TOP > Movie DVD・BD > News > Japanese Movies > 『桃色のジャンヌ・ダルク』 増山麗奈 インタビュー 【2】

『桃色のジャンヌ・ダルク』 増山麗奈 インタビュー 【2】

Tuesday, June 22nd 2010

interview
増山麗奈


戦争よりエロス、原発よりエロス、女体を武器に平和ボケ日本に戦いを挑む!エロティックパフォーマンスでメディアを騒がせた増山麗奈さんの桃色ドキュメンタリー『桃色のジャンヌ・ダルク』が7.8に緊急リリース決定!劇場公開時にお届けしたインタビュー、再び!

職業・画家。反戦パフォーマンス・桃色ゲリラ主催。二児の母親・・・という肩書きを持つ、増山麗奈さんの人生を追った異色ドキュメンタリー『桃色のジャンヌ・ダルク』。ある夜、民衆を救おうと立ち上がったジャンヌ・ダルクのように、高校の時に旅行したヒマラヤで天命を受け、「画家になろう」と決意したという。彼女の代表作である女性の挑発的な肢体を描くネオ春画や女性、そして、母親だからこそ出来た母乳アート。また、ピンクの衣装を身に纏い、LOVE&PEACEを声高に叫び続け、パフォーマンスを増幅し続けている桃色ゲリラの活動など・・・それらすべてにつながるのは、いのちの尊さや大切さだった。今、彼女がどのような心境でどんな活動をされているのか、そして、これから先の未来について・・・丁寧にお話して下さいました。「これはフィクションではない」という事実にただただ、うれしくなるはずです。

INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美

自分の中では戦争というのはやってはいけない、反戦っていう風に言ってるんですけど、たぶん、強い男とか武力の力で無理矢理制圧するとか、そういうものに萌えてしまうタイプなのかなあって(笑)。


--- 「母乳アート」と同じくらい、増山さんの代表的な作品として「ネオ春画」(女性の挑発的な肢体を描く)があると思うのですが、原体験があったんですよね?

増山 そうですね。チベットにはラマ教という仏教の宗派があって、チベット民族が信じている仏教絵画が結構エロティックなんですよね。男女が絡まって抱きしめ合ってるような仏画があったりして。それを見たのが原体験として大きいと思います。性は隠すものっていう教育がありますけれど、エネルギーの根源だから、むしろそれを崇拝するという、そこに変ないやらしさとか人を利用するエロ商売とかそういうものではなくて、もっと尊いものだっていうことを思春期のあの時期に密教壁画を見たことですごく影響を受けていると思いますね。


最新!ネオ春画 ネオ春画


--- 「ネオ春画」を拝見していると、現代美術家の会田誠さんの作品と似た匂いを感じるんですが、会田さんも藝大ですし、面識や交流もあったりするんですか?

増山 以前からわたしは会田ファンで、よく展覧会に行ったりしていたのと「美術手帖」さんで対談(2008年5月号の創刊60周年記念リニューアル新装刊の「青空座談会」)をさせて頂いたり、今回も映画にコメントを寄せて下さって。わたしが尊敬する芸術家の先輩の一人ですね。性とか社会とか子供への愛・・・会田さんの場合はロリコンだけど、わたしは子供を育てる方の愛。陰陽の裏表みたいな、同じテーマで明るい方と暗い方みたいなそういう気がしますよね。だから、ライバルと言ったら大変おこがましいですけれども、会田さんがレコードのA面だったら、わたしはレコードのB面で「B面負けるな!」っていう感じでやってます(笑)。

会田さんの世界観と近いところはあるけれど、これから出ていく会田さんの10個下くらいの若者としては全く同じではいけないし、乗り越えなければいけないけれど、性とかタブーとか社会性とかすごく重なる部分はあります。会田さんは明確には自分が社会問題についてどういう意見なのかっていうのは言わないっていうスタンスで絵を描いてらっしゃいますけど、わたしの場合は問題に対して、YES or NOっていうのをわりとはっきり言う方で運動と芸術をもう一緒くたにしちゃおうと思っているところが違うと思いますね。


