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Review List of 風信子 

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     2018/03/08

    コンサートで聴いたグリンカとプロコフィエフが聴きたくて求めた 他に同型のアンサンブル曲を探すのが難しい珍しい編成で演奏されるから頻繁にコンサートで聴くことも叶わない グリンカはSeptettでプロコフィエフはQuitettだが 弦と管の混合体であり他に例を見ない風変わりな形態で演奏する グリンカはOb, Fag, Hrn, 2Vn, Vc, Cbsの七重奏曲で19歳の時の作品 プロコフィエフはOb, Cl, Vn, Vla, Cbsの五重奏曲で空中ブランコを題材にしたバレエのために33歳の時に書いた グリンカはシンフォニエッタと呼んでいい四楽章構成で愉しい曲だ プロコフィエフは急緩が交互する六楽章で実に面白い どちらも20分余りで終わる オランダのアンサンブル・グループ ”デ・ベゼティング・スペールト”の達者な演奏は清潔感があり耳に心地よい メンバー全員で演奏できるように団員が編曲した管弦十重奏版の”展覧会の絵”はほんの挨拶代わりだと思って聞いた グリンカとプロコフィエフは是非朋に聴いて欲しいものだ あなたも如何    

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     2018/03/07

    モーツァルトは最後の四年でオベリスクに刻まれる作曲家になったと言う人がいる その四年は傑作の森である それは経済的安定がもたらされたこととヘンデルとバッハの楽譜との出会いが誘因だと言う だがそれで逆に経済破綻と過重労働を招き死神に目をつけられた ト短調交響曲を含む最後の交響曲K.543,550,551がこの四年の最初の年モーツァルト32歳の時に書かれている もう一曲ト短調交響曲K.183が17歳の時に書かれているが 29歳で書いた”ピアノ四重奏曲”もト短調なのだ この編成のアンサンブルはサロンや家庭に供給されるべき音楽だから不穏当なものとして注文主の出版社の不興を買う 次の変ホ長調は出版社の要請に応えて穏当な調性が置かれている ならば第1が過激で第2が平凡か いやいや騙されてはいけない 夢の翼と生活の脚は抗いながらも天を叩き地を蹴ってモーツァルトは創造の道を疾駆している クイケンたちの演奏はクリアーでモーツァルトの描いた音像を完全に音化している 幾度も聴きたくなる演奏だ あなたも如何
     

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     2018/03/06

    マーラーの第9交響曲は完成していない 初演に至っていない以上細部にマーラーの手が及ぶことになるのは他の作品が出版されるまで筆が入った事実に照らし合わせても間違いない ハーディングは既に録音した第4・第6・第10同様 仮令それが書きかけあるいは未完でもマーラーが書き込んだ音の印を完全に音化しようとする fとffやpとppの違いは極限まで厳格に区別されて発音されている わたしが慌ててスコアを取り出し再生し直した第2楽章の結尾へ至る辺りの色彩対位法を見て聴けば分かる 対位法から生じる不協和の瞬間が克明に再現されている マーラーに命の余裕があればきっと細部に修正を加えただろう箇所だ ハーディングのマーラーへの愛は冷酷なほど誠実である 痘痕(あばた)も靨(えくぼ)などと言う微笑ましいものではない 真実の愛を持ったマーラー演奏家がここにいる この”第9”から立ち上る爽気は音楽の求道者の仕事から発せられたものだ いや狂気やも知れぬ 音楽とはかくも気高くまた恐ろしいものだ 音楽がお涙頂戴の繰り言であろうはずがない 朋よ心して聴け あなたも如何

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     2018/03/06

    10年を経た今改めて聴いて ダウスゴー&SCOの演奏が如何に先見性ある解釈と実践だったかを識る 単に小編成によるピリオド奏法では片付けられない真実がある ドヴォルジャークの音楽に潜在する深い情念の諸相を鮮明に浮かび上がらせている オーケストラ・ビルドから見えるドヴオルジャーク像にも十分な光を当てている 楽器の出し入れ フレーズの受け渡し 音色を重ね 溶け合わせ 解放し分離し 立体感ある空間性を実現している 民族性は底辺あるいは背景に下げられ ドヴォルジャークのアカデミズムを踏まえた先進性に魅力を感じないではいられない ダウスゴーは本質を突いた演奏でその後に期待を持たせたが 未だ第7・第8交響曲の録音はない これからも楽しみに待ちたいが この第6交響曲一曲で全てを語ったとも言える それ程の名演だ 先入観から解き放たれて 朋よ聴こう あなたも如何 

