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Review List of うーつん 

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  • 1 people agree with this review
     2021/08/17

     ヨハネの福音書を土台にした「ドラマ」を体験するというよりは、受難曲という「歌」の集合体を体験する盤と思う。とにかく各トラックの歌への工夫や熱の入れ方が素晴らしいと思う。合唱とソロとがバランスよく活用され、所々で通常なら合唱のみで歌われるところにもソロや重唱を配置し次第に合唱に発展させることによって(バッハが指揮していた当時の考え方でいうと)会衆が集う場所で呼びかけ、呼応し、合唱していくことでキリスト受難への想いを共有する過程を想像させる。「歌」としてのヨハネ受難曲を聴きたい方にお薦めしていきたい。もちろん響きや演奏も悪かろうはずはなく、最終曲が終わった後に「ボツにしたアリア」も入れる手の込みようでサービス精神もうれしいところである。ただ最後の第40曲「Ach Herr, Lass Dein Lieb Engelein」を聴いた後はそこで余韻をかみしめつつ静かにおしまいにしたいのが正直なところである。そこにもう少し工夫を凝らしてもらえたら嬉しいが…。(でも3枚組にして値段が上がるのはやめてほしいです)

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     2021/08/17

     ある意味、ブランデンブルク協奏曲の王道と言えるかもしれない。攻めすぎず、かといって守りに入っているわけでもない。イケイケでパンクみたいな攻めのムジカ・アンティクワ・ケルン(1986-87年録音、アルヒーフ)と、演奏が柔らかで癒し感満載のバッハ・コレギウム・ジャパン(2008年録音、BIS)の中間といったところか。どれがいいということはない。その時の気分によって聴き分けているのでベストを決めることはしないが、中庸の美という観点で同曲を探している方にはこちらの盤をお薦めしたい。

     ちなみに私が注文し発送を待っている時(2021.8.10頃)、同楽団による同曲新録音のニュースが聞こえてきた。「そっちを待てばよかったかな?」とほんの少しだけ思ってしまったことも告白しておく。 I.ファウストやA.タメスティらも参加してのブランデンブルク。当盤の演奏をはるかに上回る新しい王道の演奏、もしかするとムジカ・アンティクワ・ケルンの攻めの更に上を行く演奏になりそうな気もするので楽しみにしている。入手した時点で新旧両盤を聴き比べる楽しみがまた増えることになるだろう。

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     2021/08/02

     純真にシューベルトのピアノ・トリオを愉しむことができる。どこまでも朗らかな第1番とドラマチックな展開を宿した第2番。これに加えてノットゥルノと若い時期のトリオも含み、聴きごたえもあるし、シューベルトのピアノ・トリオの創作史を紐解くこともできる。

     私が特に大好きな第2番、通例で行われてしまうカットが無い完全版の第4楽章を愉しむことができるのが購入の動機。カット版(約100小節弱削られたバージョン)の第4楽章が好きな方にもトラックが用意され、どちらのバージョンも聴き比べることができるのは、音楽学者でもあるロバート・レヴィンらしい計らいといえよう。

     シューベルトの心の闇や絶望を抉り出すような演奏とは違う。客観的かつ落ち着いた足取りで演奏が行われる。それは私の好みとはどちらかというと違うものだが、晴朗な雰囲気の中に苦みや渋みをほのかに漂わせる丁寧なつくりに好感を抱いてしまう。このレーベルらしい芳醇な赤ワインのような味わいに酔いしれてみてはいかがだろう。

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     2021/07/31

     控えめな表現の中にバッハの音楽への共感が詰まっているような演奏。音響もテンポも表現の幅も他のディスクと比べると「がっつり」演っているようには聴こえない。決してマイナスの意味で言っているわけではない。前のめりになることなく、じっくりと前奏曲を奏しきっちりとフーガを築いていく。音楽を積み重ねていくというより音の重なりやつながりを丁寧に冷静に表していく態度で一貫しているように感じる。その綾織りのような重なりや連なりの中にわずかずつ、小さな宝石のような煌めきがちりばめられていることを発見できるディスクだと思う。

