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Review List of バッハ嫌い 

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  • 1 people agree with this review
     2024/10/19

    フランス語の歌曲、しかも高踏派詩人ともなると、そもそも理解の難しい世界のため、遠ざけていたのが実情。以前の録音でも、バリトンによるものがほとんどであったので、晩年の作品では老齢で貫禄ある男というイメージが強く、中期の「優しい歌」などと比較したときに、歌手の年齢が引っ掛かって、シューベルトの水車小屋と冬の旅のような、どこか背反した難しさがつきまとっていた。
    このテノールによる全曲演奏は、フォーレという人物の感傷的で優男なイメージをそのまま、ブレずに最初から最後まで徹頭徹尾追求した点で、今までにない歌曲集となったと思う。ややユニセクシャルなロマンスを歌い上げるというのは、21世紀だからできたことで、詩の響きにもともと備わっていた優美さが、無垢なかたちで再現されたと感じる。

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  • 2 people agree with this review
     2024/07/07

    このリマスターの収録順序で、アーベントロートの演奏のなかではややマイナーな楽曲を先に選んでいるが、それは今回のリマスターのなかで発掘された成果であることは間違いない。それは冷戦における不遇を嘆くような暗雲立ち込めるようなものではなく、むしろライプチヒ放送響がバイエルン放送響やケルン放送響と並ぶか、それ以上のヴィルトゥオーゾ・オーケストラとしての側面を十全に発揮しているからだ。
    ドヴォルザークのチェロ協奏曲は、これまた渋いヘルシャーを迎えての純ドイツ産のカッチリした演奏だと予想したが、もちろんボヘミアの郷愁なんてものはないものの、戦略を練ったうえで大きく到着点を見据えた流麗なメロディーの扱いに加え、重い甲冑を着てなお衰えない突進力というべきその勢いに終始圧される感じだ。東ドイツのオケだから渋いという思い込みはさっさと捨てて、演奏そのものに集中して聴くべきである。
    チャイコフスキー4番では、アレグロに移ったときにテンポを落とさずなんて安全運転をせずに、さらにアクセルを踏んで畳み掛けるギリギリのラインを攻めてくる。それがラプソディー風のこの楽曲の本質をとらえているのだからやはり只者ではない。マーラーの世紀を乗り越えた今だからこそ聴くべき演奏である。

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     2024/07/07

    この新しいリマスター音源では、低音楽器の動きがいかにもドイツ的というべき、強固でありなから躍動感のある演奏が露わになり、テーマの移行に大きな役割を果たしていることが明らかになっている。これは能率のいいウーハーできっちりコントロールできていないと判らない。
    もうひとつ特筆すべきは、木管楽器のアンサンブルの絡みが明瞭になったことで、ブラームスの楽曲に特徴的な陰影ある色彩感が立体的に浮かび上がってくる点である。これもミッドレンジの弱いスピーカーだと、全体の響きに呑まれてしまって台無しになる。
    概ねこのリマスターは、アーベントロートがこの楽団を結成したときに要求したものが何であったのかを、実際の楽曲の演奏を通じて丁寧に開示しているかのように克明に捉えており、それが偶然ではなく必然としてドイツ的なオーケストラのサウンドを形作っていることを示している。

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     2013/02/03

    ムジークフェラインの響きの中をゆったりとしたテンポで進む情緒纏綿とした演奏で、ある時代のウィーン・フィルの美質をそのまま表現するとこうなるという感じのもの。おそらくクリップスやクナッパーツブッシュといった、やや放任主義的な指揮者が振っても同じような結論になるだろう。このためフルトヴェングラーのもつデモーニッシュな面を期待すると、価値観のずれが生じると思う。しかし誰の指揮だとか、ベートーヴェンの解釈云々という束縛から離れて聴くと、これはこれで美しい音楽を奏でていて、嵐さえ天国的な快楽で満たされる。絵画でいえばフリードリヒのような荘厳なスタイルではなく、コローのようなやさしい風景画を眺めている感じで、フルトヴェングラーから悲劇のヒーロー役を抜いたらこうなるという代表例かもしれないが、それだけに巨匠がミューズに献身する作法について知らしめてくれる好例ともなっていると思う。この巨匠に花飾りは似合わないと思うのは、あくまでもファンのエゴだろう。有名な英雄と交互に録音されたセッションであり、古典的なフォルムを大事にした巨匠の晩年のスタイルに一貫性のあったことが判る。

