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【対談】須永辰緒 × 小林径 for Norma Blu Page.2

2009年5月14日 (木)

interview

Norma Blu

Norma Bluの日本人DJセレクト・コンピレーション・シリーズ「Norma Blu Capitolo」としてJazztronikが第1弾を飾ったが、第2弾、第3弾が同時リリースとなった。今回のセレクトを担当したのがレコード番長こと須永辰緒とRoutine Jazzシリーズを手掛ける小林径。
今回は同時リリースを記念してポニーキャニオン本社にて音楽ジャーナリスト若杉実さんを迎えて対談を行いました。それぞれの「Norma Blu Capitolo」については勿論の事、イタリアン・ジャズについてと幅広い内容を語って頂いています。

若杉:選曲作業は大変でしたか?

須永:正直、楽勝でした。老舗レーベルみたくものすごい量があるわけじゃないし、DJプレイしてるときとおなじような感じでできましたよ。でも裏を返して考えると、それってレーベルの方向性にブレがないということだと思う。自分とおなじくDJがプロデュースするジャズ・レーベルだから、“気持ち的に分かるなぁ”という作品が多いし。そういうところで“楽勝だった”ということなんです。それにしても、あらためて痛感させられたのが演奏力。新旧世代が集まりながら、ソロもアドリブもウマく噛み合ってる。あと、“ジャズはオーディオだ”なんていうけど、録音面でもかなりの水準に達してるでしょ。ベテランから若手まで幅広い層に支持されてる理由は、そういうところにあると思う。

若杉:Norma Bluの魅力をひとつだけ、といったらまさにそこでしょうね。CDショップなんかを覗いてみても、ベテランと若者、そのなかに女性もいっしょにいる光景を目にすることができる。とても微笑ましいというか健全というか。

小林:ただ、やっぱり両者の壁が無くなることはないんですよ(苦笑)。Norma Bluは例外であってね。純ジャズ・ファンのなかにクラブ的なジャズは受けつけないというひとは絶対にいる。

須永:そういう隔たりは確実にある。自分なりにいろいろ試してやってみたし、やり倒すくらいにやったんだけどなぁ……(苦笑)。

若杉:でも、それなりの成果を得ているじゃないですか。

須永:ある一定の成果までは出ているんです。若者をジャズの世界に導くというところまでは達成できた。でも、逆に従来のジャズ・ファンをこっちの世界に誘導するのはものすごく難しい、というか限りなく不可能に近いんです。そもそも従来のジャズ・ファンにとってクラブという場所はジャズを聴く環境じゃない。この問題がなにより大きい。

若杉:クラブというハコの問題は確かにあるでしょうね。思うに、お互いコミュニケーションを取れるような場があればいいのではないでしょうか。意見交換をすることで理解を深め合うことができるのでは?

須永:レコード・コンサートみたいなことは定期的に開いているんですよ。そこには年配のジャズ・ファンも来られる。そういうひとに“こういうのがボクたちカッコいいと思ってるジャズなんです”という曲を聴かせてるんです。みなさんじーっと聴いてくれたりするから、自分もそこでは前向きな気持ちになれますね。

若杉:Norma Bluが象徴するように、新旧世代の交流が盛んなのがイタリアのジャズ・シーンなんですよね。他のヨーロッパ諸国にこうした傾向は見られない。だからといって“国民性の違い”というので納得してしまうのもどうかと思う。つまり個人の意識の問題ではないかと。Norma Bluからアルバムを出された青木カレンさんの制作話が思い出されます。プロデューサーのパウロは、とにかく“エネルギーを出せ”といったアドバイスしかしないというんです。とてもアバウトなんだけど、自分の才能を引き出すのも自分自身ということなんでしょう。

小林:そういう話とも関係するのでしょうが、実はものすごく深い国なんだと思いますね。ローマみたく文化の起源を担っている面が大きいし、オペラの歴史もある。いまは世界をリードするほど著しい経済発展はないかもしれないけど、人間性としてはもっと尊敬されてもいいのでしょうね。

若杉:たとえばの話、Norma Bluでアルバムを作って、とお願いされたら?