会田誠 1965年新潟市生まれ。89年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。91年東京藝術大学大学院美術研究科修了。93年「フォーチューンズ」(レントゲン藝術研究所)で芸術家としてデビュー。ミヅマアートギャラリーでの個展を中心に「横浜トリエンナーレ2001」「六本木クロッシング2004」「シンガポール・ビエンナーレ2006」「アートで候。会田誠・山口晃」展(上野の森美術館 2007)など、グループ展、国際展、海外での発表多数。ドキュメンタリー映画・DVDに『≒会田誠〜無気力大陸〜』(ビー・ビー・ビー 2003)、作品集に「孤独な惑星」(DANぼ 1999)、「三十路」(ABC出版 2002)、「会田誠 MONUMENT FOR NOTHING」(グラフィック社 2007)。著作に「青春と変態」(ABC出版 1996)、「ミュータント花子」(ABC出版 1999)。現在、武蔵野美術大学非常勤講師。千葉県東金市在住。

--- 超左翼マガジン「ロスジェネ」第3号を「エロスジェネ」とし、2009年6月に(【特集】 資本主義に愛はあるのか?あなたの「エロス」は偽ネタ物じゃない!)責任編集されましたが、この表紙が神楽坂恵さんでした。本作の増山さんの再現ドラマも神楽坂さんが演じられていますが、どういったきっかけで知り合われたんですか?

増山 アップリンクさんでわたしがパフォーマンスした時に紹介して頂いたんですけど、その時は女優さんというよりは事務所の人だと思ってたんですよ(笑)。その後、鵜飼監督と一緒に神楽坂さんの初主演映画『トウキョウ・守護天使』を観に行ったんです。その時に舞台挨拶もされていたんですけど、いざ自分が主役となると発するオーラが全然違って、普段と女優になる時との差がすごくあって興味深い方だなあと思って、わたしから「わたし役をぜひ、神楽坂さんにやって欲しい」ということで鵜飼さんにお願いして交渉して頂いたんです。

彼女には絵のモデルにもなって頂いて、「墨観音」という作品は神楽坂さんをモデルにして描いているんですね。他にも何作か、神楽坂さんに自宅に来てもらってポーズを取ってもらって、モデルさんになってもらったこともあるんですけど、やはり才能というか、美しいんですよ(笑)。それが単に美人というだけではなくて、発するエネルギーがすごく・・・汚れていない。


神楽坂恵 1981年岡山県生まれ。04年にDVD『おねがい神様!』でデビュー。Iカップのバストを武器にグラビアアイドルとして活躍するが06年に自著「私、グラビアアイドルやめたいんです。」(ゴマブックス刊)を上梓。07年映画デビューとなった『学校の階段』(佐々木浩久監督)のスピンオフDVD『UNDRESS』を最後にグラビアアイドルから女優へ転身した。08年には『遠くの空に消えた』(行定勲監督)、初主演作『トウキョウ・守護天使』(増田俊樹監督)、他に準主演作『新・スパイガール大作戦』(河村永徳監督)が公開。09年は『プライド』(金子修介監督)や『童貞放浪記』(小沼雄一監督)、テレビドラマ「特命係長 只野仁」など、女優として活躍の場を広げている。

『童貞放浪記』 神楽坂恵 HMVイベントレポート!