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     2021/07/26

     カラフルで明るさあふれる曲集。ヴィヴァルディなど音楽先進国だったイタリアのテイストをバッハがどのように吸収し、自分のものにしていったかを感じることができる好企画だ。CD1のチェンバロは音の粒が明るくキラキラしている。CD2では「ペダル付きチェンバロ」という耳慣れぬ楽器も登場し、チェンバロでありながらオルガンのような複雑な音楽の絡まりを体感。CD3ですばらしいオルガンの音色と偉容にも圧倒される。しかし、どのディスクも重々しさはなく、タイトルにもある「イタリア」の陽光を思わせるきらびやかな明るさと創意の充実を感じさせる。第5集が今から楽しみになる愉しいディスクなのでおすすめしたい。

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     2021/07/21

      自由闊達、天衣無縫のベートーヴェン。自由闊達といってもやりたい放題の意味ではないし、天衣無縫といっても基礎の練習や研究を充分にやった上のものであろうと思う。「ベートーヴェンのピアノ協奏曲全集たるものは…」というイメージで聴くと、その軽やかな演奏に足をすくわれることになると思う。もっとも令和の今に「重厚・がっしりでないとまかりならん」のベートーヴェンもそうないであろうが。


      全体を通してツィメルマンがラトル&ロンドンsoと戯れながら楽しんで弾いているなぁ、という印象をもった。あまり深刻ぶらず、学究的にならず自分の手中に入っている曲を楽しんで演奏していると感じる。ツィメルマンの茶目っ気といったらよいだろうか。もちろんベートーヴェンの曲の精神性がおろそかになる事はないが、精神性を理解しつつ、そこに凝り固まらない融通無碍の境地で弾いている気がする。バックを支えるのが共演が多いラトルだからなのかもしれないがオケと対峙するというより規模の大きい室内楽でもやっているようなイメージだ。とにかくオケと合わせるのが楽しくて仕方ない、という印象を受けた。


      バックがラトルとなると数年前に内田光子(ベルリン・フィル)との共演が比較対象として思い出される。緊密で彫りの深いのは内田光子盤、自由で開放感のあるのはツィメルマン盤と区別したい。ピアノや音楽について一家言ある二人の性格に合わせてオケをリードし、曲のカラーや陰影、スポットライトの位置を見事に変えていくラトルの変幻自在も評価したい。

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     2021/07/19

     ガーディナーの心のふるさとを聴くようなアルバム。モンテヴェルディ合唱団の精緻でありなが親密な温かさも備えた内容が好ましく感じる。曲目はイースター(復活祭)にちなんだプログラムらしいが、イースターそのものに理解が浅い私には「祈りの音楽」の曲集として徐々に内容にも親しんでいきたい。

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  • 5 people agree with this review
     2021/07/18

     詩情あふれる香りが夜に漂うような美しさとはかなさ。
     ショパンの夜想曲全集はいくつか所有しているが、このディスクで最後にしようと思う。そう思わせるほどショパンの夜の世界が描写されている。使用楽器の選定もこの描写に一役買っている、というよりこの楽器だからこそこの音世界が現出したのだろう、と確信している。ひそやかなルバートと、ふとため息をつくかのような、またはふと想いが変化するかのような部分を表す繊細なタッチはプラネスの感性と技術の最上の融合と思う。

     ショパンの夜想曲はよく「ロマンチック」と言われる。それもこの曲たちの一面であろうが、私はそれ以上に「孤独」「郷愁」「傷心」「絶望」「祈り」のような要素も感じてしまう。それほど夜想曲は多面的で複雑なのだと思う。