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     2018/03/05

    ブリテンの”チェロ交響曲”は苦手な曲だった 陰鬱で捗らない曲の進行は聴いていて辛かった 郷愁や昂揚に出会うこともなく 音楽は息絶え絶えの感が強くした これをモルクとラトルはどうする気だろうと興味津々で聴いた 晩年のブリテンが如何なる心境であったかが克明に記録されている 気の毒なことだ 老いは鬱を引き入れる 孤独だったのだろう 楽友ロストロポーヴィチのために書いたものだから カデンツァを中心に彼の意見がかなり入っていると聞く 交響曲としたからにはオーケストラが前面に出るのかと思いきや地味なのだ さてラトル&モルクの演奏は如何に ひとつ気が付いた わたしはチェロとオーケストラは対話するのだとばかり思っていた 然にあらず 別々なのだ シンクロナイズする瞬間はあっても独立しているのだ 個人と社会 人間と自然 独創と時代 対立を根本原理とする世界の音楽だった 聞こえなかったものが聴こえ わたしの思考と幻想を触発する 初めて興味深く聴いた エルガーは細やかなニュアンスに富んだ快演 耳傾けて朋よ あなたも如何  

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     2018/03/05

    なんと言うことだ この幽けき夢幻の中にわたし自身が居ようとは思わなかった 武満 林 細川 3人のギター・ソロを柱にしたオーケストラ・アンサンブルは呟くように静かに語り継がれる 夢 旅 北斗七星 三つの事象から触発された幻想が音で綴られていく 記憶や認識の縁(ふち)を辿りながら歩む幻視の山嶺はいつしか雲の縁(へり)と区別がつかなくなっている 生きているのかいないのかさえ分からない もともと生死の現実に身を晒していて自覚する間などあろうはずが無い 生は無限に続く闇を奔っているようなもの 宇宙空間を疾り続ける星々となんら変わらない どこから来てどこへ行くのか知らない ただ消滅の時は必ず訪れることを知るのみ ならばこそ 夢は幻ではない 旅は漂白ではない 星は意味なく光を放っているのではない 今 頼りない今 生きている今にこそ 見ているもの聴いているものサインを感じ取れるもの一つ一つが愛おしい 朋よ 一緒に涙しよう あなたも如何
     

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     2018/03/05

    グリンカの”トリオ・パセティック”が聴きたくて求めた 唯一無二とは言わないまでも希少な録音だ いい曲だ そしていい演奏なのだ この15分だけで満足なところに 思いがけない発見が待っていた 同じ楽器編成の曲メンデルスゾーンの”コンツェルトシュトック第2番”が収録されている こちらも溌剌と生命力にあふれた演奏を聞かせてくれる またピアノを省いたDuoでベートーヴェン ソナタでプーランクの曲が聞ける さらに管とピアノのDuoでガーデとエルガーの曲まで入っている クラリネットやファゴット好きは言うまでもなく アンサンブル好きの朋に いやいや音楽を愛する多くの人に届いて欲しい音楽であり演奏がここにある 音楽の愉しさが横溢している さあ あなたも如何   
      

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  • 2 people agree with this review
     2018/03/05