--- 汚れていない。

増山 ええ。あんなにドロドロの芸能界で、しかも男達の欲望をグラビアで浴び続けて、それなのにどこか彼女の内面は汚れていない、きれいなんですよ。命を尊う、1つの花を美しく思ったりするそういう心があって、すごく素敵だなあって思って、「木花咲耶姫(このはなさくやひめ)」(日本神話に登場する女神)っていう、日本古来の神様と重ねて描いたりもしたんですけどね。彼女は才能のある女優さんだと思います。これからどんどん羽ばたいていかれると思うんですけど、こういう時期に出会えて、お仕事させて頂いてよかったなあ、ありがたいなあって思ってます。

わたし役を演じている時も、結構似てるんですよね。顔は全然似てないけれど(笑)、神楽坂さんなりに役にのめり込んで体現してくれたというか。アカデミズムな藝大のシステムに怒りを持って壁を割ったり窓から叫んだりするシーンは特に、本当にわたしが叫んでるような気がして、観ていてすごくうれしかったですね。神楽坂恵の今までの最高傑作じゃないかなって、実は思ってます(笑)。

--- 神楽坂さんが出演している『童貞放浪記』という映画を拝見させて頂いた後、本作にも出演されていたので、またつながりが生まれたなあと思っていたんですが、これから女優業をたくさんされそうですもんね。

増山 今、引く手あまたですよね。それってすごいことですよね。でも確かに、監督さんが彼女を撮りたくなる理由はわたしにもわかります。絵を描きたくなる。何か触発されるものがあるので。

--- そういった女性にお会いすると、絵のモデルにスカウトを?

増山 そうなんです、したくなっちゃうんですよね(笑)。結構いろんな素敵な女性を各地でナンパしていて、「きゅんと、」編集長の小滝かれんさんは早稲田大学の展覧会でナンパしたし、パフォーマンスに来てくれた方だったり、興味を持つとね、すぐさまナンパして、「何か一緒にしよう」って言う風に言うのが好きです。


※「きゅんと、」 あなたとアートをつなぐ運命の一枚 Vol.1は、いのちに優しいお金の使い方というテーマで小滝かれん氏が発行したフリーペーパー。

※小滝かれん 1987年神奈川県生まれ。「きゅんと、」発行人・女優。早稲田大学文二文学部在学中。『電エース』(河崎実監督)では念願の特撮物のヒロイン役を務める。趣味はコンテンポラリーダンス、朗読、イラストや文章を書くこと、フランス語など。

--- どのような方に惹かれますか?

増山 うーん・・・やはり、子供心というか、きれいな心、ピュアさと反逆心がある人に惹かれますね。それは若い人だけじゃなくて、年配の方の中にも持ってる方っていますよね?そういう人達と一緒に何かを仕掛けるのがとっても好きで、“桃色ゲリラ”にも2歳の子供のメンバーもいますし(笑)、映画にも出てこられた78歳の黒田オサムさんの年齢までいろんな年齢の仲間がいるんですけど、共通しているのはやっぱり、ピュアさと反逆心っていう感じかもしれないですね(笑)。今回映画の主題歌を歌ってくれた歌手の白井愛子さんも困ったちゃんだけど、ピュアな人です。

たぶん、わたし自身が成長していないというか、子供時代から週末お芝居やったり、サーカスやったりするのが大好きで、何かのイベントをいつもしかける子供だったんですよね。近所のお母さん達を呼んでそれを見せるんですけど、その感覚とずっと同じ、物を作るたのしさみたいなものでずっと生きてこれて、めちゃくちゃしあわせだなあと(笑)。一生やり続けられたらいいなあと思っています。

あとはやっぱり、鵜飼監督みたいに一見地味だけど、1つの仕事を一生懸命やってこられた方、そういう職人さんみたいな人に惹かれますね。いろいろ貪欲に勉強したいっていう気持ちも強くて、そういう人達と一緒にいるといろんなことを学べそうな感じがします。


黒田オサム 1931年生まれ。ホイト(=乞食)芸パフォーマー。ダダイスト。常に弱者へのまなざしをもって行なわれる、軽やかな動きのパフォーマンスのファンは多い。欧州をはじめとする世界各地で公演を行なう。

白井愛子 新潟県生まれ。歌手。桃色ゲリラとして各地でパフォーマンスを行う。『桃色のジャンヌ・ダルク』 主題歌「one かけがえのない君へ」を作詞・作曲。


桃色のジャンヌ・ダルク


--- 先ほどの「ロスジェネ」のつながりやデモ活動でも、『新しい神様』の雨宮処凛(あまみや かりん)さんとの交流もありますよね?