     私事をレビューに書くのは反則で申し訳ないが、最近、友人を一人失った。私の行いにより友人と断絶することになってしまった。失意と絶望、自己嫌悪に苛まれた時、このディスクが届いた。聴いて、胸がしめつけられ、涙を流してしまった。自分が友人に向けた行いとは、かくも孤高に美しいこれらの音楽に対しても背を向ける行いであったのだ。逆説的な物言いだが、かくもこのディスクの音楽は人の心の奥に沁みこんでくる。静かに、そして深く…。

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     2021/07/04

    前作より更に自由自在に吹かれたフルートで400年のタイムトラベルが愉しめる。  優れた録音により、フルートが息を吹き込むことで音が発せられるということに改めて気づかされるほど息遣いの豊かさに驚かされた。以前はフルートから出る音があまり好きになれなかったのだが、ここ数年だろうか、音のみでなく息遣いにも耳を澄ますようにしてフルートにも親しむようになった気がする。そのきっかけを作ってくれたのが有田正広の代表作『パンの笛〜フルート、その音楽と楽器の400年の旅(アリアーレ、1998年)』だった。

      当盤ではソロに徹することでよりフルートの表現を堪能することができ、現代曲や自作も入れて表現の可能性もアピールしてくれた。楽器の細かい話は解説書に詳しく書いてあるが、曲ごとにフルートの音が変わり違う時代・部屋に案内されたような気がする。それこそが「旅」である。

      私が一番気に入ったのは有田の自作。親交のある陶芸家・中里 隆氏の陶芸風景にインスピレーションを得たということだが、私のつたない感想としては陶作で土にこめる力や、(詳しいことは知らないがキイとタンポ皿?でパタパタ音を出す表現により)陶作が「手触り」の芸術である事も想起し、炎(炎もフルートの音も空気、または息が必要だ)が立ち上り焼成されていく過程を想像することができた。作品の凛とした佇まいにも想像の奥行きが広がる。実際に聴かれて各々で解釈を楽しんでほしいところだ。

      音楽を愉しむだけでなく、フルートという楽器の変遷を学び、音色の個性に親しむ格好のディスクとしておすすめしたい。前作をお持ちの方ならなおさらお薦めしたい。

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     2021/06/27

    シューベルトの歌心(とその中に秘められた苦み)をみずみずしく歌い上げた作品集としておすすめしたい。私はこの3CDセット販売でなく、過去に単品で購入し聴いているが、この度再発売され、多くの人に聴いてもらえることが実に喜ばしい。

     当セットでは3つの歌曲集に含まれる苦しみや悩み、葛藤などが積極的に表出される姿勢ではないと思う。プレガルディエンの視線は歌の美しさと構成を大切にすることにあり、歌の行間に前述の想いがほのかににじむように感じている。その意味で、プレガルディエンの瑞々しい声質と成熟した解釈表現がバランスよく表されている。

     ミヒャエル・ゲースとアンドレアス・シュタイアー、2人の伴奏者にも恵まれており、モダンピアノとフォルテピアノの楽器の聴き比べもできるのだから非常にお得なセットだと思う。これを機にファースト・チョイスとしてシューベルトの歌曲の世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。もちろん、その世界に詳しい方にも新たな世界を指し示すものとなると思う。お勧めです。

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  • 6 people agree with this review
     2021/06/24

    落ち着いた佇まいの表情をもった演奏を満喫できるディスクと思う。いわゆるモダン楽器による厚みと重みをもったブラームスの協奏曲と明らかに一線を画す演奏は、現代のオケとピアノの掛け合いに慣れた我々に新鮮な喜びを与えてくれるものとしてお勧めしたい。

      私自身でいうと前述の厚みと重みをもった演奏も好きである。ツィメルマンとラトル&BPOの1番は愛聴しているし、ギレリスやバックハウスの2番などもよく聴く。とはいえ、そもそもブラームスのピアノ協奏曲で古楽器オケとヒストリカルなピアノ独奏の組み合わせ自体が珍しく、初めて聴いたのだがどちらも面白く甲乙を付けるような問題ではないと思う。