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     2012/10/28

    トスカニーニが渡米後にオペラ上演を、例えばメトのような歌手も揃った劇場で行わなかったのは、いささか不思議な気がするが、このようなオケと歌手が完全に一体となった演奏を聴くと、トスカニーニの完璧主義が劇場の効率主義と激しく衝突する運命にあったことは想像に難くない。いささかも贅肉のない演奏で、ギリシア彫刻のように研ぎ澄まされたフォルムは、オテロのもつ男臭い筋肉質な雰囲気を倍加している。そこに入り込み場を侵食していく道化としてのイヤーゴのブッファ的性格、純粋な愛をもつデズデモナの美しいカンタービレの世界、それらが絡みついて破滅へと向かっていく様は、戦争に勝利しながら内面的な崩壊に苦しむアメリカの姿を投影しているようでもある。トスカニーニがこのような録音を晩年に残してくれたことに感謝すると共に、レーベルを跨いで当時の録音を発掘するカニエル氏のたえなき情熱にも感謝したい。

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  • 3 people agree with this review
     2012/10/13

    1950年のロンドンのデッカ・スタジオでの旧録音(モノラル)。
    フランクは、最初の一音からまさにサロン風の小粋な節回しで、そのままボベスコ宅の奥の間にどんどん案内されるような不思議な感じ。回想されるテーマが、ジャケ写真のように昔の恋でも語らっているかのように儚い。フランクの交響的な重たさは希薄だが、湖水の上を漂う枯れ葉のように、自然にうつろう感覚は、フランス風という簡単な言葉では片付けられない深い味わいがある。
    その意味では、演奏スタイルとして、フォーレの若書きの作品のほうが合っているだろう。しかしボベスコのやや客観的な視点が、フォーレの一途な恋心を素直に受け止め切れていないように感じる。伴奏のジャンティが度々催促するにも関わらず、ワーグナー風の毒のあるフレーズの奴隷とは成り切れない、若いボベスコの恥じらいがある。さりとて軽くあしらうこともできない。いずれ破局に向かうことを薄々感じながらの淡くも脆い恋のやり取りが続く。物事を自然体に受け止めるタイプの奏者だからこそ、こうした本音が出やすいのかもしれない。
    いずれにせよ、フランス室内楽の粋を感じさせる第一級の演奏であることは間違いない。演奏を聴きながら、あることないこと考える楽しみも味わえることを考えると、グリュミオーなどとも共通する物語性をもつ語り口を、当時のボベスコが既に持ち合わせていたことの照査でもある。

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     2010/08/02

    18世紀イギリスの教会用オルガン曲を集めたアンソロジーで、しかも18世紀中頃から19世紀初頭までに製作&修復された楽器を使用しての録音である。ただし、この時代のイギリスのオルガンは、ほとんどが19世紀に破棄されたか、大改造を受けており、オリジナルのままのものは希少である。この録音で使われたオルガン6台のうち、3台は中規模の2段鍵盤付、3台は1段鍵盤の室内オルガンであり、1台は博物館、2台は教会で使われ、3台は貴族の邸宅でナショナル・トラストの管理下にある。演奏はメシアンとも交流があったイギリスきってのオルガニストによる演奏だが、小さなオルガンでのヴォランタリーも愛情を込めて弾いている。やや残念なのは、当時の室内オルガンの習慣としてよく演奏された、教会音楽以外のピアノソナタなども思い切って演奏して欲しかった。Vol.2〜3に続く5枚のアンソロジーなので、イギリス音楽の隅の隅まで知りたい方には、またとないコレクションとなる。

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