増山 雨宮さんとは「ロスジェネ」創刊号で対談させて頂いたり、デモとかでもよくお会いするんですけど、すごく親しいというと語弊があるけれど、尊敬している存在です。雨宮さんは『新しい神様』でどーんと世の中に出て、ちょうどイラクに行ったりもしていて、わたしとすごく似ている存在ですよね?ただ、雨宮さんは映画の中で土屋豊さんと恋に落ちていく様が出ていたんだけれど、わたしは鵜飼監督とは恋には落ちていないので、そこは違うかなあと思います(笑)。でも、貧困の問題も本当に本気で取り組まれていますし、そこで本気で傷付いたりして、人間として信頼出来る人だなあって思っています。あとはすごく、文章が上手い方ですよね。


雨宮処凛 1975年、北海道生まれ。1997年、右翼団体入会。1998、愛国パンクバンド「維新赤誠塾」結成、ボーカルをつとめる。1999年、ドキュメンタリー映画『新しい神様』(監督:土屋豊)に出演。以後、右翼団体は脱会。2000年、「生き地獄天国」を出版し、デビュー。現在は生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。「フリーター全般労働組合」賛助会員。心身障害者パフォーマンス集団「こわれ者の祭典」名誉会長。「週刊金曜日」編集委員。「反貧困ネットワーク」副代表。

※『新しい神様』 1999年、土屋豊監督作品。朝日新聞に”プレカリアートの女神”と名付けられ、生き辛さを抱える若者達から絶大な支持を集めている雨宮処凛が主演の”原点”とも言える作品。軍服に身を包み、右翼の集会で演説する彼女の姿は、今の姿しか知らない若者には驚きのはず。彼女を理解するためには、絶対にはずせない1本。

--- 増山さんは憲法第9条を喘ぎながら読み上げるパフォーマンスをされましたよね?絶頂にまで達して、愛液で濡れた下着を個展で展示され、その時の音声も聴けるようにされていましたが、その件でマスコミに騒がれたりはしたんですか?

増山 実は、そこまでマスコミは騒いでくれなかったです(笑)。書かなかった、それはタブー過ぎて。「ネオ春画」の取材はいくつかの媒体が来てくれたんですが、喘いで9条っていうのはカットされました(笑)。まず赤旗さんにはその部分は完全に載らなかったし(笑)。別にマスコミ受けというわけでもなく、自分の中で必然性があってやっているのですが、こうやって映画というきっかけで、もう1回あの問題をぶつけられるっていうのはよかったなあって思います。テレビでもたぶん出来なかった。いろいろね、わたしは出来ないことだらけ人間なんですよ(笑)。だから、今回のこの映画でもう一度あの問題をぶつけられることはたのしみです、どんな反応になるのか。

--- その時の心境を含めまして、どうしてあのようなパフォーマンスをされようと?

増山 ああいうのはいつも、ふっと思い付くんですよね(笑)。「ネオ春画」の展覧会はもうやることが決まっていて、「増山さん、絵描いて下さいよ」っていう時期だったのに、いきなり自衛隊から情報保全隊がわたしの行動をマークしているという情報が入ってすごくびっくりして、防衛省に抗議に行ったりしたんですけど、相手は国家権力で防衛省の担当者とそうやって話をしても全然話なんて噛み合わないんですよね。無力感と自分が盗聴されてるかもしれないみたいな不安感とこのままいくと治安維持法みたいな世界に本当になっちゃうんじゃないかっていう怖さとがあって、それを打破するためにこんな何にも持たない、お金もない人が何をすればいいのかって思ってた時にそれをちょっと思い付いちゃったんですよね(笑)。ただ、恥ずかしながらあそこまで濡れるとは思わなくて、自分の中では戦争というのはやってはいけない、反戦っていう風に言ってるんですけど、たぶん、強い男とか武力の力で無理矢理制圧するとか、そういうものに萌えてしまうタイプなのかなあって(笑)。