      1番は若書きの作品であるが、当盤では勢いに任せて前のめりになることなくじっくりと清らかな響きで進んでいく。2番は歌に溢れ、しかもその歌が大声になることなく、さながら室内楽のような親密さで心に染み込んでいく。2曲ともおそらく楽譜に信を置いて演奏しているのだろうが、そこにこだわりすぎず自然な感興にも不足していない。「響き渡る」でなく「沁みこむ」という印象と言えば理解していただけるだろうか。普通の息遣いでの良質な協奏曲を愉しむことができると思う。

      このディスクでは普段大規模なオケの響きでなかなか聴こえてこない音の模様がくっきりと出てきて新鮮な発見の連続。ピアノ(ブリュートナー、1859年ころ)は確かに現代のスタインウェイなどと比べてしまえば音の輝きも少なく、音は広がっていかないし、これを大ホールでモダン・オケと合わせたら何も聴こえてこないことだろう。しかし、シフの演奏とエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団の繊細なバックアップのおかげで、鈍いが落ち着いた音の光沢を帯び、逃げずに留まる音をじっくり愉しむことができる。バッハやモーツァルトならいざ知らず、ブラームスの協奏曲で古楽器系アプローチはなかなか広がらない気もするが、だからこそこのディスクの価値が維持され、次のアプローチを志す演奏家に一石を投じることになるのではと思う。

      更に蛇足ながら…。 A.シフはECMに連続でブラームスの作品(クラリネット・ソナタとこの協奏曲)をリリースしている。願わくば、ブラームスのヴァイオリン・ソナタやチェロ・ソナタ(チェロはM.ペレーニ希望!)にピアノ・トリオ、更に後期ピアノ小品集なども取り上げてもらえたら嬉しいのだが…。 リクエストし過ぎかな?

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  • 2 people agree with this review
     2021/06/05

      美しすぎる武満の音楽を満喫できる一枚。作曲者没後25年を振り返る時、晩年の到達点を俯瞰するのに格好のディスクなのではないだろうか。CDのプログラミング的にもなんとなくシンメトリーを形づくっておりディスク全体の構造も考えられている。

      私が初リリース時に入手した時には指揮者もピアニスト二人も存命だったが、このレビューを書いている時には指揮者(O.ナッセン)もピアニストの一人(P.ゼルキン)も作曲者と同じ世界に旅立ってしまっている。武満の生の声を知っている人々が少なくなってくる中で今回(2021年7月)の再リリースは嬉しいニュースになると思う。プログラム的には『夢の引用』がメインになろうがどれも耽美的なまでに美しく、そして覚めている。

      新しいCDフォーマットの音質については分からないが、音楽の質の高さや美しさはおすすめできる内容。

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     2021/05/31

      ヤング・バッハが豊かに成長していく時期の鍵盤作品を一堂に聴くことができる良盤。もちろん、後のバッハが創作した「名作揃い」というわけではないが、バッハを愛する者であればCDラックに入れておきたいセットであるはずだ。

      21世紀の現代においてバッハのように旅し、師の教えを吸収しつつそこを乗り越え作品を創造するような高校生や大学生が果たしているだろうか。自分に照らして考えてみても到底比較にならない低レベルなティーンエイジャーだったのだから偉そうなことは言えないが…。 現代の我々と異なり当時の青年の成長密度は驚くほど濃密だったのだろう。

      「フーガ ト短調 BWV 578」などは、中学時代に音楽の授業で取り上げられていたことを覚えている。教科書には「フーガ」という音楽形態を勉強するための教材としてであったが、アラールのディスクを聴いているとフーガの勉強のためより、「自分より数歳上でしかなかったバッハがここまでの技量と音楽性を持ち合わせていたことを発見させ、その成長に追いつけるように」という意味で教育に活用すべきだったのではと思ったりもしていた。