    19世紀と20世紀の境で使われた金管楽器を使って演奏している 曲目もベーメとエワルドで時代を同じくしている 金管楽器によるピリオド演奏である 三重奏から六重奏までを16種類の楽器を使い分けて奏でている それは作曲者が指定した楽器を使用するという当然すぎることを忠実に実行したからだ それは現代においてこうした音楽が代替楽器で当たり前のように演奏されていることを意味している ピリオト楽器によるオリジナル・サウンドの追究は半世紀を越えて広がりを見せている世界で 金管楽器の分野が最も遅れている そんなもの似た様なものと思われる方はこれを聞いてみるがいい トランペットとコルネットの違いは分かるだろう (ロータリー)ホルンとアルトホルンの違いは分かるだろうか さらにアルトホルンとテナーホルンそしてバリトンの音色の違いはどうだろう これほどサクソルン属ホーンの音色を聞かせてくれる演奏はそうそうない この人の声にも近しい潤いと温かさを持ったサウンドの心地良さは何物にも代えがたい 朋よ一緒に聴こう あたなも如何   

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     2018/03/01

    ステレオタイプのマーラー像が闊歩する世界ではこのバルシャイ阪は継子扱いされている
    未だにバルシャイ以外の指揮で演奏録音された節がない クック阪を基にして作られたことは周知の事実だ それはクックの意思でもある クック版は完成形ではないと言い残している ここから発展することをクックは期待していた バルシャイはその遺志に応えたのだ まがい物扱いはクックの成した仕事をも貶すことになる 冒頭失礼な言い方をしたが 第九 第十交響曲がこの世への告別だという捉え方が後世の創作だということは明白で マーラーに死期が近い自覚などなかったことは様々な事実が証明している 交響曲は神羅万象を網羅するもの 人間が感得する喜怒哀楽凡てを内包するもの 告別の挨拶を二つの交響曲に渡って何時間もくどくど吐露するようなマーラーではない 死が妨げたマーラーの創意を皆で推理し掘り出すのは愉しいことではないか この美しい音楽を未だならあなたも如何

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     2018/03/01

    色彩に富んだ美しい森が見えるようだ ローテンベルガーを主体としながらも合唱と少年合唱も加わるドイツ民謡を歌ったディスクを聞いた ドイツ語の詞がわからないのに愉しんだ 全編に添えられた控えめな伴奏がまた素晴らしい これが色彩効果を生んだし続けて聴いても飽きさせなかった要因だろう オーケストラの様々な楽器に加えてハープ リコーダー ツィターらが歌唱に添いて共に歌い行く心地よさは如何許りか ながら聞きはしないが ふと思いついた些事のためにプレーヤーを止めずに立ち上がれる それこそ忙しさに紛れてスピーカーの前に座ることを忘れていた時 気を鎮めるのに仕事の手を止めずに聞いていられる 民謡だもの構えることはないんだなと気を楽に付き合える 決して音楽をバカにしているんじゃない そんな時もあっていいじゃないか あなたも如何

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     2018/03/01

    ”旧詩篇第104番に基づく変奏曲風幻想曲”が聴きたかった RVWでまだ聴いていない曲があったことに少々驚いた しかしボールトの交響曲全集なら聴いたはずだがと思った なんども再販されたもののこの珍曲は帯同されなかったようだ 詩篇幻想曲の前に第9交響曲を久しぶりに聴く 野趣に富んだおおらかな演奏だ 新たなソノリティを加えてもRVWの音楽は変わらない 哀愁と憧憬が綯い交ぜになって前進する音楽 喜びも悲しみも越えたところを一歩一歩進んでいく それが生きるということだとわたしに告げる この豊かな心は自然に溶け込むように息づいている いつ聴いても感動を覚えずにいられない 交響曲が終わるとすぐ詩篇幻想曲が始まった ケイティンのピアノ・ソロが決然と語り出す そして合唱が入ってくる 管弦楽が背後を支えるように浮上してくる 壮大な音楽だ またピアノ・ソロになる 再び合唱が‥というように繰り返される 最後にオーケストラが大きくまとめて終わる いかにも合唱の国イギリスらしい曲だがわたしはピアノが面白かった お好きならあなたも如何    