--- 萌えてしまう(笑)。

増山 ええ(笑)。うちのダーリン(志葉玲)は戦場ジャーナリストをやってるんですけど、戦場で戦ってるっていうのが・・・もちろん、戦争を止めるために戦ってるんですけど、そういうのが何か、結構萌えるんですよね(笑)。やっかいなもんだなあと思いながら、きれいなだけではわたしもないので、そういう自分の弱いところも曝け出しながら、見てくれる方達と一緒に9条のことを、平和のことを考えられたらいいかなあと思っています。


志葉玲(しば れい) 1975年生まれ。ジャーナリスト。環境、人権、戦争などをテーマに活動する。著書に「たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクが観た本当の戦争」(社会批評社)がある。


桃色のジャンヌ・ダルク


--- 今発言して頂いたことも、全て掲載させて頂きますね。

増山 ありがとうございます。そういうのは本当にうれしいです。いろんな取材を受けたり、テレビだったりすると、どうしてもその媒体の枠、スポンサーがある。制約の枠の中で物語が作られるっていうことを今まで取材を受けて本当に感じてたんですよね。人はメディアを見たらそれが真実だって思うけれど、その裏にはいろんな背景があるというか。ここで隠されるものの方が実は大事だったりするなあっていうことを今までの活動で感じて来ていたので・・・どうぞ、容赦なく載せて下さい(笑)。

--- 今までの増山さんのお話を伺っていると、世の中に対する疑問というものがすごく多いと思うのですが、特にどういう問題に疑問を持たれて、どういう風に考えてらっしゃるのかというところをもう少しお聞かせ頂けますか?

増山 まず1つは、子供達の教育費の問題がすごく気になっています。人生のスタートラインでこれから社会に出るっていう人達からよくメールとか手紙をもらったり、デモで相談を受けたりするんですけど、そこには「希望が持てない」「大人になってもロクなことがない」というような声が多くて、将来にいろいろな選択肢がないと思ってる。でも、それは本当にすごく悲しいことですよね。小さい頃に誰でもスポーツ選手とか宇宙飛行士とか、そういうものになりたいって思うじゃないですか?それが絶対というわけじゃないけれど、「将来こうなろうかなあ」みたいなことを思えない状態ってすごく切ないことだなって思っていて、子供達が人生のスタートラインに立つ時に平等に夢を持てる状況を作りたいなあと思って、「教育費、大学まで無料!」っていうのを本気でやりたいなあって思ってます。先進国の中で日本が一番学費が高い。アメリカも高いけれど、アメリカは貧乏な人達が大学に行くために「兵士になるしかない」っていう選択肢を迫られたり、学生が利息の高い学費ローンでがんじがらめになっている。わたし達の国も下手すればそうなってしまう。それはやっぱり避けたいなあと思うので、そういう運動はこれから仕掛けて行きたいなって思ってます。

あとは、このことはまだ発言をそんなにしてなかったんですけど、近い将来、親の介助が始まると思うんですよね。その時に安心出来る医療体制も作りたい。今日の昼間、堤未果さんと一緒にご飯を食べてた時に話してたんですけど、「アメリカのように、日本の医療の現場も企業利益ばかり優先しているんじゃないか。医療改革もしないとね」と話していたんです。堤さんがアメリカで取材された話をしてくれて、「アメリカの医療の現場と同じことが今、日本でも起こってるね」と言われて。命の現場なんだから当たり前のことですけど、生、老、病、死って・・・人生の大事なところを「単なる経済効果とかでやられてたまるか!」と思って。わたしの家族はまだ今のところみんな元気だけど、いつケガして、病気になって癌になるかわからないし、そうなった時にちゃんと安心して任せられる医療の現場を作りたいです。この間、国家予算の中から医療の援助というのがどんどん減らされていて、銚子の病院がなくなったり、出産するための病院がなくなったり、それって本当にありえないなって思うんですけど、そういうところにちゃんとお金を使ってもらって、安心して病院にいける社会を作りたいなと思ってます。

