていた人間だけのものだろうと最近気づいた。ある年齢より下の人々にとって、音楽とはyoutubeで無料で聴けるものなのだ。音質はCDに劣るが、手軽な装置で聴くのなら、大差ないとも言える。こうなると、CDというモノに対する愛着なり関心なりは消える。そういう世代にとっては、もしかしたら激安セットの値段すら、高く感じられるのかもしれない。
しかし、CDでなければ聴けない演奏もある。ヴァントは自分のライヴCDがすばらしい水準に達していると自画自賛していた。それがまとめてコンパクトな箱入りになったので改めて少しずつ聴いてみた。
箱を開封すると1枚1枚が紙ジャケットに収められている。LPのようなビニールに入っているのがうれしい。実害はあまりないとはいえ、裸のCDを紙ジャケットに出し入れするのは何となく嫌なものである。
まとめて聴いてみると、1980年以後のヴァントの演奏が、どれも絶妙のバランスに基づいた高級感ある音楽だったことが再確認できる。昨今も興味深い演奏家が何人もいるけれど、彼らの演奏からはこうした印象は受けない。ヴァントはクラシックが妙に大衆にすり寄らず高級感を持っていた最後の時代の指揮者なのである。この世代より下は、やれ若者に教育だ、社会へのメッセージ発信だ、と熱心にやりはじめた。それはそれで理由がないことではないが。
シューベルトの交響曲第3番や4番。精密に作り込んだことがよくわかる演奏だ。ウィーン風のくつろいだ心地よさとは隔たった、緊張感ある音の美。たとえるなら極上の革製品のような、隙のなさ。押しつけがましくないくせに、しっかりした存在感を放っている、そういう感じ。だからこそごくわずかにかいま見えるユーモアが光ることになる。それにしてもヴァント晩年の日本での人気は、大いなる勘違いに基づくものだった。この手の音楽は、本来決して俗受けするものではあるまいに。まあ、この手の誤解はヴァントに限らずいつものことではあるが。シューマンが練れた立派さで響くのがたいしたものだ。ヴァントで聴くと全然暑苦しくない。品格がある。「ライン」第1楽章の騒がしくならない躍動感。昔、ザンデルリンクの引退コンサートで第4番を聴いたとき、あまりの立派さに驚きつつも、これがシューマンなのか少し疑問に思われたことがあったが、ヴァントも同様。毅然とした美しさ。
第4番もわかりやすい煽りがあるわけではない。それがよい。ぼうっと聴いていても向こうからやってきてガツンとやる親切な演奏ではない。注意深く耳を傾けて、その演奏の精髄を聴き取ることが必要だ。
ヴァントというとブルックナーの名演奏家というイメージが強いようだが、どうして、ベートーヴェンの交響曲がとてもいい。とにかく隙がなくて、緊密なのだ。初期だから、偶数番号だから、といった先入観はなし。どの曲も徹底的にやり抜く。
ブルックナーをひとつだけというのなら、第9番の北ドイツ放送響との旧録音が好きだ。教会のたっぷりした響きがこの作品に似合っている。本人はそれが気にくわなくて、数年後に新録音を制作したようだが。
ずいぶん前からやたらと「クラシックは実は難しくない」「親しみやすい」という言説が巷に溢れている。そう言いたい人の気持ちもわからないではないが、しかしもう度を超していると私は思う。これからは逆に、クラシックは一部の審美眼が優れた人のものであると強調してよい。ヴァントは喝采が嫌いではなかったが、喝采されるために音楽をやったりはしなかった。見当違いの賛辞に対しては露骨に嫌な顔をしていた。それを懐かしく思い出す。
ヴァントの演奏は現在SACDでも手に入る。CDとどちらが好きかは、個々人の趣味と装置によるだろう。とりあえずこのセットで当たりをつけてから、特に気に入ったものをSACDで買うのがよいのではないか。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
for Bronze / Gold / Platinum Stage.
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¥20,020
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