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     2018/02/28

    久しぶりに”ケーゲルのヴェーベルン”を聴いた 何と色彩に富んだ音楽だろう いや演奏というべきか これまで何を聴いていたのだろうわたしは ヴェーベルンの横への動きに視点が置かれていた だが縦の響きと打ち込まれる楔の存在感に驚く Op.1, 5, 6は番号を追って縦に重なる音の意味は深まる この3曲は演奏時間が10分を超える しかしOp.10は5分にも満たない そして音は削られ自ずと縦の響きは失われた 数え切れないほどの”間”を抱き込みながら 横へ横へと音は流れていく やはり凡てはOp.21”シンフォニー”へ収斂していく ベートーヴェンの最晩年のピアノ・ソナタの形式を踏襲しながらも独自のソノリティに達した Op.21は繰り返し繰り返し聴いて飽きない 聴いても聴いても汲み取りきれない幻視と幻想が湧き出てくる それでも決してこの神秘の泉に身を浸してはいけない 水の傍に立って胸震わせながらよく見なくてはいけない 永遠ほど時間が要るかも知れないが あなたも如何

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     2018/02/28

    美しいディスクだ 渡辺克也のオーボエが美しいのは言うまでもない 聞いたこともない音楽 初めて知る名前 名は既知であってもこの楽曲は名曲辞典に見当たらない 唯ピエルネの小品はヴァイオリン曲が原曲だと言うことだけを知る 世に通っていない作品の中に宝珠が眠っているのだ アーノルドの”ソナタ”は短いながら豊かな諸相を開示する 快活な会話〜思念の抒情〜喜びの踊りへと変転する ”時の踊り”のポンキエッリは”カプリッチョ” 濃密な心の丈を朗々と歌い継ぐ 標題とした”夏の歌”はアギーラの国ウルグアイを中心とする南米の郷土色を写し出した魅力に溢れている 渡辺も一際気が入った演奏を展開する パスクッリの”協奏曲”はオペラからのパラフレーズとあって歌に満ちている いずれの曲からも渡辺のオーボエ技巧の冴えを聴くことができる それは驚くほど多岐多様に亘るオーボエの表情としてわたしたちの前に披瀝される オーボエを吹く朋にぜひ知らせたい あなたも如何  

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     2018/02/27

    ソヴィエトに帰還して最初の作品とあって モダニズムは影を潜めロマンチックな装いで書かれたから聞きやすく人気がある曲だ しかも改訂改作が繰り返された それがプロコフィエフの意思ではないのだからストレスも溜まったことだろう 初演が延期になったことから生まれた第1と第2の組曲 そして初演から9年を経て編まれた第3組曲 その全てが集められ演奏されている それぞれの組曲が”ロメオとジュリエット”のダイジェスト版になっているから 同じドラマを違う角度から三回見たような印象を受けた 演奏は真っ当で明快 プロコフィエフは政府の芸術指針に沿って解りやすい音楽を書こうとしたから 省略の音楽を書いた 音楽の流れが辿りやすいように書かれている しかし芸術家は強かというより正直だ 己が心根を隠せるはずもない 喉越しがいいことに誤魔化されたら見えなくなっているが確かにそこにある隠し味を味わい落とす スクロヴァチェフスキにそれが見えていたのかいなかったのか あなたはどう見ますか

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     2018/02/27

    ”マイ・フェァ・レディ”の種本と聞く”ピグマリオン”だが 音楽に繋がりがあろうはずもない バロックの情緒と響きに改めて浸る 歌も語るニュアンスを生かした対話劇に簡素な伴奏がつく テンポも人がしみじみ語る速さで進行する 静寂が音楽の狭間に息づいている 間の音楽だとも言える 息づかいと感情の起伏が自然に旋律を紡ぐ 朗読を聞いているに等しい感覚だ 音楽とは語って聞かせるものだったのだと実感する そこに軽やかなバレエ音楽が加わる これも軽やかな風のごとき音楽だ 刺激物を用いない音楽の美しさに現代人は耐えられるのだろうか 居た堪れない人が数多くいるのではないか いつから音楽は刺したり叩いたりするものになってしまったのだろう ニケとコンセール・スピリチュアルの奏でる響きに包まれていると何もかも肯定できるような気がしてくる ”ピグマリオン”が愛の音楽だと知れば何の不思議もない この響きが好きな朋がいる あなたは如何 

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