あとは、今どんどんカルチャー不況で、渋谷のシネカノンもなくなり、ギャラリーと美術館と出版社も潰れ、音楽も今CDを買わない大変な状況だと思うんですけど、そういう中で映画っていう総合芸術のメディアで作品を作れたことはおもしろいなって思ってるんですよね。HMVさんは音楽に興味のある方が見る機会が多いと思うんですけど、業界がタッグを組んで、日本の文化の底上げをしたいなって思います。普段映画館に行く方がHMVさんに行って、HMVさんに行った方がギャラリーに来たり、何かそういうことが起こるとちょっと変わるかなあって思うんですよね。狭い業界の専門家とか評論家とかにがちがちにされてるような気がして。これを揺り動かすためには周りから攻めていくっていうのがいいなあって思って。そういうカルチャー革命を日本で起こしたいなあって思ってます。


堤未果 著作家・ジャーナリスト。東京生まれ。ニューヨーク州立大学国際関係論学科学士号取得。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号取得。国連、アムネスティインターナショナルニューヨーク支局局員を経て、米国野村證券に勤務中に9・11に遭遇。現在は帰国してNY-東京間を行き来しながら執筆、講演活動を行っている。国際政治環境研究所理事。著書に「空飛ぶチキン〜私のポジティブ留学宣言〜」(創創社出版)「グラウンド・ゼロがくれた希望」(ポプラ社) 2006年に出版した「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命〜なぜあの国にまだ希望があるのか〜」(海鳴社)で、日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞受賞。「貧困大国アメリカ」(岩波親書)が近々に刊行。朝日ニュースター「ニュースの深層」サブキャスター、「デモクラシーナウ!」解説者。

--- 文化は大事ですよね。わたしは文化があるから救われている部分がすごく多いです。本当に増山さんがおっしゃった通り、いい状態で活性化出来れば、もう少し平和になるような気さえしますね。

増山 そんなに一気に不況が直らなくても、貯金の残高が変わらなくても、いい映画を観るとしあわせになったりしますよね?(笑)、ちょっと気持ちが明るくなったり。そういうことが実は大事かなって思いますよね。何でもかんでもネガティブに捉えるんじゃなくて、「人生、捨てたもんじゃないな」って思う瞬間がいっぱい・・・いい映画とかいい音楽とかいい絵とかいい本とか、そういう出会いをいろんな人がすることによって、日本が元気になったらいいなあって思ってます。一緒にがんばりましょう!(笑)。

--- がんぱりましょう!(笑)。

増山 映画を1つ作るのにも編集だったり、音声だったり、いろんな方と出会いますし、メディアの方にも・・・今まで出会わなかった女性誌の方とも(笑)、結構、根詰めて話したりして、本当に今回、いろんな業界の方に出会う機会が多くて、学ばせて頂くのがありがたいです。「これはどういう人がどういう思いでつくったものなのかな?業界のルールってどういうものなのかな?」って考えてるのがすごく好きなんですよね、活性化する感じがして。絵描きになるために藝大入ったのに、演劇始めたり、パフォーマンスをしていたのですが、いろんな業界の方とメディアミックスでモノを作っていきたいと思っていたのですが、10年以上たってやっとそれが実現するような気がします。

60年代は横尾忠則さんとか美輪明宏さんとか、ああいう人達の周りでそういう動きがあったじゃないですか?新宿歩いてると美輪さんと会って、寺山修司さんと会って・・・みたいな。そういうおもしろさが何かだんだんなくなって来てる感じがあって、「今もう1回、それやりたいんだけどなあ」っていうことをずっと思ってたんですよ。で、12年ぐらい思って、やっと、「あれ?出来るかな(笑)」っていう感じがあるんですよね。


