アイ・シャドウを塗り、青シャツに白のジャンプ・スーツを纏う。纏うというよりは、そのいやらしき肉体を部分々々で出し惜しみするハーフ・ストリップのような誂えだ。29歳のミック・ジャガーはこんなにも美しかったのか。もはや、シンボルではなく、「セックス」そのもの。あるいは、文化系知的蛮行者の逆襲か?
オープニングの「ブラウン・シュガー」で観るものを捉えて離さないのは、「ブラウン・シュガー、おまえはなんでそんなに美味いんだ」と美しく吼える淫獣のシルエット。まさにミックのためにある曲だろう。続けざま、ボビー・キーズ(sax)、ジム・プライス(tp,tb)のホーン・セクションが ”メンフィス・ロッキン・ソウル” なリフを煽動的にブロウする「ビッチ」で早やトップ・スピードに。「デッド・フラワーズ」、「ハッピー」、「無情の世界」ではミックとキースが1本のマイクを分け合う。中でも「ハッピー」における牛若丸キースの無茶ながなりっぷり、それを”危険”と判断したミックの強烈すぎるフォローが愉快痛快。本ツアーにおける見所のひとつでもある、ミック・テイラーのギター・プレイは、「むなしき愛」、「オール・ダウン・ザ・ライン」にてその饒舌さをたっぷりと味わえる。
「ミッドナイト・ランブラー」でショウは、最初のエクスタシーを迎える。1969年のマジソン・スクエア・ガーデンとはまた種類の異なるアクメだろう。「きたら、すぐいる?」 どころの騒ぎではない。キースがゴリゴリともみ刻み、ミックが半裸の肢体を反り返せば、すべてが世界。涎まみれの舌も乾かぬうちに、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」、「ストリート・ファイティング・マン」が首尾よく放り込まれる。本編最後のエクスタシーは、徐々に加速するハードボイルドな「ストリート・ファイティング・マン」だ。ミック・テイラーのえげつないほどのギター・ソロは翌1973年の欧州ツアーでその完成形をみる。それにしても、ミック・ジャガーは薄暗いステージ上で終始淫らなのだ。それはまちがいなく、ロックの歴史上最も美しい淫行であり、男女問わず誰もがその濃厚なグレコローマン・スタイルの演舞歌唱に性的興奮をおさえきれず、身悶えるはず。1972年のミック・ジャガー、セックスよりも淫靡、ドラッグよりもハイ也。
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《収録曲》
01. ブラウン・シュガー
02. ビッチ
03. ギミー・シェルター
04. デッド・フラワーズ
05. ハッピー
06. ダイスをころがせ
07. むなしき愛
08. スイート・ヴァージニア
09. 無情の世界
10. オール・ダウン・ザ・ライン
11. ミッドナイト・ランブラー
12. バイ・バイ・ジョニー
13. リップ・ディス・ジョイント
14. ジャンピン・ジャック・フラッシュ
15. ストリート・ファイティング・マン
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