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橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談 Page.2

Friday, April 30th 2010

interview

橋本徹の『音楽のある風景〜アルゼンチン』対談

■ セバスチャン・マッチ、クラウヂオ・ボルサーニ、フェルナンド・シルヴァ

河野洋志:僕の中で一番のキーになったのが、彼らの『Luz De Agua』というアルバムなんですよ。初めて聴いたときに、いままで聴いてきた欧米の音楽にはない切ない響きがあって、なんだろうこの切なさはと思って、自分の精神状態もあったのかもしれないんですけど、すーっと身体に入ってきて、いまほんとうに自分が求めている音楽だなと思ったんですよ。これが自分が欲しかった音楽なんだなって。

橋本:まったく同感だね。去年いちばん聴いて、何度となく助けられたアルバムだし、どんな新譜よりもほんとうに繰り返し聴いたね。

河野:しかも、それが一部の人にしか知られていないということに衝撃を受けて、渋谷のHMVの売場“素晴らしきメランコリーの世界”コーナーでも紹介を始めたんですよ。

橋本:実は『Luz De Agua』から受けた感動が、このコンピレイションのイメージの源泉になっているんだよね。

吉本:『Luz De Agua』はカルロス・アギーレの主宰するレーベルのシャグラダ・メードラからリリースされていて、しかもカルロス・アギーレの住むパラナの詩人フアン・L.オルティスの詩にピアニストのセバスチャン・マッチが曲を書いて、アルバム・ジャケットも詩集のような装丁になっているんだよね。この詩もすべて和訳を読んでみたいと思ったよ。

山本:シャグラダ・メードラの世界観をしっかり受け継いでいますよね。「Fui Al Rio...」のサウンドは、いままでに出会ったことのない感じでほんとうに気持ちいいんですよ。ミナスっぽくもあるんですけど、ブラジル音楽にはない空気感というか。

吉本:パラナ河の朝靄を感じさせるね。きっとアルゼンチンの人にとって河には特別な想いがあるんだろうね。カルロス・アギーレもパラナ河は自分の音楽のインスピレイションの源のひとつだと話してくれたよね。

橋本:カルロス・アギーレが“兄弟”と慕うフェルナンド・シルヴァのベースの気持ちよさもまた格別なんだ。脈打っているというか、自然に呼吸している感じなんだよね。

山本:セバスチャン・マッチを始め、みんなカルロス・アギーレをリスペクトしてこのアルバムをつくっていますよね。実際にカルロス・アギーレも数曲、参加していますね。

吉本:リスペクトしながらも、さらに確固たる3人の世界観を作り上げている。

橋本:セバスチャン・マッチは、今回の選曲の中でも一番大きな水脈にしたかったんだ。ジャズやエクスペリメンタルな側面やクラシックのピアノや室内楽の要素、アルゼンチンの伝統的なフィーリングが濃縮されている中で、セバスチャン・マッチの普遍的な歌心みたいなものを軸にしたかったんだよね。

稲葉:今回の選曲の流れは全体的に、行きすぎない揺り戻しというか“揺らぎ”のような感覚がありますね。

橋本:音楽的なヴォキャブラリーやストライク・ゾーンを絞って“揺らぐ”感じにした方がセラピー的なコンセプトに合うかなと思って、繊細なテイストを貫いたんだよね。

山本:彼ら3人の音楽は、ヴォーカルも揺らいでいますよね。なんでこんなに落ち着くんでしょうね。

橋本:きっとアルファ波か何かが出ているのかもね。タイムカプセルがあったらぜったいに未来のために埋めるべきだよ。なぜ21世紀初頭の人たちはこの音楽で癒されていたのかっていうのを科学的に証明して欲しいぐらいだな(笑)。

稲葉:カルロス・アギーレという支柱があるからこそ、こういうコンセプチュアルな作品が生まれてくるんでしょうね。いやあ、ほんとうに聴き入っちゃいますね。


■ セシ・イリアス

河野:僕はブエノスアイレスでカルロス・アギーレやフロレンシア・ルイスなどに会ってきて、セシ・イリアスにも会ってきたんですけど、彼女は実はブエノスアイレスでは5本の指に入るダンサーなんですよ。彼女の家に行ったときに、内装やその世界観がとても素敵で、それが彼女の音楽にとてもよく表れているんですよね。置いてあるCDも70年代のジョニ・ミッチェルやキャロル・キング、リッキー・リー・ジョーンズであったり、後は北欧のエレクトロニカであったりとか、ほんとうに僕たちが聴いているような音楽が好きなんですよ。

吉本:僕も彼女の曲を初めて聴いたときに、口笛やドラムンベース的な展開がとても印象に残って、音の雰囲気がカルロス・アギーレの世界観にも通じると思って彼女にそう伝えたら、彼女もカルロス・アギーレを偉大なコンポーザーとして尊敬していると言っていたよ。

橋本:僕もまず彼女の口笛の魔法にやられたな。風に吹かれているような感じで、彼女の歌の合間に聞こえる笑い声やため息などもすべていいよね。光がこぼれる感じや水の揺らめく感じがあって、初めて聴いたとき、セシリア・サバラがフアン・キンテーロの「A Pique」などをカヴァーしているキケ・シネシも参加したファースト『Aguaribay』や、ブラジルのジョイスなんかも連想したな。

山本:その辺は、相方のパブロ・ヒメネスの音楽センスも見逃せないでしょうね。

美しき音楽のある風景
〜素晴らしきメランコリーのアルゼンチン〜
橋本徹(サバービア)監修レーベル「アプレミディ・レコーズ」が提案する ライフスタイリングCDの決定版にしてヒットシリーズ『音楽のある風景』の 特別編となる、アルゼンチンの素晴らしくもメランコリックな音源を収録した 美しい1枚!
profile

橋本徹 (SUBURBIA)

編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷・公園通りの「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・グラン・クリュ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは200枚を越える。NTTドコモ/au/ソフトバンクで携帯サイト「Apres-midi Mobile」、USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。

http://www.apres-midi.biz

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