横尾忠則 美術家。1936年兵庫県西脇市生まれ。72年ニューヨーク近代美術館での個展をはじめ、パリ、ヴェネツィア、サンパウロ、バングラディッシュなどの各ビエンナーレに招待出品。81年に「画家宣言」をしてからは「瀧」「冒険絵画」「赤」「Y字路」「温泉」などのシリーズ作品を発表。日本を代表するアーティストの一人として国際的な評価を高めながらも現在も現役で活躍している。著書も多数。

美輪明宏 1935年長崎県生まれ。17歳でプロ歌手としてデビュー。1957年、「メケメケ」が大ヒット、その後シンガーソングライターとして「ヨイトマケの唄」など多くの曲をヒットさせる。俳優としても『毛皮のマリー』『黒蜥蝪』等に出演。

寺山修司(1935年12月10日-1983年5月4日) 日本の詩人、歌人、俳人、エッセイスト、小説家、評論家、映画監督、俳優、作詞家、写真家、劇作家、演出家など。演劇実験室・天井桟敷主宰。言葉の錬金術師の異名をとり、膨大な量の文芸作品(小説・エッセイ・評論・戯曲・シナリオなど)を発表。その一方で、映画・演劇なども幅広く手掛けた。競馬への造詣も深く、「ユリシーズ」(船橋競馬場所属)という競走馬の馬主になるほど。メディアの寵児的存在で、新聞や雑誌などの紙面を賑わすさまざまな活動を行なった。

『へんりっく 寺山修司の弟』 石川淳志監督 インタビュー


--- 街と一緒にそういう方達が生きていた時代を映像や作品で知ってはいても、リアルに感じることはなかったですし、わたしは今も想像し難いですね。

増山 でも、わたし自身は結構、街と一緒に生きてる感じで来てるんですよね。今、新宿に住んでるんですけど、近所密着型で近所を歩いていると結構誰かに会うし、今の人達が失った変な磁場みたいなものは持ってるかもしれないなあとは思うんですよね。新宿の紀伊国屋さんで「紀伊国屋画廊」じゃなくて、書店コーナーでわたしが初めて展覧会をやらせて頂いたことがあるんですね。「ロスジェネ」がわりと売れた頃に・・・これからも売るんですけど(笑)、ブームになった時に「麗奈タン・トポス★ビックバン!!」いうタイトルで。トポスというのはローマの言葉で場所という意味で、昔から智が出会う場所っていうのがあったそうなんですね。紀伊国屋さんは「そういう場所でありたい」っていうことと「増山麗奈が持つ場所みたいなものがおもしろいんじゃないか」っていうことでそういう名前を付けて下さったんですけど、なるほどなあと思って。しかも、紀伊国屋さんは新宿っていう場所にあって、わたしはそういう役割りなのかしらって思ったんですよね(笑)。


※「麗奈タン・トポス★ビックバン!!」 超左翼マガジン「ロスジェネ」「幼なじみのバッキー」原画、「桃色ゲリラ」秘蔵パフォーマンスDVD、会田誠吉永マサユキ、澤田サンダーなどレアなアート本が勢揃い。ここでしか変えない紀伊国屋限定グッズも展示・販売として、2008年10月20日(月)〜11月2日(日)開催された。

--- では最後に、今後のご予定を宣伝も含めてして頂きたいのですが、『桃色ジャンヌ・ダルク』が3/27(土)から連日21:00よりおさわがせレイトショーということと個展も開催されるんですよね?