須永:もちろんやりますよ。これまでの作品を照らし合わせながらね。“自由にやって”となると逆に難しいかな。テーマを与えられたほうが、かえって自分の独創・自由性が出にくい。ただ、これまでハードバップに傾倒してる作品が少なくないからモード寄りにしたいとは思う。もちろんバップ寄りにしてるのもパウロの計算でしょうが。イタリアには知り合いのミュージシャンも多いし、現地に出張するとなれば喜んで飛んでいきます(笑)。

小林:自分も(辰緒さんと)おなじかなぁ。“クラブ”というのがNorma Bluのベースにもあるわけだから、プロデュースも自然体でできると思う。ただ、ボクも自分のやりたいことを好き勝手にやるということにはならないでしょうね。これまで築かれたカラーをいたずらに崩したくない。

若杉:今後、イタリアに関係する仕事はありますか。

須永:イタリアもそうだけど、フィンランドとかにも友だちの演奏家は多いから、そうした交友をカタチにしたいんです。ニコラ・コンテ(DJ)とはずいぶん前からそういう話をしてます。“East Meets West―West Meets East”と題して、トラックの受け渡しをしながら遠距離セッションをするというのをね。もう2年もそういう話をしてるから、そろそろ動きたい。

小林:ボクはどうだろう……いまはサッカーも面白くないからなぁ(苦笑)。ただ、こんどリリースするルーティン・ジャズのシングルでイタリアのミュージシャンを起用する予定にあります。

若杉:それではコンピの聴き所をアピールしてもらい、この場を締めさせてください。

須永:自分のライフワークである“夜ジャズ”の延長として楽しんでほしいですね。いまイタリアのジャズって、純度にせよレベルにせよ世界的に高い位置づけにあると思う。アメリカのようなジャズの列強国と比べても遜色ないし。そういう優れた面もこの1枚で体験できれば、隠し味であるクラブ的なハイブリッド感も楽しんでもらえるでしょう。

小林:パウロ・スコッティのスローガンを自分なりに消化し、新たに打ち出せたと思います。DJ的なセンス、つまりくり返し聴いても飽きない、そういう選曲もね。ダウンロードの時代になって1曲を抜き楽しむという習慣がついちゃったけど、ここでは早送りボタンを押させませませんから(笑)。



profile

須永辰緒 (Sunaga t experience)

Sunaga t experience 須永辰緒自身によるソロ・ユニット。DJ/プロデューサー。 DJとして東京、大阪でレギュラー・パーティーを主宰し、また日本全国から海外まで飛び回る超多忙な日々を送る。 MIX CDシリーズ『World Standard』は6作を数え、ライフ・ワークとも言うべきジャズ・コンピレーションアルバム『須永辰緒の夜ジャズ』は、レコード会社8社から計16作のリリースを予定。国内はもちろん“SCHEMA”や”IRMA” などの海外レーベルのコンパイルCDも多数監修する。自身のソロ・ユニット"Sunaga t experience"として、アルバム3作を発表。最新作は「A letter from allnighters」(2006年 flower records)。多種コンピレーションの監修やアルバム・プロデュース、リミックス作品は延べ100作以上。"レコード番長"の冠を頂くシーン最重要人物。

sunaga t experience オフィシャルサイトhttp://sunaga-t.com/j/index.html

profile

小林径 (Routine Jazz)

伝説のクラブ<第3倉庫>を始め、日本のクラブ・シーンの黎明期から活動を始め、DJ BAR INKSTICKのプロデューサーとして<routine>他<FREE SOUL>などに中心的に関わってきた、世界的にも名が知られるクラブ・ジャズ系トップDJ。「routine」名義で2枚のアルバムをリリース。クラブ・ミュージックの観点から選んだ新旧のジャズ・コンピ「Routine Jazz」シリーズが大人気。

Routine Jazzオフィシャルサイトhttp://www.routinerecords.co.jp/