      第1集と同様、オルガンやチェンバロ、更にはクラヴィオルガヌムなる楽器まで登場。ソプラノとのコラールも取り混ぜ4枚の量ながら飽きさせない造りと響きはぜひとも聴いていただきたい。同じ時代を生きた他の巨匠の作品も混ざっており時代の風も感じられる、充実極まる内容と曲目と視界の広さを愉しんでほしい。お勧めです。
     
      
      

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     2021/05/25

      バッハの偉業に真っ向から挑戦するかのような野心的なシリーズが始まった。1人でバッハの鍵盤楽器(チェンバロ、オルガンなど)のための作品をすべて演るという。若い演奏者だからこそここまで思い切った企画に飛び込めるのだろうか。バッハの音楽を愛する一音楽愛好者として楽しみにしつつ、応援していきたい。

      第1巻となる当盤では若かりしバッハの作品と、彼に影響を与えた作品を混ぜてその成長を記録したものとなっている。なるほど、たしかに「若さゆえ」と思わせる瑞々しい作風であるが、バッハがバッハたる「端緒」を見つけてみたり、当時の「先輩」から得たものを作品に活かそうとしている部分を探すのも一興だ。バッハのディスクというととかく充実期から後期にかけての作品や有名曲をフォーカスしたディスクが多くなるため、小品や有名とは言い難い曲を集めるのは割と難しい気がするのでこうした企画は挑戦的であると同時に、我々リスナーにとっても利点が多い。作曲年代順に揃えてくれているのでバッハの伝記を読みながら音楽をさらうこともでき、まことに集めがいのあるシリーズだ。加えて、ディスクごとに楽器も替えており、音色や機構の違いに思いをはせるのも愉しいことだ。同時にこれほど多種多様な楽器が散らばっているヨーロッパの奥深さにも驚かされる。頭でわかっていてもこうして聴いてみることで「耳の旅」ができるのもこの全集の特長となるであろう。

       諸説あるが、「学(まな)ぶ」という言葉は「真似(まね)」から派生したという。バッハも当時の巨匠たちの技法を真似してはそこから学んでいったのだ。ローマが一日にして成らなかったのと同じく、J.S.バッハも一日にして成ったわけではないのだ。その過程と道のり、そして作品の進化(深化)をバンジャマン・アラールの演奏によって追っていきたい。

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     2021/05/03

      クレーメルによる会心の一撃!
      2019年にAccentus MusicからリリースされたDVD(ドキュメンタリー『ギドン・クレーメル 自分の声を見つけること』)にもこのヴァイオリン協奏曲が少し登場し、いつかリリースされたら…と思っていた。今回登場した一枚はその期待にたがわぬ鬼気迫るテンションで我々に訴えかけてくる。

      聴きながら、この協奏曲(そしてカップリングのソナタでも)でヴァイオリンに与えられた役割とは何だろうか、と考えた。私なりの考えではヴァイオリンは「叫ぶこと」を要求されているということだ。作曲者の声にならない(声にできない)叫びをこの楽器に込めたような気がした。ショスタコーヴィチなら声にせず音楽の裏にそのメッセージを忍び込ませるところだろうか。音楽の外見は似ているが内実はかなり違う。しかしその根底にある想いは同じな気がする。

      時代は違えど、同様の空気を吸って生きてきたクレーメルにとって、自らの楽器でその叫びを再現するのは当然のことであって、すべきことでもあるのかもしれない。クレーメルから見るとヴァインベルグはそんな共感をもって接することができる作曲家なのだろう。作曲者の「伝えたいこと」を代弁することを自らに課して、使命感をもって紹介しているのだろう。いわゆる一般的な音楽マーケティングからは(おそらく)ほど遠い場所に存在するヴァインベルグの音楽にこれほど力を入れるのもそう考えると理解できる気がする。「売れ筋」とは言い難いが、そんなメッセージに耳と意識を傾けたい方に聴いていただきたい。

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