増山 はい。4月12日(月)〜24日(土)まで、GINZA ART LABで「女電車」というタイトルで個展を開催予定です。

--- 「女電車」・・・気になります(笑)。

増山 今回の個展では「ロスジェネ」4号に掲載したロスジェネ問題を集約した作品「ロスジェネ・WARS」も含む新作絵画の他、新作のムービー作品も公開します。『桃色のジャンヌ・ダルク』とは逆で(笑)、わたしが監督、主演し、鵜飼邦彦監督に編集して頂いた短編映画『WOMAN TRAIN』は、近代以降女性達が時代時代で押し付けれてきた「オンナの型」をわたし自身がコスプレし直していくというものです。それぞれの時代、よいと思われていた女性像って、振り返って考えてみると結構おかしなことが多いんですよね。例えば、第二次世界大戦中に良妻賢母は地域で集まって竹槍を持って「鬼畜米英!」と叫んだ。そうしないと非国民と言われた。しかし、そうやって国に協力することで自分の愛する子供や旦那さんを戦地で殺すことになってしまった。バブル時代ウハウハと経済発展したことで今地球環境が破壊されている。じゃあ21世紀の今、一女性として、わたしはどうやって生きればいいのかという大きな疑問を通じて、近代を問い直してみようという壮大な(笑)アートムービーです。“家内”“鬼畜米英”“バブル”“ブルセラ”“派遣切り”様々なシーンを撮影しているのですが、結構笑えて見応えあるものになりそうです。

短編映画『WOMAN TRAIN』

【増山麗奈個展「女電車 〜WOMAN TRAIN」】より


また、3年間かけて書き溜めてきた新著も出版します。いのちよりも目の前の経済効率を優先してきた社会と美術のあり方を問い直し、いのちをいかす芸術を模索した1冊です。昭和の画家達の、戦争との様々な関わり方を通じて現代を考え直してみようと。今起っている不況を新しい経済戦争だと考えると、この戦争をどう生きるかというヒントが詰まった1冊になったのではないかと自負しています。映画とあわせてこちらも是非読んで下さいね。

--- 本日はありがとうございました。

増山 こちらこそ、ありがとうございました。


『桃色のジャンヌ・ダルク』 予告編!



(おわり)



戦争よりエロス、原発よりエロス、女体を武器に平和ボケ日本に戦いを挑む!エロティックパフォーマンスでメディアを騒がせた増山麗奈の桃色ドキュメンタリー!


『桃色のジャンヌ・ダルク』


監督・撮影・編集:鵜飼邦彦
出演:増山麗奈志葉玲白井愛子澤田サンダー黒田オサム川田龍平坂口寛敏佐々木祐司
ドラマ部分出演:神楽坂恵今野悠夫椎葉智増田俊樹黄金咲ちひろ吉行由実
撮影:増田俊樹、井川揚枝 音楽:菅野慎人
テーマ曲「one かけがえのない君へ」 作詞・作曲・歌:白井愛子
製作:ジャンヌ・ダルクプロジェクト 配給・宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
2009年 / カラー / 1時間45分 / DV・CAM

profile

増山麗奈(ますやまれな)

1976年生まれ、千葉県出身。画家・ロスジェネ編集委員。二児の母。東京藝術大学中退。 2003年イラク開戦時に反戦アート集団「桃色ゲリラ」を結成、代表を務める。ドイツ・ベルリン森鴎外記念館にて個展開催。2004年府中市美術館「府中ビエンナーレ」参加。2005年絵本「幼なじみのバッキー」で第10回岡本太郎現代芸術賞入賞。2007年横浜ZAIMにてアジアの現代アート展「ART LAN@ASIA」を総合キュレーション。2008年新潟県新津美術館にてエコ@アジアニズム展を企画。新聞連載小説「さすらい人のフーガ」挿絵を担当。2009年格差貧困をテーマにしたロスジェネ3号「エロスジェネ」を責任編集。早稲田大学 小野講堂・ワセダギャラリーにて「展覧会+シンポジューム アヴァンギャルド<生>あります。」に参加。ザルツブルグ博物館にて「日本の芸術」展で現代美術作家として紹介される。環境問題、反戦運動、人権活動など幅広く社会活動とアート活動を行なう。「ロスジェネ」4号(大澤信亮責任編集)が3月末に、「いかす!アート」 No War そしてエロ&エコの麗奈的アートエッセイも発売中!さらなる新刊は、「所有」概念に縛られない新しいカタチの社会を学ぼう!アート、アニメ、カルチャー、ファッション、農業など、ガーリーでパワフルな活動をしている各界のカワイイスペシャリストの声を紹介した「Girly Power!」が6月発売予定!

Japanese MoviesLatest Items / Tickets Information